Neetel Inside ニートノベル
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 観戦ルームと銘打たれた元空き教室には、自分を含めて4人のHVDO能力者が集まりました。1人は背が低く鼻の大きな男で、それ以外にこれといった特徴はなく、見た目だけで性癖を判断するのは無理である、という一例。もう1人は、口角のつりあがったギョロ目の男で、服の上から自分自身の胴体を縄で縛っていたので、一目で分かる性癖の人もいる、という一例でした。そして最後の1人は三枝委員長、ではなく、その右腕であり、拷問のHVDO能力者、知恵様でした。内心ビビりつつも、沈黙の空気に耐えられず、自分から話しかけてみます。
「三枝委員長は観戦しに来られないのですか?」
「あなたが知る必要はない」
 ますます悪くなった空気の中、2人の男はにやにやと知恵様を見ていました。殺されますよ、と忠告しようかとも思いましたが、まあ彼らが間違いを犯さない限りは平気なので何も言いませんでした。おそらく、三枝委員長はこことは別の部屋で試合を観戦しているでしょうし、知恵様がここに来たのは、自分達HVDO能力者が勝手に戦いを始めないように監視する為でしょう。
 教室内は、机が全て片付けられ、椅子だけが余裕をもって等間隔に置かれており、中心にプロジェクターが設置され、黒板を覆うようにスクリーンが張られていました。状況から見て、そこに対戦の様子が映る事は確実と思われましたが、問題は映像の出所です。駄目もとで尋ねてみます。
「あの、これから観戦する試合の映像はどうやって撮影されるのですか?」
 ここは意外とすんなり答えてくれる知恵様。
「校内にある大量の隠しカメラで撮影されている」
 なるほど、まあ三枝家の財力を使えば、何て事はないでしょう。答えてくれたついでに、少し気になった事も勢いで訊いてみます。
「先ほどのアナウンスで、「この試合は観戦が許可されている」と三枝委員長が言っていましたが、許可されない試合もあるのですか?」
「ある」
「どういう基準で決められているのですか?」
「実行委員長の権限で決められる。参加者に拒否権はない」
「つまり、三枝委員長の気分ですか?」
「あなたが知る必要はない」
 どうやら三枝委員長関連の質問にだけ、知恵様は答えてくれないようです。逆に、それ以外の事については、きちんと答えるように命令されているのでしょうか、機嫌は良くなさそうですが、とりあえず無視されないだけマシなので、これを機にいくつか質問を……と考えていると、プロジェクターから光が発せられました。
 変態トーナメント、その第一試合が始まったようです。


 映像内の場所は、体育館でした。授業中ではないようで、中心にいる3人以外に生徒はいません。別のアングルのカメラが3、4回変わり、設置台数の多さを示しつつ、最終的には対峙する2人の表情が見える、おそらくバスケットゴールあたりに仕掛けられているであろうカメラに落ち着きました。
 余裕たっぷりの憎たらしい笑顔で相手を見下ろす等々力氏。
 対する男は痩身の黒縁眼鏡で、顔立ちからして明らかに年上(若いのにちょっと疲れた感じは20後半くらいと思われます)ですが、自信無さげな雰囲気は思わずため口で呼んでしまいそうになる性質を持っていました。
 2人の中心にいるのは女子生徒。元翠郷高校の生徒だと思われ、その根拠は、1度見たらおそらく忘れないであろう容姿の良さでした。アイドル系、とでも表現するのでしょうか。今は状況に戸惑っていて、決して笑顔を浮かべている訳ではないのですが、おそらく一旦笑えばクラス中の男子の人気をがっさりと総取りする事は請け合いでした。そんなレベルの人間が、しかも全裸でいる訳ですから、同じクラスの男子はきっと授業中大変だろう、と無駄な心配まで生まれました。
