Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 自分は再び考えます。
『変態とは何か?』
 昔、辞書を引いた時、そこには「性的倒錯を持ち、性行動が普通とは違う人間。また、性対象が異常である事。類→変態性欲、異常性欲」とありました。確かにその通りではあるのですが、これは自分の欲する正しい答えではありません。自分が自分を指して言う「変態」という言葉は、なんと表現したら良いのか、もっと「高み」にあるのです。変態である事は、同時に、それ以外の全てを喜捨する事。悟りの境地、とでも言うのでしょうか。自分が変態である限り、世界の理は常に手の内にあり、迷いや悩みは一切なく、真理を宿した心は、遥かに自由であり続ける。変態とは即ち、涅槃。救済。開眼。贖罪。それらへの到達。何の気なしに、ふと立ち寄った喫茶店で食べた、ミートソースのスパゲッティなのです。
「音羽君、ここまで来て、すみません」
 自分はくりちゃんの携帯を閉じ、それを机に置きました。音羽君は既にパンツを脱いでおり、スカートにかかった手を止めて、訝しげに自分を見ました。
「自分は、変態です。確かに、くりちゃんと音羽君のふたなりセックスは是非とも見てみたいのですが、その前に、自分の変態も音羽君に受け取って欲しいのです。もしも音羽君がこの攻撃に耐えたなら、後でゆっくりとセックスを見たいと思います。勝手な事を言うようで、申し訳ありません」
「……裏切るんすか?」
 そう非難する音羽君の表情は、言葉とは裏腹に、あまり攻撃的ではありませんでした。それが自分には、志を同じくする変態として、気持ちを汲み取ってくれたような気がして、少し楽になったのです。だからこそ自分は、真剣に答えます。
「いいえ。裏切った訳ではありません。信じる物を忘れていただけです」
 自分はくりちゃんに向けて手を伸ばしました。3度目の接触でダムは決壊し、今のままのくりちんぽの角度ですと、くりちゃんの身体に跨った音羽君は、自らの性器に黄金のシャワーを浴びる事になります。拘束されながら、嫌々おしっこを漏らすくりちゃんを、特等席から見ながら、今の今までくりちゃんの体内にあった暖かいぬくもりを、自らの肌で感じられる。これで興奮しない訳がありません。ここまで防戦一方だった自分にも、勝ちの目が見えました。
 が、ここで音羽君も行動に出ます。
「五十妻先輩、甘いっすよ」
 音羽君はそう言ってしゃがむと、まるで摘みたてのイチゴをパクッと頬張るように、くりちんぽの先っちょ、いわゆる亀頭の部分を咥えました。
「ひぃん!」
 くりちゃんの足がピンと突っ張りました。


「一見した限り、ただのフェラではないか」と思われるかとも思いますが、はっきり言って、それは素人の判断です。自分くらいのプロの変態になると、音羽君が何をしようとしているのかが瞬時に理解出来ました。
 端的に言うと、音羽君は「飲む」つもりなのです。亀頭のみを咥えて、口の奥までちんぽを咥えこまない状態で、自分の次の動きを待っているのがその証明です。口内に空間的余裕を持ち、来るべき時に備え、放出された全ての尿を飲み干す気であると見て、まず間違いありません。
「木下先輩、自分の口の中で好きなだけおしっこしてください」とでも言うような表情で、音羽君はくりちゃんを見つめました。
 愛。
 これは愛です。くりちゃんの事を愛しているがゆえに、例えそれが汚い物であっても、全てを受け入れてみせるという覚悟を伴った、真実の愛です。自分がもしも、当事者の一人ではなく観客の立場ならば、この愛溢れる行為に対して、大いに涙した事でしょう。 
 音羽君のこの攻撃によって、「おもらし」と「放尿」の性的な魅力の大部分は失われました。なぜならば、おもらしは、我慢しきれずに、本人の意図しない所で漏れてしまい、それを目撃される事にこそ価値があるのです。音羽君が人間便器の役を引き受けた時点で、それはただの愛ある排泄行為であり、受け入れ態勢の整った尿に、イデアはありません。また尿自体も、くりちゃんの尿は、自分にも音羽君にも本人にも誰にも目撃される事は無く、闇から闇へとただ吸い込まれるのみで、面白みがありません。
 無論、「それでも尿は尿、羞恥は羞恥、プレイはプレイではないか」と唱えるオモラシストの方も、中にはおられるかと思いますが、自分はそれでは納得がいかないのです。
 ここまできてまだ一般的な良識を持ち合わせている殊勝な方々に、分かりやすく説明するとすれば、音羽君は、くりちゃんの尿を自ら受け入れる事によって、くりちゃんのかく恥を半分肩代わりしようとしているのです(ただし実際は、くりちゃんは普通におもらしするより100倍恥ずかしい事でしょう)。
 つまり、音羽君がこの体勢を続けている限り、自分は能力を発動できない。もしも発動すれば、音羽君は飲み干した後、すかさずくりちんぽを自分の性器に挿入するはずです。
 それと、付け加えておかなければならないのは、音羽君のつんと尖った唇が、くりちんぽに触れた瞬間が、想定していた以上にエロく、自分の勃起率も、現在95%まで達しているという事です。
 自分の手が空中で止まっているのを見て、音羽君がにやりと笑いました。そして挑発するように、わざと大きく「ちゅっ」と鳴らして、くりちんぽの尿道口に、フレンチキスをしたのです。
 99%、臨界点。
 等々力氏と戦った時、三枝委員長に迫られた時、自分はかろうじて窮地を脱してきましたが、今度こそ絶体絶命です。そう思われた矢先、自分に一つのアイデアが浮かびました。それは瞬く間に筋書きを作り上げ、未来のビジョンを見せてくれたのです。
 やってみる価値は、ある。


