Neetel Inside ニートノベル
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「とにかくなんとかしろ! なんとかしろ! なんとかしろ! うわあああん」
 錯乱状態の女子と、トイレの狭い個室で二人きりという事それ自体は、非常に卑猥で、昨今の過激な少年少女漫画でも、滅多にお目にかかれない良シチュエーションなのですが、その女子にちんぽが生えているとなると、貧血にならないのだろうかと心配するくらいにずっと勃起したままとなると、卑猥を通り越して異次元な感じがしました。
 仕方なく、自分は代案を提出します。
「……では、オナニーが嫌なら、誰かに手伝ってもらうというのはどうですか?」
「は?」
 これははっきりと言い切れる事なのですが、自分はふたなりの何が良いのか分かりませんし、興味すら持っていません。歯に衣着せぬ言い方を選び、「これはあくまで個人の感想です」と保険を満額までかけて述べさせてもらえれば、たった一言、「気持ち悪い」に収束します。
 無論、ふたなりが好きな人を否定するつもりは微塵もありませんが、「女の子にちんぽ」そんなカツ丼に豚しょうが焼き乗っけたような食べ物は、いかんせん見ただけで食い気が無くなるのは仕方のない事です。
 そもそも、二次元をベースにしたふたなりという物は、はっきり言って現実に存在しません。両性具有者、いわゆる半陰陽、インターセックスと呼ばれる方々は、医学的に言えば性分化疾患という病を患っている方々であり、一番ふたなりという言葉のイメージに近い状態でも、具体的にどのようかと表現すれば、ヴァギナの中から親指のように小さなペニスが生えているという形で、エロ本のように、たくましいちんこを振りかざして、射精というカタルシスを得るふたなりとは、似ずとも非なる物なのです。
 実在していない物を、どのようにして信じられるのか。この領域に踏み込むと、今回の更新分が丸々その話になってしまうので、結論だけを簡潔に言いますと、自分はふたなりに対して、性的興奮を覚える事は無いという事です。
 しかし、今この場面においては、性欲以外の欲が強く働きました。
 是即ち、復讐。どのような手段でも良いから、くりちゃんを困らせたいという欲求です。
 仕返しがしたいのです。我が息子を人質にとり、無茶な要求を押し付け、自分を奴隷のように扱うこの悪女が、一泡吹く所がどうしても見てみたい。
 まあきっかけは完全に自分の能力の所以ですし、ある日いきなりちんこが生えてきている時点で十分すぎる程に泡食ってるのは確かではありますが、この機会を逃せば、陵辱という名の攻撃チャンスは二度と回ってこないかもしれないのです。ここは徹底的に、くりちゃんの人間としての自尊心を崩壊させ、どちらが優位に立っているのかを神経の一本一本にまできっちりと刻む事に致しましょう。


「は? ……今、何つった? もっかい言ってみろ」
「だから、誰か他の人に手コキしてもらうというのはどうですか? と尋ねたのです」
 くりちゃんはまるで原始人が初めてiPhoneを見た時のような表情で自分を見つめました。
「オナニーが嫌なら、人にしてもらうしかないでしょう。ちなみに自分は御免こうむりますよ。この件が解決して、ちんこが無くなったら手伝っても良いのですが」
 今日一番重い正拳突きが、自分のみぞおちに決まり、これまでに蓄積されたダメージもあって、自分は膝からガクン、と崩れました。その拍子、これは完全に事故なのですが、体勢を維持する為か本能的に、自分は右手をくりちゃんの肩に乗っけてしまったのです。
「ひぅっ……!」
 くりちゃん、分かり易すぎます。ピンと背筋を張って、明らかに内股になったその反応、つまり尿意の吉兆を見て、幾ばくかの冷静と情熱を取り戻した自分は、その後0・3秒の内に完璧な作戦を思いつきました。
 拳を握り締めるくりちゃんに、自分は言い放ちます。
「くりちゃん、これは警告です。今すぐにそのちんこを下向きに押さえつけ、先端にある尿道口を便器に向ける事をおすすめします」
「え?」
 それが自分の大好物である「女の子の放尿シーン」である事は間違いなかったのですが、やはり出口が違ったので、マジマジと見る気にはなれませんでした。しかしそれが逆に良かった、とも言えます。自分はくりちゃんの肩を小突いて能力を発動し、すぐ様トイレの個室から脱出すると、ドアを閉めました。
「おま……ぶっ殺すぞ!」
 尿が便器に落ちる滝の音が、ブチキレたくりちゃんの叫びでかき消されました。
 急いでクラスに戻ります。既に授業は始まっており、先生とクラスメイトが全員自分に注目しましたが、そんな事は気にせず、目標の机に近寄ると一人の人間に声をかけました。
「緊急事態です。来て下さい。三枝委員長」
 三枝委員長は、一瞬だけ唖然としていましたが、すぐ様いつもの凜とした表情を取り戻し、自分についてきてくれました。
 くりちゃんの一物を鎮める手コキ要員に三枝委員長を選んだ理由は三つ。まず能力の事を知っている事。等々力氏もこの点では同様ですが、今の彼にあの立派なちんぽを見せると、勢いで自殺しかねないので却下です。第二に、三枝委員長ならば、何せ自分と同じく変態ですから、くりちゃんのちんぽを見てもドン引きせずに適切な対処をしてくれるだろうという事。そして第三に、自分はふたなりに食欲は湧かないと言いましたが、「女の子同士が淫らな行為をしている所」はこれとはまた別腹に、スイーツ感覚でぺろりといけるのです。
 トイレの前につくと、三枝委員長は一体何を勘違いしたのか、
「い、五十妻君? その、いきなり『大』を食べさせられるというのは心の準備というか、流石に不潔というか……初めての命令がそれというのも、いささか将来が不安になるというか……」
 流石は超能力に目覚めるレベルの変態です。いちいち説明するのも面倒なので、自分は無視を決め込み、くりちゃんのいる個室に三枝委員長をぶち込んで、勢い良く扉を閉めました。


