Neetel Inside ニートノベル
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 翌日。
「はぁ~~……あったま痛い……」
 酔いつぶれた後、15時間ほど爆睡したくりちゃんは、自分が寝ている間に一旦自宅に戻って支度をして、不機嫌オーラ全開に自分をつねり起こし、2、3発の不必要な平手打ちの後、二日酔いか寝過ぎかの頭痛に悩まされながらも家を出発しました。母は仕事が忙しいのか、あれ以来家に連絡もなく、帰っても来ず、くりちゃんの尿道も意外としっかり者でおもらしもせず、期待は裏切られたまま朝を迎えることになりました。
 その上、くりちゃんは前後の記憶をすっかり吹き飛ばされていたらしく、「どういう経緯で母にお酒を呑まされたのですか?」「昨日、自分が言った事を覚えていますか?」等と尋ねてみたのですが、「あ?」とか「は?」とか5バイト以上の解答をしてくれないので、幸か不幸か、酒の弱さは筋金入りと見え、まったくもって完全に、綺麗さっぱり覚えていないようなのです。あの質問に思わず抱いてしまった自分のどぎまぎときめきを今すぐに返却して欲しいくらいでしたが、自分も自分なのでこれは良しとします。
「なんか……凄い事があったような気がするんだよなぁ……」
 と、ひとりごとを言うので、ぴらっとスカートをめくって下着の色を確認しておきますと、日常という名の鉄拳が飛んできたので、自分は心の底から安心しました。
 くりちゃんも、変態少女開発高校の生徒であるはずですから、全裸登校を強制されるのかな、と思っていたのですが、どうやら昨日の発言、自分がくりちゃんをパートナー(管理下の素材)として選んだ事は例え記憶に残っていなくても有効だったらしく、生意気にも服を着て登校していやがりました。
「それにしてもくりちゃん。よく登校する気になりますね。自分のパートナーになったとはいえ、いつエッチな目に合うかも分からないのに」
「あ?」
「何せ学校名からして『変態少女開発高校』ですからね。昨日もくりちゃんが寝ていた時、夕方のニュースでちょっと取り上げられていたんですよ」
「は?」
「三枝委員長も大胆な事をしますね。よっぽどご自身の能力に自信があると見えます。きっと今日は、全国各地から変態達がやってきますよ」
 無視。
 いい加減、まともな反応をしないとヒロイン降板もあり得るのではないか、と自分は心の中で心配したのですが、くりちゃんは変わらず不機嫌に、「頭痛ぇ~」と愚痴るだけで、一向に仕事をしてくれませんでした。
 やがて電車が止まり、変高の生徒達が同じ駅にて降りると、くりちゃんは「はぁ!?」と大きな声をあげて驚いていました。
「な、なんであいつら裸なんだ!?」
「どぇ!? 今更ですか!?」
 という自分の驚愕も虚しく空回りし、くりちゃんはがくがくと膝にダメージを受けながら、何事もなく全裸で登校する生徒達の群れを唖然としながら見ていました。


 どうやらくりちゃんは、昨日学校に到着した後、すぐに例の「体調不良」で帰宅する事になり、そこを自分の母に捕獲され、しこたま呑まされた挙句に記憶を失ったようなのです。そして今日には自分の保護下に置かれたので、服を着て登校出来る事により、認識の上書きが解除された、あるいは更に上書きされたという解釈でしょうか。その辺の能力の処理については、後ほど三枝委員長に詳細を尋ねてみる必要がありますがとにかく、くりちゃんはこの全裸世界において、今のところおそらく唯一の服を着ていていい一般人であり、常識を備えた存在となりました。これがプラスになるかマイナスになるかは分かりませんが、とりあえず素材として活躍してもらう事には間違いなく、そこの所の同意を得ようとすると、「ふざけんな死ね!」というありがたい言葉をいただきましたが、生徒手帳を確認し、HVDO能力者の命令に背いた場合強制退学になる事を確認させると、青ざめて押し黙りました。
「くりちゃん。服を着ていて良いだけ他の生徒よりマシだと思いませんか」
「お前ら絶対狂ってる……」
 と、自分だけではなく三枝委員長すら貶し始めたので、なかなかの勇気の持ち主だな、と見直しました。
「……て事は、さっきお前が言ってた変態トーナメントやら何やらも本当の事なのか!?」
「当たり前ではないですか。いつもの妄言だと思っていたのですか」
「何でそんな訳の分からない事をするんだ!?」
「変態の頂点を決める為でしょう」
 それ以外にも、崇拝者の思惑もあるのでしょうが、そんな事を言ってもくりちゃんの小さめの脳では理解してくれないと踏んで省略しました。
「うぅ……」
 くりちゃんは涙目になりながら視線を落とし、何やら考えていました。おそらく、自主退学も視野に入れているのでしょうが、流石にこのご時勢、女子で高校中退は厳しいのではないか、とか色々計算しているのでしょう。まあ確かに、今まで散々変態的な目にあってきたくりちゃんですが、今度ばかりはこれまでにない危機を感じているのでしょう。
「……その変態トーナメントって、いつ終わるんだ?」
「さあ? 勝者が決定されたらか、あるいは崇拝者が誰かに負けたら終わるとは思われますが」
「……終わったら、この高校も元に戻るのか?」
「知りませんよ。三枝委員長に聞いてください」と、答えたい所でしたが、気の毒なので希望を持たせる言い方に変えます。「きっと戻るでしょう。何やら三枝委員長にも狙いがあるようで、その目的が達成されれば、この状態を維持する理由もなくなるはずです」
「……お前、勝てるのか?」
 これはなかなか予想外の質問でした。しかし自分は昨日の件で学習していたので、ここは即答します。
「勝てます」
「その崇拝者ってのにもだぞ?」
「ええ、勝つでしょう。くりちゃんがいれば」
 くりちゃんは複雑な表情を浮かべました。幼馴染特権でその顔色を分析してみるに、自身にそんなに魅力があるとは到底思えないが、目の前にいる男の変態性とその実力は渋々ながらも認めざるを得ず、そいつがこれだけ自信たっぷりに言い切っているのだから、意外と勝つ事は容易いのかもしれない。というあたりの、自己評価と他己評価で揺れ動く心理状態のようです。自分はそんなくりちゃんの背中を一押します。
「大丈夫。くりちゃんのおもらし姿は最強です」
「なんにも嬉しくねーぞ!」
 まあ確かに、嬉しそうには見えませんでした。


