わが地獄(仮)
迷路
人から嫌われやすいというより、人から赦されにくい体質なのだろうと思う。人が俺に思う「え」という気持ちはよくわかる。俺もそう思う。だが問題は今でも変わらず、他人は俺を嫌えばそれで済むが、俺は俺のまま生きていくしかない。俺は自分が死ぬくらいなら他人に死んで欲しい。実際にそうかどうかは別として、俺にとって生きるというのはそれくらい重く、逃げ場のない問題に思える。
いつか言われた「おまえは自分の有用性を評価して欲しいんだな」という言葉をよく覚えている。べつに傷ついたわけじゃない。そうだなと思った。だが、それはなぜだろう。なぜ俺は有能でありたいのだろう。それは、他人が俺をそういった尺度でしか評価してくれないからだ。俺には、他人が親しみやすく感じてくれる要素なんてないし、人生は真っ白で、特に語るべきことなど持たない。生きている。今の俺にあるのはそれだけだ。そして人はそれだけでは満足してくれない。不安なのか、退屈なのか、侮辱なのか。俺は生きているだけで人を侮辱しているのか? そうかもしれない。
些細なことにも気がつく人がいる。そういう人はいつも俺に疑問を持つ。AはできるのにBができない。Bができないやつが本当にAをできているのだろうか? もしできたとしても、BもできないやつにAがいつもできるとは思えない。そもそもBができないことが異常だ。そうして俺はどれだけAをこなしても、認められず、愛されず、価値を見出されない。あるいは俺は相手が常にこちらを「切る」ことを想定していて、誰にも希望を持っていないから、信頼せず、見下しているのかもしれない。だとしてもそれは俺の人生で重ねに重ね続けた失敗の果てに置かれていた結論だ。
俺はいつも同じ失敗、イカレた間違い、錯綜しているとしか思えない言動を繰り返す。何も言わずに黙っているのはおかしいみたいだから、無理して喋っても、そんな軽蔑しか返ってこないのは割に合わない。俺のペースを乱すから、俺はバグを返すのであって、何年無言を貫こうとも、いつか喋るその時を待っていて欲しい。もちろんそんなことは不可能で、俺には出口がない。
バカのように自分のこだわりを変えられなかったり、同じ失敗を繰り返す。人間関係でもいつもそうで、絶対に自分とウマが合わない人間に媚びを売っては失敗する。そして自分を受け入れてくれる、けれども俺の話を理解はしてくれない人を蔑ろにする。その繰り返しだ。本当にいつも、その順序の途中にいるか、終えたところか、その違いでしかない。
そう、俺の話を理解できるかもしれない人は、必ず俺の齟齬に気がつく。だから誤魔化せない。そして俺の嘘や齟齬にある甘さも弱さも切り捨ててしまう。そしてその切り捨てられた生ゴミの中にだけ俺の本当の気持ちが紛れている。だから俺は「俺を赦せ」としか言えない。赦さないということが、俺の真実を切り捨てるということに直結していて分離できない。赦すか嫌うか。誰もが俺を嫌うことを選ぶ。だから今日も俺は「ああ、やっぱりこいつとは合わない」という表情を他人の中に見た。これはもう運命というか、障害のようなものだと思って割り切るしかない。この世界には俺を赦せない人が多すぎる。
正論を振りかざし、俺の言い間違いや疲れから来る齟齬に噛みつく。今まで何人も見てきたが、彼らは何がしたいのだろう? おそらく「純粋にそう思ったから」なんだと思う。純粋に素直に普通に俺を見て「おかしい」とニコリともせず思うんだろう。その裏にある俺の苦痛なんてお構いなしに。優秀な脳みそで、それでも俺の苦痛になど気づかずに。逆に俺を異常と思うなと言えば、それが彼らの苦痛なんだろう。いちいち人の言い間違いに噛みついて何がしたい? 疲れてるから言葉が繋がらないんだ。おまえらの会話なんか一言も理解できないし、外国語を聞いてるように遠いんだ。おまえらがゴチャゴチャぬかすから、俺は誰にも邪魔されないように、能力だけで世の中を渡っていこうと無理をした。俺には能力なんてないんだ。だから赦してもらうしかないのに、おまえらはそれをしようとしない。だから俺は強くなるしかなかった。無理をするしかなかった。全員黙らせればきっと静かな世界が訪れるんだ。俺は誰にもゴチャゴチャぬかされたくない。どこの駅がどこと繋がっていようが知ったことじゃない。俺が積み上げた成果も、俺がいなければどこでチームがしくじっていたかも考えもせずに、俺に一方的な軽蔑だけ押しつけてくる。俺が何をした? 俺は誰にも敵意なんて持っていないし、上手くやりたいだけなんだ。なぜそれがわからない? 俺には敵意なんてないんだ。信じていないだけなんだ。それに傷つく、戸惑うというのなら、なぜ俺を信じてくれないんだ? 俺を信じてくれないから、俺も他人を信じられない。そして俺には、信じてもらえるような価値なんてないんだ。だから、赦せと命令することしかできない。昨日も今日も明日も。
そんな日々が、ずっと続いていく。
細かいやつは嫌いだ。そんなふうに完璧を求めたって、絶対に足下には石が転がっているし、それを避けられないやつがいる。エースはいいかもしれない。賢くて優秀で気の利いたご自分様なら、さぞや華麗に石をかわしていくだろう。かわせるだけかわしていけばいい。そうして選り好みをした先に、どれだけの人間が残っているっていうんだ? この世から底抜けのバカはいなくならない。そういうバカを切り捨てたところで、理想の世界なんて訪れやしない。自分にとっては当たり前で正常な論理が、誰かにとってはゴミ同然なんだ。おまえが他人をゴミだと感じたのと同じように。だから大人しく、黙って俺を赦せばいいんだ。諦めて。