「いぃっ!? い、委員長!?」
「えっと、五十妻君に呼ばれてここに来たのだけれど……」
「あの、な、なんでもないから、出ていって」
「……そう。なんでもないのね?」
「……うん」
「……駄目ね。開かないわ。外から五十妻君が押さえているみたい」
「おい! 開けろ! 開けろ馬鹿ーー!」
「ところで、さっきからその、こか……スカートを押さえているのはどうして?」
「え!? なななななんでもない。なんでもないから、本当に」
「見せなさい」
「へ?」
「見せてみなさい」
「わっ……ううっ」
「っ!? 何……これ?」
「なんか……急に生えてきて……」
「……そう。……なるほどね。五十妻君が私を呼んだ理由が分かったわ」
「!? ちょ、委員長何を……」
「これが治まらないから授業に戻ってこれないんでしょう?」
「そ、そうだけど」
「私がやってあげるから、ほら、動かないで」
「なっ、やめっ……ちょっ……」
「すごく大きい……現物は初めて見たけど」
「そんな……」
「本物もこんなに大きいのかしら」
「あっ……ああっ……」
「不安だわ」
「駄目、駄目、嫌ぁ……」
「気持ち良いの?」
「良く……無い」
「木下さん嘘つきね、ほらびくんびくんしてる」
「やめへ……」


 なんでボイスレコーダーを持ってきてないのか、と自分の不用意さを呪いました。事は概ね作戦通りに進みましたが、予想以上に三枝委員長がノリノリだったので、これには仕掛け人である自分も思わず苦笑いしました。トイレのドアを外から押して支え、耳を当てて聞きながら、不覚にも息子が元気になってしまいましたが、これはあくまでもふたなりに対して興奮している訳ではなく、一方的に攻められるくりちゃんに興奮しただけなので、負けたという事にはなりません。
 二人の女子の息遣いと、何か棒状の物を上下に擦る音がしばらく聞こえ、最後はくりちゃんの「ううっ」という声で、白昼劇は終幕を迎えました。
 水の流れる音の後、個室から出てきた三枝委員長は、隅っこで不自然に体育座りする自分に対し、こう声をかけました。
「今回のは、私が自分で勝手にした事よ」
 そして何事も無かったかのように、ヨーグルトのかかった手を洗った後、教室に戻っていきました。その宣言が、何を意味するのか、自分には良く分かりませんでした。しかしその一方で、とんでもなく大きな借りを作ってしまったのではないか、という懸念も芽生え、自分はそれをかき消すように中腰になって立ち上がり、行為の終わったトイレをこっそり覗きました。
 くりちゃんは便座に座って、両手を「門」みたいな形にして両目にあて、泣いていました。自分が見ている事に気づいてないらしく、
「もうお嫁さんにいけない……」
 と呟いたので、「もし行き遅れたら自分がもらいますよ」と慰めると、顔を真っ赤にしていました。怒りで。
「覚えてろよ! 絶対だ! 明日、絶対にあんたのちんこを切ってやる! どこに逃げても無駄だからな! 絶対切ってやる! つか殺す!」
 常人なら自殺するレベルの生き恥を晒した後でも、決してめげずに凄むくりちゃん。その健気な姿に、多少心を打たれたのは事実です。
「罰は甘んじて受けましょう。それだけの価値がある物を、この耳でしっかり聞かせてもらいましたから」包み隠さぬ本音でした。「しかしその前に、くりちゃんのちんこの方をどうにかしましょう。勃起は治まっても、ちんこ自体が無くなった訳ではないんですよね?」
 くりちゃんはぐずりながらも、スカートをめくりました。もっこりパンツ。これは目に毒だ。
「……なんとかできるのか?」
 自分は解決編の名探偵よろしく、不敵な笑みを浮かべて言います。
「三枝委員長のおかげで分かりました。犯人はおそらく、女です」
「女?」
「そうです。心当たりはありませんか? くりちゃんに好意を寄せている女の子。そう多くは無いはずですが」
 若干の間の後、くりちゃんが答えました。
「一人だけ……いる」

       

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