Neetel Inside ニートノベル
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 変態トーナメントの開催宣言、そしてそのルールの発表と、大会実行委員長としての所信表明を終えた三枝委員長は、再び耳鳴りがするほどの拍手の中、壇上から下り、深々とお辞儀をする司会の教師にマイクを渡していました。
 という事は、既に変態少女開発高校略して変高は、その公序良俗を何とも思わない犯罪じみた狂気の校則を開始しているという訳です。教師が、それぞれのクラスの列を整理しつつ体育館から教室への誘導を始めたので、とりあえず隣にいた名も知らぬ美少女に、挨拶がてら、自分は軽く声をかけてみました。
「あの、もしもあなたが良ければ、でいいんですが、ここでおしっこしてもらっても良いですか?」
 我ながら、大抵どんな初対面の人でも、十中八九は好感を持っていただけるであろう口調で、丁寧に、腰低く頼んでみますと、その女子は顔を赤くして、
「ど、どうしてですか?」
 と、尋ねてきました。
 かわいいは正義、と偉い人(うろ覚えですが、確か国連の初代事務総長でしたか)は言いましたが、確かにその真理は今も朽ちる事なくここにあるようです。
「おしっこを漏らすのに理由が必要ですか?」
 自分は今、凄く良い事を言いました。誰かコトノハに登録しておいてください。
 女子は手を股間のあたり、大人しめな顔に似合わず意外と濃い陰毛の上で交差し、もじもじと恥ずかしがっています。おしっこをするのにパンツを脱ぐ必要がないとは、なんと機能的な事か。
「尿、我慢していますよね? 自分には分かるんです。だから我慢しているそれを、出来れば自分の目の前で出していただきたいな、と思うんですが」
「で、でも、掃除とか……大変じゃ……」
「あなたのおしっこの後始末なら、自分は喜んでします」
 仏頂面で大真面目にそう言う自分を見て、いよいよ女子も観念してくれたようです。
「服を着ているのは、HVDO能力者さんで……HVDO能力者さんの命令は、『絶対』なんですよね」
「ええ、そのはずです」
「う、うう……わ、分かりました」
 自分はその女子と共に、雑談でざわめく体育館の脇に移動し、しゃがみこませ、近くにたまたまいた男子生徒に出来るだけ新しい雑巾とバケツを用意するように命じ、それから、体育館の床に頬を擦りつけつつ、その女子の放尿を至近距離で鑑賞しました。
 体育館内で、他の生徒の視線もある中でするおしっこは、いくら全裸だらけの学校といえどもやはり異常で、その存在は際立ちます。名も知らぬ女子の、今後の人生において、この行為は果たしてトラウマとなるのか、それとも新たな性癖となるのか、願わくば後者である事を祈りつつも、自分はちょろちょろと流れる小川のせせらぎに耳を澄まし、恥ずかしさ極まる至高の表情を眺めながら、考察を開始しました。
 おっと、何か誤解していませんでしたか? 自分はあくまで、落ち着いてじっくりと考えるのに女子のおもらしが必要だっただけであり、断言しますが、何も個人的な欲望の為におもらしを鑑賞したかったのではありません。


「嘘つけ」
 と、自分の背中に声をかけたのは、つんつん頭のクソ雑魚HVDO能力者、つい先ほど連行されたという第一報を聞いたばかりの等々力氏、その人でした。
 人の脳内に勝手に突っ込みをいれるのはやめてもらえませんか、と言ったのですが「いや、口に出てたぞ」と指摘され、閉口しました。
「いやいや凄い事になったな五十妻。いいんちょは神か?」
 限りなく近い存在であるとは思います。
「今まで辛い事は何度かあったけどよ、HVDO能力者になって良かったとこれほど思った日はないね。だっておっぱいが揉みたけりゃ、お願いすりゃいいだけだからな」
 世間話をしつつ、自分の指示によっておもらしをする女子に近づき、目線を落とし、「乳揉むぜ?」と死ぬ程格好悪い同意の得方をした後、やや小ぶりな生乳を鷲掴みにしました。とびっきりのゲスい笑顔を浮かべて、心底嫌がる女子の両おっぱいを揉みまくる等々力氏。ちんこはビンビンですが、三枝委員長との性癖バトルが開始されていない為か、どうやら爆発は起きないようです。
「……等々力氏はトーナメントに参加されるのですか?」
 自分の質問に、等々力氏はにやにやしつつ手を休めずに答えました。
「当たり前だろ。このチャンスを逃したら、俺は一生世界一のおっぱいに出会えねえ。逃げる訳にはいかねえよ」
 やたらとかっこいい台詞でしたが、こいつは自分の実力を分かっているのだろうか、と自分は疑問に思いました。
「なんだ五十妻、お前はトーナメントに参加しないのか?」
 逆に問われ、自分は少し考えました。
 闘う理由はいくらでもあります。HVDO能力者として実力を極め、自由自在に女子の膀胱を支配出来るようになりたいだとか、ハル先輩と望月先輩の復讐に、崇拝者を倒すだとか、三枝委員長を再び雌奴隷として取り戻すだとか、世界改変態を成し、通貨をペットボトルに入れた美少女のおしっこに統一して自分は造幣局の局長に就任するだとか。
 いずれも自分の人生にとっては非常に重要な目標ですが、それなのに、いや、それだけに、妙に気乗りしない自分がいるのです。


