Neetel Inside ニートノベル
表紙

HVDO〜変態少女開発機構〜
外伝「幼女ドネイト」

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 私、と自分の事を表現しても、許されるものかどうか、それすらも自信は持てませんが、日記という物は本来主語の塊であるようにも思えるので、私の事を私と呼ぶ許可をまずは頂き、これを始まりとしました。
 私が日記という形を選んだのは、自分を表現する手段がそうあまり多く無い事に気づかされたからです。マスターは、「何でもいい」と仰られましたが、真っ白な紙を前にした時、唯一私が筆を動かす事の出来たのが日記であったのです。拙い文章での、ほとんど覚書と呼べるような代物ですが、しかしこれしかマスターの命令を実行する手立てはなく、また、私自身にとってもこれは貴重な体験となり得るように思うので、書こうと思います。
 私の最初の記憶は、今こうして筆を動かしているこの部屋、とある街のとある廃病院の一室に螺旋状に遡ります。と言っても、せいぜい1週間ほど前の出来事ですが、私にそれ以前の記憶は無いので、あまり大仰な言い方ではないかと存じます。そこはマスターの暮らしていた部屋であり、ここは私の暮らしている部屋でもあります。仔細は不明ですが、かつては機能していた病院が潰れ、当然に患者もいなくなり、取り壊しもされないまま、人々の記憶から忘れ去られていき、今ではせいぜい夜中に行くあてのない若者が酒盛りをしにくるか、心霊スポットの1つとして来訪されるといった用途にしか使われなくなってしまったような寂しい場所です。しかし病院の中庭には、立派な百日紅の木が1本植えられており、今でもこの木は夏から秋にかけて元気に桃色の花を咲かすらしいのですが、それを楽しみにしているのはどうやらマスターだけのようでした。
「君、名前はあるのかい?」
「いえ、まだです。マスター」
「それじゃあ何て呼べばいいんだろうね?」
「マスターがお決めになってください」
「じゃあ……」と、マスターは緩やかな表情のまま、「『淫乱雌豚M奴隷ちゃん』というのはどうかな?」
「よろしいかと」
「はは」
 マスターは爽やかに笑うと、私に再び尋ねました。
「で、君は誰?」
「私は、淫乱雌豚M奴隷です」
「……今のは冗談だよ。まあ、名前の件は、とりあえず保留にしておこうか」
 これが、私とマスターの最初の出会いでした。
 その時、というより私は今も、私自身の事をよく知りません。しかしマスターの事は1番良く知っている存在でありたいと願っています。私をこの世界に召還し、私に実在をもたらし、そして生きる意味と沢山の精子を与えてくれたマスター。
 その御名は春木虎。唯一無二にして絶対的存在。私にとっては両親であり、想い人であり、ご主人様であり、神である人。
 恐れながら、私も自己紹介をするならばマスターである彼のHVDO能力にって発生したただの幼女、といった所です。


 そもそもHVDOとは何か? という疑問に関しては、私の口から語られるべき事では無いのでしょうし、これはあくまでも私の日記ですから、この疑問はそっくりそのまま、私の疑問となっています。私がマスターやその他のHVDO能力者から知った限りの情報を整理しますと、HVDO、変態少女開発機構という機関は「才能ある」変態に特殊な能力を与え、その機関名の意味する通り、変態的な少女を開発していこうと企む組織のようです。組織に悪や正義といった称号をつけるのはいささか幼稚な気もしますが、現代日本の法制度及び社会通念に則って言えば、HVDOは間違いなく悪の組織であると思われます。ですが、悪であろうと正義であろうと、私にとってはマスターのお考えが全てですので、マスターがHVDOを良しとすれば良しですし、悪とするならば悪と断ずる事になるでしょう。
 私が産まれたのは、紛れも無くHVDO能力に起因しますが、私の忠誠が順ずる所は唯一マスターのみであり、私はマスターが死ねと命じれば死ぬ存在です。これも少し幼稚な話ですが、言葉通りの意味と捉えてもらって構いません。
 ですが、私は死なないような気がします。一度この心臓が鼓動を止めたとしても、再びマスターが私に生きる事を望めば、私は蘇る事が出来るという確信があるのです。唐突と思われるかもしれませんが、今、ふとそう思った事は書いておきます。
「この姿に見覚えがあるかい?」
 私が生まれた次の日、マスターは大きな鏡を買ってきて、私の目の前に立てました。そこには当然、私の姿が映っており、服は着ていません。小学校3、4年生くらいでしょうか、まだ陰部の毛は生えておらず、乳首は曖昧な薄紅色をしています。表情はありませんが、顔の造り自体は、自分で言うのも何ですが整っているように思います。髪は黒のロングで、肌には少しの穢れもなく、若さと幼さというエネルギーをパンパンに詰めたようにハリがあります。
 私はマスターの質問の意図が分からず、首を傾げましたが、マスターは鏡を私の目の前に近づけ、答えるようにと促しました。
「分かりません」
 正直にそう答えると、マスターは私の頭を撫で、その名前を口にしました。
「この形は、木下くり、という。君は……」
 言いかけ、やめて、ぽんぽん、と頭を撫でて優しく言葉を終わらせるマスター。私は追及しません。する権利など最初からないのです。
 私でなくとも大抵の人がそうだと思いますが、生まれる前の記憶はありません。ただ私が普通と違うのは、おそらく生まれる前までの過程が無いという事でしょう。普通の人には例え1度も会った事がなくとも両親がおり、この世に生を受けて間もなくの時間を守ってくれた人がいるはずです。それが私にはありません。私が生まれたのはつい1週間ほど前の事であり、初めから言葉を覚え、一般的な行動規範を踏襲し、持っていたのはマスターに仕えるという使命のみでした。おへその穴はありますが、それは誰にも繋がっていなかったはずです。尋常ならざる生命と表現出来るかもしれません。
 木下くり。
 私が彼女そっくりに造られた理由は、マスターの趣向を置いて他に無いはずですが、しかしその意味は他にあるような気もしています。私ごときがこのような疑問を持つこと自体、おこがましい事なのかもしれませんが、正直に、思った事を書く事を間接的に命令されている以上、勇気を持って書いてみた次第です。


