Neetel Inside ニートノベル
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HVDO〜変態少女開発機構〜
第四部 第三話「影が像を暴露する 三」

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 美少女のおもらし。
 この甘美で淫靡な響きに、自分はこれまで幾度となく魅了され、間違った道を正しい足で歩き、多くの真理をそこに見つけてきたと自負しているのですが、最初の1歩目から同行していただいた方々には、多大なる感謝をすると共に、果たして自分の2分の1、いや、4分の1ほどの理解が現状得られているのだろうかという疑念も向けざるを得ないのですが、それでも尿はさながら誘い水のように機能し、抗う事など馬鹿らしくなるくらいに甘ったるい匂いを撒き散らし、そして必ず自分に幸福を与えてくれました。
 この性癖に関して、まるで理解できないといった声を聞く事は少なくありませんが、逆説的に、自分からすれば、何故美少女のおもらしにそそられないのか、とまったくもって理解不能な、まるでトマトを赤くないと言い張るような狂人のように思えて仕方がないのです。
 元来、用を足す行為は1人きりで、隔離され、そして秘密を伴わなければなりません。それを公の場で、しかも他人に迷惑をかけながら「意図せず」行わなければならないそのアノマリィ。神聖な儀式のようにも、とびっきり下衆な醜態のようにも捉えられる放尿という行為をこよなく愛する純粋さは、21世紀をとっくに超えても未だ市民権を得る事なく、自分のような人間は相変わらず「変態」という誇り高き烙印を押されて地下でくすぶっていたのです。
 HVDOは、そんな自分に力を与えてくれました。
 本来ならば、金銭という暴力的な背景を持つか、何でも言う事を聞いてくれる道具のような伴侶を持つ事でしか達成される事のなかった変態プレイを、ただ自分の内から発せられる力をもって相手の同意なしに実行し、しかもそれは限りなく自分の希望を叶えた、いわば理想の状態で実現する事を可能にするという、サンタの弱みを握るくらいでしか手に入らないであろうこの能力は、なんと無償で手に入れる事が出来たのです。
 同時に、他の各種変態にも同様の異能をHVDOは与えましたが、それに関して自分は、驚くほど憤りを感じていません。むしろ、様々なHVDO能力者がこの世に存在し、各々が自分の性癖が至高だと堅く信じ、自由に楽しんでいる状態は、おもらしこそが真の、最高の、究極のエロスであるという主張をするのにまさしくうってつけとも言え、それに、自分だけが特別扱いではなかった事は、自分におもらし界の未来を背負って立ち上がる勇気を与えてくれるのです。
 しかし、ああ、世界はなんと数奇で残酷な困難を、しれっと自分に与えてくれるのでしょうか。生まれた時には既に手中に勝利を収めていたような人物を、あろう事か退廃的「露出」の性癖に目覚めさせ、そしてHVDO能力者に昇華させてしまった巡り合わせ。そんな人物が自分をご主人様として慕う事。HVDOの幹部になった事。そして、自分と敵対する事。
 この運命としか例えようのない回転は次第に速度を増し、多くの物を巻き込みながら、先へと進んでいきます。自分はこれから、それに立ち向かわなければなりません。
 三枝生徒会長は言いました。
「私は、HVDOの幹部になりました」
 そしてこう続けたのです。
「崇拝者を倒すというのなら、まずはこの私を倒しなさない」


 第四部 第三話「影が像を暴露する 三」


 望月先輩がHVDOを裏切り、崇拝者を討とうと画策した夜、自分はその影響で大切な人を2人失いました。その内の1人はもちろん三枝生徒会長であり、いつかは自分専用のシンクタンク兼おしっこタンクとして、露出おもらしプレイを共に楽しもうと内心で計画していた矢先、望月先輩の代わりにHVDO幹部となり、自分をご主人様と呼ばなくなってしまいました。自分は彼女に対して、その淫乱さと豪快さからくる根元恐怖を抱いていた時期も確かにあったのですが、しかし実際に何度か施してきた調教の成果によってか、少しずつ彼女を理解し、「ああ、この淫売は性奴隷として便器のような扱いを受ける事を心の底から求めているのだな」と気づくと、その存在はかえがえのない物となり、もたもたしている内にその支配権を失ってしまった事に気づかされると、四肢を引き裂かれるような、半狂乱の気持ちになりました。
 そしてもう1人は、自分に処女をくれると約束してくれたハル先輩です。望月先輩を助ける為、などと綺麗事を言うつもりは毛頭ありませんが、しかし事実として、自分は望月先輩を死から救う為に、崇拝者にハル先輩の処女を渡してしまい、しかもハル先輩は三枝生徒会長をも軽く凌駕する渾身のビッチですので、別に初体験の相手として自分にこだわっている訳ではなく、崇拝者が相手となっても、何の躊躇いもなく股を開いたようです。
 つまり、自分が、童貞を捨てるならばこの人だ、と確信したほどのハル先輩の処女は見ず知らずの男の手に渡ってしまい、自分が味わう事は金輪際なくなってしまいました。無論、非処女相手に筆下ろしをしてもらうというシチュエーションもまた、自分は別段嫌いという訳ではないのですが、いずれにせよ自分は、ハル先輩との約束を裏切ってしまった事に変わりは無く、しかも崇拝者の能力を考えると、ここで童貞を失う訳にはいかなくなったのです。
 崇拝者。
 自分はこの男を、何としても倒さなければなりません。それは失ってしまった大事な人達の復讐の為でもありますが、同時に、安心して美少女におもらしをさせられる世界の実現の為でもあります。ハル先輩、望月先輩のような被害者をこれ以上出さない為にも、崇拝者をHVDO能力か、あるいは物理的な手段をもって再起不能にする事は必須です。
 あの夜以来、自分はほとんど毎晩同じ夢を見ています。夢の中で、自分は美少女のおしっこマーケットを掌握する大富豪で、トイレの無い自宅には「絶対に漏らさない」と意気込むメイド達で構成されたハーレムが用意され、セクハラ三昧の毎日を送りつつ、幸福に暮らしていました。そこに突如として現れた男は、顔こそぼやけていましたが、声は聞いたことのある声で、男は奴隷達を次々に犯し、自分は成す術なくそれを見て勃起するという最悪の淫夢です。
 オカルト板の夢占い師にわざわざ依頼しなくとも、この夢が一体何を示しているかは分かり易すぎます。男は間違いなく崇拝者であり、そして自分は崇拝者を恐れている。これを解決するには崇拝者を倒すか、あるいはNTR(いわゆる寝取られ。占有欲が極まりすぎて逆にM志向に入ってしまったパターンがこれだと自分は思うのですが、どうでしょう)に自ら目覚めるしか方法がありません。
 清陽高校の校舎の一部が破壊された事件は原因不明のガス爆発として処理され、それを口実として、翠郷高校との合併話は加速し、正式な合併はまだですが、あの夜の翌週から、清陽高校の全生徒、つまり自分やくりちゃんは、翠郷高校の校舎に通う事になりました。あの夜以来、一切の連絡をとっていませんが、しかしこのスピード合併の話の裏に、三枝生徒会長が存在する事は疑いようのない事実であり、また同じ学校に通える事に、様々な因果を置いても、やはり嬉しさを隠せない自分がいるのもまた事実なのでした。


