Neetel Inside ニートノベル
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 決意したというのに、心に誓ったというのに、何故自分は今こうして、三枝委員長とラブホテルに来ているのでしょうか? ほとほと自分の意思の弱さが嫌になりますが、とはいえ合理的に考えるとこれが最善の選択である事は間違いなく、断言しますが決していやらしい事をしにこのラブホテルに来た訳ではありません。
 意味が分からないかもしれませんが事実なのです。順を追って説明します。
 午前中のみのバイトを終え、1人約3000円ずつ、合わせて6000円程の給料を受け取った自分と三枝委員長は、どちらもぐったりと疲れた様子でした。自分は単純に体力面での疲労であり、三枝委員長の方は精神面での疲労です。
「働く事がこんなに辛い事だったなんて……」
 三枝委員長の漏らした言葉に、自分も心の中で同意しました。今まで当たり前のように享受していた衣食住は、全てその扶養者による労働の対価であるという当たり前の事実がリアルになって、社会という現実が恐ろしくも思え、また、母への感謝も湧いてきました。
「ああ、そうだった。五十妻君、ちょっと待ってて」
 三枝委員長はそう言って、1度出た事務所に戻ると、しばらくして封筒を持って戻ってきました。そしてその中から出てきたのは、1万円札が3枚。
「え!? どうしたんですかそのお金?」
 一瞬、三枝委員長が社長のを手や口でしてあげたのかという邪な思いが過ぎった自分はやはりクズです。
「工場の経営に関してちょっとアドバイスをしただけよ。今日働いていて目に付いた所とか、少しね。そうしたら謝礼にって。最初はいらないと言ったのだけれど、どうしてもって。きっとライバル会社への口止め料も含んでいるんでしょうね。あと、卒業後にうちで働かないかと誘われたけど、丁重に断っておいたわ」
 三枝委員長は至って普通の事をしたといった口ぶりでしたが、おそらく社長からしてみれば、それは目から鱗のアドバイスだったように思われます。例えその道の専門家でなくても、鋭い観察力と素早く正確な思考は至極のアイデアを生み、それは時に業界を革命させたりもするのです。
 例え将来、三枝委員長が三枝家から追い出されたとしても、その身に染み付いた帝王学は人の下にいる事を許さず、すぐに一定の地位へと駆け上る事が容易に想像つきました。何せたった3時間ばかりのアルバイト、それも撫でるだけの仕事だというのに、3万円も稼いだ上、就職先まで確保してしまったのですから、その才覚は恐ろしい物です。
 やはり凡人である自分などとは違うのだと再認識した所で、こんな提案が投げかけられた訳です。
「油の匂いが少しついたみたい。シャワー浴びたいわね」
 自分も荷物の上げ下げで随分と汗をかきました。
「大した仕事はしてないけれど、慣れないから疲れてしまったわ。どこか個室でゆっくり出来ると良いのだけど」
 自分も疲れています。座りたいというよりむしろ寝転がりたいくらいに。
「それと五十妻君に、出来れば2人きりで話しておきたい事があるの」
 自分も三枝委員長には話したい事と訊きたい事があります。
 2人の需要はぴたりと一致し、そしてそれに応えられる施設は自分の知る限り1つしか存在しませんでした。
 即ち、ラブホテルです。


