Neetel Inside ニートノベル
表紙

ストライクウィッチーズ―二次創作―
第二話 腹黒リーネちゃんと寡黙なサーニャン

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「芳佳ちゃん。朝だよ、起きて」
 リーネの一日は宮藤を起こしに行くことから始まる。
 宮藤がすぐに起きてしまわないよう優しく肩を揺すり、その愛らしい寝顔を堪能しながら。
 ああ、芳佳ちゃんの寝顔可愛いよぉ……。
 数十分その寝顔を堪能して、宮藤がなかなか起きないところを見るとリーネは彼女の耳元にそっと顔を近づけた。
「芳佳ちゃんはリーネの事が大好き。芳佳ちゃんはリーネの事が大好き。芳佳ちゃんはリーネの事が大好き。芳佳ちゃんは……」
 ぶつぶつと呪文のよう同じ言葉を宮藤の耳元で囁き続ける。まるで彼女を洗脳するかのように。
「うわあああああ!」
 すると宮藤が悲鳴をあげて飛び起きた。
 はあはあと肩で息をする宮藤にリーネが心配そうに声をかける。
「芳佳ちゃん大丈夫? 悪い夢でも見たの?」
「リーネちゃん? あ……ううん! わ、悪い夢なんか見てないよ!」
 宮藤はリーネが自分のすぐ横にいることに気づくと、何かを隠すように慌ててぶんぶんと顔と両手を振った。
「よかった。おはよう、芳佳ちゃん」
 白々しく安堵の息をこぼすリーネ。
「う、うん。おはよう、リーネちゃん」
「じゃあ、朝ごはん食べにいこっか芳佳ちゃん」
「う、うん」
 宮藤と連れ立って部屋を後にしようとするリーネだったが、外に出る前に彼女は目ざとくある物を発見する。
「あ、芳佳ちゃん。またズボン脱ぎっぱなしにして。ちゃんと洗濯物に出さないとダメだよ」
 リーネは部屋の隅に脱ぎ捨てられていた宮藤のスクール水着型ズボンを拾って、困ったような笑顔を見せた。
「えへへ、昨日訓練の後でちょっと疲れてて」
「しょうがないなあ。じゃあ私、芳佳ちゃんのズボン洗濯物に出してくるね。芳佳ちゃん先に食堂行ってて」
「え、いいよ。自分で出しに行くから」
「いいから、いいから」
 半ば強引に押し切り、リーネは部屋を後にして洗濯物を出しに向かった。その行き先は、なぜか自分の部屋だったが。
 リーネは自分の部屋に入ってしっかりと鍵を閉めると、宮藤のズボンを自分の鼻へと持っていった。
 ……芳佳ちゃんの匂い。芳佳ちゃんの匂い。芳佳ちゃんの匂い!芳佳ちゃんの匂い!
 スンスンと鼻を鳴らしながら、リーネはその匂いを心行くまで堪能する。
 はあと溜息を吐いて、恍惚な表情をその顔に浮かべる。
 そうリーネが毎朝宮藤を起こしに行くのはこのためでもあったのだった。
 宮藤の脱ぎっぱなしのズボンを自分の部屋へと持っていき、その匂いを堪能する。そして前の日に持ってきていた宮藤のズボンを洗濯物に出すのだ。
 これこそがリーネが考案した芳佳ちゃんのズボン作戦の全貌である。
 リーネはこの作戦を初めて実行する前に、怪しまれないようちゃんと自分で宮藤のズボンとまったく同じものを買ってきている。流石リーネちゃんと言ったところだろうか。
 かくしてリーネは宮藤の匂いを充分堪能したあと、前日の彼女のズボン片手に自室を後にした。
 そして、洗濯物を出しに行く途中の廊下で、リーネはよく見知った人物に出くわした。

 リーネが自分のズボンを持っていたあと、宮藤は未だ治まらない激しい動悸を感じていた。原因は今朝方に見た夢だ。
 宮藤は今朝見た夢を思い返した。
 なんだったんだろうあの夢。……リーネちゃんの大量のおっぱいに埋もれる夢。
 そして、その頬をそっと赤く染めた。
 最高の夢だったなあ……。
 宮藤は鼻を伸ばしながら、何度も何度も今朝見た夢を頭の中で反芻した。流石淫獣だね。
 そして、宮藤はそっと思うのであった。
 ――リーネちゃんのおっぱいもいいけど……シャーリーさんのおっぱいも超揉みてー!
 奇遇だな宮藤。俺もシャーリーのおっぱい超揉みてー!

