Neetel Inside ニートノベル
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 電話をかけてからわずか数分後、狂おしいほどに待ち焦がれた、たった1人のスペシャルホースこと三枝委員長が、小型ヘリで我が家に到着しました。爆竜大佐を髣髴とさせるその登場シーンに、普段ならば度肝を根こそぎ抜かれていた所でしたが、今は人体の神秘を目の前にしたその直後というだけの事があって、さほどは気にならなかったと言えば嘘になります。やはり、彼女は規格外です。
 自分が神に救いを求めるが如く扉を開けると、イカついアタッシュケースを片手に提げ、物々しい雰囲気をかもし出しながらも、「お邪魔します」と最低限の礼儀は忘れずに我が家の玄関をくぐった三枝委員長は、脱いだきちんと靴を揃えて、自分の前に立ちました。
「木下さんは?」
 一切の無駄が省かれたその質問に、自分は震えながら居間の方向を指差し、三枝委員長の淀みない足取りに引っ張られるように、その後を追いました。
 くりちゃんは先ほどの状態から一歩も動かずに、赤い水たまりの上で声を殺すようにして泣いていました。何せ完全にput my hands in The air状態でしたので、自分には何も出来なかったのです。珍しく、心に痛みを感じます。どんな変態だって人は人なのです。
 三枝委員長は一瞬、自分の方を冷ややかな視線でちらりと見て(どんな批判や叱責や罵倒の言葉よりも、自分の無力さを痛感させられた瞬間でした)、すぐに視線をくりちゃんに戻し、猫なで声で「大丈夫だからね」と雪山で遭難した時にたまたま一緒に居たイチローより頼りになる言葉をかけて、持ってきたアタッシュケースを開けました。中には、様々な種類の生理用品が満杯に詰まっていました。
 これは以前にも感じた事ですが、三枝委員長ほど「敵に回したら恐ろしいが、仲間にしたら頼もしい」という言葉の似合う人物はいないように思います。
「あ、あの、先にお風呂とかにいれなくていいんですか?」
 と自分は、保護者としての最後の意地とばかりに意見を述べてみたのですが、
「生理中はお風呂を出た後にお腹が冷えて痛くなってしまう事もあるから駄目」
 と、簡潔に否定されてしまいました。
 自分の愚かな浅知恵が何の助力にもなっていない現実に対して自己嫌悪している間に、三枝委員長はくりちゃんの血を処理し、生理用品の使い方を親切丁寧にレクチャーし、メンタルケアまでしてのけたのですから、恐ろしありがたいとはまさにこの事です。
 くりちゃんは終始泣いてばかりいて、「何も恥ずかしい事じゃないのよ。むしろおめでたい事なのだから、後で五十妻君に何か綺麗なお洋服でも買ってもらいなさい」という三枝委員長の菩薩ライクな言葉にも返事する事ままならないらしく、そして決して自分の方は見ませんでした。
 情けなし 男の出るまく まるでなし。
 幕と膜をかけたなかなか甲乙つけがたい一句が浮かび、いよいよもって自分は救いようのない馬鹿であり、変態であるなあと思いしらされたのです。


 すっかり冷めてしまったココアを正座しながら啜り、自分は三枝委員長の言葉を待ちました。「お父さん、娘さんを全員下さい」と言い放った直後のような張り詰めた緊張感に、自分はまるでここが自宅ではないかのような錯覚さえ覚えました。
 何分、初めての事で疲れてしまったのでしょう。見られたくない物を見られてしまったという喪失感もあるでしょう。くりちゃんは既に自分の部屋に戻り、ベッドでぐっすりと眠っています。つまり居間には、自分と三枝委員長の2人っきり。室内は、肌を妬くような沈黙が支配する牢獄でした。
「……あの、わざわざ休日に駆けつけていただいて、ありがとうございました。しかも、料理や洗濯までしていただいて……」
「……」
 三枝委員長は目を瞑ったまま腕を組み、堂々たる貫禄で自分を威圧し、戦々恐々自分は冷や汗を拭いました。
「くりちゃんのアレは、もしや能力者の仕業でしょうかねえ……?」
 下手に出つつ尋ねると、
「それはないわね。もしも月経フェチの能力者がいたとして、木下さんに能力を使った結果がアレならば、その人物は何を置いても最前列で見たいはず。今、ここにいるのは私と貴方だけなのだから、木下さんのアレは自然にその時を迎えてしまったというだけの事」
 一寸の穴も無い理論でした。再び、針のむしろのような沈黙の上で自分は正座を始めました。
