Neetel Inside 文芸新都
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 ああ、そういえばあの時も。加悦は指を浮かせたとき、思い出していた。
 
 ◆ ◇ ◇ ◇
 
『イく、イくぞ』
 射精と共に、ペニスが体内で震えた。加悦は外で出してもらうことを諦めていた。避妊具があるし、まあ大丈夫だろう、それぐらいで考えていた。
『ふぅ、気持ち良かった』
 勇はどさりと加悦の横で寝転がり、目を閉じた。ここのところ、射精したらさっさと寝入っている。加悦はそんな勇に憤りを感じていた。前までは先にイったら愛撫で絶頂まで導いてくれていた。事後は抱き締めてくれた。どちらかが自然に眠るまで、ずっとピロートークもしていた。
 ……寂しいな。
 勇が起きないように、優しく頭を撫でた。
 
『……ん、えっ?』
 違和感によって目が覚めた。たしか、勇との営みを終え、眠ってしまったようだ。
 それはそれとして、なぜ挿入されているのだろうか。
『ね、ねえ、なにしてるの?』
『ああ、おはよう』
 挨拶と共に動く。いつの間にかそこは濡れているようで、スムーズにストロークされる。
『ねえ、んん……ちょっとぉ』
『触ってたら濡れてきたから、いいかなって』
 いくら恋人同士とはいえ、それはあんまりじゃあないだろうか。加悦は少しずつ覚めていく意識の中、苛立ちを覚えた。
 ペニスが震える。どうやら終わったようだ。
 
『……このまま?』
 加悦は寝転がる勇の上にまたがる。その姿は制服のまま。しかし下着は穿いていない。すぐ真下には勇のペニス。それはローションでとろとろにコーティングされていた。
『汚れちゃうよ……』
『大丈夫だって。静かにすればいいって』
『う、うん……』
 ずる、ずる。スカートに隠れて見えないけれど、まったく濡れていない下の口にしっかりと濡れたペニスが入っていく。
 最奥まで、入った。少しも快感のない状態で挿入されたのは初めてだった。気持ちと下半身がひどくアンバランスで奇妙な感覚だった。
『んんっ』
『……温かいな』
 ず、ず。加悦の腰の動きに合わせ、勇は突き上げる。ずりずりと擦れるたびに快感が生まれてくる。動く、動く。どんどん濡れてくる。
『う、イく』
 勇は止まる。加悦は中腰で、射精した勇の顔を見つめていた。
 最近、こんなことが多い。あまり愛撫されず、挿入されることが、多い。じわじわと滲み出る違和感に、少し震えた。
 
『ごめん、今日は、無理……』
 抱き締める勇を手で押し返しながら、加悦は答えた。ここ最近、肌を重ねることに疑問を感じていた。それとなく避けて、今日はなにもしないという約束もした。それなのに部屋に入るなり、抱きつかれた。
『なんでだよ、いいじゃんか』
『だって、今日は、その……生理、なの……』
 加悦は『ごめんなさい』とつぶやいた。生理というのは嘘。初めて拒絶した。
『なら、口でしてくれよ。な?』
『え……』
 勇はやや硬さを帯びたペニスを取り出した。
『……うん。いい、けど』
 ペニスを咥え、いつものようにフェラチオを始めた。
 ……なんか、やだな。
 もやもやとした気持ちが膨らんでいく。
 
『なあ、いいだろ?』
 加悦を膝の上に座らせて、手は制服の上から胸を、スカートの上から下半身を触っている。加悦はその手に軽く抵抗しながら、勇の提案を聞いていた。
 勇の提案。それは、友人のカップルと、合計4人でセックスをすること。つまり乱交。
『向こうの彼女もさ、興味あるって言ってんだ』
『でも、勇以外の人とは……』
 自分が他の男に挿入され、勇が他の女に挿入する。あるいは、自分がその他の女と絡み合うのだろうか。考えただけで、鳥肌が立つ。
 それからずっと押し問答。最終的に加悦が泣き出し、終わった。
 
『どういう、こと?』
『どうって、そういうことだっつの』
 加悦の声が震えている。勇は面倒そうに答えた。
 別の女と寝た。勇が、そう言ったのだ。
『なんで? ねえ、どうして!』
『なんでって、最近お前と遊んでも、つまんねぇんだよ』
 なにも言い返せなかった。それは、加悦も感じていたことだった。たしかに最近、勇といても楽しくなかった。
『うん、そうだね。もう無理、だよね……』
 相手を想う気持ちは、すでになかった。
 
 ◇ ◇ ◇ ◆
 
 とん。
 指が降りる。3回では終わらない、最後に1回、叩いた。一定のリズムで4回。これの意味は。
 
【無理】
 
 今さら過去にすがるような性格はしていない! 凛と、心の中で叫んだ。
 
 
 
 その後、加悦は帰路に着いていた。同窓会が終わり、二次会の誘いもあった。が、勇のいる空間から一刻も早く去りたかった。どれだけ気丈に振舞っても、精神はずたずただった。
 電車に揺られながら通り過ぎる風景を見る。行きとは逆の風景。気持ちも、まったく逆だった。思えば勇と別れたのは、倦怠期を乗り越えることができなかったからだ。今の状況とひどく近似している。
 ひどく疲れて、ひどく参ってしまった気がする。誰かに、誰でもいいから甘えたかった。抱えている、わけのわからない不安を聞いてほしかった。
 すがるように携帯電話を取り出した。すると、メールを1件受信していた。
『こんばんは。同窓会はいかがでしたか?』
 由理からだった。そういえば今日のことを伝えていた。
『楽しかったよ。今は帰ってる途中だよ』
 書く内容がまとまらず、とりあえず手短に返信した。するとすぐ、返事が来た。
『そうでしたか。それを知って、一安心です』
 意味がわからなかった。しかし、数行先、空行をいくつも超えた先の文章。それは、あった。
『今、加悦さんの家の前で待っています』
 
 

       

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