Neetel Inside ニートノベル
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HVDO〜変態少女開発機構〜
第五部 最終話「変態」

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 自分という人間を、一言で分類するならば、「変態」である事はまず間違いなく、また、この文章を読んでいる方達の中に、自分の気持ちを分かってくれる、尊重してくれる人が少しでもいたのなら、それはこの上無い幸せであると言い切れるのです。
 誰よりも女子のおもらし姿を愛し、ただその為に戦い続けてきた自分が、今は2人の少女の操を守る為だけに戦うと言っているのですから、随分と進歩したものだと我ながら思います。いつかの午後、HVDO能力に目覚めた自分が抱いた高揚は今もこの胸にあり、尿に対する熱い気持ちは、ほんの少しも冷める事なく、そろそろガストのドリンクバーにも「美少女の黄金水」が必要なのではないかと訴える活動を始める準備を進めている所です。
 しかしながら、その前に自分にはしなければならない事があります。
 選択。
 人生とは選択の連続です。日々の選択が人の生き様という物であり、その人自身でもあり、選択する事こそが人の意思なのではないでしょうか。それは朝食をパンにするかご飯にするかといった些細な事から、就職をするか進学をするかといった大きく人生を左右する物まで、悩みだしたら限りの無い迷路を、我々は歩いている訳です。
 その中でも、今日これから自分のしようとしている選択は、自分の人生のみならず、他人の人生まで大きく左右する重要な物であり、安易には決められませんが、決めなくてはなりません。
 支度、というにはちょっと大げさなくらいの出かける準備を済ませ、家を出ました。すぐに忘れ物に気づいて戻り、食器棚からちょうど良いサイズの蓋つき小瓶を取り出し、ポケットに忍ばせました。何に対してちょうど良いのかは、作戦上今は伏せておきますが、自分はこの小瓶を利用する瞬間が来ない事を心から祈っています。
 再び靴を履きなおし、大通りに向かって歩き出した時、背後から呼び止められました。
「おい、五十妻」
 その声には聞き覚えがあり、思い当たる人物に間違いがなければ、無視しても一向に構わないと思ったのですが、流石に最後の最後ですし、この人に出番を与えてもいいかなという配慮で振り向きました。
「何ですか? 等々力氏」
 等々力氏はそのへらへらにやにやした面を相変わらず恥ずかしげもなく晒しています。
「決めるんだろ? 今日。一言だけお前に言いたくてな」
 何を偉そうに、と心の中で毒づきつつも、黙って聞きます。
「どちらを選ぶにせよ、選んだ方を必ず守れよ。それが男ってもんだ」
 思い出したかのように悪友ポジとして振舞うこの男に、自分は愛想をつかしています。「はぁ、分かりました」と生返事をして歩き出すと、等々力氏はそそくさと寄ってきて囁くようにこう言いました。
「仮にお前が委員長を選んでも1.5乳首の件だけはよろしく」
 この期に及んでなお、おっぱいの事を優先する等々力氏。普通なら、最低な人間であると断ずるのでしょうが、自分は違いました。それでこそ、それでこそおっぱいマニア。オパビニア。自分は等々力氏の事を、変態の友人として実は尊敬しているのです。
 やがて我々は熱い握手を交わし、別れました。
 大通りに出て、すぐにタクシーは捕まりました。平日の昼前に高校の制服姿で乗り込んできた自分の事を運転手さんは不審な目で見ていましたが、行き先にとある高級ホテルの名前を挙げると、ますます疑惑は深くなったようでしたが、青少年の健全な育成はタクシードライバーの義務ではありませんし、距離がワンメーターという訳でもないので、車は無事に動き出しました。
 流れる景色を視界に捉えつつ、やはり自分が想うのは、2人の少女の事でした。