 それから10分後。何の予備動作もなく、
「五十妻君」
「は、はい!」
 名前を呼ばれた瞬間、背中にガリガリ君を突っ込まれた時の感覚が自分を襲いましたが、次に三枝委員長の妖艶な唇から飛び出してきたのは、自分を責めるでもなく、女体の神秘について解説をしてくれるでもなく、とても意外な物でした。
「私は、あなたの奴隷になったはずよね?」
 奴隷。自分はその言葉の真意が把握できず、脳内辞書を何度か高速でひきましたが、そこに載っていた意味はたった1つでした。
 くりちゃんが、春木氏と音羽兄の策略によって誘拐されたその日、自分は自らの人生でも初となる奴隷の調教を三枝委員長に施しました。それは自分が三枝委員長に対して強要した物ではなく、むしろ三枝委員長自身がくりちゃんの居場所を教えるという交換条件を提示してきた事に起因し(というと言い訳のように聞こえるかもしれませんが、行為の最中も自分はくりちゃんを助ける気持ちが0.01%前後は残っていたと断言させていただきます)、自分は三枝委員長が露出狂として望む未来を出来る限り実現し、与えました。
「……と、言いますと?」
 自分はおっかなびっくりしながらそう尋ねましたが、三枝委員長は黙して語らず、また目を瞑って、何かを考え始めているようでした。
 そのまま10分ほど、硬直状態が続いたので、自分はいよいよ両肩にのしかかる100tの重り(合わせて200t)に耐え切れなくなって、苦し紛れにこう提案したのです。これは自分の名誉の為にも、あえて先に言っておきますが、決してそこにいやらしい下心などは微塵もなく、ただ気分を変えて、状況と関係の改善を願っての物でした。
「……あの、外へ散歩にいきませんか?」
 その言葉を聞いた瞬間、三枝委員長はカッと目を見開き、待ってましたとばかりにどこからともなくあるアイテムを取り出したのです。
 気持ち若干頬を紅く染めながら、三枝委員長が自分の目の前に啓次し運命は、黒い首輪と手綱の形をしていました。


 私を調教して。
 と男子に堂々と依頼する女子が、果たして日本国内に何人いるか、という問題がまずあり、その中でも類稀なる容姿と、家柄と、能力と、性癖を兼ね揃えた人物が果たして存在するかどうか、となってくると、これは最早天文学的な確率をはじき出し、下手をするとこの宇宙が誕生した奇跡を楽に越える偶然が発生しつつも、自分のすぐ近くに転がっていたという事になります。
 草木もうつらうつらときているであろう深夜の2時。自分は覚悟を決めて、大きな大きな第一歩を踏み出しました。もっと強い覚悟を決めなくてはならない三枝委員長は四つんばいで自分の前をいき、しかも当然のように全裸でしたので、はっきり述べて陰部は自分に対して丸見えの状態でした。
 月の明かりが照らした彼女の卑猥装置は、前から見るとかわいげのある毛が生えているはずなのですが、後ろからですと完全なる無毛とほぼ変わらず、周りの暗さがその猥褻さを引きたてつつ、なおかつ前後に動く両足によって、くにくにと動く柔肉が、まるで艶美な食虫植物のように自分を誘惑しています。
 自分はしっかりと手に持った手綱を握り締め、辺りを警戒しつつも、脳に打ち込まれる情報を整理して、今自分が何をすれば良いのかを改めて考え始めました。
 聴覚がとらえたのは、三枝委員長の荒い吐息と、どこからともなく聞こえる犬の遠吠え。発情しているという点ではどちらも似たような物です。そして嗅覚で感じる冬、匂い。自分はしっかり服を着込んでいますから、そう寒くはありません。……とは口が裂けても言えない程に激寒いのですが、では全裸のこの人はどうなのかというと、湯気が出るほどにお熱いようなのです。
 自分に敗北する前まで三枝委員長が持っていた能力「影暴」は、発動すると全裸になり、2秒経過すると元々着ていた服に戻るという物でしたが、今は正真正銘、何のトリックもギミックもない全裸であり(首輪だけはしていますが)、そもそもあの勝負の時も、結局三枝委員長は能力をほとんど使わずに、自分で服を脱いで放課後の教室でプレイを大いに楽しんだ訳ですから、真に常軌を逸した変態は彼女であるのではないか、という説もまことしやかに囁かれております。
 自分が口にした「散歩」という言葉を、曲げて曲げて曲げて解釈した結果がこの有様。まったくもって、変態の思考回路という物は訳が分かりかねます。先ほどまで、うちの台所で鉄人ばりの料理の腕を披露していた完璧超人が今は全裸で地面に這いつくばっている。なんという事でしょうか。