 1週間、毎日、ほぼ1時間おきにマスターは私に性行為を要求しました。マスターの性欲ははっきり申し上げて異常です。性欲の権化です。セクシュアルモンスターです。爽やかで清潔で、完璧に均整のとれた美しい顔と身体を持ちながら、その裏に蠢く肉欲は既にこの世の物とは思えません。
 時には恋人同士のように甘ったるく、時には犯罪を匂わせる程にいやらしく、私をひたすらに責めました。中でも酷かった物をいくつかあげると、肛門にマスターお手製のカレーを注入され、一晩寝かせた上で召し上がられるというロリコン熟カレー。全裸の上にクオリティの高いボディーペイントを施された上で見ず知らずの子供に混ざって遊ぶロリコン公園デビュー。性器に小型のスプレー缶を挿入した状態で深夜徘徊しピースを描いていくロリコングラフィティ。マスターの要求するプレイは私ごときには理解出来ない程に高い領域にありましたが、私がそれによって快感を得ていなかったといえば嘘になります。私には人並みの性がありました。果たして私が本物の人間と呼べるのかについて、確かな事は言えなくともです。
 命令されて書いた物ですから、当然この日記はマスターに読まれる事になりますが、とはいえ、だからといって、マスターに伝えたい事を書いたり、マスターに伝わって欲しくない事を書かなかったりする事はむしろ許されない事であると思います。私はあくまで日記を書いているのですから、繰り返しになりますが、思う事をそのままに書く必要性があります。私の思う事とはつまり、マスターの事です。
 私はマスターの第9能力によって召喚されています。そしてHVDOのルールとして、他のHVDO能力者と性癖を賭けたバトルをして、9連勝をした暁には、世界を望むままに改変出来る権利が与えられると聞いています。つまり、マスターはあと1度、誰かとの勝負に勝てば、世界をマスターのようなロリコンが住みよい環境に改変するはずなのです。LOがコンビニで手に入る世界、あるいはひなげしの花が咲かない世界。
 にも関わらず、マスターは他のHVDO能力者と積極的に戦おうとしません。
 つい3日前、「コスプレ」の能力を持つ外国人の方が、マスターの噂をどこで入手したのか訪れてきた事がありました。彼は拙い日本語でマスターに勝負を挑みましたが、マスターはそれを拒否しました。正確な経緯は、まず私に敵HVDO能力である「コスプレ弾丸」が命中し、一旦は乳首チラ見せスリングショットという姿になりはした物の、マスターが即時ご自身の着せ替え能力で上書きし、局部穴あきスクール水着という解答を見せ、その時点で既に勝負は決しました。敵HVDO能力者は明らかに私の幼い身体に欲情していたのです。追い討ちにローレグトップレス水着から濡れ透け白水着の水着コンボを叩き込んだ後、トドメに真っ裸をぶっぱすれば簡単に勝てるように私には見えましたが、マスターはそれをしませんでした。
 高レベルHVDO能力者に戦いを挑む以上、このように一方的な展開となる事は敵も覚悟していたはずです。所有する能力の数が根本的に違うのですから、自分にとって切り札である能力が、相手の持つ能力の1つで完封されてしまう事は予想も容易く、その戦いも、例外ではありませんでした。
「……ドウシタ。トドメをサセ」
 日本人より日本人らしい潔さで、服の上からでもうっすらと分かる程度の半勃起を見せていたお方に、マスターは慈悲に満ちた表情を見せ、
「最初から負けるつもりで来たのかい?」
 と尋ねました。
 男は俯いて首を横に振ります。
「勝ツツモリで来タ。実力が、足ラナカッタ」
 敵の立場からしてみれば、当然、ロリコンの望む世界は、ムチムチボディーもだるだるボディーも存在しないはずで、となれば「コスプレ」の性癖を持つ彼にとっては、必然選択肢の少ない物であるはずです。マスターが世界改変態まで王手であるという事実を知り、いても立ってもいられなくなったのでしょう。コスプレ界の未来を背負い、明日すぐにでも起き得るつるぺたインフレーションを憂い、単身突撃してきた彼の事を、誰が貶す事が出来るでしょうか。もちろん、マスターに敵うはずなどありませんが。
 マスターの慈愛は留まる所を知らず、挙句の果てにはこうなりました。
「君のコスプレ能力、せっかく弾丸を使うなら、暗殺に特化した方が強いんじゃないかな? 他のHVDO能力と違って射程がある訳だからさ。例えば、戦闘の宣言をした後一旦身を隠して、狙っているHVDO能力者の近くにいる女子をどんどんコスプレさせてダメージを与えるといった使い方はどうだろう。一方的に攻撃出来る反面、コスプレが他の性癖との親和性が高い事による君自身が敵に見つかった時のリスクは確かにあるけれどね。コスプレスナイプこそ君のHVDO能力の真骨頂だと僕は思うが」
 というアドバイスを、全て流暢な英語で施すマスター。先方はただ黙ったまま、注意深く怪物を観察するような目で、マスターの事を見ていました。
「余計なお世話だったかな」
 マスターは少し照れたように、悪かったね、と付け加えました。