 自分はくりちゃんの身体に手を伸ばしました。音羽君は爛々と目を輝かせ、今か今かとくりちゃんの決壊を待ちます。くりちゃんは、暴れるのにも疲れたのか、微動はするものの、全体的に力はなく、両目には涙が溜まっていました。
 それにしても、艶かしいシーンです。一人の女子は下着を脱がされ、拘束されながらふたなりちんぽを晒し、もう一人の女子は、パンツを脱いでベッドに乗っかり、晒されたふたなりちんぽの先端部分だけを咥えている。自分の人生において、未だかつて見た事の無い、最高に卑猥なシチュエーションです。これを自分の手で壊すのは、なんとも名残惜しい。非常にもったいない。しかし自分は変態なのです。既に覚悟は決まりました。
 くりちゃんの腹部の上、1cmの空間を開けて、自分は手を止めます。そして今思いついた決め台詞を吐くのです。
「音羽君、恥を知りたまえ」
 言葉の意味を解釈させる時間さえ与えず、自分は手の平を返し、薙ぎ払うように動かし、その所作の中で、音羽君の髪をそっと撫でました。もちろん、髪もその人の身体の一部分。自分の能力の対象となっています。
「うひゃあ!」
 素っ頓狂な悲鳴をあげて、音羽君の顔がくりちんぽから離れました。自分は音羽君の股間を肉眼で確認します。どうやらまだ、漏れてはいないようです。
「何もくりちゃんにこだわる必要はありませんでした。ここにはもう一人、魅力的な女子がいるではありませんか。そう、音羽君、あなたが漏らすのですよ」
 音羽君は飛び跳ねるようにベッドから退き、自分と距離をとりました。そこで自分は振り向いて、くりちゃんのおっぱいにタッチ(これは完全に偶然です)。フル勃起したくりちんぽから、黄色い噴水がまっすぐにあがるのを確認して再度振り向くと、既に音羽君は部屋を脱出していました。
「甘いっすよ五十妻先輩! 何せここは私の家! トイレがあるに決まってるじゃないっすか!」
 遠くなっていく声。自分は、後輩の自宅のベッドの上で、泣きながら盛大におもらしをするくりちゃんを完全に放置して、音羽君の後を追いかけます。
 音羽君の言葉に対し、あえて自分が何かを言うとしたら、こうです。
「計算済みです」
 ことおもらしに関して、自分にぬかりなどありません。


