Neetel Inside 文芸新都
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マンネリガール
第7話「あの時もマンネリ」

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 大学のテスト期間も終え、同窓会の日が訪れた。とはいえ高校を卒業して3年ほどしか経っていないし、今でも連絡する友人もいるのでそこまで懐かしさは感じていなかった。けれど加悦は実家に向かう電車の中、楽しみながら流れる風景を眺めていた。
 クラスメイトの顔を浮かべながら話したいことを頭の中でまとめていく。なるべく高校のとき以来の人と話すようにしよう、お酒は呑みすぎないようにしよう、先生は来るのだろうか、つい気合を入れてオシャレしてしまった。とにかく楽しみで仕方なかった。
 駅前のチェーンの居酒屋。同窓会の会場の前には、懐かしい顔から今でもたまに会う顔、様々な顔ぶれがあった。にこやかに挨拶し、会話を弾ませる。この瞬間は高校生に戻っていた。
 が、そんな楽しい気持ちも、あっという間に冷えてしまうような現実に気づいた、知らされた。
 クラスの同窓会にしてはやけに多い。あきらかに1クラス以上の人数だった。友人が言う、偶然にも隣のクラスの同窓会と同日、同じ場所、とのこと。
 最悪。加悦は毒づいた。このことを事前に知っていれば参加しなかった、参加しなかったのに!
 後悔しても、もう遅い。せめて意を決しようと、それとなくぐるりと周囲を見渡した。知っている顔は同じクラス。そして知らない顔のグループが視界に入る。それは、隣のクラス。
 そんな知らない顔の集団の中で、よく知る、よく知っていた顔が、いた。
 見つけてしまった。
「……勇(いさむ)」
 ひさしぶりに口にした、名前。加悦が高校生のころ、世界で一番愛していた人の、名前。
 
 戻る。
 
 戻る。
 戻る。
 戻る。
 
 戻ってしまう。
 
 ◆ ◇ ◇ ◇
 
『……ほんとに、するの?』
 加悦は不安そうにつぶやいた。勇はにまりと笑い、うなずいた。
 付き合って一ヶ月目。共働きをしている勇の家は放課後、誰もいない。2人はついに、そのときを迎えていた。
 加悦がどれだけ不安を感じていても、すでにシャワーを浴びてバスタオル1枚だけ。覚悟はできている。でも、知識として初めては血が出るし、痛いらしい。やはり、不安だった。
『大丈夫だから。任せろって』
 勇はベッドに腰かける加悦の肩に手を置き、ゆっくりと押し倒す。そして、そっとキスをした。
『ん、うん』
 勇の舌に委ねた。舌を突き出し、捧げる。唾液と舌が絡み、変な気分になっていった。最初はこの舌を入れるキスがあまり好きではなかった。なんとなく不衛生に感じてしまい、嫌悪感だけしかなかった。
 嫌悪感しかなかったのに。今では、自分から求めてしまう。
『……あっ』
 バスタオルが外された。おうとつの少ない少女の体が勇に晒される。
『電気消してよ……』
『駄目だ。しっかり見たい』
 勇の手が加悦の胸に触れる。びくんと、加悦は震えた。その小さな丘を、勇は撫でる。優しく、しかし舐めるように。あるいは成長を施すように、いずれは性感帯へと発達するように。
『どんな感じ?』
『く、くすぐったい』
『ああ、なら性感帯になるな』
 そのあとは、触れられ、摘まれ、舐められて。快感を積み重ねていく。まだ男を知らない女性器が潤っていく。そこに勇の手が、置かれる。
『ほら、この音聞こえるか?』
『やだ……恥ずかしい』
 ぺちゃぺちゃと水音が聞こえるたび、羞恥で顔の表面が沸騰しそうだった。
『加悦。見てみろよ』
『ああ、勇の……』
 心も体もほぐれ、いよいよ、そのときがきた。自分の性器と彼の性器が触れ合っていた。
 彼が、やって来る。
『じゃ、いくぞ。力抜けよ』
 勇は進む。狭い狭いそこは拒む。怖い、ただ怖かった。
『いた、いたいっ』
『俺も痛いから。力抜けって』
『う、うううっ』
 力を抜こうとする。でも無理だった。シーツを力いっぱい握り、我慢する。ただ痛いだけだった。それでも、紅潮し息を荒くする彼が愛しかった。彼が気持ち良いのなら、我慢する。溢れる涙を溜めながら、加悦は唇をきつく閉じた。
 勇は激しく腰を動かす。痛い、すごく痛い。けれど時々鳥肌を立たせるような気持ち良さは、しっかりと体に刻まれる。
『う、おっ。イく』
 ペニスが震える。射精する寸前で引き抜き、加悦の体外、避妊具の中で精液がほとばしる。ペニスには、血がついていた。
 加悦は皮膚が引っ張られ、押し戻されて。連続の痛みを走る。が、それ以上に幸せを感じていた。最愛の彼に、処女を捧げることができた。それは、これ以上ない、幸せだった。
 加悦がオンナになったときだった。
 
