Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「ちょ、ちょっと待って!」
「くりちゃん! いい加減にしてください。見た目を気にしている場合ではありませんよ!?」
「だ、だけどこれ、スカート短すぎ……」
「今更何を言ってるのですか。公衆の面前でおもらしする人が」
「それはてめえがやってんだろうが!!」
「小学5年生」
「うっ……そ、それはそ、そうだけど、その1回以外は……」
「今はそんな事を言っている場合ではありません。早くそのミニスカポリスを何とかしないと」
「ミニスカポリス言うな!」
「それ以外にその格好を何と呼べば良いのですか」
「大体何でこんな事になってるんだ!」
「死ぬよりはマシだと思うのですが」
「そういう問題じゃねえだろ……」
「とにかく、敵は底の知れない能力者です。早く探し出さなくてはなりません」
「探すったって、この校舎内結構広いぞ」
「そこはミニスカポリスであるくりちゃんに頑張って頂いて……」
「いや、これ格好だけだから!」
「衣装に拳銃とかついてないんですか?」
「あったら真っ先にお前を撃ってるよ」
「発動」
「ひぃっ……ちょ、やめろ馬鹿!」
「これでくりちゃんの尿貯蔵量は90%。敵を見つけるまで耐えてくださいよ」
「っていうか見つけてから発動すれば良いだろうが!」
「正論と言わざるを得ませんが、くりちゃんの膀胱は自分にとって、徳光の涙腺より容易く決壊させられる物だという事を覚えておいていただきたいのです」
「わ、わかったよ。いいからさっさと敵を倒して普通の格好に戻してくれ」
「そうしましょう。その格好は目に毒です」
「……あのさ、これ……かわ……」
「え? 何ですか?」
「何でもねーよ! 見んな!」






 緊縛男を撃破した後ちょっとの間、自分は無言でくりちゃんの痴態を眺めていました。縄を伝って教室の床へと落ちる雫は、雨上がりの森林浴を彷彿とさせる程に爽やかで、屈辱を噛み締めるくりちゃんの表情も、そのまま額縁に収めたい程に様になっていました。
「終わったんだろ? 早く下ろせ」
 努めて冷静に、恥ずかしさを隠すように命令されましたが、これまたせっかくだから精神を如何なく発揮した自分は一旦隣のクラスに行き、「授業中の所すみませんが」と断りを入れてから、デジカメを所持している生徒を募りました。たまたま1人、写真部の方がいてくれたので、その方に「非常に価値のある画像を入れた状態で後日必ずお返しします」と交渉を持ちかけ、お借りしました。
 それから、約15分程の撮影タイム。序盤は罵声を浴びせ、不自由な身体で暴れに暴れるくりちゃんでしたが、中盤程で自分が衣服を脱がせにかかると本気で涙目になり、急にしおらしくなり(全身が縛られていたので、そこから衣服を脱がせる事など不可能に決まっているのですが)ました。そして終盤、緊縛男の命令によりグラウンドを走らされていた我がクラスの生徒達が教室に戻ってくると、なりふり構わず自分に謝罪を繰り返し、早く緊縛を解いてくれと懇願しだしたくりちゃんは非常に滑稽でした。
 デジカメの容量が一杯になったので、自分はため息交じりに仕方なく緊縛を解こうとしましたが、やはりそこはプロの仕事。きっちり編みこまれた縄目は、緊縛男の言った通り素人ではそう易々とは解く事が出来ず、くりちゃんはしばらく股を濡らしたまま衆目を集めていました(自分以外の生徒達には、見るな、と命令すればいいものを、それに気づかない馬鹿さ加減がくりちゃんです。ただ、見るなという命令を下した所で、自分がそれを撤回させる事は言わずもがなですが)。
 その頃になり、ようやく緊縛男は股間爆発の衝撃から立ち直りました。
「……わしの負けや。確かに、おもらしはごっつエロい。ちゅうかその女のおもらしアカンわ。完全に反則やん」
 自分的には、何を今更、という感じでしたが、まあ理解者が1人でも増えてくれたのは純粋に嬉しく思いましたので、こちらも好意を見せる事にしました。
「メールアドレスを教えていただけたら、今撮影したばかりのくりちゃん緊縛おもらし写真をお送りしますよ」
「そらありがたい! ほなここに……」
「お、おい! 何を勝手に! やめろ!! っつーか今すぐ外せ! ぶっ殺してやる!」
 画像の行方に危機感を覚え、再度荒ぶりだしたくりちゃんでしたが、ネットには流出させないという約束を交換条件に、大人しくすると宣誓させて、その後緊縛男に縄の解除を依頼しました。写真の件が恐怖であっても、このままクラスメイトに醜態を晒し続ける方がよっぽど嫌だったのでしょう。
 緊縛男は流石に慣れた手つきで縄をほどいていきました。やがて念願の自由を手に入れ、久しぶりに地面に降り立ったくりちゃんでしたが、制服の上からとはいえきつめの緊縛は肉体的負担も大きかったらしく、全身にある縄の痕と、おぼつかない足取りには、少しばかりの同情を覚えましたが、なおもくりちゃんの受難は続きます。
 明らかに授業の区切りではないチャイムの後、例のアナウンス。その声はもちろん、三枝委員長です。
「第三試合、『おもらし』vs『コスプレ』が10時より開始となります。該当選手は今すぐ生徒会室までお集まりください」