 そしてそのまま、赤子の手を捻るよりも簡単に倒せるであろう憔悴した敵を見逃し、マスターはやれやれと一息ついたように私の頭を撫でました。私はその時、何故戦わなかったのか、勝利し、第十能力を得て、世界を物にしなかったのかをマスターに問いたかったのですが、分不相応と思い直し、沈黙を守りました。ですが、マスターがこの日記を読む時、もしもそれが私に教えても差し支えない理由であった場合、出来れば、と私は思います。こうした形の質問は、むしろより失礼に感じられるかもしれませんが、思った事をそのままに書けば良いというマスターの言葉を私は信じ、また守っていくべきだとも考えました。
 それから、マスターは私の自我について興味があると仰られました。
「二本足で立っている。言葉が分かる。常識がある。人に服従する事が出来る。これらの条件は君が間違いなく人間である事を証明しているようだ。でも本物の人間である為には、ここに感情が無ければならない。怒りでも悲しみでも何でもいい。君にはそれがあるのかな?」
 私はその質問に、慎重に答えなければならないと感じました。嘘はつけません。しかし、あると答えた時にマスターはいつもと変わらず私を肉便器扱いしてくれるだろうかという不安があり、かといって無いと言える程に私は機械に徹しきる事が出来る訳ではなく、こうして思考を繰り返しているのです。が、果たしてこんな私の考えが、感情と呼べる程に高貴な物なのかどうか。マスターが私に対して何を求めているかが分からない以上、答えは慎重にならざるを得ません。
 いえ、そもそも私ごときがマスターに求められていると思い上がる事すら、酷く滑稽です。
「……分かりません」
 と、私は答えました。するとマスターは少し困った様子で、「何かやりたい事はあるかい?」と新しい質問を投げかけてきました。しかしこの質問は、先の物に比べれば随分と楽な物です。
「マスターに仕える事です」
 ますます困った顔をするマスターに、私の方も困ります。そして不安が少しでも消えるようにと、更に言葉を繋げます。
「マスターのしたい事は何でもお手伝いします。マスターが私にさせたい事があれば何でもします。マスターが……」
 私の言葉を遮って、マスターは私に命じました。
「僕は君自身に興味はない。僕の興味があるのは、僕が君を愛せるかどうかだ。そしてそれを確かめる為には……」
 といった経緯で、この日記があります。
 今回、この日記の締めくくりとして、今までで生まれて1番恥ずかしかった瞬間を告白します。
 ある日、マスターが突然「目を瞑って」と命令しました。
 私が言われた通りに瞼を閉じると、今度は「顎を少し出して」。
 それから、ほんの少しだけ唇を開いて、という言葉が聞こえた時、私の胸は期待に膨らんでいました。
 口に出すのも憚れる、幼女に絶対してはいけない行為を数多くされてきましたが、「それ」は初めての経験でした。そして「それ」は、私にとっては性欲と愛情の境界線にあると思われました。「それ」は何よりも美しく、私のような物に与えられる事は許されないようにも思われました。
 暗闇の中で、肩を掴まれ、顔を更に前へと引き寄せられ、唇に、暖かい感触が触れます。
 瞬間、私の中の何かが焦がされ、たまらなくなったのです。告白します。あらゆる処罰を受け入れます。私は命令を破る事になるのを承知の上で、あの時、ほんの少しだけ、薄目を開けたのです。
 そこにはぷりぷりの亀頭がありました。
 私は再び目を閉じて、奉仕を出来るせつなさに、決して実らぬ恋に安心し、マスターの陰茎にしゃぶりつきました。一瞬でも何かを期待してしまったあの時、あの時が私にとって、最大の恥辱であったのです。

       

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