Neetel Inside ニートノベル
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 千切った貞操帯を、ベッドの上に放り捨てると、崇拝者はあたしの股間を見てこんな事を言い始めた。
「触らなくても分かるくらいに滑らかな肌が、太ももの付け根に向かってしなやかに曲線を描いている。1つの染みもなく、1つの黒ずみもなく、かといって真っ白ではない、穏やかで優しい薄桃色だ」
「ちょ、何で実況してるんだ」
 あたしの突っ込みも聞かずに、崇拝者は続ける。隠そうとした手はすぐに握られて、性器を露出したまま、へっぴり腰になる。
「腰から続くこのラインは、普段人の目に触れる事はなく、君だけの秘密だ。それをこうして丸出しにしている気分はどうだ? いや、答えなくていい。顔を見れば分かる」
 平静を取り繕おうとする努力すら出来ない。きっと真っ赤になった顔は、しばらくそのままだ。
「次に見えるのはその毛だ。恥ずかしそうに生える申し訳程度の背の低い草。色は黒か。随分短いようだが、処理してる訳じゃない。そうは見えない。全体を満遍なく覆うでもなく隠すでもなく、ただそこにちょこんと生えかけた陰毛が、君の人柄を良くあらわしている。尻の方はどうなんだ? ここからは見えないが」
「いちいち言葉にするなぁ……!」
「まあいい。今はその恥丘についてのみ集中しよう。となれば、何と言ってもその毛の下に見える割れ目について言わなければならない。ぷっくりと盛り上がった部分で出来た細い1本すじ。これを見て指でなぞってみたくならない男がいない訳がない。ほら、そんなに前かがみになったらよく見えないぞ」
 両腕を片手で押さえつけられてるせいで、空いた右手で腰を前に引き寄せられた。わざわざ部分を強調するような格好にさせられて、顔が燃やされたように熱くなる。
「ふむ、なるほど。すじには例の恥毛が生えているが、性器の周りはどうやら相当薄いらしい。まるでその部分だけしっかり見て欲しいと言っているような物だな。違うのか?」
「……違う」
「そうか。なら随分といやらしい身体に生まれてきてしまったらしいな」
 あからさまな侮辱と挑発。怒りを覚えたけど、これ以上耳を貸してはダメだとも思う。
「それじゃあ、割れ目の中も覗いてみようか」
 その言葉に、びくん、とあたしの身体が跳ねる。
「おや? その反応。もしかして……」
 すっ、と崇拝者の右手が伸びる。あたしは咄嗟に腰を引っ込めて逃げようとするが、無駄な抵抗だった。
 あたしが意図せず作ってしまった三角形の中に、もぞもぞと手が入ってくる。引っかかないようにという気遣いがまたムカつくが、それとは別に、認めたくない厄介な真実を崇拝者は白日の下に晒した。
「これは何かな?」
 認めよう。確かにあたしは濡れていた。
「これは何かな?」
 手を差し入れ、取り出し、質問。入れ、出し、問い。繰り返す事約10回。その度に崇拝者の指の湿度は上がっていく。入、出、問。あたしが答えるまでこれは続いた。
「これは何かな?」
「愛液だよ!!!」
 いよいよ観念してそう叫ぶと、あたしの身体はベッドに叩きつけられた。