 HVDO能力者の2人は、しばらく中心にいる女子生徒を眺めていましたが、等々力氏は勝ち誇ったような顔で口を開きました。
「俺の性癖はおっぱいだ」
 性癖の宣言。どうやらカメラだけではなく、レコーダーもセットされているらしく、2人の会話も鮮明に聞こえてきました。
「……僕の性癖はデブです」
 男も答えます。やはり声の感じからしても結構な年上なのですが、等々力氏とは別の意味で頼りなく、勝負にかける熱も伝わってきませんでした。
 2人の宣言が終わり、試合開始を告げるチャイムが鳴りました。
「へっ、デブのどこがいいんだ?」と、等々力氏の先制パンチ。「女ってのは、出る所が出て引っ込む所が引っ込んでるのが良いんだろうが。デブってのはた、だだらしないだけだ」
 それは明確な挑発でしたが、痩男はそれに乗りません。というよりむしろ、それが挑発である事すら認識していない様子で、酷く落ち着いたトーンで丁寧に答えます。
「そうでしょうか? おっぱいも脂肪である事に変わりはないかと……」
 これを受けて等々力氏、まるで動じず、
「おっぱいは正義の脂肪。贅肉は悪の脂肪だ」
 と言い切り、女子に近づいていきます。
「現に後手であるお前は選んでいるじゃねえか。こんなナイスバディーちゃんをよぉ」
 等々力氏の汚らしい手が女子の肩に乗り、びくんと身体が跳ねます。確かに、顔の良さにまず目がいきましたが、そのボディーラインは、全裸であるという事を除いても評価されるべき芸術品でした。
 諸手を挙げて等々力氏の意見に賛成する事は躊躇われますが、出る所は出て、引っ込む所は引っ込む。それこそが女性の魅力であるという解釈は、この女子生徒という現物例を見れば明らかで、そして後手である痩男自身が彼女を選んだ事は、「おっぱいも同じ脂肪である」という主張と矛盾する事になるという等々力氏の指摘は、一見正しいように見えました。
「まあいい。この娘ならわざわざ俺の能力を使う必要もねえ。俺が今からお前に、おっぱいの魅力を教えてやる。先手を俺に渡した事を後悔するぜ?」
 その台詞の後、ただ外野で聞いていただけの自分の方が後悔する程に長く、そしてくだらないおっぱい講義が等々力氏によってぶち上げられました。


 丸ごとすっぱり割愛するのは流石にかわいそうなので要点をまとめますと、まずはおっぱい全体の造形の深さ、及びその柔らかいという価値についての話が、実物の掲示を伴いつつ延々と続き、次に実演、つまり等々力氏が揉んだり、顔を埋めたり、乳首をつまんだり、口に含めたりの、私欲丸出しの行為が堂々と行われ、等々力氏はその10分間のサービスタイムを存分に堪能しているようでした。
 対戦相手である痩男は、等々力氏の戯言に対して怒る様子も呆れる様子もなく、ただただ傍観するのみでしたが、時々等々力氏から「お前も揉んでみるか?」などとの誘いが入っても、困ったような顔で遠慮するのみで、その目は冷め切っていました。
 しかし、等々力氏の講義のくだらなさを考えると、黙って訊いていてくれただけでもかなり人が出来ていると言えますし、自分からでは興奮度の表示がないので確たる事も言えないのですが、若干、下半身の方が反応しているように見えました(というより、等々力氏の講義など無く、ただ無言でおっぱいを押し付けた方が効果があったのではないか、という疑惑もあります)。半勃起程度でしょうか。この女子の魅力を考えると、これでも驚異的な耐久と言えますが、もちろん敗北に至るほどではないらしく、やがて等々力氏の攻撃終了を知らせる鐘が鳴ると、痩男は軽く胸を撫で下ろした様子でした。
 等々力氏は一瞬だけ残念そうな表情を浮かべましたが、すぐにいつもの雰囲気に戻り、痩男に告げます。
「よりにもよって『デブ』なんて性癖に負ける事はねえと思うが、全力は尽くさせてもらうぜ」
 見ると、等々力氏のちんこはバッキバキに勃起していました。
