Neetel Inside 文芸新都
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 男のペニスは普段よりも太く、そして硬く勃起し、みっちりと膣内に埋まっていた。ようやく加悦の体を味わえたことで、熱くたぎっていた男の思考に少し余裕が生まれた。
「抜いて……はな、れて……」
 じぃっと、加悦を観察した。顔はこちらに向けているものの、睨むわけでもなく怯えているような表情。首にはキスマーク。シャツは破れ、胸は自分の唾液でべたべたになっている。無理やり開いた両脚、その中央では結合している互いの性器。
 もう問題はない。あとは股間から子種を排出する、だけ。男はゆっくりと動き始めた。
「い……いたっ……!」
 加悦は皮膚を裂かれるような痛みに声を上げた。あきらかに準備が整っていない膣内は拒むようにペニスを締めつけていた。ぐ、ぐっ。数度動いてみるものの、男にも痛覚しか伝わってこなかった。
 快楽のため、昇り詰めるため、男は胸をぐにぐにと揉みしだいた。同時に指の腹で乳首を擦り、とにかく加悦に快楽を与えようとする。
「ん、んん、あっ」
 あまりにも乱暴な愛撫。しかし、それでも生まれる快感。ペニスを拒む膣内は、少しずつ、ほんの少しずつ湿り始めていた。それでも男は待てず、親指を舐めて結合部のすぐ上、クリトリスに指を置き、こりこりと擦り始めた。
「あう、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ」
 唾液が潤滑油となり、指はなめらかに動く。加悦はクリトリスが擦られるたび、動きに合わせるように声を出してしまう。
「あつ、あつい、ああ、ああ」
 クリトリスを中心に、まるで火であぶられているような熱みが広がっていく。その露出したウィークポイントは、相手や雰囲気などお構いなしに加悦の準備を進めていく。
 ぬるり。ペニスが動いた。痛みはない。準備が、整ってしまった。
「あっ、ああ、いや、いや、だぁ」
 ぬる、ぬる、ぬるり。首を振って拒絶するが、その姿は男の本能を燃え上がらせる要素にしかならなかった。興奮のあまり、男は加悦にキスをした。口内に溜りに溜まった生唾を加悦の口へ流しこんでいく。
「うう、ふぅ……!」
 ぐちゃぐちゃと暴れ回る舌から逃れようとするものの、あっさりと捕らえられてしまう。男は加悦の舌を堪能し、吸い上げた唾液で喉を潤していく。
 男は腰を止めてキスに専念していた。柔らかな内頬をつつき、歯の表面をなぞる。男の額から汗がしたたり、加悦に落ちる。その野性的なキスに心が折れてしまったのか、加悦は暴れ回る舌に抵抗しなかった。
 男が離れると唾液の滝が降り注いだ。加悦はそれを口内に受け止める。腰の動きが再開した。ぐちゃぐちゃと結合部から音が鳴る。
 意識から、昴の姿が薄らいでいく。
「う……くっ」
 男は初めて声を漏らした。息は荒く、動きも早くなっていく。この様子は知っている。限界が近い。男性の限界、すなわち、射精。
「だめ、中は、中は、だめぇ」
 もちろん男はそんな言葉に耳を貸さない。裏切るように動きを早めていく。
「く、うぅ」
 男は苦しそうに声を出す。もう、その瞬間は近かった。
「やだ、抜いて、抜いてぇぇぇぇっ」
 必死に体を動かしてペニスを抜こうとする。が、無駄な抵抗だった。
 その瞬間が、訪れた。
 どくんっ。
「あっ」
 どく、どくっ、どく。
「ああっ、あああ」
 ペニスが大きく震える。
「あ、やだ、いや、だ」
 首を大きく振る。しかし現実は変わらない。男はペニスを膣の最奥まで挿し込み、射精の余韻に浸っていた。
 絶頂を迎えた男は、加悦からペニスを抜かずに手を腰から胸へと移動させた。そして、愛撫が始まった。これだけでは終わらない、そう言わんばかりに手が忙しなく動き始める。
 ついに意識から、昴の姿が、消えた。
 それが、加悦の限界だった。
「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇんっ」
 子供のように声を出し、泣き始めた。
 
「あ、う、ごめんっ」
 昴は胸から手を離し、ペニスを引き抜いた。それには避妊具がつけられていて、当然、精液はその中に溜まっている。
「だから、本当にするの、て訊いたのに」
 拘束する手錠を外し、赤く痕ができているところを何度も撫でた。呆れた表情を浮かべる昴。加悦はただ泣いていた。
 全容を述べてしまうと、一連の出来事はすべて加悦が考えた趣向、演出の性交渉だったのだ。『侵入者に強姦されるというシチュエーション』を提案し、わざわざ侵入するところから開始した。加悦は破かれても問題のない服と下着、手錠やデジカメを用意し、昴はあらかじめ避妊具をつけていた。口を塞ぐための粘着テープも用意していたが、安全面を考えて使用しなかった。
 よりリアルにするために照明も消す予定だったが、昴が「ちゃんと加悦を見たい」という一言で却下となった。すべてが同意の上での出来事だった。
「どこか痛かった?」
「うわぁぁぁぁぁぁん」
 提案を持ちかけたのも、演出を考えたのも加悦。だが、以前のメイドを演じていたときと同様に、演技に深入りし過ぎてしまった。本当に見知らぬ誰かに強姦されているような錯覚に陥ってしまった。
 昴はそんな加悦を呆れもせず、頭を撫でた。撫で続けた。隣に寝て、ぎゅっと抱き締めた。
「……ごめんね、昴くん」
「ううん。それより大丈夫?」
「うん……昴くん、いや、だった?」
 加悦は覚えていた。事の途中に『昴』の名前を出したとき、昴が悲しんでように見えた。それと、感じている様子を見られたとき、怒っているようにも見えた。
「演技とはいえ、あんまりいい気分じゃなかったよ……興奮はしたけど」
「ごめんね、ごめんね……」
 謝りながら泣き続けた。昴はずっと抱き締めて、ずっと背中をさすっていた。加悦は次第に落ち着き、泣き疲れたのか眠気が押し寄せてきた。最後に1回「ごめんなさい」と謝り、軽く触れ合うだけのキスをして「おやすみ」と囁いた。
 隣にいて、手も繋いでいる。それなのに、昴がすごく、遠く感じた。
 考えて、がんばった結果、悲しい想いをするだけではなく、相手を不快にさせて迷惑までかけてしまった。自分の不甲斐なさと、相手への申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 隣で眠る彼、繋いでいる手。とにかく遠い。体温さえどこか別のところにある、そんな気がした。
 
 ごめんなさい。今は、すごく不安だよ……
 
 加悦は繋いだ手を離して、目を閉じた。
 
 

       

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