妄想の中で、ゆっくりと、ひっそりと、朽ち果てて行く運命にある性的倒錯を、現実に引き上げてしまう能力。それがHVDOであると、自分は解釈しています。
HVDOに能力を授けられ、歓喜して受け入れてしまった時点で、いえ、あるいはおもらし好きというマイノリティーに目覚めてしまった時点で、いえ、もしもこの能力が無かったとしても、変態である事を自認した時点で、自分は、自分を除くあらゆる変態は、戦う事を義務付けられているのかもしれません。
自分は、おっぱいも、ふたなりも、露出も、人形も、おもらしに比べれば大した事のないイマーゴだと、心のどこかで思っているのです。どれも興味深い対象ではありますが、おもらしに勝る物はありえません。しかし自分と対する相手もそれは同様、変態は自らの性癖を誇りに思っているはずで、安々と他の嗜好に乗り換えてしまうようでは、ただの節操が無いエロガッパではありませんか。
そして、古今東西のあらゆる歴史が示している通り、譲れない思いが交差する時、そこには戦いが生まれるはずなのです。新たな時代を信じなければ、坂本竜馬は立ち上がらなかったでしょうし、もしもイギリスがすんなり認めれば、独立戦争は起きなかった。
結局、人が生きていく以上、他者との関わりを完全に断ち切る事はほぼ不可能で、時間の経過しかり、空間の束縛しかり、あるいは突拍子も無い理由、例えば性的超能力によって、戦争はいつだって起こりうるという結論に、自分はたった今辿り着きました。
と、話が大きく逸れてしまいましたが、自分のどこかに、「甘え」があった事はやはり否定出来ないのです。三枝委員長は自分に好意を抱いてくれている。それに委員長としての責務もある。だから無条件で協力してくれる。助けてくれる。歯向かう事は無い。何もかも、自分の都合の良いように進むはずだ。振り返ってみれば、厚顔無恥も良い所、甚だしい誤解、真剣を打つ者として、最低限の心意気に欠ける行為であったと深く後悔しています。
だがしかしそれでも、三十六計逃げるに如かず。守るべきモノが自分にはあります。
自分は掴まれた手を強引に振りほどき、等々力氏と同じく、教室のドアから飛び出そうと目論みましたが、三枝委員長は素早い動きで足を差し出し、自分はそれに躓いてすっ転びそうになった所をどうにか堪え、その瞬間、すかさず三枝委員長はドアの前に移動し、大きな壁として立ちはだかりました。こうなれば、最早教室の窓を突き破って、ジャッキーばりのアクションで飛び降りる(ここは4階ですし、NG集も作られません)しか打つ手は無いかと思われた矢先、三枝委員長が、「ストップ!」と叫びました。
「勝負をするとは言ったけれど、五十妻君に勝機の無い勝負はわざわざ申し込まないわ」
乱れた髪を整えながら、「今みたいに、死に物狂いで逃げるのが目に見えてるしね」と微笑みました。
「……つまり、どういう事ですか?」
「私があなたに申し込むのは、言ってみれば、変則バトル。あなたが私を上手く『調教』できたらあなたの勝ち。出来なければあなたの負け、というのでどう?」
茶化すような口調とは対照的に、三枝委員長の目は、いつになく真剣でした。
「えっと……三枝委員長は『調教』されたいんですか?」
「ええ、されたいわね」
調教。
性癖をカテゴライズするにあたって、SかMかという大雑把な区切りが存在します。強いて言えば自分は「女の子が恥ずかしがりながらおもらしをする所」を見て楽しむタイプなのでS(ただし、尿を頭からぶっかけられたいと思う側面もあり、その点ではM)、三枝委員長は「自分の一番恥ずかしい所」をくまなく他人に見てもらいたいタイプなのでM(ただし、自分の裸を人に自慢したいという考えは自意識の強いS)であると思われるのですが、そこで疑問が一つ浮かびます。
三枝委員長は、露出するだけでは満足出来ないのでしょうか。
もしも「露出」にのみ重点を置き、いかにいやらしく自分の肉体を演出するかを追い求めたいのであれば、いわゆる「ご主人様」と呼ばれる存在は、三枝委員長に必要ありません。なぜなら彼女の得たHVDO能力は、まさしく露出に特化した物であり、そしておそらく、いきなり相手に全裸を見せつけてしまう奇襲攻撃は、性癖バトルにおいて非常に強力です。よって、新しい能力を得る事は比較的容易く、自分1人で全ては事足りるからです。