 自分が指摘したかったルール上の「穴」とは、まさにこの、等々力氏のちんこの事なのです(ちんこなのに穴とはこれいかに)。先手は無論、先に攻撃を繰り出す訳ですが、後手は先手の攻撃の後に攻撃する。何を当たり前の事を言っているのか? と思われる方は、等々力氏の股間に今一度注目してください。
 そう。この変態トーナメントのルールには、勃起を収める為の時間、つまり「クールダウン」が無いのです。先手の攻撃の終わり、それは後手の攻撃開始を意味し、先手後手合わせて20分間の試合時間は、きっちり半分ずつで分けられます。
 性癖バトルにおける勝利、言い換えれば、「相手を興奮させる事」は、興奮率99%以下だったブツに、100%を超えさせる事です。先手の「先に攻撃出来る」という利点は、そのまま攻撃的な意味合いだけではなく、「次の後手の攻撃をしばらくの間防ぐ」という防御的な意味合いも含んでいるのです。
 後手がこれに対応するには、相手の勃起が収まるまで大人しく待ち、少ない時間でカウンターを決めるか、あるいは相手を萎えさせる手段をあらかじめ用意しておくしかありませんが、前者の場合、最悪相手が後手の10分間勃起し続け、全く攻撃が出来ない事も想定されます(というより、前者が防御的な意味合いでひたすら自分を鼓舞し続けた場合、ちょうど勃起が収まった所を狙われると脆いはずなので、基本は10分間の勃起維持にかける事になりますが)し、後者の場合も、相手の精神力が強ければ強い程不利になります。あるいは別の勝利手段として、相手の性癖が上だと認め、HVDO能力を失う「完全敗北」がありますが、並大抵の攻撃力では達成出来ません。
 つまり、後手は「相手の興奮をまず収め」その後、「再度相手を興奮させる」という2つの条件を達成しなければならないのです。
 思うに、等々力氏のような、性癖の受けも攻めも幅広い人間ほど、この利点は生かせると思われます。今まで等々力氏は色んなHVDO能力者に会う度にあっという間に勃起させられて敗北してきましたが、その猿のような性癖がそのまま防御力として換算される訳ですから、なるほどこのルールにおいて先手の等々力氏は相当な戦闘力を持っていると考えられます。
「こうなった俺の息子は、手が付けられねえぜ……?」
 放っておいても爆発するのではないか、と心配になる程にフル勃起状態の等々力氏。その手にはまだ生おっぱいの感触が残っているはずで、これは10分勃起し続ける事はほぼ確実かと思ったのですが、痩男はやけに冷静でした。
「おっぱい談義、ありがとうございました。参考になりました」
 そしておもむろに近づき、許可も得ずにぐっっっと、等々力氏の股間の鬼武者を鷲掴みにしたのです。
「おぅふっ!」
 その手があったか、と自分は納得しました。男に一物を掴まれ興奮するのはおそらくホモのHVDO能力者だけです。一時的に反応してしまうのは仕方ないとして、大きく気分を害する事は請け合いで、時間経過と共に勃起も収まるはずです。が、相手の股間を掴むという行為それ自体も自身の気分を大きく害するという事は否定出来ません。
 しかしそんな自分の予想は、大きく外れる事となりました。
「てめえ、何しやがる!」
 等々力氏の剣幕に全く動じない痩男は、そのまま空いている方の手を女子生徒の肩に乗せます
「……あなたに先手を譲ったのは、後手がもらいたかったからです」
 痩男が自信無さげに言った言葉は小さく、聞き取るのがやっとでしたが、その効果は絶大でした。
 等々力氏の股間から解き放たれた性欲は、黄色いエネルギー体となって痩男を伝わり、やがて女子へと注がれました。その瞬間、女子の肉体はだらしない風船のように膨らんでいき、見る見る内に巨大化すると、やがて体育館全体に敷き詰められるほどの肉塊へと変化したのです。

       

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