Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 コス人に対する勝利は、自分だけの物ではありません。
 らしくないではないか、と思われるかもしれませんが、自分は、くりちゃんを素材に選んでよかったと本心から思っているのです。性癖を賭けて戦う以上、その性癖が最大限に発揮される人物を選ぶのは極々当たり前の事ですが、そういった意味だけではなく、腹を括ったくりちゃんの、処女の癖に男気溢れる覚悟が道を拓いたという事は、事前にきちんと協力を仰ぎ、いわば共同戦線を張った経緯の賜物であり、対緊縛男戦も、対コス人戦も、2vs1だからこそ手に入れる事が出来た勝利であったと、自分は感謝の気持ちを抑え切れません。
 ひいてはこのままくりちゃんを悲しみのおもらしモンスターとして育てあげ、四六時中、望まずともその辺でおもらししてしまう、尿道の緩くてかわいいゆるもら系女子を目指していただく形で事を運びたいという所存もあり、この変態トーナメントは、くりちゃんの肉体及び性癖を開発するにあたってすこぶる便利な催しであるという事は認めざるを得ません。
 しかしそれは、HVDOの、より的確にいえば崇拝者の望みを叶えてしまう恐れもあるのです。
 自分とて、こうしてふざけてはいつつも、あの日に点った復讐心を忘れている訳ではなく、望月先輩とハル先輩の無念は必ず晴らしますし、もしも崇拝者が、くりちゃんの望まぬ形での処女喪失を望むとあれば、それを阻止するのに全てを費やす覚悟ですし、また、三枝委員長が今までよりも明らかな敵対関係にあると確信した暁には、不利を承知の上でも挑ませていただくと、ここで明言しておきます。
 とはいえ、三枝委員長主催の変態トーナメントにおいて、自分は既に2連勝を収め、あまつさえ第六能力まで手にいれてしまった事は紛れのない事実であり、三枝委員長と崇拝者が既に蜜月の関係にあれば、これは敵を育てるような行為であるとも言え、自分も違和感を覚えないではないのですが、1歩間違えれば敗北し、しばらくの性的不能者となっていた可能性も考慮すると、未練がましくも儚い夢はゴミ箱へと捨てて、やはり敵と見るのが妥当なようです。
 よって、自分としてはこれからのスタンスに変わりはなく、敵とあれば何者でも倒し、やがては崇拝者も打倒し、世界中の美少女を頻尿に貶めるのに邁進していく所存でありますので、どうかご期待の程をかけていただきたいと思います。
 無事、所信表明も終わった所で、まず済ませなければならない事があります。
「……何だよその目は?」
 コス人戦後、見事にバニーガール姿のまま、その後の授業を受けきったくりちゃんの席の前に仁王立ちになり、自分は無言で睨み、見下しました。
「つーか何でこの能力解除されないんだよ。めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……」
 そんな事、今はどうでも良いのです。ぴょんと立った兎耳も、お尻についたぽんぽんも、ふとももを卑猥に見せる網タイツも、今はどうでも良いのです。そう、もっと大事な事があります。
「くりちゃん」と、自分は真剣に呼びかけます。
「……何だよ?」
「もう2度とあのような勝手な真似はやめてください」
「……」
 くりちゃんは不服そうに怪訝なまなざしを向けてきましたが、自分はあくまでも毅然とした態度を守ります。


「確かに、先程の戦いはくりちゃんのおかげで勝利する事が出来ました。しかし自分はくりちゃんを傷つけてまで勝利したいとは思いません。自分の服に火をつけるなど言語道断、狂気の沙汰です。分かったらもう2度としないと約束してください。あとその衣装、この角度からだと薄桃色の乳首が胸元からちらちら見えているので、いい加減にしてください」
 くりちゃんは若干頬を赤らめたものの、変わらぬふくれっつらのまま手で胸元を隠しました。
「あ、あの時は、ああするしかなかっただろ。あたしがトイレに行くのをあんたが不機嫌そうに見るのと同じで、コスプレ好きの変態なら服を燃やされるのが1番嫌だと思ったんだ。だから……」
 緩やかに力を失っていく言葉と、落ちていく視線。
「くりちゃん!」
 語気を強め、肩を掴み、自分はその小さな身体を揺さぶります。
「約束してください」
 いよいよくりちゃんもただならぬ事態を察したのか、しおらしくなった憎まれ口で答えました。
「……ああ、分かったよ。つーかあたしに触るな。おしっこが漏れる」
 漏らせば良いではないですか。とも思ったのですが、制服が消滅した関係上(コス人いわく、数時間で元に戻るそうですが)、バニーすらお釈迦になると、くりちゃんだけガチの全裸下校をする羽目になってしまい、それは流石にかわいそうと思い自重しました。
「火傷などは大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。さっきから何回確認すんだよ」
 網タイツで覆われたふとももを眺めつつ、ああ、ここにおしっこが垂れていく様は最高だろうなぁと妄想していると、自分の気分もやや晴れ、何、過ぎてしまった事は仕方がないと、諦めがつくようになってきました。
「バニちゃん、いや、くりちゃん」
「舐めてんのか」
「ふとももは大事にしてください。おもらし淑女の嗜みですよ」
「死ね変態」
 さっぱり系の罵倒を残し、そそくさとトイレへ行くくりちゃん。
 自分が1人になった所をまるでどこかから監視していたかのように(可能性としては十分ありえるのですが)、再びのアナウンスが流れ、自分の3連戦が決定しました。メジャーリーグでもあり得ないレベルの連投っぷりに、そろそろ本気で抗議の申し立ても考え始めましたが、まあ確かに、マッチングの間隔について三枝委員長は何も明言していませんでしたし、それを確認せずに参加した自分がつまりは迂闊だったという訳です。
 そして肝心の次の対戦相手ですが……これについては少し困った事になりそうでした。
 はてさて、どうしたものか。と思案していると、戻ってきたくりちゃんは、おそらくトイレ内でアナウンスを聞いたのでしょう。顔面を真っ赤にしながら、ぷるぷると小刻みに震えていました。


