だけどそれはその場限りの凌ぎで、世の中はそんなに甘くなかった。
放課後、僕は案の定呼び出され、ぼっこぼっこにされたわけで。
顔は目立つからと言う理由から何発も腹に食らわされる始末です。
「くそっ、まじでむかつくぜ!お前みたいなやつはいなくてもいい。」
蹲る姿勢の僕に罵声を浴びせながらもなお何発も蹴りを入れる。
嗚呼、なんでかな。なんで僕はこんなにも弱いのだろうか。
新谷はある程度満足したのか、ぐったりしている僕に唾を吐きかけて
去って行った。
「大丈夫か?」
智一が後ろから僕を支える。僕らはこうやって支えあって生きるしかない。
僕だって新谷にやられている智一を助けることはできない。ただ見ていることしかできない。
だから、僕は見ているだけだった智一を責めるなんてことはできやしないんだ。
「ごめんな。ごめんな。」
智一が申し訳なさそうにそう言った。
「智一は悪くないよ。いったい何が悪いのかは僕にも分らない。」
新谷が悪い。本当はそう言いたいさ。でも勝てるわけない。勝てない戦は
しない主義なんだ。
「新谷の野郎。絶対許さない!」
智一が僕の代わりに怒ってくれる僕はそれだけでも救われた。
僕はよろよろと支えられながら立ち上がると、荷物を取りに
教室へともどった。
「あっ…。」
教室に入った瞬間僕は、黒木さんと目があった。彼女はまだ残っていたのだ。
「ごめんね…。」
彼女は僕にそう言うと、走る様に教室から去って行った。
真横を通り過ぎる時にふわっと揺れる髪からはほのかに甘いシャンプーの匂いがした。
「俄然やる気が出た。」
僕は、痛みなど吹っ飛ぶほど舞いあがった。彼女は僕がこうなることを予期していたのだろう。
「いい匂いだな。」
智一もどうやら同じ気持ちだったみたいだ。僕らは、帰り道もっぱら黒木さんの話で盛り上がった。