Neetel Inside 文芸新都
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坂の短編を入れるお蔵
エッチなことしてごめんなさい

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 風邪をひいた。体がだるくなったりするわけではなく、鼻水として俺を攻撃してくるタイプだった。
「今日はバイトも講義も無いし家で大人しくしておくか」
 そんな事を一人呟くと、布団に入り込んで眠ることにした。
 静かな平日のボロアパートの一室に外の音はよく響いた。誰かが廊下を歩く音、風がドアの隙間から吹き込んでくる音。遠くの高校のチャイムが鳴る音。それらは静寂を増加させる一粒のエッセンスとなって、まるで波紋のように静けさが増していく。
 いつの間にか俺は眠りについていた。
 すごく心地の良い眠りだった。深く深く、意識の底までもぐりこむような眠りだった。

 目が覚めると体がすごく軽かった。外から茜色の光が差し込んできているのをみて、随分と眠ってしまったことを悟る。
「眩しいなぁ」
 手で光を遮ろうとしたが無理だった。手が透けていた。
 俺は思わず立ち上がるとその場で前転しようと試みた。訳の分からない行動をわざと起すことで逆に冷静さを保てる気がした。無駄だった。
 俺は地面に脚もつくし、体も正常にコントロール出来るが、透けていた。よくよく見ると俺の本体は今だに眠っているらしく、透けていない俺の体が布団の中ですやすやと横たわっていた。つまり今の俺は幽体離脱しているらしい。どうりで体が軽いわけだ。
 俺は狭い室内を見渡した。端っこで少女が体育座りしていた。
「わっ、抜け出した」目が合うと少女は驚いたような顔で言った。しかしその言い方は驚くほどに簡素だった。
 何故そんなに簡素な物言いが出来るのだ? 俺は心が震えた。腰を振った。
「だ、誰ですか」俺が腰を振りながら彼女に近づき、こわごわ尋ねると彼女はあからさまにおびえていた。
「よ、よらないでください」
「よらないでって、俺の部屋に不法侵入しているのはお前だろ? 逆らうと顔に股間をくっつけるよ」
 俺が声を震わせながらわなわなとチャックを下ろして言うと、彼女は涙目になりながら言った。
「ご、ごめんなさい、言います。私はこの部屋に住んでる霊です。霊魂です」
「霊?」
 俺が彼女に背を向けて、腰に手を当てながら体をひねって彼女に視線を送ると彼女は自分の身を守るように手を顔の辺りで広げた。
「うっ、はい、霊です。私は十年ほど前からずっとこの家にすんでいます。悪意は無いんです。無いですからどうか危害を加えないでください」
「危害なんて」俺はそういいながら脚を広げると前のめりになりながら彼女を股越しに見た。「加えるわけないだろう?」
「じゃあ何でさっきからそんな意味分からない動きをするんですか!」
 彼女は叫ぶようにして言った。俺は彼女に向き直ると腕を組んだ。
「分からない。ただ、体が酷く軽いから気分が高揚してきたんだ」
「い、いいい意味が分かりません! だいたいあなた、いつもはそんな事しないじゃないですか!」
「いつも? 君はいつも俺を見ていたのか?」
「はい、一応同居人ですし」
 おかしい。もし彼女が本当に俺の同居人なら、俺の夜の痴態を幾度となく目にしているはず。床や壁を使って股間を刺激する俺に対してこれほど冷静に接する事ができるわけない。
 そうなると可能性は二つある。一つは彼女が嘘をついている。そしてもう一つは、今この現状が夢だと言うことだ。
 どちらかは分からない。だがそんな事はどうでもいい。
 一つ言える事があるとすれば、今俺がどのような行動をとったとしても、社会は俺を断罪しないと言うこの事実だった。
「でも俺は」俺はボディビルダーの様に筋肉を強調するポーズをとった。「君を知らない」
「私は幽霊であなたは生きている人です。私にあなたは見える、あなたに私は見えない。当たり前でしょう?」
 彼女はプンスカプンプンといった感じにホッペを膨らませて不満そうな顔をした。なんて愛らしいんだ。
「わかった、信じよう。君は本当に幽霊で、俺の同居人なんだね」
 俺は気がついたら彼女を抱きしめていた。拒否されない予感はしていた。なぜなら俺はなかなかにイケメンだからだ。
「なななな何をするんですか! やめてください!」彼女は叫ぶと俺にヘディングをかましながら拒否してきた。
「照れるなよ」言いながら髪を指ですいてやる。「同居人なんだ、今まで一人で寂しかったろう? でも大丈夫だ、俺がいる。俺が君の冷えた体を、股間で温めてやる」
 彼女の耳に息を吹きかけ、軽く舌を入れてみた。彼女がビクビクと反応しだしたので俺は首筋にキスをした。
「誰か! 助けて!」
 顔を紅くしながら必死に叫ぶ彼女を見て、あぁガチで拒否されていたのか、と感じた。俺もまだまだだ。
 彼女が三回ほど俺の顔面に頭突きしてきたあたりで俺の意識はとんだ。

 目が覚めると俺は布団に寝ていた。額にはうっすらと汗をかき、体が酷く重く感じる。
「やっぱり夢だよな」
 俺が苦笑すると「夢じゃないですよ」と部屋の片隅から声が聞こえてきた。
 えっ? と思い目を凝らすと機嫌の悪そうな女の子がうっすらと見える気がした。
 俺はまさかね、とは思ったがその日は部屋の片隅にご飯をお供えしておくことにした。
 エッチなことしてごめんなさい。

       

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