 触れた相手の膀胱に、最大量の3分の1の尿を溜める。
 以前から、いえ、具体的に、この純粋で強力な能力を手に入れ、等々力氏によって他の性癖を持つHVDO能力者がいる事を知った段階から、自分は今日相手にする者の事を、なんとなく、ぼんやりとではありましたが、想像、というより想定はしていたのです。
 言ってみればこれは、因縁の試合です。春木氏や崇拝者とはまた違った意味で、この性癖と自分は戦う運命にあると言い切る事が出来ます。明日が明日来るように、好きな作品がいつかは終わるように、避けられないであろうという当然。それが今、やって来ました。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!! 絶対嫌だ!!!」
 子供のように駄々をこねるくりちゃんを引きずりながら、放課後、自分は再び生徒会室へとやってきました。
 コス人戦において、あれだけの覚悟を見せたくりちゃんが、舌の根も乾かぬ内にこの拒否り様。分からない訳ではありません。というより、この性癖を聞いてノリノリで来たらそれはそれで最悪です。見損なうまであります。
「くりちゃん。我侭言わないでくださいよ。一緒に戦ってくれると約束したではないですか」
「うぅ……で、でも、今回のは流石に駄目だろ……あ、そうだ! 三枝さんに素材になってもらえよ! あの人なら問題なくやるだろ!」
 この期に及んでよくも失礼な事を言ってくれるものだ。と感心しながらも、自分はくりちゃんを無言で引っ張ります。
「お前ら頭おかしい! 絶対おかしいって! 何でよりにもよって……う……お、お前ら馬鹿じゃないのか!? どういう神経してんだよ!」
 なりふり構わず喚き散らすくりちゃん。それも仕方のない事ですが、いい加減腹を括って欲しい所です。覚悟したくりちゃんは強い。と、自分も自信満々に言ってしまった手前、この狼狽っぷりは見るに耐えず、さっさと戦いのゴングを鳴らしてしまう他に方法はありません。
 教室のドアを開けると、既に着席していた先方と目があいました。
「あなたが性癖おもらしの方ですか?」
「ええ、そうです。では、あなたが?」
「はい。間違いありません」
 感情の読み取れない仏頂面に、気に障るほどの丁寧口調。年齢は高校生ほどで、背は高く、誰かと似ているな、と一瞬思いましたが、すぐには思い出せません。
「まず初めに、今回僕はあなたと性癖バトルで戦うつもりはないのです」
 と、相手。本来ならば予想外の一言でも、この場合において、自分にとって驚きには値しませんでした。
「では、どうやって決着をつけようとお考えですか?」
「話し合いです」
 これまでの性癖バトルを知っている人からすれば、これは拍子抜けというか、ブーイングさえ起きかねない提案だと予想されますが、しかしながら、それも無理からぬ事です。自分とこの人物が本気でHVDO能力を駆使して戦えば、まず「酷い事」になる。少なくとも絵面上、そして衛生上、大変よろしくない結果を巻き起こしてしまい、最悪の場合共倒れ、更にくりちゃん自殺という流れになってしまう恐れがあるのです。
「……分かりました。話し合いで決着をつけましょう。ですが、とりあえず宣言だけはさせてもらってよろしいですか? おそらくこの様子も、三枝委員長に監視されているでしょうし」
「そうですね。宣言さえしておけば、戦っているという形にはなるでしょう」
 確認も取れたので、自分は改めて、今日3度目の言葉を口に出しました。
「自分は、美少女のおもらしが大好きです」
 そして相手はこう返すのです。
「はい。僕も美少女のおもらしが大好きです。うんこの方ですが」
 くりちゃんが叫び、泣き崩れました。
「うああああ……」

       

表紙
Tweet

Neetsha