一度だけ、シマを丸裸にしてやったことがある。
シマあやめの操る牌は音がしない。
どれだけ遠くの牌と小手返ししようとカチャリともしない。開門してから手牌のブロックを取るといつの間にか横に並んでいる。いちいち俺たちのようによいしょよいしょと立てたりしない。
かといってそれは不随意的なものではないらしく、ツモってくるときに山やら牌やらを崩してしまうこともたまーにあった。
そのたった数度の『たまーに』の一度が、俺の勝利のときだった。
大陸の真ん中あたり、高山地帯の寒村で打ったときのことだ。
酒をリバース寸前まで飲ませて、シマは酔っていても意識はしっかりしていたが体は正直で、まぶたはほとんど閉じきって頭はふらふら帆を漕いでいた。
手牌が卓からぽろぽろこぼれ、上家や下家がにこにこしながら直してやる。
酒だけではきっと意思の力で身体をねじ伏せていたのだろうが、その土地には民族秘伝の妙薬があり(竜の骨を煎じたものだというがホントかは知らない)、俺はそれを『ミイラのにおいのする粉』といってやつの猛禽みたいに凶悪な好奇心を煽り立てて嗅がせてやったのだ。
その晩は驚くほど勝ってシマから金をむしってやった。無一文にしてやった。びっくりするなよ、俺が全トップでやつが全ラスだった。かつてないカタストロフィだ。
だがシマはたいして悔しそうでもなくへらへら笑ってぶっ倒れて、すぴーすぴー眠っちまった。
どこでも寝れる便利な体質を羨ましく思いながら、俺は札束をピンピン指で弾いて数えた。
金なんて俺たちの間に意味はない。だって二人で旅してるんだから。
どちらが金を持っていようと、「おごってよ」と擦り寄っていくのが俺かあいつかで違うだけ。
そもそも金が欲しけりゃ旅などせずに日本に帰ってのんびりしてる。
それからしばらくシマは、顔を俯け頬を赤らめ「……おごって」と俺に言い続ける羽目になり、交互ならばともかく連日の屈辱にやつは結構堪えたらしく一月経つと涙目にさえなっていた。
俺はそのとき以来ずーっとやつとの勝負から逃げて財布を守り続けたからだ。
とうとうぶん殴られて裏地に隠した財布を服ごとひん剥かれるまで、ひと時の優越感に浸れたのは、長い旅の中でも心地いい思い出のひとつである。
やっぱ女の子はほっぺを真っ赤にしてやらないとそのよさがわからないものだと思いつつ、俺はパンツ一丁でくしゃみをぶち撒けた。
明日からは、もっとあったかい南へいこうと思う。
そんなところだ。
じゃ、またな。