Neetel Inside 文芸新都
表紙

マンネリガール
第2話「つがいの止まり木」

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 休日、加悦と昴はデートをしていた。
 思い返せば、ここしばらくどちらかの家でダラダラと過ごしてばかりいた。加悦はまず遊びに出かけることで環境を変えて、慢性的な日常を打破することを考えた。
 効果のほどは上々だった。手を繋いで見ていた恋愛映画はドキドキして内容をほとんど覚えていなかった。結局取れなかったUFOキャッチャーも彼の真剣な表情を見ることができた。カラオケでは「上手だね」と褒めてもらえた。カフェで他愛もないおしゃべりをするのも、意味がないところに意味があるのかもしれない。
 デートコースは今までと同じだったが、それでも新鮮に感じるのはずいぶん記憶が薄まっていたのかもしれない。
「なんだかひさしぶりだね、こういうの」
「加悦のメイクもひさしぶりだね」
「もうっ」
 あまりに図星でぎくりとした。メイクだけではない、服装を考えたのもひさしぶりだった。明るめの色で清潔にまとめたロングスカートとベアワンピース。花の飾りがついたぺたんこミュール。買ったままで放ったらかしにしていたものをようやく披露することができた。
 デートは十分満足。けれど、まだ終われない。まだ予定を残している。
「えっとね……ちょっと、行きたいところ、あるの」
 物怖じせずに言おうとしたが、やっぱりもぞもぞとつぶやいてしまった。それは後ろめたさではなく、恥ずかしさからだということは知っていた。
「ん、どこ行きたい?」
「あのね……」
 消えてしまいそうな声で言った。昴はそれを聞き、少々驚きつつも二つ返事で了承した。
 
