Neetel Inside ニートノベル
表紙

わが地獄(仮)
空気を触る

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 今日という日が疲れた。
 謎の頭痛に襲われた。頭に針を突き刺されているようだった。脳天のつなぎ目をさわってみるとボコボコしていた。ぐっぐっと何度も押すと割れそうな気がした。
 頭痛薬は持っていなかった。天気は悪かった。雨の降りそうな曇り空。気圧のせいで脳圧がおかしくなっている。低気圧ということは、富士山に近づくのだから、気体は膨張するし、水も80度くらいで沸騰する。真空が即血液沸騰なのだから考え方は間違ってないはず。つまり俺の中の血液は膨張して気体が混じっていたのかもしれない。それが血管を圧迫するのか? 血液のままでも温度変化で体積は変わっただろうか。覚えていない。
 吐き気がして、何もしていないのに二日酔いみたいだった。吐く息が臭くて胃が荒れているのがわかった。マスクをしていたから、なおさら臭いがこもって辛かった。
 何をやってもうまくいかない。何もかも途中でしかない。
 脂汗を流しながら浅く呼吸をするたびに周囲の人間が平気そうにしているのが気に障る。電車が苦手だ。車も苦手だ。何もかも苦手。疲れる。
 一滴も飲んでいないのにエチケット袋の前に突っ伏する。水ばかり飲んだから水っ腹だった。夏が悪い。ウィダーインゼリーやバナナを食べても力が湧いてこない。肉が足りないのかもしれない。そういえばずっと焼肉を食べていない。
 何を食べても何かが足りない。体が一生懸命、俺に何かが足りないことを伝えてくる。でもそれがなんなのか俺にはわからない。2000円するハンバーグ屋でたまに豪遊する。少し満たされる。でも足りない。肉が足りないのは間違いがない。
 食欲も湧かない。性欲も湧かない。ひたすらに眠り続けている。
 主治医は薬を出すだけ。レクサプロとトリンテリックス。効いている気がしない。効かないと言ったら「どうしてそう思うんですか?」と聞き返された。どうしてもクソもない。俺は生きていけるようになる薬をよこせと言ってる。
 コンサータも効かない。コンサータを飲んでも眠くなる。念願だったADHD診断。でも誰も優しくしてくれなかった。病気だから仕方ないね、それで終わる世界がほしい。
 もう何年もこんな暮らしをしているし、何かがよい方向へ進んでいっている気がしない。噴火する火山の気配を感じながら、どうせ噴火しないと息巻いて強がっているだけのような日々。火山は噴火するものと受け入れれば、何も無理して生きる必要もない。
 生きていて楽しいと思うことがない。何をしても虚しい。ユーチューブを見る。なんとなく見る。悪くはない。編集もいい。でもそれだけ。俺には関係のない人々。
 酒も飯もゲームも女も楽しくない。風俗にいくより整体にいくほうが癒やされる。俺はメンテナンスがして欲しい。このボロボロの体に。
 仕事もうまくいかない。もう辞めてもいいかもしれない。何を理由に頑張るのかが理解できない。家にいて目を瞑っている時を超える幸せがない。
 どこを見てもつまらない話しかない。AV女優は弾圧されるし、インボイスのせいで個人事業主も弾圧される。少しずつ少しずつ生きにくい世の中になっていく。何かが改善されたり、よりよい方向へ進んでいった試しがない。目を瞑っているほうがよほどマシだ。
 年収も上がらない。夏の暑さは上がっていく。毎日の電車はつらい。音と光が迫ってくる。あんなにギラギラしたパスタは見たことがない。トマトソースのせいなのか? 食器がこすれる音。誰かが机に肘をぶつけた音。クラクション。
 たまらない。
 死ねば一切の感覚を失える。そうすればもう眩しいと思うこともない。三十歳も超えると射精が気持ちよくない。もうどうでもいい。何かがしたいのじゃなく、したくない何かから離れるために何かをする。こんな生き方はうんざりだ。
 まともに生まれたかった。
 まともに生まれて、ひょいひょいとステップアップして、人並みの幸せを手に入れて、ツイッターで幸せテロして、なにかあったらお気持ち表明していいねを稼ぐ人生が欲しかった。でも俺はそれを手に入れられなかった。努力しなかったのかもしれないし、努力しても駄目だったのかもしれない。いつだって適職診断の結果は芸術家だ。美大に落ちて百万人を殺せばいいのか? たくさん殺せばそんなの数字だってスターリンも言っていた。
 エアコンの音がする。送風機の音。保健室を思い出す。夏の保健室。ずるして寝かせてもらったベッド。みんなが勉強している時に俺だけ寝ていられたあの時間。あの瞬間より幸せなことが俺の人生にはなかった気がする。生きるよりも、寝てる方が幸せだった。ならもう死んでもいいのかもしれない。
 ハンチョウが読みたい。


       

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