 繰り広げられるであろう戦いにビビっているのか? 否定はしません。
 HVDO能力者無敵のこの状況に満足しているのか? あるかもしれません。
 乳を揉む等々力氏の醜悪な姿を見て、賢者タイムに入ったのか? 可能性は高いです。
 しかし、今の自分には、それらの理由を越えた、何というか、詩人ならフラージャイルとでも表現するのでしょうか、理屈抜きの躊躇があり、それに戸惑っているのです。自分は、女子のおもらしをこよなく愛する変態であるという自信が、無意識に揺らいでいるような気もしています。
「……まだ、分かりません」
 絞り出すように口にした自分の返事を、等々力氏は鼻で笑いました。
「へっ、お前さんのおもらしへのこだわりはその程度だったのかよ。……こんな奴に負けたとはな、俺も昔は弱かったぜ」
 今でもだろ、と思いつつも、等々力氏の表情には、今の自分には無い自信が漲っています。
「ま、そんな中途半端な気持ちなら、参加しないほうが賢明だろうな。リベンジ出来なくなるのは残念だが、今のままじゃ参加しても俺とやる前に負けちまうだろうし」
 言いたい放題の等々力氏でしたが、自分にも特に反論はありません。くやしくもなく、ただ事実を眺めるだけです。
「じゃあな五十妻。水と太陽光とおっぱいが無料の時代はもうすぐそこだぜ」
 揉み終えて、等々力氏はいかにも満足したような足取りで自分の前から去っていきました。
 これまで、自分は彼について色々と言ってきましたが、何だかんだいって等々力氏は友達想いの人です。きっと今の言葉も、自分を奮い立たせる為に、憎まれ役になるのも覚悟で言ってくれた事でしょうし、実際、等々力氏はおっぱいは揉んでいても乳首はこねていきませんでした。つまりそれだけ自分に気を使ってくれていたという事です(え? どういう意味ですか?)。唯一の問題は、自分は等々力氏の事を友達と思っていないという事ですが。
 いずれにせよ、自分は何かをきっかけに、今一度、崇拝者を討つ覚悟を固めなければならないという事です。それなくして変態トーナメントに身を投じる事は危険極まりなく、等々力氏の言う通り、おそらく自分は負けるでしょう。
「あ、あの……終わりましたけど……?」
 気づくと女子のおもらしが終了していたので、
「ありがとうございました。素晴らしいおもらしでしたので、またお願いします」
 と声をかけて立たせると、女子は複雑な表情をしていました。


 その後、全裸で下校する女子生徒達を観賞しつつ帰宅しました。全校オリエンテーリングもとい変態トーナメント開会式の後、新しい教室に案内されたのですが、クラス分けは清陽高校の時と変わらず、単純に、翠郷高校のクラスと同じフロアになっただけだったので、くりちゃんや等々力氏と同じ教室でまだ当分の間は授業を受けられる訳で、という事はくりちゃんの全裸を常に視界に入れたまま学業に一所懸命励む事が出来るのだな、と若干嬉しくもあったのですが、その肝心のくりちゃんがいなかったのです。
 自分を置き去りにしてまで先に来た学校にいないとは何事か、と担任に問い詰めてみた所、何やら「体調不良」で帰宅したらしく、ついでに小耳に挟んだ情報を添えると、この学校は「生理休暇」が認められているらしいです(まあ、全裸だし当然といえば当然かもしれません。突然なった場合はどう対応するんでしょうか。よく分かりませんが、ちょっと楽しみです)。
 と、そういう訳で、くりちゃんが全裸で授業を受ける姿は見逃してしまった訳ですが、帰宅後、自分を待ち受けていたのは、くりちゃんのもっともっとあられもない姿でした。
 玄関のドアを開けようと手をつけた瞬間、中から飛び出してきたのは母でした。自宅から母親が出てくる事など普通といえば普通なのですが、普段見慣れないというのもあって驚く自分に構わず、叩きつけるような調子で母は言います。
「お、良い所に帰ってきたな。晩飯は外で食ってくるからあんたも適当に済ませな」
「これから仕事ですか?」
「そう。今日は休めると思ったんだけどねえ」
 あまり残念そうにも見えない母の表情は若干紅潮し、口からはアルコールの匂いがほんのりと漂っています。
「酔ってるんですか!?」
「あはは、こんなの酔ってるうちに入ららいしょ」
 と、若干もつれ気味の舌に、自分は辟易します。これから仕事だというのに、仮にも警察官の癖に、こんな状態で大丈夫なのか。国家権力と家内安全への信頼が同時に減退していきます。
 自分の不審な眼差しに気づいたのか、母はプロレスラーのような力強さで自分の肩を抱き寄せ、耳元に酒臭い口で囁きました。
「隣の木下とあたしが子供の頃からの幼なじみなのは知ってるよな?」
 自分は軽く頷きます。確かに、くりちゃんの父親とこの人は同級生で、「昔は相当いじめられたなぁ」と語っていました。くりちゃんの父が。
「あいつ、昔から滅法酒に弱くてな。こういうのって遺伝もあるし、もしかしたら、なんて思って、ちょっとやりすぎちまった。介抱のほう、よろしくな」
 何を言っているのか分からず、自分は混乱しましたが、追及しても豪快に笑うだけで、母はそのまま若千鳥足気味に出勤していきました。
 そして自分は家に入り、居間で泥酔状態のくりちゃんを発見したのです。
「とぅわれ!」
 自分の顔を見るなり叫んだくりちゃんの手には、一升瓶が握られていました。

       

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