Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 花も恥らう中学生、孤高で強気でちょっぴり鬼畜な、先ほどふたなりになったばかりの少女の、貴重な強制野外放尿シーンを、自宅の玄関先という特等席から見た男の反応は、意外や意外、なんとも冷ややかでした。
「……妹?」
 省略された言葉を補足するならば、「(あなた達が用事があるのは)妹(の方ですか)?」という所でしょうか。
 恥ずかしさで即死した心が、そろそろ死後硬直の始まりかけたくりちゃんは、うんともすんとも言わず、レイプ目で虚空を見つめていました。BGMは「蛍の光」。仕方が無いので、自分が代わりに答えます。
「はい、そうです」
「……把握」
 現実では滅多に耳にしない奇妙な返事を残して、音羽(兄)は家の中へ戻っていきました。その後からドタドタと、今回のメインアクトレスである音羽(妹)が、幕引きの舞台へと登場し、その口から飛び出た第一声は、
「おちんちん!」
 見たままを口にした、という事だと思われます。自分は珍しく、くりちゃんを良い意味で気遣って、「くりちゃん、隠さなくていいんですか?」と尋ねてみますと、「殺して」という要領を得ない短い返事をよこしてきましたので、「このまま死なれてしまうと、死亡診断書が難しい事になりますよ。女なのか、男なのか」と、あえて論点のずれた返しをすると、くりちゃんの両目からはじわりと塩気の多い涙が溢れました。
 かくして、どうにか正気の欠片を取り戻したくりちゃんは、丸出しになったくりちんぽをしまい、すうっと力が抜けるように、膝から崩れ落ちたのです。
「え? え? 木下先輩? 何があったんすか!?」
 当然、事の成り行きを知らない音羽君はうろたえています。事情を説明すれば、おのずと自分の能力を説明しなければならず、それを避けて、再度奇襲を仕掛けようにも、くりちゃんがこの状態では、満足出来るリアクションは見込めず、それでは「勝ち」には繋がらない、瞬時に自分はそう判断しました。
「とにかく、中へ入れてもらえませんか? くりちゃんをここに置いておくと、走ってくる車に飛び込んで自殺しかねませんので」
 自分はそう言うと、放心状態になったくりちゃんの肩を持って、引きずるようにして、敵城音羽邸へと入ったのです。


「ていうか、なんで五十妻先輩が一緒なんすか?」
 出来損ないの敬語でそう尋ねてきた音羽君に、自分は「付き添いです」とだけ答えて、多くは語らず、出された紅茶を口に含みました。味薄っ!
「ふーん……」
 この生意気な女子は、そうと説明されなくても分かる程、自分の事を敵視していました。この出がらしの紅茶も、頼まないと出てこなかったような代物で、今も自分は、二人がクッションに座っている前で、下に何もひかないまま姿勢の良い正座をしているのです。
 音羽君は、三枝委員長のレポートにもあった通り、髪を金髪に染めて、一見悪ぶってる風でしたが、赤い眼鏡の奥にある吊り目がちな双眸からはSっ気が、これみよがしのアヒル口からはMっ気が感じられ、鑑賞に堪えうる、いえ、一見の価値ある女子でした。
「何じろじろ見てるんすか? うぜえ」
 部屋は子供に与えるにしては広く、十二畳間でしょうか、パソコン2台と、漫画本の詰まった本棚と、部屋全体に張られた美少女アニメのポスターがオタク要素であるならば、大きなベッドの前後に並ぶぬいぐるみと、3つもあるクローゼットと、背丈よりも大きな鏡が女子の要素といった所でしょうか。
「部屋もあんまり見んなよ。キモい」
 浴びせかけられる罵倒には、くりちゃんのそれとは少し違った(具体的にどう違う、とは説明しづらいのですが、あえて言うなら温度が違うのです)痛みが伴い、自分も表面上は冷静を取り繕っていましたが、内心ではフツフツと、海底火山のように煮えていました。
「率直に尋ねますが、音羽君は能力者ですか?」
 大した反応も無く、まるで手馴れの風俗嬢が短小包茎のちんぽを見るような様子で、頬杖をつきながらため息をついた音羽君は、隣に俯いて座る半口を開けたくりちゃんをちらりと見てから、「そうだけど?」と悪びれず答えました。
 すると突然くりちゃんが、ガクン、と何かに乗り移られたかのように姿勢を正し、
「音ちゃん……裏切ったの?」
 その台詞から、くりちゃんが音羽君に、かなりの量の信頼を寄せていたのは一瞬にして分かりました。くりちゃんによれば、出会ったのは1週間前で、まだ付き合いも浅く、「よく分からない子だ」との事ですが、他人を避ける癖のあるくりちゃんに、恐れず何度も話しかけてくる女子はやはり貴重で、大げさな言い方をすれば、かけがえのない存在だったのでしょう。
 音羽君は、決してこれから先、自分には向ける事は無いであろう、憂いと愛を秘めた表情をして、小刻みに震えるくりちゃんの手を握り、真剣にこう言いました。
「あたし、木下先輩の事が大好きなんです。……だけど、ちんこの生えてる木下先輩は、もっともっと大好きなんです」