「オラ、起きろ」
 何度目の説明になるかすら覚えていませんが、自分の寝起きの悪さは異常です。くりちゃんの暴力によってしか起きる事の出来ない呪いと言っても過言ではない、それはもう深い深い眠りで、例のくだらない悪夢を見ていたとしてもその深度は大して変わらず、正確に機能し続け、自分を簡単には目覚めさせないのでした。この性質せいで、自分の愚息は何度か肉体からの離脱という危機に晒されており、いい加減治さないとそのうちブチキレたくりちゃんが独断でぽろっと千切ってしまいそうで恐ろしいのですが、いかんせん手術や投薬で治癒する物でもないらしく、口を金玉にしてしょぼんと諦めるしかないのが現状です。
 首周りに感じる握力に、「お、今日は首締めか。死なない程度に頼みますよ!」と鬱血した脳内でほざきつつ、自分は爽やか過ぎて昇天しそうな朝を迎えました。ベッドの上、仰向けの自分の身体に跨る重量。
「とっとと起きろ。遅刻するぞ」
 更に強くなる圧迫に、自分はゆっくりと目を開きます。
 目の前にいたのは、くりちゃんではなく、思いもよらない人物でした。
「今日から翠郷に通うんだろ? 道順はちゃんと確認してんのか?」
「な、な、な、何でここにあなたが?」
「いちゃ悪いのか? 当たり前の事だと思うが」
 もうとっくに目覚めているというのに、一向に首にかかった指は弱まる気配を見せず、朝一生命危機はなかなか去ってくれません。自分は首の動く範囲内で部屋を見渡し、尋ねます。
「く、くりちゃんは?」
「もう随分と前に行ったよ。あたしが起こしておくって言ったからな」
 その女性は、赤のタンクトップにローライズジーンズがやけに似合うワイルド系で、茶髪の長い髪を後ろで1本に結い、いわゆるポニーテールにしているのですが、男に媚びる気配は一切なく、30越えという歳の癖に世界中を落ち着きなく飛び回り、その割に趣味はガーデニングと言い張る無謀さを持った豪傑でした。
「い、いつ日本に帰ってきていたのですか?」
「昨日。もちろん仕事でな」
 この女性の職業は、警視庁所属の国際捜査官。ICPOというと、ルパンに登場する銭形警部でお馴染みですが、「あなたの心です」といった名言を作るだけではなく、各国警察との連絡を取り合い、連携して国際犯罪者を追いかける真面目な仕事をしている歴とした機関です。
 ようやく解放された自分は、差し出された制服を受け取ります。学校は変わりましたが、とりあえず制服は以前のままです。
 何故か部屋から一向に出ていかない視線にびくびくしつつ、制服の袖を通し、自分は着替えを終えました。
「ちょっと見ない間に大きくなったな!」
 親戚のおばちゃんのような事を言っていますが、親戚のおばちゃんではありません。親等はもっと近い位置にあります。
「くりちゃんとはもう付き合ってるのか? ん~?」
 とびっきり下世話な顔で投げかけられた下世話な質問に、自分は頑なに無視を決めてみましたが、無言で銃を取り出したので「まだです!」と答えざるを得ませんでした。
「早く物にしちゃいなさいよ。あんなにかわいい子、滅多にいないんだから」
 大きなお世話、と言いたかったのですが、その返しには警告なしの発砲が五十妻家では許可されています。無論、ルールを決めたのは他でもないこの人。
「あ、そういえば、久々に母ちゃんに会えた喜びの言葉がまだだったよな?」
 とにんまりして言うこの女性は、名を五十妻鈴音(いそづま すずね)と言い、自分と血の繋がった実の母です。

       

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