『あ、ああ、きもち、気持ちいぃっ』
 初体験の日からほぼ毎日、交わっていた。この日で一ヶ月、加悦に痛覚はなく、快楽だけを感じていた。体内で勇のペニスが動くたび、少女らしからぬ嬌声を出す。すっかりオトコの味を知っていた。
『おお、イく、イクっ』
 ペニスが震える。膣内でびくんびくんと、脈打っている。勇は動きを止め、加悦の中で射精の余韻に浸る。そしてずるりと引き抜くと、避妊具の精液溜まりには大量の精液が放出されていた。
『もう、外で出してって言ってるのにっ』
『別に大丈夫だろ』
『……最初は、ちゃんとしてくれてたのに』
 これが最近の不満だった。いくら避妊具をつけているからとはいえ、体内で射精されるのは不安だった。でも勇が言うには、体内で射精するほうが気持ちいいらしい。
 それでも、加悦は嫌だった。
 
 ◇ ◇ ◇ ◆
 
 
 
 ちらちらと勇の姿が視界に入る。加悦は友人たちと昔話に華を咲かせながらも、ずっと勇の存在が気にかかっていた。向こうも友人としゃべりながら楽しそうにしている。煙草も吸っている。隣の女の子に話しかけられ、笑みを浮かべて答えている。
 昔は健康に気を遣っていた。部活動では陸上をがんばっていた。今では煙草を吸っている。見知らぬ女の子と楽しげにしている。
 少し、複雑だった。
 
 
 
 ◆ ◇ ◇ ◇
 
『今日は、口でしてくれないか?』
 ある日、勇は加悦に頼んだ。
『口って……フェラチオってやつ?』
 加悦も知識はあった。女性が口で男性の性器を咥え込む、愛撫。けれどシャワー後とはいえ、抵抗があった。が、愛する彼のお願いごと。これは叶えてあげるしかない。
『えと……これを、こう?』
 ペニスを握り、上下にさする。勇は小さく声を漏らし、顔を少し歪めた。
『ん、そうそう。それで、口に入れるんだよ』
『む、無理だよぉ』
『なら舌で舐めるぐらいでいいよ、最初は』
 と言われても、目の前の凶悪なものは恐怖しか感じない。でも彼のため。加悦は小さな舌先で、ペロリと舐めた。
 ペロリ、ペロリ。ペニスが唾液で塗り上げられていく。
『お、そうそう。裏側を上下に舐めてくれよ』
『う、うん』
 勇に言われ、ペニスの裏筋を上下になぞる。
『ああ、そうそう。気持ちいいよ』
 彼の声が艶かしい。頭を撫でてもらえている。加悦は嬉しくなり舌の動きを加速させる。
『じゃあ、次は口に入れてごらん』
 今ならできるかもしれない。ぱくりと、口に入れた。でも、そこからどうすればいいかわからない。口に入れたまま、じっと勇を見つめた。
『ああ、そこから舌使ったり、顔を前後に動かすんだ』
『ん、ん』
 言われたとおりに動く。口の端から唾液が漏れる。苦しい、あごが痛い。でも、彼が気持ち良さそうにしている。それが嬉しい、すごく嬉しい。
『う、イクぞっ』
 どぐん。口内で射精された。加悦は驚きのあまり動けず、生ぬるい粘液を受け止めた。が、それも一瞬のこと。むせながら手に吐き出した。
『うえ、え、ひどいよぉ……』
 涙混じりの声で勇を責める。いくら彼の一部とはいえ、これは生理的に受けつけなかった。
 
『んん、んっ』
 じょぼ、じょぼり。加悦はペニスを咥え込み、激しく前後に動かした。
『うおお、お、すげ、すげぇ』
 急速に膨れ上がる快感に勇は腰が浮いてしまう。初めてフェラチオをさせてから一ヶ月少々、これほどフェラチオがうまくなるなんて。
『今日は、どこにほしい?』
『んちゅ……顔に、ほしい』
 加悦は口を離し、ごく自然に答えた。すでに精液に対する嫌悪感はなく、顔で受け止めることや口から受け入れること、どちらも経験済みだった。
『イ、くぞ、イクっ』
『……んっ』
 勇の言葉に、目を閉じてペニスをしごく。すると粘り気のある、熱いシャワーが降り注いだ。それは額から鼻、まぶた、頬、唇。どろどろと降りていく。
『んー、んん』
 唇の精液をべろりと舐める。独特の苦味を味わい、ティッシュを手探りで見つけ、つかみ取るように精液を拭う。
『ねぇ、気持ち良かった?』
 あどけない様子。学校で見せる表情で、尿道に残った精液を搾り出すためフェラチオを始めていた。
 
 ◇ ◇ ◇ ◆
 
 
 
 そろそろ終わるだろう時間。次は二次会だろうか。行こうか、帰ろうか。加悦は考える。ふと、視線を感じた。その方向は、勇のいるところ。普段なら無視ぐらいできた。しかし酔っていたのか、見てしまった。
 とんとん、とん。
 勇の指がテーブルを叩く。音は聞こえない。その動作が見える。気づいてしまった。あれは、単なる指遊びではない。
【放課後、暇?】
 昼休み、勇はクラスメイトに会いに来たとき、必ずしていたサイン。今は放課後は関係ない、つまりこのあとのことを訊いている。
 あのころは、このサインで胸が高まったものだった。今は、どうだろう。酔った頭に問いかけても、ちゃんと答えに導いてくれないだろう。
 けれど、加悦の答えは決まっていた。
 とん、とん、とん、
 一定のリズムで3回。これの意味は。
 
【大丈夫】
 
 

       

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