それを踏まえて考えると、彼女はただ自分の裸を公衆の面前に晒すだけでは満足出来ず、そこに必然性、つまりご主人様からの命令で仕方なく、という羞恥が加わらなければ、心が十分に満ち足りないのだ、という結論に至ります。そこで彼女は何を思ったのか、他でもない自分に対し、ご主人様としての白羽の矢を立てた。
もしもHVDO能力の事や、バトルの絡まないまっさらな状態で、三枝委員長からストレートに「私を奴隷にしてください」と告白されたのならば、自分はきっと、少し悩みはするものの、結局はその大役を引き受けたはずです。「おしっこをしろ」と女子に命令するのはオモラシストとしては一つの夢であるし、また、1人の男子として解消しておきたい性欲もあります。「奴隷になる」のではなく、「奴隷を持つ」のなら、大抵の男子ならば快諾するはずでしょう。しかし今は、事情が違うのです。なんとも皮肉な事に、HVDO能力がなければこんな事にはならず、あるからこそ、このような不当な困惑に直面しなければならないのです。
果たして自分に、三枝委員長を調教する腕があるのか。
言い換えれば、ご主人様としての資質。ある種これは、走るのが速いだとか、音感があるだとか、勉強が出来るだとかいう能力よりも重要な物かもしれません。そして同時に、なかなか表に出てこない才能でもあります。だからこそ、自分に、三枝委員長を飼う資格が果たしてあるのか。苦問は一向に解決の糸口を見つけず、遥か深層に揺らめきました。
沈黙したままの自分に痺れを切らしたのか、三枝委員長はゆっくりと語り始めます。
「私ね、前に五十妻君に逃げられてから、色々な所で露出してみたのよ。自宅、通学路、電車の中、学校の中でも、五十妻君の前以外で時々していたのよ?
だけど、駄目だった。もちろんとても興奮したし、私の裸を見た人の反応を見るのは楽しかった。だけどね、それだけじゃ駄目なのよ。私は今まで、私の為だけに脱いでいた。結局、自分が考える『セーフティーライン』でしか、この能力を使う事が出来なかったのね」
三枝委員長は自嘲気味に俯き、胸に手を当てました。この1枚の名画にタイトルを付けるとすれば、「悲恋」です。
「私の理想とするご主人様は、鬼畜で、無茶で、傲慢で、私の事なんてこれっぽっちも尊重しない人。その上で、私と同じド変態。あなたにしてあげられるアドバイスは、これだけよ」
そして、目を瞑りました。
逃げるチャンスでした。しかし同時に、三枝委員長を倒すチャンスでもありました。思い返せば自分の目の前には、初めからこの選択肢があったのです。音羽君と戦った日、くりちゃんを手コキした後に、三枝委員長はこう言っていました。
『今回の事は、私が自分で勝手にした事よ』
自分はようやく気づきました。三枝委員長は、「命令される」のを待っていた。音羽君の事を調べて教えてくれたのも、くりちゃんの捜索を手伝ってくれているのも、自ら等々力氏を誘惑したのも、全ては自分から、性的かつ屈辱的な命令を引き出す為の行動だったのです。
拒む事は、それ以外の全てを求める事。
そう考えると納得がいきます。
「三枝委員長、服を脱いで下さい」
自分はあえて事務的な口調で淡々と、そう命令を下しました。
三枝委員長はじんわりと瞼を開け、「今、ここで?」と尋ねてきましたので「ええ、早く脱いで下さい」と少しいらつきを込めて言うと、「人が来るかもしれない」と口答えをするので、「いいから脱いでください。1枚ずつ、ゆっくりと、ネクタイと靴と靴下は残して」と注文を加えて再度命令しました。
三枝委員長は「ええ、分かったわ」と短く答え、言われた通り、ゆっくりと、1枚1枚服を脱いでいきました。彼女の能力ならば、一瞬で全裸になる事は出来ますが、それには2秒という時間制限もありますし、そもそもそうは命令していませんので、能力抜きに、ただ普通の人が自宅でするように、服を脱いでいます。
三枝委員長は、自らの身体を離れた上着とスカートを、教室の床にそっと置いたので、自分はそれを乱暴に蹴り飛ばして、誰かが来た時、咄嗟に手の届かない位置に滑らせました。
上下とも純白の下着だけを身に纏った委員長が、放課後の教室に立っている。それだけでも異常な光景で、なおかつ膨大な量のエロスがこの空間に堆積していましたが、自分は更に、思いついたまま、命令をします。
「後ろを向いてから、下着を脱いでください」
きっと三枝委員長はこう思った事でしょう。全裸を見たら、ちんこが100%勃ってしまう。すると、影像の露出性癖が勝利してしまう。そうなる事を恐れて、主人は私に後ろを向かせたのだ、と。それも正しいのです。確かに、自分は三枝委員長の全裸を見て勃起しない自信がありません。しかし、ただそれだけではないのです。
