Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 資質。
 自分にはどうにか、三枝委員長を満足させうる主人としての才能があったらしく、その資質によって、かろうじて窮地を脱するに到った訳ですが、果たしてそれが幸福であるかどうかはまた別の話であり、しかも、今はこの淫乱を調教している場合などでは決して無く、人形能力者に誘拐されたくりちゃんを助けねばならぬという使命をすっかり忘れていた事を思い出し、自らの尿の海に、前屈姿勢で突っ伏しながら、恍惚の表情を浮かべて気絶している三枝委員長を叩き起こして、くりちゃんの居所、もとい在処を聞き出さねば、自分はこのままこの変態とただならぬ関係に至り、怠惰に身を委ねて、卑猥地獄へと堕ちていってしまう予感に、ぶるぶると身が震えたのです。
 抱き起こし、パンパン、と2度ほど頬を叩き、「起きてください」と言いましたが効き目はなく、「おい起きろこの淫乱雌豚公衆肉便器」と声をかけると、ぱちりとその大きな目を開けたのです。
「ふわぁい……」
 と情けない声をあげたのが、果たして彼女自身であったのかどうかが定かではありません。別の人格が突然現れたか、あるいは守護霊が乗り移ったと解釈した方がよっぽどましな程に、三枝委員長はいつもの毅然さを失い、少女のように、幼女のように、くたっとした身体を無防備に自分へと預けたのです。
 一瞬、「あ、もうくりちゃんいらないかな」と思ったのは否定しません。しませんが、実行もしません。
「三枝委員長、くりちゃんの居場所を教えてください」
「え? 小陰唇の……」
「いやそっちの話ではなくて」
 とりあえず服を着せて(と、ここでは簡単に言ってのけますが、全裸で力無くへたりこむ同級生を見ながら煩悩に打ち勝ち、わざわざ服を着せるのは並々ならぬ所業であり、事実、作業中自分は勃起しっぱなしで、勝負の決着がついた後でなければ、不可能だった事でもあります)、「真面目に答えないと捨てます」と前置きしてから、再び同じ質問をしました。その頃にはようやく三枝委員長も正気を取り戻したらしく、今度はかろうじて意味の通る答えが返ってきました。
 何故かたまにアヘる三枝委員長の話、数行を割愛。
 自分は三枝委員長の手を握って(ここで再び、3度目の接触が起こり、能力が発動。三枝委員長はパンツぐしょぐしょのまま、無理やり引っ張られて)走り出しました。自転車の後ろに乗せ、夕暮れの街を疾走します。


 目的地につくまでの間に、今割愛した三枝委員長のした推理を整列するとしましょう。
 まず、そもそも犯人が誰なのかについて、純粋に考える事が大事だったのです。自分はHVDO能力者にこだわり過ぎていました。
 くりちゃんを誘拐したという事は、くりちゃんと面識のある人物であると考えるのが自然です。無論、街で偶然見かけたくりちゃんに一目ぼれし、後をつけ、家を見つけて張り込み、能力を使ったという可能性も無くはありませんが、やはりどう考えても可能性としては低い。となると、くりちゃんを知っている人物は、生徒や先生、学校の人間にほぼ限られます(くりちゃんの交友関係が非常に狭いのは前述の通りです)。しかし今日はテストの当日。同学年で休んでいたのは、自分とくりちゃんと春木氏くらいの物だったそうで、なおかつ、ブログの更新時に我々と接触していた春木氏は犯人ではありません。
 くりちゃんの事を知っていて、なおかつ学校の生徒、及び先生ではない人物、となれば、おのずと対象になる人間は限られます。
 「人形好き」という性癖も、犯人のプロファイリングに際して重要な要素になります。「人形が好き」という事は、つまり、簡単に言ってしまえば「人間が嫌い」なのです。人の持つ温度、言葉のやりとりの煩わしさに対して辟易しており、もっと酷くすれば、自らを取り巻くこの社会に対して、嫌悪感を抱いている。そのような人間が取る行動は大抵2つに絞られます。何もかも嫌になって自殺するか、自宅にひきこもって、世界とのあらゆる関係を断絶するか。
 さて、いよいよくりちゃん誘拐犯の人物像が絞られてきました。くりちゃんを知っており、学校の人間ではなく、ひきこもりの可能性が高い。
 思い当たる人物が、1人だけいるはずです。
 そしてここまでの推理の裏づけは、等々力氏の手によって与えられました。
 携帯電話に表示された1枚の画像。
 その中に映った1枚の「物」で、犯人は確定されました。
 などと高談雄弁に語ってはみたものの、ここまでの推理は全て淫乱雌豚肉奴隷、ではなく三枝委員長によるものであり、決定打となる「物」に関しても、確かに自分の視界にも入っていたはずですが、完全に見落としていました。しかし自分の事を愚鈍だと笑える人間はそう多くはないはずです。同じ状況に立たされれば、誰だって同じく見落とすはず。そうでなかった三枝委員長の、鋭すぎる観察眼こそが、犯人の正体を見破るに足りた訳です。
 自転車から降り、チャイムも鳴らさずにドアを開けました。玄関先で、自分達の帰りを今か今かと待っていた人物が、両目をぱちくりさせています。
「音羽君、お兄さんの部屋に案内してください」