「ただ見られて、言葉を聴いているだけでこの有様。こんなにいやらしい娘には、お仕置きが必要かもしれない」
 崇拝者の手がベルトにかかった。あたしは必死に震えを押さえ、言葉を搾り出す。
「貞操帯が破られる事は、あいつも予想していたんだ」
 これは咄嗟の思いつきや悔し紛れの嘘ではなかった。前日、「何せ世界中を犯して回る男ですから、貞操帯の1つや2つ、突破してくる可能性があります」と、確かに言っていた。
「ほう。なら、やはり君は犯されるつもりだったのかな?」
 ベルトを解除する動きは止まった。まだ、策はある。
「違う。ただ、破られたら崇拝者にこう訊けと言われている」
 あたしは真剣に、まっすぐと崇拝者を見つめて尋ねる。
『処女のおしっこは飲んだ事があるか?』
 瞬間、ほんの少しではあるが、崇拝者の顔から余裕が消えた。
「言われてみれば、無かったかもしれないな。怯えた処女におしっこをひっかけられた事はかつてあったが、飲んでみようとは思わなかった」
 ここまでは、あいつの予想通りだった。崇拝者の性癖はあくまでも「処女」であり、それを奪う事までが崇拝者の求める行為だ。対しておしっこをかけたりかけられたり飲んだり飲ませたりなんてのはいわば邪道なやり方であり、これまでいかなるキャリアがあろうと、見過ごしてきた可能性が高い。
「それで、何が言いたい?」
「処女のおしっこには特別な力がある」
 言っているのはあたしだが、決してあたしがそう思っている訳ではない。あくまでもあいつの見解だ。
「ほう。興味深い。セックスを経験した女としていない女で、おしっこにも差があるのか」
 馬鹿にした口調に、あたしも心の中では同意する。だが、あいつの中では、あいつの持つ常識の中では、処女のおしっこが特別なのは確定事項なのだそうだ。
「分からない。飲んでみるか?」
 と、あたしは誘う。
「いや、やめておこう。第一、俺は処女じゃないおしっこも飲んだ事がないから違いが分からない」
「そうじゃない。重要なのは、あたしの、処女のおしっこを飲んで、お前が『特別な力』を感じるかどうかだ」
 崇拝者は少し考え、含み笑いをした。
「なるほど、考えたな。次にこう持ちかけるつもりだろう。『処女のおしっこを飲んで何かを感じたのなら、その正体を教えるまであたしの処女はとっておけ』と」
 見透かされた。けど、それでいい。
「面白いじゃないか。だが、俺が君のおしっこを飲んで、何も『感じなければ』その時点で君は犯される事になる。ましてや必要以上に待たされるのだから、いつもよりも荒っぽくなるかもしれない。それでもいいのか?」
「……構わない」
 あたしは胸を張って答える。根拠はないが信頼がある。あいつが言うのだから、今は信じるしかない。


 アメニティのマグカップを用意して、その上で私は股を開いた。しかもそれを見られている。死ぬ程恥ずかしいけど、今出来る事はこれしかない。性器に両手を添えて、出来るだけ狙いをつけて、男がする立ちションみたいなポーズで、その時を待った。
「ここまでしなくとも、大人しく犯されれば気持ちよくしてやるのに」
 崇拝者は呆れ気味にあたしの恥態を眺めている。
「貞操帯はフェイクで、こっちが本当の策だったのか? 我が息子だと思って過大評価しすぎていたかな」
「黙れ、気が散る」
 あたしはじっとマグカップを見つめ、放出を開始する。やっぱり自前のホースを持たないと難しいようで、少しこぼれた。
「おいおい、汚いな。しかもそれを俺に飲ませようというのか。どこまで変態なんだ君達は」
 お前が言うなと言う事すら最早億劫だ。あたしは放尿を続け、マグカップが並々黄色い液体で満たされた。ティッシュで軽くふき取り、マグカップを持って崇拝者の下へ。1番屈辱的な瞬間だった。
「あたしのおしっこだ」
「見てたから分かる」
「……飲め!」
 崇拝者がマグカップを受け取る。その表情からドン引きしている事が分かるが、今は耐えるしかない。
「どんな罠かは知らないが、あえてかかろうじゃないか」
 崇拝者はそう言って、マグカップを軽く掲げ、乾杯のような仕草を取った。そして、口に含んだ。
 1口目はほんの少し。中で味わっているようだったが、表情は変わらない。
 2口目はもう少し多く含み、顎を上げて喉で味わっている。ここで少し顔が険しくなる。
 3口目で全てを飲みきった。ごくごくと勢い良く、ビールのCMみたいに一気飲みした。
 そして一言。
「これは……何だ?」
「尿だ。あたしの」と答えると、崇拝者は首を横に振る。
「いや、そういう意味ではない。想像していたのとまるで違う。一体何なんだ……」
 ちなみに、これはあいつのHVDO能力でもなければあたしのでもない。ただただ純粋に、あたしはおしっこをしただけの事だ。
 不思議そうな顔をして、飲み干したマグカップを見つめる崇拝者。重い沈黙と今更ながら酷くなっていく羞恥心。
 何だこれ?
 まだまだ、あたしは変態の領域に達していないらしい。
「……よし、分かった。元樹の心意気を汲んで、君の処女を奪うのは後にしよう」
「後に、だと?」
「もう気づいているんだろ? 俺の本命は君じゃない。元樹が選んだ方だ。君はその後でもいい」
 ここからがあいつの、三枝さんの、そしてあたしにとっての本当の戦いだった。

       

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