Neetel Inside 文芸新都
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「たくさん出たね」
 わずかに残った精液を飲み込み、加悦は吐き出したそれを見てつぶやいた。
「あ、うん……気持ちよかったよ」
 2つの粘液を吸い込みすっかり重くなった手袋を外し、両手でペニスを包み込んで上下に動かした。指の感触が敏感になっているペニスから伝わってくる。
「まだ、元気だね」
 にちゃ、ニチャ。粘液の擦れる音が加悦の本能をゆらゆらと揺らす。加悦はエプロンのポケットから避妊具を取り出し、手早く着けてそれをまたいで中腰になった。
「次は、こっちで、いいかな……?」
 スカートを指でつまみ、ふわりと持ち上げる。今まで隠れていた領域が見えた。黒のニーソックスは加悦の美脚を強調し、ちらりと見える素肌からは形容しがたい艶めかしさが感じられた。
「我慢できない?」
「……できない」
「もしかして下着」
「……うん、穿いてない」
 そんなやりとりをしている間にも、加悦の腰の位置が少しずつ下がってきていた。かろうじて残っている理性は、下半身をじんじんと切なくする本能を抑えることができなかった。
「じゃ、どうぞ。入れることを許可する」
 その言葉を待っていたかのように、加悦は腰の位置を調整し、先端を咥え込む。はふはふと呼吸をしながら、一気に腰を落とした。
「あ、あああぁぁぁぁっ」
 か細い声が溶けて消えていく。重力に素直に従って突き進むペニスが奥に辿り着き、ずしんと加悦の体内をノックした。奉仕で興奮したのか、少しも触っていないのに十分すぎるほど濡れていた。
「好きに動いていいよ」
「……あぅ、あ、あ、あっ」
 主人の言葉を得て、加悦は上下に動き始めた。昴の肩をつかみ、時に前後、時に左右にねじり、あらゆる角度で膣内を刺激させた。
 すっかりペニスに夢中になっている加悦を楽しみつつ、昴は手を脚へ伸ばした。ニーソックス越しに脚のラインを何度も撫で、沿うように素肌へ、そこからお尻へ移動する。ぷりんとした弾力が昴の手に広がる。
「あぅ、そこは、やぁぁ」
 普段から加悦はそこに触れられることを嫌がった。おそらく『命令』でも拒絶されるだろう。早々に諦め、昴はいつものように胸に触れた。服の上からでもわかる柔らかさ。どうやらブラジャーもつけていないようだった。わしわしと動かして感触を楽しみ、指でこりこりと引っ掻いて乳首を探し当てる。
「服、着ただけなんだ?」
「うん、だって、そうするほうがいいって、思ったの」
 たしかに、これは嬉しい。昴は服の上から体を触ることが好きだったので、これ以上ない配慮だった。
 それにしても。好奇心とはいえ人からメイド服を借り、それらしい振舞いを考え、性的な奉仕の想像もしただろうし、セックスのことを考えて下着はつけないでいる。いろいろと考えて出しただろう経過に昴は笑ってしまった。
 昴はすっかり『主人』になっていた。フェラチオでは精液を口で受け止め、対面座位で自ら動いて喘ぐ『メイド』を所有する『主人』。どんな命令でも従順な『メイド』の『主人』。
 だから、言ってしまった。
「まったく、はしたないメイドだなぁ」
 加悦の動きが止まった。昴の驚いて息を飲んだ。
 加悦はじっと見つめた。昴は思わず見返した。
 じわり。加悦の目から、涙がこぼれた。
「加悦っ」
 加悦は、自分の名前を言った。
「加悦って呼んでっ」
 ぽろぽろと、涙をこぼす。
「私は、加悦。メイドじゃ、ないっ」
 ぎゅぅう。ありったけの力で昴を抱き締めた。
 加悦は途中から『メイド』ではなくなっていた。言葉づかいも戻り、新しい命令を求めず、自分の快楽を優先していた。奉仕をしているうちに『主人』と『メイド』の関係から『昴』と『加悦』に戻っていた。加悦はそんな気持ちの矛盾に耐えきれず、役割を拒否してしまった。
「そうだね。うん、加悦、加悦。加悦」
 昴はそんな加悦の頭をそっと撫でた。安心できたのか、加悦は快楽の貪りを再開した。もうメイドとして奉仕する必要もない。自分が昇り詰めるためだけの動き。昴をそれを手伝うように愛撫し、ベッドのスプリングを利用して加悦を突き上げる。
 それは普段どおりの営みだった。
「気持ちいっ、気持ちいいよぉ、昴、くんっ」
「ああ、加悦、加悦……加悦っ」
 お互いがお互いの名前を呼び合う。立場を、関係を、恋人同士であることを確かめるように。
「うあ、あっ、イく、イっ」
 最後に深く入り込んだところで、加悦は動きを止めて体内を痙攣させた。丸飲みしているペニスをぎゅうぎゅうと締めつけ、精液を搾り取ろうとする。
 絶頂を迎え力が抜けてしまったのか、ゆっくりと後ろに崩れ落ちていく。昴は慌てて両肩をつかみ止めた。
「おっと、大丈夫?」
「つかれた……」
 手を離せば後ろへ倒れてしまう。加悦のすべての体重が昴の腕にかかっていた。昴は加悦にかかる重力に逆らい抱き寄せた。
「あまり無理しちゃダメだよ?」
「うん……ありがと」
 とさっ。静かに、加悦を寝かせた。対面座位は、正常位へと変わっていた。
「え、なに? する……の?」
「さすがに連続は無理だって。硬いままだけどさ」
「な、なら」
「でも、もうちょっと楽しみたい、なんてね」
「やだ、やっ、もう、あああああっ」
 昴は一度達すると加悦の感度が振りきれることを知っていた。次にメイドの加悦を抱けるのがいつになるかわからない。なので、徹底的に楽しむことにした。
 動けない加悦の胸を服の上から何度も揉み、くすぐるように腰を触り、スカートをめくってニーソックスをしげしげと見つめ、避妊具を付け替えて再び挿入した。射精することはなかったが、もう一度絶頂に送り返した。
 ぐったりと力尽きる加悦。昴は加悦の体を隅々まで堪能した。しばらくして、息も絶え絶えでメイド服の感想を求められたので、昴はとにかく褒めた。加悦はその答えに満足したのか、そのまま眠ってしまった。
 深い眠りに落ちている加悦の寝顔はとても穏やかで、起こす気にはなれなかった。ひとまず乱れたメイド服を正して、その隣で横になった。隣で眠るメイド服の加悦を見て、ああこれも夜伽だな、そう思った。
 
 

       

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