 仕方なかったのです。
 三枝委員長の家は当然使えませんし、我が家もいつ母が帰ってくるか分からないので駄目です。また、デート中のカップル相手に部屋だけを提供してくれる友人を自分は持っていませんし、漫画喫茶等では話をするには周囲にいる人が気になります。
 だから決していやらしい意図をもってラブホテルに来た訳ではないという事だけはあらかじめ断言させていただきますし、三枝委員長もそういった意味でついてきた訳ではないと思われます。あの日、両親の前で2人とデートの約束を交わした時、デート中のそういった行為は禁止されました。いわば抜け駆け禁止というか、きちんと1人の女子に絞り、片方にけじめをつけてから正式に交際を始めるべきだと母からは言われ、自分もそれに同意しました。よって、ここは約束を守る意味で、絶対に三枝委員長には指一本触れないと誓います。
 入り口にて部屋を選び、ご休憩にて入室。一息ついた直後、三枝委員長からこう言われました。
「シャワー、五十妻君から先に入って」
 自分は首を横に振ります。自分は今ここにおいて、かつて無い程に紳士ですから、レディーファーストは当然のマナーです。
「でも、私長いし、お湯にも浸かりたいから……」
 と、三枝委員長。そうは言われても、早くシャワーを浴びたい気持ちがあるのは紛れも無い事実でしょうし、何より自分の後の風呂にこの高貴なお方を入れる訳にはいきません。慎ましく遠慮の意を持って断固先の入浴を薦めると、こんな提案が帰ってきました。
「……それじゃあ、一緒に入る?」
 仕方なかったのです。
 どちらも譲歩出来ず、かといって入らないという選択肢はなく、それにご休憩には時間制限がありますし、2人さえ良ければ誰にも咎められない状況なので、合理的に考えるとこの案が最も良い解決だったのです。2人で一緒にお風呂に入れば時間の節約にもなり、また、本来の目的である「互いを良く知る」という目標にも物理的な意味で一歩近づけます。
 ですから、何度も言うようにエロ目的などでは断じて無く、ただただこれがこの場における正解であったという訳で、自分は三枝委員長と一緒にお風呂に入る事になりました。
 久々に見る三枝委員長の裸身。目からもその柔らかな感触が伝わるような肌で包まれた肉体、滑らかに伸びる四肢は細くて長く、そして瑞々しさを持っていました。その下に骨の存在を確かめさせる鎖骨、恥骨、くるぶし、指のあたりが描く曲線は、艶やかに性的な何かを主張し、そこに舌を這わせてみたい衝動を揺り起こしました。
 胸、鮮やかな桃色の突起物を頂点とした山は、卑猥であると同時に神々しくもあり、もしもその2つの果実に挟まれる事が出来るならば全ての罪が許されるのではないかと思うほどでした。一方で、ふいに後ろを向いた時のたわわな尻の丸みは、数多くの男に道を外させ、痴漢という犯罪者を生みだす悪魔の装置であるように思えました。
 そして前方の割れ目と、美しく生えそろったクロスグリの野原は、近づきすぎれば崩壊するであろう自制心を予感させました。
「恥ずかしいから、後ろを向いて。背中を流してあげる」
 慌てて背中を三枝委員長に向けましたが、それは自分にとっても好都合でした。タオルの1枚下で祭りを起こしつつある息子を晒さずに済んだからです。というか三枝委員長にもせめてタオルをつけて入ってきて欲しかったのですが、露出癖のある彼女に言ってもおそらく無駄な事でしょう。


 仕方なかったのです。
 先ほど自分は三枝委員長には指1本触れないと断言したばかりでしたが、背中を流してもらったら、流し返すのが礼儀という物であり、それを逸するのば人としての道徳に反する行為だと思いました。ボディーソープで泡を立て、それを背中に広げていく作業はこれまで自分がしてきたどんな労働よりも心躍り、夢中でそれに興じました。
 三枝委員長に背中を流してもらっている時も、どきどきが止まらなかった胸の鼓動は更なる高鳴りを見せ、もしも今、後ろから覆いかぶさったら、彼女はどんな反応を見せるのだろうかという悪戯心がちくりちくりと心を刺しました。
「お湯の加減はいかがですか?」
 間が持たず、そう尋ねると、「……いいわ」とだけ答えが返ってきました。泡を流し終え、また眼前に美しい背中が現れると、自分は「終わりました」と声をかけます。
「もう少し、続けてもらえる?」
「え? でも……」
「あと少しなの」
 ? が ! に変わったのは、横にあった鏡を見た時でした。三枝委員長の指は、ご自身の秘所に伸びて、そして何やらその影で蠢いていたのです。頬はお湯で温まっているからではない理由で紅潮し、耳を澄ませば短い吐息が漏れています。
 おかずにされているという自覚を持った自分は、1度目よりもゆっくりと時間をかけて、三枝委員長の背中を洗いました。いや、確かにそういった行為は禁止されていますが、ですがこの場合はあくまでも三枝委員長の1人プレイですし、自分は鏡さえ見なければ気づかない場合も十分にあり得たのですから何の問題もないはずです。
 ぶるぶるっと三枝委員長の身体が震え、到達したのが分かりました。少しばかりの放心状態の後、それぞれ前を洗って、お湯を溜めた湯船に浸かりました。妙に気まずく、2人とも無言で、すぐにのぼせてしまいそうだったので、結局長い時間は入れませんでした。
 そして今度こそ本当に、自分は心に誓います。決して三枝委員長を襲ったりはしないと。自分はあくまでもルールを守り、欲望に負けたりなどはしません。
 仕方なかったのです。
 あんな物やこんな物を見せられて耐えられる男がいるでしょうか。いいえ、いません。いるはずがありません。
 お風呂を出て、バスタオルで水滴を拭くやいなや、自分は三枝委員長をベッドの上に押し倒しました。上から覆いかぶさり、口付けを交わします。
 それはまさしくあの日の再現でした。初めて三枝委員長にご自宅にお呼ばれした時。
 そして今度は、誰にも邪魔はされません。

       

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