 恥ずかしながら、それを聞いた時、自分が抱いた感情を順番に並べると、「残念」それから「文句」でした。
 文句の方は当然、今さっき試合を終えたばかりで、新しく手に入った「第五能力」の考察すらままならないダブルヘッダーという過酷な条件に対してであり、これは自分が正論だと思いますし、たまたま重なってしまった遅刻によるペナルティーの追加に関しても、HVDOと学業を一緒に取り扱わないでいただきたいという苦情もまだ申請していないので、その辺非常に不満がありました。
 しかしそれより前に感じた「残念さ」については、まったくもって不意打ちな、赤面モノの女々しさでした。
 あろう事か、自分は三枝委員長に勝利を祝って欲しかったのです。遅れているとはいえど1歩の前進に対し、祝福の一言を欲したのです。これは口に出すのも憚られる程に恥ずかしい事ですし、この内なる物はいっそ墓場まで持っていこうかとも思いましたが、こうして告白する事にしました。何故ならこれもまた、自分の偽らざる気持ちの1つであるからです。
 とはいえ、こうしたちょっとした心の機微で自分が恥ずかしがっている事をくりちゃんに知られると、「あたしはこんな目にまであっているのに……」とまた面倒くさいことになるので、ささっと移動を開始する事にします。時計は現在9時45分。試合開始まで後15分でまだ先攻後攻も決まっていないというタイトスケジュールです。
「……あ、あのさ」
 と、くりちゃん。
「もしあんたが後攻だったら、またあたしを素材に使うのか?」
「ええ、もちろん」即答する自分。
「……おい、もう1回縛ってくれ」
 無論、その依頼は却下され、くりちゃんは深い深いため息をつきつつ自身の席に戻ると、鞄の中から替えのパンツを取り出し、トイレに行きました。
 何だ、きちんと用意しているではないですか。と言うとまた怒られそうなのでぐっと言葉を飲み込みつつ、内心は人間の慣れという能力に限界はないのだなという感心をしつつ、自分はくりちゃんが新しいパンツを履いて帰ってくるのを待ち、それから生徒会室に共に向かいました。
 生徒会室ともあって、三枝委員長と久々の再会か、という期待は見事に裏切られ、そこにいたのはまたしも自分のトラウマ知恵様と、大きな体格をした黒人でした。え? 黒人? 前者に勝るとも劣らず、後者の与える威圧感は半端ではなく、自分は一瞬来る部屋を間違えたか、と躊躇しましたが、どうやらこの黒人が次の対戦相手のようです。
 年齢は……いまいちわかり難く、流石に40までは行っていないとは思うのですが、10代の後半にも見えませんし、しかしながら、そうだ、と言われてみればそうかもしれないという、異国人の年齢不詳っぷりが顕著に現れ、ぶっちゃけ正確な判断はつきません。その全身を覆った筋肉は、スポーツによってついた物というよりはむしろ実戦で培った物のようで、正直な所を申し上げますと、今からやるのがあくまでも「性癖バトル」で良かったな、と胸を撫で下ろしたくらいでした(殴り合いだったらおそらく1秒ももたないでしょう)。顔もいかついですし、スキンヘッドですし、上半身裸ですし、何ら勝てる見込みをもてません。
「あの、日本語は通じますでしょうか?」
 と、腰低く丁寧に尋ねてみますと、
「……」
 無言のまま頷いたので、通じてるのか通じてないのか微妙でした。
「えっと、もしもよろしければ、自分が後手をいただきたいのですが」
「……」
 またも無言で首肯する黒人。知恵様に視線を送ってみましたが、こちらはもっと酷く、全く反応がありません。
「……分かりました。それでいいのであれば、素材はここにいるくりちゃん。シチュエーションは、まあ、とりあえずここで良いでしょう」
 下手にそそるシチュエーションを選ぶと、相手の戦略が全く見えていない以上、先手で終わりかねないので、ここは無難にいってみました。相変わらず黒人はどっしりと構え、反論も異議も無く、ただただ深く頷きます。
 果たしてこんな調子で勝負が成立するのだろうか、と心配しつつも、知恵様は事務的に事を進めます。
「それでは、私がこの部屋を出て行ってから、性癖の宣言を行ってください」
 出て行く知恵様。不安げなくりちゃん。気を引き締める自分。じっと睨む黒人。
 何はともあれ、言われた通りに、
「自分は女子のおもらしを愛する変態です」
 と、宣言。対する黒人、初めて口を開いたかと思うと、
「……オレ……コスプレ……ダイスキ」
 発言すると同時、全く何の前触れもなくその手には銃が握られていました。凍りつく自分でしたが、その銃口はこの部屋に残されたもう1人の日本人に向かっており、ホールドアップする暇もなく、くりちゃんは左胸を撃ち抜かれました。
 瞬間、くりちゃんの身体は光を放ち、それから間もなくして変身は完了しました。撃たれたはずの左胸は、何事も無かったかのように何事もなっておらず、また、痛みや出血も一切無いようです。突然何もない所から現れた事からしても、これが黒人のHVDO能力である事は間違いありません。
 がしかし、突然すぎて何が起こったのか理解出来ず、自分が呆気に取られている間に、黒人はそのはちきれそうなバネのある筋肉を生かして、生徒会室(3階)の窓を割って破り、外へ飛び出していきました。それから1分ほど、自分は口をぽかんとあけていましたが、その間に事態の把握は完了しました。
 そして話はこの節の冒頭へと繋がります。
 おもらしvsコスプレ、開始。

       

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