Neetel Inside ニートノベル
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<計略、三枝瑞樹>

 いかにして、私が変態である事を五十妻君に伝えるか。それが問題です。
「私は変態なので、良ければ調教してください」
 と頼み込むのは、最終手段ではありますが、理想形ではありません。ではどのように調教される流れに持っていくのがベストか? 数々の露出モノの作品を吟味してきた私が自信を持っておすすめするのは、「脅され」これに限るのです。
 本当はこんな事したくないのだけれど、弱みを握られて仕方なく……ああでも、命令される事が段々と悦びに変わっていく。ご主人様は、私の本当の姿を見てくれる。叱ってくれる。お仕置きをしてくれる。そして許してくれる。歪な繋がり。だけど美しい絆。
 そんな関係を五十妻君と結ぶにはまず、私の弱みを五十妻君に握ってもらう必要があります。よって、私は作戦を立てました。
「五十妻。お前今日の放課後残れ。昨日の事で話がある」
 私は担任の先生にこう提案しました。「五十妻君と木下さんをこのまま放っておいても良いのでしょうか。やっぱり、生徒同士のトラブルはもっと詳しく知っておき、取り返しのつかない事態に陥る前に対策を立てるのが最善だと思います」当然の事ですが、私の意見は他のどの生徒よりも尊重されます。提案を受け入れた担任は、五十妻君に残るよう言いつけ、放課後、生徒相談室にて、五十妻君、担任教師、そして私の三者面談が成立しました。
 部活をしている生徒達の掛け声が聞こえます。冬夕日の差す教室の中は、重苦しい空気。何を聞いても、昨日と同じく「知りません」の一点張りを続ける五十妻君に、流石の担任もイライラを隠せず、貧乏揺すりが続いています。事情聴取が始まって、既に一時間半が経過しました。そろそろ頃合でしょう。
「……先生、よろしければ席を外していただけませんか?」
「ん? どうしてだ三枝?」
「生徒同士でしか話せない事もあると思うんです。一度五十妻君と二人っきりで、話をさせてください。そうすれば、何か話してくれるかも」
「いや、しかしだな……二人にするのは……」と、渋る担任。
「大丈夫です。決して間違いは起きません」
 自信を持って断言をする私。これから間違いを犯そうとしているのは、自分の方なのですが。
「五十妻君、良いよね?」
 同意を求めると、五十妻君は「知りません」と答えました。心ここにあらずどころか、脳みそも心臓もどこかに置いてきてしまったようです。ただ投げかけられた言葉に対して「知りません」と返すロボットと化しています。


<考察、五十妻元樹>

 三枝委員長と先生が、あらゆる角度から様々な質問を投げかけてくる間、自分は能力の運用と、これからの方針について考え続けていました。
 くりちゃんは、昨日の「木下くり体育授業中大失禁事件」についての擁護と弁護を自分に依頼した上で、この命令に従わなければ、カシナートの剣で一物をすっぱり切り落とすと断言しました。無論、というか他の選択肢等無く、自分はそれを了承しましたが、よくよく考えてみると、非常に困難な任務であるように思えたのです。
 まず説得をするには、自分に例の超能力があると証明しなければならない訳ですが、これが第一の関門です。三枝委員長に、「これから自分があなたに触れたら、おしっこが漏れますので、それが私の超能力です」と説明したとしたら、果たして触らせてもらえるのでしょうか。冷静に、一般的思考回路を働かせてみれば、警察か精神病院に直行するのがオチなのではないでしょうか。百歩譲って触れる事が出来たとして、漏らさせる事が出来たとしても、やはり異常事態として国家権力の介入があるような気がしてなりません。地下の研究所に拉致され、モルダー的な人とスカリー的な人に自分の体の隅々までを調べられる予感がビンビンにします。いくら変態御用達の、人類にとって多分何の利益にもならない超能力だとしても、そこに非日常の要素が欠片なりともあるのなら、それを許さないのが国家の守るべき秩序という名の巻き糞なのです。更に更にもう百歩譲って、三枝委員長がこの超能力を認めた上で、警察に通報しなかったとしても、正義感の塊のような三枝委員長は、クラスの他の女子達を自分の魔の手から守る為に、ありとあらゆる手段を使うはずです。そうなれば、少なくとも学校における今後の活動は絶望的。というかイジメられます。
 こんな状況下で、どのようにして、くりちゃんの名誉を守る事が出来るのか。いえ、もう既にくりちゃんに名誉など無いのではないでしょうか。あれだけ派手に漏らした後で、いくら気取ってもそれは偽飾に過ぎません。
 ちんこは切られたくない。しかし能力は使いたい。くりちゃんはもっとおもらしをするべき。これら三つの願望を全て同時に叶えるには、それこそ魔法のランプレベルのアイテムが必要になってきます。
 そうそれから、等々力氏に勝利して手に入れた第二の能力の件も、考察の余地があります。自分の得た新しい能力は……。
「五十妻君。……五十妻君? ……五十妻君!」
 思考を遮って、三枝委員長が肩を揺すりました。自分はようやく置かれている状況を思い出し、「帰っても良いんですか?」と訊くと、「本当に何も聞いていなかったみたいね」と呆れ気味に、三枝委員長が呟きました。気づくと先生はどこかに消えて、自分は三枝委員長と密室に二人きりでした。