「ふあぁ……」
 少女の欠伸――目元に滲む涙。
 風になびく灰銀色の髪/淡いエメラルドの瞳/白雪のごとく穢れをいっさい知らない純白の肌。
 サーニャ・V・リトヴャク中尉は夜間哨戒任務を終え、指令本部へと帰投していた。
 夜間を通して行われる哨戒任務――本日も平和で退屈で睡魔との戦いだった任務。
 サーニャの眠気はもはや限界を迎えていた。
 足元のストライカーが発する魔道エンジンの轟音+頬を撫でる朝の爽やかで心地よい風=子守唄にしか聞こえない。
 やがて指令本部が見えてくるとサーニャは、自分と同じように他方で哨戒任務に当たっているウイッチたちに通信を送った。
《基地が見えたなう。眠いなう》
 リアルタイムで任務に当たっているウイッチたちから、数十秒で返信が届く。
《サーニャちゃんお疲れーなう。おやすみーなう》
《お疲れ様です、サーニャさん。なう。こちらはあと三時間も帰れそうにありません。なう》
 睡魔でぼやける頭で彼女たちの通信を聞き流し、サーニャはふらふらと覚束ない飛行で指令本部へと向かった。
 格納庫にストライカーとフリガーハマーを収容しに行くと、今朝は少し遅くなってしまったのか、シャーリーが下着姿で愛用のストライカーの改造を行っていた。
「おー、サーニャ! おはよう!」
 シャーリーが快活に挨拶をしてくるが――サーニャのぼやけた頭には彼女の声が入ってこない。
 サーニャはシャーリを無視して、うつらうつらと船をこぎながら格納庫をあとにした。
 瞼を半分下ろして危うい足取りで自分の部屋を目指していると、ぽよんと柔らかい何かにぶつかりサーニャは足を止めた。
「お、おはよう……サーニャちゃん」
 顔を上げると――リーネが強張った笑顔で自分を見下ろしていた。
 なんか怒ってる?=サーニャの所感。
「ごめんなさい、リーネさん」
 なんだかよく分からないが取り合えず謝って、その場を後にしようとしたがリーネに呼び止められる。
「あ、あのサーニャちゃん!」
「はい?」
「……サーニャちゃんって、芳佳ちゃんのことどう思ってるの?」リーネ――手を後ろにやってもじもじ。
「どうって?」サーニャ――質問の意図が分からず首を傾げる。たぶん寝ぼけ眼じゃなくても分からない。
「だ、だから……」ごくんと息を呑み、意を決したように言う「サーニャちゃんって芳佳ちゃんのこと好きなの!?」
「うん、好きだよ?」即答=どうしてそんな当たり前のことを訊くのだろうかと、未だ質問の意図が分からない。
「な……」口をパクパク/二の句を継げない/唖然。
「? じゃあ、私眠いから。おやすみなさいリーネさん」
 リーネのことを訝しく思いながらも、いまは眠気に勝る物はない。ぺこりと頭を下げるとサーニャはリーネの脇を抜けてふらふらと歩き出した。しかし、すぐにまた背中にリーネの声が投げかけられた。
「サーニャちゃん!」
「なに?」首だけで振り返る/眠い/もうめんどくさい/眠い/イライラ――声も自然と冷たい物になる。
「サーニャちゃんってエイラさんのこと好きだったじゃなかったの!?」リーネ――どこか必死。
「好きだけどそれが?」即答=どうでもいいから早く寝させろと露骨に態度で表す。
「こ、こ……」ぷるぷると震えだす/顔を真っ赤にする=噴火まであとニ秒「このクソビッチが!!」
 耳がきーんとなるほどの大声で、リーネはサーニャを罵倒すると地面に何かを叩きつけて走り去っていった。
「ふわぁ……」
 廊下に一人ぽつんと取り残されたサーニャは、リーネの背中を見ながら大きく欠伸をする。
 サーニャにとって、リーネに言われた事などもはやどうでもよかった。
「やっと寝れる……」
 ただそれしか頭になかった。

       

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