 音羽君の部屋は三階にあり、自分が部屋を出た時、音羽君は既に階段を下り始めていました。つまり二階にトイレがあるのでしょう。自分は決して焦らず、余裕たっぷりにその後を追います。すると、こんな声が聞こえました。
「あれ!? あ、開かない!」
 つい先ほど会ったばかりの、まだまだ短い付き合いではありますが、その台詞に偽りや演技が無い事は、妙にはっきりと分かりました。
「兄貴入ってんの!? 出てきて! すぐ出てきて!」
 ドンドンドン、とトイレのドアを叩く音もします。違うのです。そうではないのです。トイレの中に、人はいません。トイレは中から鍵をかけるもの、確かにその認識は正しく、なるほど常識的です。ですが、常識を超える存在を、我々は既に見につけているではありませんか。
「黄命(オウメイ)、第二の能力。W.C.ロック。そのトイレの鍵は、自分の能力で閉めさせてもらいました」
 袋小路に追い詰められた音羽君は、額から滝のような汗を流し、まるで殺人鬼でも見るような、恐れに満ちた目で、自分を見つめていました。
 自分が等々力氏と戦って、勝利した事によって得た能力は、「自分がいる位置から、最も近くにあるトイレの鍵をロックする能力」でした。
 第一の能力と合わせて使うのが基本だと思われますが、「相手に二度しか触れなかった時」「近くに逃げ込むトイレがある時」「そもそも相手が『逃げ』を選択した時のみ」と、等々力氏の第二能力に比べると、効果が出る状況が限られるゆえ、やや使いにくい能力だと自分は思いましたが、今この瞬間においては、抜群の効果を発揮しています。
「や、やめ! 近づかないで!」
 本人の了承を得ずにちんぽを生やして、それを脅しに自宅に呼び出し、問答無用にセックスを迫り、しかも拘束する道具まで準備しておく。この流れを見れば一目瞭然、音羽君は「攻める」タイプの人間です。「攻める」タイプの人間が最も弱いのは何か? 答えは単純。「攻められる」事です。
 狼狽しきり、助けを求める仕草。なんとも興奮し、自分が調子に乗るのも無理はありません。
「音羽君。足を広げて、スカートをめくってください。そうしたら、許してあげますよ」
 ノーパンの女子にここまではっきり屈辱的な命令をできる中学生は、世界広しといえども自分くらいの物ではないでしょうか。


 先ほどまで、異性に性行為を見られるのに何の抵抗も見せなかったド変態が、一転して、いっちょまえの清純派のように、頬を赤らめています。ここで自分はふと思ったのですが、音羽君は、くりちゃんと一緒にいる時は強気でいられますが、その芯は大して強くないのではないでしょうか。髪を染めたのも、言葉遣いが悪いのも、くりちゃんの影響であるように思われます。こうして一人になった時の姿は、先ほどまでとはまるで別人なのです。
 かといって、別段同情する気も起きません。自分はただ事務的に、音羽君を追い詰めます。
「例え家の中とはいえ、赤ちゃんみたいに情けなくおもらしをするのは嫌でしょう? ほら、早く足を広げないと……」
 自分はあえて緩慢な動きで、音羽君との距離を縮め、手を伸ばしました。音羽君はブツブツと、「あ、あたしはただ木下先輩とセックスがしたかっただけで……あ、あたし自身は……」ごにょごにょと呟いていますが、聞く耳など持ちあわせておりません。
「ほら、もうすぐ触れてしまいますよ」
「わ、分かりました! 見せるので、そ、それだけは……」
 音羽君は覚悟を決し、両足を肩幅に開きました。そして震える手でスカートをめくると、ちらりと楽園が見えました。
 そこはまるで砂漠。無毛地帯。つるんとした氾濫原。
「ほう」
 意外ではありましたが、出てくる所がはっきりと見えるという点では、むしろ嬉しいくらいで、しかも音羽君が、くやしそうに鋭い目で睨んでくるので、興奮度は5割増しでした。
「音羽君」自分はにっこりと笑って、言いました。「今自分は『許す』と言いましたが、あれは……嘘、です」
 定規で引いたようにまっすぐな一本の縦スジは、ひっそりと閉じ、影になった部分には、きっと男の知らない秘密があるのです。それを目指して旅をする者達は、いつか辿りつくその時、多大な幸福と、ちょっとした落胆を覚え、また何も学ばずに、女を求め続けます。生命の神秘。肉体の正門。芸術の極致。それは、なんと形容してもまるで足らない物。
 彼方より、決壊の音色が聞こえます。
 秘密の楽園から溢れ出て、掃除の行き届いたフローリングの床に落ちる黄金の聖水が、つい先ほどまで、異様なくらいにセックスを見たがっていた自分の邪な心を、綺麗さっぱり洗い流してくれました。
「素晴らしい」
 自分の息子は、釘が打てるくらいカチンコチンに勃起していました。音羽君はあうあうと嗚咽を漏らし、その様はまさに、くりちゃんがコンビニで漏らした時の再現でした。
 放尿が終わり、音羽君の頭上に目をやると、数字は98%に達していました。あとひと押し。自分は音羽君の耳元で、小声で囁きます。
「音羽君の恥ずかしい所、全部見させてもらいました」
 BOMB! と例の爆発音が鳴って、音羽君が前のめりに、スローモーションで倒れ、自らの尿の海へと突っ伏しました。
 恍惚を、涙に隠して。

       

表紙
Tweet

Neetsha