三枝委員長は自分の命令通りに、後ろを向きました。
それを確認した自分は、すかさず三枝委員長の前に回りこみ、勢い良く教室のドアを開きました。そして再び三枝委員長の後ろに回り、耳元でこう囁きました。
「これで誰かが通るだけで、見られてしまいますね」
表情は分かりませんが、確実に興奮しているはずです。自分も、もう95%前後まで勃起しており、遊んでいる余裕などはありませんが、それでも赴くがまま、主人として、命令をし続けます。
ブラジャーに手をかけた三枝委員長に、「下からで」とフェチな注文をつけると、手はパンツの方に移動しました。その時、手が震えているのが確認でき、順調なようだ、と自分は判断しました。
左、右、左、右。「ゆっくりと」の命令を正確に守って、三枝委員長はパンツを脱いでいきました。おしりの膨らみの収束地点、ふとももに差し掛かったあたりで、最早ただの1枚の布切れと化した、女子であれば、本来なら何が何でも死守しなければならない聖骸布は、重力に引っ張られ、すとんと落ちました。つい先ほど見たばかりのお尻が目の前に、今度は確実な現実味を帯びた状態で提示されます。雪のように白い肌、この完璧な丸み。今すぐに撫で撫でしたい、嘗め回したい、突っ込みたいといった衝動も矢継ぎ早に自分を襲いましたが、どうにか堪えました。自分には仕事があるのです。三枝委員長に命令するという、重要な仕事が。
「しばらくこのまま立っていましょうか。30分、いや1時間くらい」
わざと軽々しく言ったその言葉に、三枝委員長は強く反応していました。「そ、それは……」息が荒くなっているのが分かります。「ご主人様、許してください」との懇願。
「そうですか。嫌なら、ブラジャーをとっても良いですよ。ただし、ちゃんとご主人様にきちんと許可をもらってからですけど」
煽りを入れて、羞恥を蓄積。三枝委員長は唾を飲みこんで、甘い吐息と共に言いました。
「ご主人様、ブラジャーをとっても……よろしいでしょうか?」
自分は10秒ほど、全く何も言わず、微動だにせず、気配を殺しました。「突然居なくなったのでは?」と思わせるくらいに、我ながら完璧で、股間丸出しで、一切隠す物の無く、命令されなければ振り向きさえ出来ない三枝委員長が、不安に思わないはずがありません。
「……よし、いいですよ」
とようやく許可をすると、三枝委員長は急いでホックに手をかけたので、「ゆっくりと」と念を押して、動きをより緩慢にさせました。
やがてブラジャーも地に落ちて、三枝委員長は全裸にネクタイと靴下、靴だけを身に着けた、本物のド変態となりました。
「1歩、前に進んでください。もう1歩、もう1歩、そう、もう1歩」
三枝委員長は命令された通りに進みました。当然、目の前は全開になったドアですから、進めばやがて、廊下に出ます。背後からなので、表情が確認出来ないのが残念で仕方ありません。きっと、この世の物とは思えない程いやらしい顔をしているに違いないのです。
「神聖な学び舎で、なんて格好をしているのですか。いつも真面目なあの三枝委員長が、いつも成績トップの三枝委員長が、皆に慕われ、尊敬される三枝委員長が、動物みたいに裸で、こうして廊下に立っている。最低だと思いませんか? 誰だって思うはずです」
言葉で責めながら、自分は足音をたてず、三枝委員長の背後に忍び寄りました。
「いやらしい。汚らわしい。奴隷にはちょうど良い身体ですね。全く、こんなに……あ!」
とわざと大きな声を出して、自分は三枝委員長の両肩を両手で同時に掴みました。生肌の感触。驚いた三枝委員長はびくっと体を震わせて、かわいらしい小さな悲鳴をあげました。
「びっくりしましたか? 誰か他の人が来たのかも、なんて? 興奮しているんでしょう。分かりますよ。証明してみますか。もうご存知かとも思われますが、自分は女の子がおもらしするのが大好きなのです」
今更ながらの告白をすると、ブラダーサイトによる尿貯蓄率とは別に、興奮度パーセンテージが現れました。数値は、147%。今まで見てきた中で最大の数字でした。
「やっぱりそうだった。おしっこの方も、後1回触れば漏れますね。分かりますか? 今からあなたは、学校の廊下で、自分の教室の前で、生まれたままの無様な姿で、おしっこを漏らすんですよ。心の準備はよろしいですか?」
「ま、待って! やっぱり私……!」
次の瞬間、世界で一番美しい液体が、三枝委員長の股間から溢れ出しました。