 衝撃的な告白を受けたくりちゃんは、何故か半笑いで、死んだ目で自分に助けを求めてきました。自分は論客として前に出ます。
「音羽君、あなたの能力のせいで、くりちゃんは人間にとって一番無様な姿であるふたなり放尿シーンを、見ず知らずの他人、しかも異性に見られてしまったんですよ? 普通の女子ならもうとっくにこの世を去ってる所です。まずは告白の前に、その事について謝るべきではありませんか?」
「はぁ!? 能力なのかよく分からないっすけど、木下先輩に放尿をさせたのは五十妻先輩の方っすよね? そもそも別に、ふたなりは無様でもなんでもないし、愛くるしいくらいだし、兄貴もオタクだから大丈夫っすよ! 第一あいつ、引きこもりだし、家から外に出ないっすから、余裕!」
 言葉のモーニングスターでぶん殴られ、よく分からないフォローの冷水をぶっかけられ、くりちゃんの魂が背中からほんのりはみ出しているのが確認できました。
 これにて自分の目的の半分、つまりくりちゃんの自尊心を木っ端微塵に破壊する事は達成されましたが、人間とは強欲な生き物で、一つを手に入れてしまうと、得てして二つ目を追いかけたくなる物なのです。端的に言えば、今、自分が目指す物は、「勝利」そしてそれによって得る「新能力」です。
 放課後、三枝委員長と対峙した時に自分が「逃げた」のは、勝ち目が薄かったからです。今回の場合、相手がふたなり能力者である限り、自分の負けはありえません。何せ自分には、ふたなりのどこが良いのかさっぱり分からないですし、これっぽっちも息子が反応しません。事実、くりちゃんの生ちんぽを見ても、ぴくりとも反応しませんでした。それでもなお自分が奇襲を仕掛けようとしたのは、勝負に対して戸惑いがあった訳ではなく、むしろ別の事に躊躇いがあったのです。
 が、たった今それも吹っ切れました。
「ところで音羽君、自分は、おもらしが好きです。能力は、三度触れた相手がおもらしをする、という物です」
「何を突然説明しだして……って、なんすかその数字!?」
 どうやら音羽君は、このように堂々と勝負を仕掛けられたのは初めてのようでした。自分の頭の上に浮かんだ数字は3%。女子の部屋に来たのが5%、薄い紅茶を飲まされて-2%といったところでしょうか。HVDO能力者は、お互いの性癖を告白すると、勃起率が頭上に表示される。故、等々力氏が自分に教えてくれた、貴重な情報です。
 そして自分が恐れていたのは、まさにこの事でした。自分は落ち着いて、音羽君の頭上に浮かぶ数字を読み上げました。
「30%」
 さて、この数字は一体何を意味しているのでしょうか。当然の事ながら、女子に陰茎は無いので(今のくりちゃんは例外ですが)、ペニスの勃起率ではありません。


 それがクリトリスの勃起率であるとか、いやいや性器の湿度であるとか、もしや乳首がどれくらい立っているかでは? と妄想を膨らませる事は可能ですが、「どこの部分が興奮しているんですか?」と尋ねるのは厄介です。自分は確かに「変態」ですが、「犯罪者」という言葉に限りなく近い意味での「変態」ではないのです。よってここは、つまらなくともただの「興奮率」として数字を処理するのが的確であると、冷静に対処させていただきます。
 ひとまず恐怖していた問題は、自分の中で決着がつきました。あまり深く考えないように、短期決戦を望んだのですが、それが叶わぬとのなった今、多少強引なりとも飲み込んでしまった方が、比較的楽ではありました。「勝負に負けた場合、ちんこが爆発してEDになる」方の確認をまだしてはいませんが、これも深く考えない事にしましょう。
「なるほど……相手のこの数字が100になれば勝ちという事っすね」
 流石に変態、飲み込みが早い。
「ええ。ですが、残念ながら自分の敗北はありえません。ふたなりの良さが、自分にはわかりませんので」
 そのつもりは無かったのですが、挑発と受け取られてしまったようです。音羽君はほんの一瞬だけ睨みをきかせ、ふん、と鼻を鳴らしました。
「ただ単に、五十妻先輩がふたなりの良さを知らないだけっすよ」
「ほう」
「今から見せてあげますよ。ふたなりの本気って奴を」
 音羽君はくりちゃんに向き直り、脱力した体を揺すって言いました。
「先輩、立ってください!」
「……え?」
「いいから、早く立ってください! 2つの意味で!」
「……え?」
 白痴の如く受け答えするくりちゃんは、やがて音羽君に無理やり立ち上がらされ、ごく自然にスカートがめくられ、純白のパンツに手がかかりました。
「ちょ、え? え?」
 困惑するくりちゃん。ロクにここまでの話も聞いていなかった事は明らかでしたが、これから何をされるのかに対して、かろうじて恐怖を覚えるくらいの事は出来ているようでした。
「木下先輩! とりあえずフェラさせてください!」
「……え?」
 お、これはまずい事になってきました。

       

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