わが地獄(仮)
無音
しばらくすると気分がよくなってきた。医者に言わせるともう何も心配はいらないらしい。ようやくこれでラクになれるかと思うとほっとした。エアコンの絶え間ない稼動音を聞きながら枕にアタマを埋める。これでようやくラクになれるのだ。なんの音もしない。カレンダーはもはやない。どこへもいかず、なにもしない。これでよかったのだ。カーテン越しの窓の外はもう永遠に春で、雨も降らず、曇りもしない。ゆっくりと穏やかな光が白い部屋の中に充満する。これでいい。
なんの音もせず、なんの動きもなく、なんの予定もない。これでいい。これでようやくラクになれる。もう何も起こらず、何も失わず、何も知覚しない。何にも気づかない。これでいい。これでようやくラクになれる。静かだ。崩れていく砂のような静けさだ。これだけあれば他には何もいらない。これでいい。これでようやくラクになれる。
これでいい。