 遊んでいた繁華街から少し歩いたところには、いくつかのラブホテルが並んでいる。共に一人暮らしをしている2人は金銭的なことを考えてあまり利用したことはなかった。
 ラブホテルに限ったことではなかったが、こういった施設は必ず加悦が選んでいた。料金や設備以上に数時間とはいえ2人の愛の城になる場所は、昴に何となく選ばれるのではなくちゃんと選びたかったのだ。
「うわー、広いっ」
 加悦は部屋の中をくるくると回った。加悦の審査を通過したホテルの、少し良い部屋。サービスタイム内なので気軽な料金で利用可能だった。
 どこも煙草の臭いが鼻をつくけれど、それはしょうがないことだと割り切った。アダルトグッズの自販機を眺めつつ、スロットマシーンの電源を落とし余計な照明を切る。お風呂にお湯を貯めながら、何となく有料チャンネルの放送内容を見たりする。
「ちょっと落ち着きなさい」
 はしゃぎすぎている加悦を昴はそれとなく注意した。それは咎めるわけでもなく、子供をあやすように。
 ソファーに座る昴に気づき、加悦はその横に座った。彼女はこれを待っていた。
「んっ……」
 昴は加悦を押し倒し、舌を絡めるキスをした。加悦は知っていた、ホテルでの彼はいつもより積極的で、隣に座ればこうして押し倒してくることを。
「ふ、ふぅっ」
 ようやく解放されたかと思えば、昴の舌は加悦の首を這い、手は胸元をまさぐっていた。
「ちょ、ちょっとぉ……皺になっちゃう……」
 なんて言いつつも、皺になることなんて別に気にしていなかった。心理的なもので少し抵抗されるほうが燃えるだろうこと、抵抗する女性は男性には魅力的に見えること。すべて打算の内であった。
「んー、いい香り」
「恥ずかしいよ……汗、かいてるのに……」
「それがいいんだよ。加悦の匂いがする」
 首元に唇が吸いついてくる。キスマークはつけないと約束はしているものの、やはり不安に感じた。唇のところからぴりぴりと心地良さなのか不安なのかよくわからない感覚が伝わってくる。
「あっ」
 アンダーバストの締め付けがなくなった。いつの間にか昴の手は背中にあり、ブラジャーのホックを外していた。そのまま服の中に侵入し、無防備になった胸を触り始める。
「あっ、や、やぁぁっ」
 服の中でもこもこと動く手は見えなくても心地良さを伝えてくる。加悦はいつもとは違い、我慢せずに声を出していた。
「あ、ああ、気持ち、気持ちいいっ」
 指の腹が乳首を撫でるたび、加悦の体は震えた。それと共にきんきんと甘い声が発せられる。そんな声に昴はもちろん、加悦も興奮していく。
「昴、くん……ベッドに移動したい。ちょっとここ、痛い」
「あ、うん。ごめん」
 与えられる快楽に身を委ねていたかったけれど、ソファーの硬さに体が痛みを訴えてきた。加悦はふらふらとベッドへ移動し、四つん這いで枕元に備えられている避妊具の個数、すなわち楽しめる回数を確認する。そうしているうちに昴が後ろから抱きつき、愛撫が再開された。
「あん、もうっ、せっかちなんだからぁっ」
 両手で弄られ、いよいよ余裕がなくなってきていた。四つん這いもいつまで維持できるか、怪しかった。
 ようやく胸から手が離れると、両手は加悦の下半身に移動した。
「わ、や、やぁっ!」
 スカートがまくり上げられ、お尻を突き出すような格好になってしまった。悲鳴だけの抵抗はまるで無意味で、ピンクのレースで飾られたショーツはあっさりと下ろされた。
 あまりの展開に加悦は身をよじって抵抗しようとしたが、腰にぐるりと手が廻り、まったく動けなくなった。
「もうぐっしょり。興奮してる?」
「してるよっ……昴くんも、ああっ!」
 加悦の言葉は途中で終わった。愛液したたる口をにちりとこじ開け、昴の指が立ち入った。今日は唾液で濡れていない。ずりずりと擦れる感触が伝わってきた。
「あ、あ、あ、あっ、あっ、あっ」
 仰向けのときと違い逆側をこりこりと掻かれている。指の動きに合わせて喘ぎ声のボリュームが上がっていく。膣内のざらざらとした肉壁が刺激され、加悦の神経は灼き焦がれる。
「あっ、あっ、ああっ!」
 指が抜かれた。もどかしくて、恋しくて、はしたないと思いつつも腰をくねらせてしまった。
 昴は手を伸ばし、避妊具を取った。自分からは見えないところでそれはペニスをまとい、自分の中へ入ってくる。それを考えるだけでうずいてしまう。
「ひゃぁ!」
 熱い突起が押しつけられた。硬くなったペニスが、入るか入らないかの浅いところを何度も何度も出入りしている。
 昴は先端を塗りこむように擦りつける。そうするたびに加悦のそこからは妖しい唾液が垂れ、ペニスをぬらぬらと濡らしていく。
「ねえ、入れてよ、早く……」
「何を?」
 顔は見えない。でも、声はとても愉快そうだった。昴は、加悦に言わせたいのだ、とても、恥ずかしいことを。
 加虐性欲、つまりサディズム。愛する人のちょっと困った様子が見たい、そんな軽度のものではあったが、昴は備えていた。
「昴くんの……それ……」
「そんな言い方じゃ、入れない」
 知っている。何と言えばいいのか、知っている。
 言いたくない。でも、我慢できなかった。
「昴くんの、おちんちんを……私の、おまんこに、入れて、欲しいのっ」
 言った。言ってしまった。恥ずかしさと悔しさに、枕に顔を埋めた。ぎりぎりとシーツを握り締める。
 嫌いだ、大嫌いだ。加悦は時折現れる彼の意地悪な性格を嫌っていた。けれどその性格はこんなときだけで、次の瞬間には彼のペニスによって喘ぎ、自ら求め、愛惜しむことを、ちゃんと知っていた。
 被虐性欲、つまりマゾヒズム。ごくごく軽度のそれが加悦にはあったのかもしれない。
 ついぃ。昴は動きを止め、入り口を定める。
「はい、よく言えました」
 

       

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