おれは考えた。動くのは考えてからだ。
風止美衣子がおれの世界だけで生きている。
それはなぜか。
どういうことかはわからないし、あんまりいい予感はしなかったが、やはりおれと出会ったせいだろう。
風止が死んだのは、おれがあの生首を見た日。
あいつはあのとき、死ぬ気だったのだ。
そしておれ以外の五人の世界では、やつはあのまま飛び、八階の高さから地上に叩きつけられバラバラにぶっ飛んだ。
おれがあのとき、屋上なんて見上げなければ、こんなことにはならなかったんだろう。
果たしてどっちがよかったのだろうか。
いま、風止は聡志の世界で死んでいる。
だがいまおれが<チャンネル>をいじるなり、聡志がおれの弾丸を撃つなりして、おれがまたあの世界に出現すれば、復活する。
それはいい。
じゃあ、いま、おれの世界で生きている風止はいったいどうなっているんだ?
もしいまおれが向こうに戻れば、風止の意識は死んでいた間をどう処理するのか。
いきなり意識が飛ぶのか?
それとも都合のいいようにつじつまあわせが起こるのか?
世界という機械を作ったのがどこの誰だか知らないが、とっとと説明書を持って来い。
おれは、いやだった。
すごくいやな感じがした。
おれの行動が風止に少なからぬ影響を与えている。
それが不愉快でたまらない。
声を大にして風止のこけし顔に言ってやりたかった。
おれは命の責任なんか持てないぞ、と。
このまま放っておくのが一番簡単だし、面倒でもない。
そう、ただなにも起こらなかったことにすれば。
風止なんてやつは知らないことにしてしまえば。
いますぐおれは楽になれる……。
「ねえ」
「ぎゃあっ!!」
心臓を吐き出しそうになりながら振り返った。
マナがぽかんとマヌケに口を開けておれを見下ろしている。
「なにやってんの? あんたまだ<番>じゃなかったっけ?」
マナはおれと<テレビ>を交互に見比べている。
訝しげにおれを見下ろすマナの視線を振り切って、おれは立ち上がった。
「うるせえ。気分が悪くなったんだ」
「夏バテ? ちょっとあんまムリしないでよね、看病とかめんどいし」
「誰も頼んでやせん」
ぶつくさ文句をぶつけてくるマナを押しのけて、おれはふらふらと歩き始めた。
報告も連絡も相談も、するつもりはなかった。
おれがしでかしたことだ。
おれがカタをつける。
そういうことだ。