 母からその奇想天外な崇拝者との出会いを教えてもらった後、再び自分はくりちゃんと2人きりになりました。互いに何かを話し出すのが気まずく、しばらくは重い沈黙が流れていましたが、窓の向こうから聞こえる雨が、不意に止んだ瞬間、くりちゃんがこう切り出しました。
「子供の頃、白雪姫の絵本が好きだった」
 自分は相槌を打つでもなく黙って耳を傾けます。
「元のグロい話じゃなくて、キスで目が覚める方の奴な」
 そういえば、聞いたことがありました。ディズニー版の白雪姫はかなり子供向けに脚色されていて、元の話は王子が死体愛好家で、しかも目覚めるのもキスではなくて家来の不注意だったというロマンスもへったくれもない物であったそうです。
「絵本を読んだ時、子供の頃のあたしは、キスで目が覚めるのは逆が良いなって思ったんだ」
「逆、と言いますと?」
「だからさ、王子様が毒りんごで寝ていて、それを白雪姫が起こす方が良かったんだ」
 擁護するわけではないですが、あくまでも子供の頃の話ですので、物語のお姫様と自分を完全に同一視している痛さについては見逃しておきましょう。
「……どうしてですか?」
「だって……恥ずかしいだろ。相手が王子様なら、勝手にされるのは百歩譲って許せる。だけどな、あたしのキス顔を覚えられるのだけは死んでも嫌だ」
「キス顔と言ったって意識はないんですから、普通の寝顔じゃないですか?」
「どっちも嫌なんだよ。こっちがキスする側ならするだけして逃げちゃえばいいし、相手には何も見られない。だからそっちの方がいい」
 分かるような分からないような妙な理屈ですが、その辺が捻じ曲がって性癖となっているという事でしょうか。
「それに……いや……やっぱいいや」と、くりちゃんが言い淀んだので、幼馴染スキルで察します。
「知ってますよ。キスすると子供が出来ると思っていたんでしょう? 小学生の時、得意げに言っていましたね」
「んなっ……」
 絶句するくりちゃんに畳み掛けるように言います。
「家で一緒に映画を見ていて、ヒロインが死に際に男とキスをしているのを見て怒ってたじゃないですか。赤ちゃんがかわいそうだ的な事を。当時から自分は真実を知っていましたけど、面白いから黙っておきましたよね? それで別の日に冗談で顔を近づけたら滅茶苦茶焦ってたのを覚えています」
「お前なんでその時言わなかった!? あの後お母さんにキスされそうになった事を真剣に相談してあたしは恥かいたんだ!」
 恥ずかしい事が嫌いなのに、恥ばかりかいてしまうのは、もはや宿命のような物なのでしょう。
「……でも、本当は妊娠するにはそれ以上の事をしなくちゃいけないって知った時は最悪だった。キスでさえ恥ずかしいのに……」
 守らなければ。何としてでも。何をしてでも。


 ホテルに着き、指示された部屋をノックすると、母がドアを開けて自分を招き入れました。
「顔色が悪いな。どうした?」
 少し心配してくれたので、、
「大丈夫です」
 と、一応答えておきました。
 部屋に入ると、崇拝者こと我が父が、どっかりと1人用ソファーにその身を預け、自分を待っていました。いえ、待っているのは自分ではなく、自分の答えかもしれませんが。
「勝機のある目だ」
 第一声、自分を見て父は言いました。当然、今日に向けてそれ相応の企みを持ってきた自分は一瞬だけギクリとしましたが、バレてはいないと踏んで行動します。それしかありません。
「この場合の勝利とは?」
「それはお前自身が良く知っているだろう」
 言いながらもほとんど表情を変えない父に、鏡を見ているような感覚もちょっとあって、やはり不快になります。
「さて、木下くりと三枝瑞樹。どちらを選ぶのか、答えは決まったか?」
「はい」と、自分は即答します。
「ほう、そうか。予想ではまだ悩んでいると思ったが、それも計画の内か?」
 断言しますと、もちろん計画の内ですが、わざわざ敵を目の前にして、そう宣言する理由がありません。
「計画の内です」
 気づくと言ってしまっていて、自分でも驚きました。
「……面白い。だが、まあ、いい。見ろ、ここに2つの鍵がある。木下くりと三枝瑞樹は、それぞれの部屋で既に待機している。お前はこれから片方の鍵を選んでその部屋に行き、そこにいる女とSEXをしてもらう」
「え? 今日ですか?」
「その為にわざわざこのホテルに部屋を3つも取った」
「しかし、コンドームも何も持ってないのですが」
「男なら生でやれ」
 親父から息子への初めての教えとしては、いささか野蛮な趣です。
「……分かりました」
「お前の取らなかった鍵の部屋に、俺が行く」
 自分は2つの鍵を見つめます。ご丁寧に、それぞれの鍵には付箋で名前が書かれ、間違いが無いようになっています。
「さあ、選べ」
 これ以上、父の前にいるとボロが出てしまいそうなので、とっとと選びましょう。
「では、こちらを」
 自分は「三枝瑞樹」と書かれた方の鍵をあっさり手に取り、迷い無く部屋を出ました。

       

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