Neetel Inside 文芸新都
表紙

マンネリガール
第3話「メイド・イン」

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 この日、昴は加悦のあとにシャワーを浴びた。
 めずらしいこともあるもんだ、と昴は思う。シャワーはいつも昴が先に浴びていた。彼は覚えていなかったが、付き合い始めたころに「一番風呂が好き」と言って以来、加悦はずっと昴のあとに入浴するようにしていた。
 そういえば早く入るよう急かされもした。そのときのわたわたとした様子を覚えている。まるで見られたくないものを隠しているような、慌ただしい様子。
 そんなことを考えながらシャワーを終えてバスルームから出ると、そこに加悦はいなかった。
「ご主人様、お湯加減はいかがでしたか?」
 メイドがいた。両手を前で合わせ、深々とお辞儀をしたあとに問いかけてきた。
「ど、どうしたの、その格好」
「演劇している友達がね、貸してくれたの。……似合う?」
 その言葉は正確ではなかった。本当は頼み込んで作ってもらったのだが、そこまで言うと彼に下心が伝わってしまう。あくまで好奇心で借りた、そう思わせるように答えた。
「へえ、なかなか似合ってるね」
「えへへ、ありがとう」
 加悦はくるりと廻ってみせた。ふわりと舞う短めのスカート、舞ったことで確認できた黒のニーソックス。目線を上げればそこには純白のエプロンドレス、濃紺のワンピース。腰はエプロンのリボンで締められ、それに反して胸元は豊かに膨らんでいる。すらりと伸びた腕の先にはレースの手袋。艶があり光の輪ができる髪の上にはふりふりのカチューシャがつけられている。
 昴はゲームやマンガ程度の知識しか持ち合わせていなかったが、加悦のメイド姿はとても似合っているなと思った。ちゃんとした素材で作られたメイド服に、贔屓目に見てもそこらのAV女優よりも優れているだろう顔つき、体つき、感度。
「ご主人様、お風呂上りの麦茶をどうぞ」
「ああ、うん。ありがとう」
 加悦もそれほど知識はなく、とりあえず敬えばいいのだろうと軽く考えていた。それでも昴には十分すぎた。ついつい視線は胸と腰、スカートから覗く脚に向いていた。
「ご主人様、どうぞ、お好きな命令を」
 そんな昴に甘い誘惑。少し、変な気分に、なってしまう。
「え、いいの?」
「はい。私は、ご主人様のメイドですから」
 さてどうしよう、昴は考える。何をしてもらおうか、ではなく、どこまでの命令なら訊いてもらえるのか、を。昴もごく普通の健全な男性なので、メイドに関係する成人指定の雑誌やDVDは持っている。メイド服を性の対象と見ることもできる。
 つまり、どこまでの『夜伽』なら了承してもらえるのか。
「じゃ、じゃあ、ここに座って」
「はい」
 ベッドに招き、中央に座らせ、その隣に座る。普段とは違う加悦に意識してしまい、昴の心臓と下半身の脈拍が上昇する。
 そっと腰に手を廻し、引き寄せた。エプロンで引き締められた腰の細さに驚いてしまった。普段着の上からの腰、裸のときの腰、いずれの細さも知っているけれど、それらとは違うエロスが感じられた。
 ちらりと加悦を見る。それに気づいた加悦はにこりと微笑んだ。普段なら軽い悪態や照れ隠しの言葉が聞けるタイミングでその笑顔。ドキリとしてしまった。
「えっと……何でも、いいの?」
「はい、ご主人様のお好きなように」
 昴の念押しにも加悦の返事は柔らかな笑み。どんどんと鼓動が高くなっていく。
 考えている命令を口にする、それは想像するだけで恥ずかしい。けれどそれさえ我慢すれば目の前のメイドを好きにできる。自分はそんな権利を持っている。