 全体的に肌色である事を除き、午前中の授業風景は何事もなく目の前を通り過ぎていきました。合併の影響で、授業のレベルが上がってついていけなくなるのではないか、という心配は杞憂に終わり、優秀な教師達の下、三角関数の理解はすこぶる進み、しかし女子生徒が黒板の前に出て何かを書く度に自分のコサインがタンジェントしてサインになるのでそこそこの集中力は必要不可欠でした。
 引き続き、貧乳ばかりを寄せ集めたクラスなのは変わりませんでしたので、その途方もない状況に戸惑っていたくりちゃんでしたが、やはり自身は脱がなくてもいいというのは大きいらしく、他女子生徒のおっぱいを横目でちらちらと気にしながらも、自分が1番小さい事に気づき、突如として暴れだすという事はしませんでした。冷静です。
 無論、このおっぱいフリーダムで等々力氏が大人しくしているはずがなく、貧乳1-Aには早々に見切りをつけ、授業をサボり、他クラス他学年へと不純な旅に出ました。これはあくまで想像ですが、授業中にいきなり等々力氏が教室に乱入してきて、女子のおっぱいを揉んで回るという光景は実に終末的だと思われました。
 授業と授業の間の中休みに、くりちゃんから実に珍しい言葉をいただきました。
「……ずっとあんたが1番の変態だと思っていたけど、委員長や等々力の方が酷いかもしれない」
 高校を丸ごと1つ全裸にするという三枝委員長の発想のスケールは、確かに敵わないかもしれません。しかし侮ってもらっては困ります。くりちゃんの発言は、自分が等々力氏等に比べて冷静なように見られていたからかもしれませんが、その実、戦いに向けてイメージトレーニングを繰り返していたのです。この角度で、このポーズをつけてこう漏らす。こういう展開になったら、こういう理由で漏らす。漏らした上に、こうしてああして結局また漏らす。自分はこと女子の尿関係にかけては達人です。脳内で限りなく実戦に近い組み手を行う事など容易く、ただ単に自分の場合、等々力氏のように目先の欲に囚われない性格であり、三枝委員長のように何やら重大な責任を負っていないだけです(昨日の体育館で見知らぬ女子にした行為についてもきちんと理由がありましたよね)。
 それと、5、6人ほどでしょうか、ニュースを知って駆けつけてきた思わしき外部のHVDO能力者が、校内をうろうろしている所を見ました。しかし派手に能力を使ったり、ガチレイプを行う者は不思議とおらず、お互いに牽制しあっているのか、視姦による生徒達の身体の吟味と、各教室の立地や、シチュエーションの把握に専念しているようで、なるほど手強い者達が揃っているな、と再度認識しました。
 昼休みになると、くりちゃんも大分この状況に慣れてきたようで、「……何か、命令してみようかな」などと言い出しました。くりちゃんはHVDO能力者ではないですが、自分の専用素材となった事により服を着る事が許されているので、他の生徒達の「服を着ている人は偉い」という認識に含まれます。その可能性を示唆した所、最初は全く興味を示さなかった癖に、しばらく悩んだ挙句の果てにこんな命令を発行したのです。
「あ、あたしを様付けで呼びなさい!」
 普段ゴミカスのような扱いを受けている人間ほど、こういう願望があるのでしょうか。1-A生徒達は深く頷き、口々にくりちゃんを呼び始めました。
『くり様!』『くり様万歳!』『くり様最高!』
「なんで名前の方だちくしょー!!」
 と、コントをしている間に、変態トーナメント第一回戦のマッチングが発表されました。
 校内アナウンスで聞く、三枝委員長のアルファ波全開の落ち着いた声。
「変態トーナメント第一試合は、『おっぱい』vs『デブ』となりました。この試合は観戦が可能です。観戦希望のHVDO能力者は観戦ルームにお集まりください」
 等々力氏の邪な笑顔が思い浮かびました。

       

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