<抜刀、三枝瑞樹>

 五十妻君は今までの流れにこれっぽっちも耳を傾けておらず、見てもいらないらしく、先生が居なくなっている事にまず驚いていました。間違いなく困った変人ですが、それは私にも言える事。目を瞑りましょう。
 重い沈黙。先生が居ようと居まいと、私が能力者である事をまだ知らない五十妻君にとっては、能力の事など気軽に話せるはずがありません。それは分かっていましたが、こうして私以外に目撃者がいないとなれば、油断して、能力を私に使用してくる可能性は高まります。それが私の立てた作戦。名づけて、「二人っきりの放課後、犯される露出少女スプリンクラー、始まってしまった陵辱の日々」です。
 私は黙して五十妻君の動きを待ちましたが、一向に動く気配がありません。五分十分と待てども待てども、五十妻君は空虚な視線を宙にさ迷わせています。木下さんの証言によれば、五十妻君に「触られた瞬間」に、おしっこが漏れたと言います。つまり、五十妻君の能力は、「触れる」という事が条件になっているはず。五十妻君に、触ってもらえるにはどうしたら良いか。中学生の男子と女子が、ごくごく自然な流れで、相手の体に触れるにはどうしたら良いか。私が思いついたのは、かなり苦しい言い訳でした。
「五十妻君、手相、見てあげる」
 手相なんて信じていないし、見る事も出来ないのですが、はったりをかまさせて頂きました。五十妻君は、「いきなり何を言い出してるんだこいつは」と言うような怪訝な眼差しで見てきましたが、ここは仕方ありません。五十妻君の前でおしっこを漏らし、それを弱みとして握ってさえもらえばこっちの物なのですから。


<応戦、五十妻元樹>

 手相? いきなり何を言い出してるんだこいつは。
 と、一瞬は思ったものの、自分の能力にとってこれ以上のチャンスはありません。相手の同意の上で、体に触れる。両手見るとしたら、二回触れる。ある程度尿が溜まっていれば、それで決壊まで持っていける事に気づくと、自分の内側に住む、性癖という名の悪魔が舌なめずりをしました。
 が、今はどうにかしてそれを押さえ込まなければなりません。
「いや……あの島田と言う男はどうにも信用ならないので、いいです」
「何の話をしているの?」
 断ると、三枝委員長は残念そうに、俯いてしまいましたので、悪い事をしたかな、と後悔しつつも、これで良かったはずだ、と肩の力が抜けました。
 しかし惜しい。この気丈で美しい、全校生徒の手本たる優等生の三枝委員長が、赤ん坊のようにはしたなくおしっこを漏らす様が見られるチャンスをわざわざ逃すとは。非常にもったいない事をした気分になりました。
 今は能力を三枝委員長に発動させる訳にはいきません。そうした途端に、自分の人生は終わってしまいます。


<逡巡、三枝瑞樹>
 何故。私の頭の中はクエスチョンマークで一杯になりました。
 五十妻君が能力を使うのに、これ以上のきっかけは無かったはずです。相手に触れるという事以外に何か、発動条件があるのでしょうか。いや、それとも……。ある考えが浮かびました。
 五十妻君は、私に魅力を感じていないのでは?
 人がおしっこを見て喜ぶ変態は、当然、好きな人間がおしっこをする所を見たいはずです。もしくは相手が嫌いな人間ならば、それはそれで、無様に漏らす姿を見たいはず。そのどちらでもないという事は、私は五十妻君にとって全くの興味対象外。アウトオブ眼中インサイド死角。「好きの反対は無関心」という言葉を思い出しました。
 そんなはずは、そんなはずはありません。私の容姿は、全国レベルでも間違いなくトップクラス。しかも、(表面上は)性格も良く、誰からも愛されて然るべき人物のはず。私に恋しない男など、いや女でも、いるはずがない。
 気づくと、私は立ち上がっていました。私を、時間をかけた考察ではなく行動に移させたのは、打算ではなくプライドでした。木下さんの件から考えて、間違いなく五十妻君はご主人様の素質がある。私にもきっと、奴隷としての素質がある。二人が成り立たない訳が無い。
 いきなり前は流石に恥ずかしかったので、後ろを向いて、教室の窓からグラウンドを見下ろすフリをしながら、私は、「2秒間だけ全裸になれる能力」を発動させました。
 同じクラスの男子の前で、今、私は素っ裸で立っています。一糸纏わぬ肩を、背中を、ふとももを、そして両親と乳母以外には誰にも見せた事の無いお尻の割れ目を、学校で毎日顔を合わせる赤の他人に、見てもらっています。いえ、もしかしたら、見る角度によってはそれ以上の物が見えてしまっているかもしれません。
 今までの私の人生の中で、最も長い2秒間でした。生まれて初めての露出行為。変態行為。性器に触れてすらいないのに、絶頂を迎える寸前でした。
 服が戻り、私はゆっくりと後ろを振り返りました。紅潮する私をじっと見つめる五十妻君の鼻から、たらりと鼻血が垂れました。

       

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