「じゃあ……さ」
 昴の覚悟は決まった。
「フェラ、してくれない……?」
 後悔と恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。そんな雰囲気のないときにそんな雰囲気を要するような命令。半ば拒絶されてもしかたないだろうとは思っていた、が。
「はい、わかりました」
 即答。加悦の目と手は昴の顔から下半身に向かった。そしてパジャマの上からペニスを見つけた。うっすらと広がっていた淫靡な雰囲気と加悦への命令で、そこは興奮し始めていた。
「ご主人様の……もう、こんなに」
 ずりずりとパジャマを下ろし始める。昴が少し腰を上げると一気に下ろされた。すでに屹立しているペニスがトランクスの脇から取り出された。
「それでは、失礼します」
 右手が添えられ、ゆっくりと上下に動かされる。レースの手袋がいつもと違う感触を生み出し、妙に興奮してしまう。それでなくても様子をうかがうような上目づかいで変になってしまいそうなのに。
 上下の動きは徐々に早くなっていく。雄の象徴を目の前にして本能に火がついたのか、加悦の頬もほんのりと赤くなっていた。
「あ、ご主人様……」
 先端から滲み出る透明な体液。そっと指で触れるとそれは手袋に吸い込まれていった。
「お汁、出てきましたね。では、次に進みましょうか」
「う、んっ」
 ちうぅ。加悦の柔らかな唇がペニスの先端に触れる。昴は思わず声を漏らしてしまった。
 先端からくびれ、横を沿うように下り、根元へ。何度もキスの雨が注ぐ。右手はペニスに添えられ、左手は睾丸をやわやわと揉んでいる。
「ん、ちゅ……ご主人、様。気持ち、いいですか?」
「うん、気持ちいいよ、すごく」
 ちろり。舌先が先走った体液を舐め上げる。そのままうずまきを描くように先端を舐め、裏筋をなぞって下降し、すぐに上昇する。何度も何度も裏側を舐め上げる。
「ああ、そこ、やばい……っ」
「ふふふ、では、そろそろ」
 唇が離れた。しかしそれも束の間。
「あぁむ」
 加悦はペニスを飲み込んだ。しっかりと咥えたまま、昴を上目づかいで見つめる。そして顔を前後に動かし始めた。じゅるりじゅるりと、加悦の唾液は音を鳴らす。
「ん、ん。んん」
 浅く先端だけを何度も刺激したり、奥までしっかりと咥え込んで、ゆっくりゆっくりと引き抜いたり。動きに緩急をつけていく。動きを止め、口内で舌を暴れさせる。
「う、ああ……いいよ」
「んっ、ありがとう、ございます。あむっ」
 一度口を離した。ねとりと唾液の架け橋ができて、すぐに消えた。離れたのも感謝の言葉を発したその瞬間だけで、すぐに奉仕へ戻った。
 今度は手も添えられて、顔の前後と共に手もそれに従って動いた。すでに手袋は唾液でべっとりと湿っていた。加悦はペニスが喉奥に到達するたびに小さくえづいていたが、昴は込み上がる射精感の中、その様子に気づかなかった。
「ああ、出る、出る……!」
「ん、んんっ!」
 どっ、どっと精液が口内に吐き出された。加悦はねとねととした熱い精液と、びくびくと震えるペニスを受け止め、最後に尿道の残った精液を絞りとるように数度、上下に動かして唇を離した。
「んあっ」
 口を開く。どうぞ、見てください。そんな言葉が伝わってくるようだった。口に溜まった精液、それと交じる唾液が下品な濁りと輝きを見せていた。
「ん、あ」
 うつむき、唾液と精液を両手に吐き出した。白い手袋と混ざって一見変わりはなかったが、粘度のある精液は吸い込まれることなく、ずっとそこに留まっていた。
 
