「イジメ?御冗談を!そんなものあるわけないでしょ!」
何の根拠もなくそう言って笑う初老の男性、もとい校長。
中学校だ。
公立のありふれた中学の、ありふれたワンシーン。
そこに2人の生徒の会話が聞こえる。
「ごめん……ごめん……。謝るから、もうやめてぇや…。」
「謝んなやキモい。お前学校来んなって言ったやろ。」
クラスの女子が、同じくそのクラスの女子の髪の毛を引っ張る。
クラスメイトは気付いているのか、多分気付いているだろうが、助けない。
助ければ自分が……といったそういう気持ちではないだろう。
自分が被害者でも加害者でもない、その安全さを噛みしめている
そんな気持ちか、もっと違う気持ちか、まあ別にそこの所はどうでもいい。
とにかく、その辺に歩いてる人に
「これってなんでしょう。」
と聞いたら
「イジメじゃないでしょうか?」
と帰ってくるだろう状況が、そこにあった。
イジメの理由って何だろうか。
あるっちゃああるし、ないっちゃあない。
気に入らない、生理的に受け付けない、どんな理由にせよ理不尽な理由だ。
しかし、イジメる側からしてみれば
イジメる対象の人物は、理不尽に不愉快な存在に感じたのだろう。
今回のケースでは、イジメる側は具体的な理由を定められないでいる。
ただただ理不尽に不愉快。
分かり易く言うなら、引っ込みがつかなくなった状態。
「あんまりよくないと思うで」
ひとしきりのイジメを見届けた後、クラスメイトの一人が言った。
「アイツが悪いねん」
いじめっ子はそう言った。
「ウザいしキモイ、顔も見たくない、イライラする。」
「じゃあわざわざ関わらんかったらえーのに……。」
こういった会話はたまに行われるが、いつも平行線だ。
お互い解決するなんて思ってない。
いじめは良くないよって言う事を周りにアピールするための儀式だ。
「でもホンマにいい加減にしとかなエライことになるで、志村さん。」
志村と呼ばれたいじめっ子は、友人の言葉には耳を傾けず
自分の席で指をコネコネしていた。