 くりちゃんを誘拐した犯人。それは音羽君の兄(以降、音羽兄)でした。
 等々力氏が見せたくりちゃん人形が映った写真、その猥雑な部屋の中に、つい先ほど、春木氏が持ってきた小包と全く同じ物が映っていたそうなのです。自分が確かに見たという訳ではありませんが、三枝委員長がそのような嘘をつくとも思えず、また、前述の推理もあって、音羽兄が犯人なのはほぼ確定しました。後は直接乗り込み、取り返すのみ。と、意気込む自分を三枝委員長が止めました。
「待って、五十妻君。今、HVDO能力が使えるのはあなたしかいないのよ」
「え? 三枝先輩、能力はどうしたんですか?」と、横から音羽君。
「負けたのよ。五十妻君にね」
「え!? さっき、戦ったら負けないから戦わないって……あれ?」
 確かに、三枝委員長の指摘に間違いはありません。2人共、自分が倒してしまったのですから、今戦える人物が自分しかいない事は、確かな事実ではあります。しかし、だから何だと言うのです。
「元より自分が戦うつもりです。三枝委員長は黙って自分についてきてください」
 言っていて、自分でも不自然なくらいに男らしい台詞でした。対する三枝委員長の返事は、「分かったわ」というたった五文字でしたが、確かな質量を伴い、闘志を奮い立たせるカンフルになりました。
 音羽兄の部屋の前。ドアには「絶対に開けるな」と赤いマジックで書かれた板が下がり、ありとあらゆる来客を拒む揺ぎ無い姿勢に、長年に渡るひきこもり生活を感じさせました。
「音羽君、来客が来たと言って開けてください」
 と小声で頼むと、音羽君は、
「流石にうちのキモオタ兄貴が犯人とは……まあ、やりかねませんけど……でも流石にそれは……いや、確かに犯罪者予備軍ではありましたけど……」
「この部屋の扉を開けてみれば分かる事です」
「『春木君から新しい荷物を預かった』と言えば開けてくれるんじゃないかしら」
 ノックの後、三枝委員長の提案通りに、音羽君は声をかけました。身内にもしっかりと疑われるあたりに、音羽兄のこれまでの人生が集約しているように思われました。
 僅かな沈黙の後、ドアがほんの少し開くや否や、自分は隙間に足を滑り込ませると、目があった音羽兄は、ぷひぃと悲鳴を漏らして、部屋の中で引き下がりましたので、そのままドアを全開にしました。
 なんという悪臭。部屋を隅々まで確認しなくともすぐに分かりました。彼はオナニーした後のティッシュをそのまま部屋に放っぽり投げている。薄暗い部屋に、足の踏み所はなく、まさしくゴミ部屋、人の住処とは思えぬ有様でした。
 うろたえながらも、「おっおっ。なんだおっ。なんだお前らっ。出て行けおっ!」と訴える音羽兄の隣には、見覚えのある人形が鎮座していました。どうやら、三枝委員長の推理は的中し、我々は犯人を追い詰めたようです。


「三枝委員長! パンツを脱いでください!」
「ええ!?」
 突然の無茶振りにうろたえつつも、「これは命令です」と自分が付け加えると、大人しく三枝委員長は先ほど漏らした尿でべちゃべちゃのパンツを脱ぎ捨てました。「汚っ!」と音羽妹。
「スカートをたくしあげて音羽兄側に性器を向けてください!」
「えええ!? そ、それはちょっと……」
 と尻込みするので、パァン、と一発ケツを叩くと、従順な奴隷になりました。奴隷スイッチ、「お」
 おもらしをする、三枝委員長。ただでさえ汚い部屋に、尿の海が形成されて行く様子は、さながら創世記を眺めているようであり、まさしく天地創造。そして顔を真っ赤にした三枝委員長は、禁断の実を食べた直後のイヴでした。
 これだけの羞恥を喰らえば、三枝委員長の自尊心もろとも、音羽兄を木っ端微塵にする事が出来るはず。その確信は、次の瞬間に跡形も無く消え去りました。
 なんと、かわいい女子の失禁シーンを直視したはずの音羽兄が、これっぽっちも勃起していないのです。そんなはずはありません。確認をとりにいきます。
「自分は、女子のおもらしが好きです。あなたは人形が好きなんですよね?」
「おっ、おお」と、肯定。
 音羽兄の頭上に勃起率が表示された瞬間、自分は愕然としました。
 0%。
 音羽兄は、三枝委員長の決死のおもらしに対して、これっぽっちの興奮も抱いていなかったのです。
「ば、馬鹿な……!」
 こんなにエロい存在を前にして、平常心を保っていられるなど、滝が逆流するよりも、田舎に109が出来るよりもありえない現象であり、それを体言したこのキモオタに、自分は心をへし折れたのです。
 しかしここでおめおめと引き下がる訳にはいきません。自分は使えない奴隷に対し、続けざまに命令を下します。
「三枝委員長! 音羽君を拘束してください!」
「ええ!?」
 今度は音羽君が、そう言いました。三枝委員長は、今度はスムーズに命令を了承し、逃げようとする音羽君をノーパンのまま捕らえ、背後に回って両肩をがっつりと抱え込み、自由を奪いました。
 そして自分は、嫌がる音羽君に蹴りをもらいながらも、そのスカートをめくり、パンツを脱がし、発射体勢を整え、すかさず能力を発動させました。
 実の妹の、涙ながらの放尿シーン。
 これを喰らって立てる者は、いえ、勃てない者はいないはず。その確信は、またも粉々に打ち砕かれました。
 0%。
 このド変態は、本当に人形にしか興奮しないようなのです。
 自分には、最早打つ手がありませんでした。
 するとその時、背後から、爽やかなそよ風が吹きこんだのです。
「苦戦しているようだね、五十妻君」
 振り向くと、そこに立っていたのは、つい先ほど知ったばかりのクラスメイト、春木氏でした。

       

表紙
Tweet

Neetsha