 

     


「たくさん出たね」
 わずかに残った精液を飲み込み、加悦は吐き出したそれを見てつぶやいた。
「あ、うん……気持ちよかったよ」
 2つの粘液を吸い込みすっかり重くなった手袋を外し、両手でペニスを包み込んで上下に動かした。指の感触が敏感になっているペニスから伝わってくる。
「まだ、元気だね」
 にちゃ、ニチャ。粘液の擦れる音が加悦の本能をゆらゆらと揺らす。加悦はエプロンのポケットから避妊具を取り出し、手早く着けてそれをまたいで中腰になった。
「次は、こっちで、いいかな……?」
 スカートを指でつまみ、ふわりと持ち上げる。今まで隠れていた領域が見えた。黒のニーソックスは加悦の美脚を強調し、ちらりと見える素肌からは形容しがたい艶めかしさが感じられた。
「我慢できない?」
「……できない」
「もしかして下着」
「……うん、穿いてない」
 そんなやりとりをしている間にも、加悦の腰の位置が少しずつ下がってきていた。かろうじて残っている理性は、下半身をじんじんと切なくする本能を抑えることができなかった。
「じゃ、どうぞ。入れることを許可する」
 その言葉を待っていたかのように、加悦は腰の位置を調整し、先端を咥え込む。はふはふと呼吸をしながら、一気に腰を落とした。
「あ、あああぁぁぁぁっ」
 か細い声が溶けて消えていく。重力に素直に従って突き進むペニスが奥に辿り着き、ずしんと加悦の体内をノックした。奉仕で興奮したのか、少しも触っていないのに十分すぎるほど濡れていた。
「好きに動いていいよ」
「……あぅ、あ、あ、あっ」
 主人の言葉を得て、加悦は上下に動き始めた。昴の肩をつかみ、時に前後、時に左右にねじり、あらゆる角度で膣内を刺激させた。
 すっかりペニスに夢中になっている加悦を楽しみつつ、昴は手を脚へ伸ばした。ニーソックス越しに脚のラインを何度も撫で、沿うように素肌へ、そこからお尻へ移動する。ぷりんとした弾力が昴の手に広がる。
「あぅ、そこは、やぁぁ」
 普段から加悦はそこに触れられることを嫌がった。おそらく『命令』でも拒絶されるだろう。早々に諦め、昴はいつものように胸に触れた。服の上からでもわかる柔らかさ。どうやらブラジャーもつけていないようだった。わしわしと動かして感触を楽しみ、指でこりこりと引っ掻いて乳首を探し当てる。
「服、着ただけなんだ?」
「うん、だって、そうするほうがいいって、思ったの」
 たしかに、これは嬉しい。昴は服の上から体を触ることが好きだったので、これ以上ない配慮だった。
 それにしても。好奇心とはいえ人からメイド服を借り、それらしい振舞いを考え、性的な奉仕の想像もしただろうし、セックスのことを考えて下着はつけないでいる。いろいろと考えて出しただろう経過に昴は笑ってしまった。
 昴はすっかり『主人』になっていた。フェラチオでは精液を口で受け止め、対面座位で自ら動いて喘ぐ『メイド』を所有する『主人』。どんな命令でも従順な『メイド』の『主人』。
 だから、言ってしまった。
「まったく、はしたないメイドだなぁ」
 加悦の動きが止まった。昴の驚いて息を飲んだ。
 加悦はじっと見つめた。昴は思わず見返した。
 じわり。加悦の目から、涙がこぼれた。
「加悦っ」
 加悦は、自分の名前を言った。
「加悦って呼んでっ」
 ぽろぽろと、涙をこぼす。
「私は、加悦。メイドじゃ、ないっ」
 ぎゅぅう。ありったけの力で昴を抱き締めた。
 加悦は途中から『メイド』ではなくなっていた。言葉づかいも戻り、新しい命令を求めず、自分の快楽を優先していた。奉仕をしているうちに『主人』と『メイド』の関係から『昴』と『加悦』に戻っていた。加悦はそんな気持ちの矛盾に耐えきれず、役割を拒否してしまった。
「そうだね。うん、加悦、加悦。加悦」
 昴はそんな加悦の頭をそっと撫でた。安心できたのか、加悦は快楽の貪りを再開した。もうメイドとして奉仕する必要もない。自分が昇り詰めるためだけの動き。昴をそれを手伝うように愛撫し、ベッドのスプリングを利用して加悦を突き上げる。
 それは普段どおりの営みだった。
「気持ちいっ、気持ちいいよぉ、昴、くんっ」
「ああ、加悦、加悦……加悦っ」
 お互いがお互いの名前を呼び合う。立場を、関係を、恋人同士であることを確かめるように。
「うあ、あっ、イく、イっ」
 最後に深く入り込んだところで、加悦は動きを止めて体内を痙攣させた。丸飲みしているペニスをぎゅうぎゅうと締めつけ、精液を搾り取ろうとする。
 絶頂を迎え力が抜けてしまったのか、ゆっくりと後ろに崩れ落ちていく。昴は慌てて両肩をつかみ止めた。
「おっと、大丈夫?」
「つかれた……」
 手を離せば後ろへ倒れてしまう。加悦のすべての体重が昴の腕にかかっていた。昴は加悦にかかる重力に逆らい抱き寄せた。
「あまり無理しちゃダメだよ?」
「うん……ありがと」
 とさっ。静かに、加悦を寝かせた。対面座位は、正常位へと変わっていた。
「え、なに? する……の?」
「さすがに連続は無理だって。硬いままだけどさ」
「な、なら」
「でも、もうちょっと楽しみたい、なんてね」
「やだ、やっ、もう、あああああっ」
 昴は一度達すると加悦の感度が振りきれることを知っていた。次にメイドの加悦を抱けるのがいつになるかわからない。なので、徹底的に楽しむことにした。
 動けない加悦の胸を服の上から何度も揉み、くすぐるように腰を触り、スカートをめくってニーソックスをしげしげと見つめ、避妊具を付け替えて再び挿入した。射精することはなかったが、もう一度絶頂に送り返した。
 ぐったりと力尽きる加悦。昴は加悦の体を隅々まで堪能した。しばらくして、息も絶え絶えでメイド服の感想を求められたので、昴はとにかく褒めた。加悦はその答えに満足したのか、そのまま眠ってしまった。
 深い眠りに落ちている加悦の寝顔はとても穏やかで、起こす気にはなれなかった。ひとまず乱れたメイド服を正して、その隣で横になった。隣で眠るメイド服の加悦を見て、ああこれも夜伽だな、そう思った。
 
 

       

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Neetsha