 無言のまま、自宅から出て20mほどを歩いていると、急に不安になってきたのか、三枝委員長がこう尋ねてきました。
「あの……五十妻君。どこまで行くの?」
「犬は喋りませんよね? 何て鳴くんでしたっけ?」
「わ……わん!」
 気づくと自分はノリノリでした。


 どうにか無事に、いえ、三枝委員長にとっては「残念ながら」と言うべきなのでしょうか、途中ニアミスは何度かあったものの、目的地まで、誰にも通報されずに来る事が出来ました。
 1周が約400mほどあり、中心に遊具があるこの時田公園は、昼は小さな子供を連れた奥様方や、お年寄りの散歩コースとして多く利用されており、12時を過ぎる前までなら、日々のトレーニングに励む方の姿も見られるのですが、流石に夜半を越えると人の姿はありません。
「さて、まずは何から躾けていきましょうかねえ……」
 などと余裕の発言をかましてはいますが、内心では必死です。どうすれば三枝委員長は満足してくれるのか、どうすればもっとエロくなるのか、過去、自分が読んできたありとあらゆる成年漫画、官能小説という重要資料を紐解いた結果、出たきた言葉はこれでした。
「おすわり」
 命令を下すと、三枝委員長は「わ、わん!」と返事をした後、四つんばいの状態から腰を下ろし、両手を地面につけて自分を見上げました。ちょうどその豊満な胸の頂点と、股間が隠れるような腕の配置で、そこに自分はラストやまとなでしこ的恥じらいを感じ取りました。
 三枝委員長の表情には既にいつものキリッとした面影はどこにもなく、だらしなく舌を出して鼻息荒く、もはや野生の雌に堕落しながらも、従順な飼い犬としての性質は失わずに、命令に答えたという訳です。
「お手」
 次に、自分は腰を落とし、手綱を持っていない方の手をそっと差し伸べました。三枝委員長は躊躇いながらも、軽く握った手を置きましたので、摘みやすそうな乳首がこんにちはしていました。
 すっかり調教の行き届いている事は重々分かってはいましたが、確認の為に自分は、この項最後にして最高に屈辱的な命令をする事にしました。
「ちんちん」
「……わ、わふん」
 自信なさげな返事をしつつもゆっくりと、三枝委員長は股を広げていきました。武道における「蹲踞」に良く似たその体勢は、しかしながらそこに見られるような神聖さは一切無く、この上なく卑猥かつ猥褻なポーズであり、犬のように曲げた手首を首輪の近くまで持ってくると、いよいよもって変態の極みへと到達したかのように思われました。
「無様ですね」
 と忌憚無き感想を述べると、三枝委員長は頬を真っ赤にしたので、自分は悪戯心から視線を遠くに向け、わざとらしく「あ! あそこに誰か!」と言うと、三枝委員長は体をびくんびくんさせながら後ろを振り向いて、誰も居ない事を確認し、くやしそうに自分を見上げるのです。
 快感。で、あるにも関わらず、ああ、なんという事か。エロス神の与えたもうこのシチュエーションに、我が愚息はこれっぽっちも反応せずに、ぶらりだらしなく股間で眠っているのです。もしも自分が春木氏に負けていなければ、爆発寸前まで勃起させた後、そのまま勢いでこの雌犬に肉棒制裁を加えて然るべき場面なのですが、ちんこが勃たないというただそれだけの事で、To Loveるばりの超おあずけを読者の皆様に課してしまう事になろうとは。
 改めて思い知らされた敗北の重さに自分がたじろいでいると、三枝委員長も自分の放蕩息子に気づいたらしく、残念そうな、あるいは物欲しそうな表情を一瞬見せました。
「くぅ~ん」
 すっかり犬になりきった三枝委員長は、せつなげにそう鳴くと、自分の上着のボタンの下だけ開けて、履いているジーンズのベルトに手をかけました。当然自分はうろたえ、「待て! ステイ!」と命令しましたが、聞く耳を持たず、もはや犬ではなく狼と化した彼女は、自分のパンツに手をかけました。
 勃たぬなら勃たせてしまえという事でしょうか。その豪快な考え方には賛同しかねますが、いや、しかし自分も、全力で抵抗する事は出来なかったのです。
 ここまで来てもまだ勃たない、むしろ寒さで縮んでいるくらいのマイサンが外部に露出しました。それを見た三枝委員長は驚きながらも興奮しつつ、唇の先端を尖らせて、その端正な顔をゆっくりと、この世で一番汚くて神々しい物に近づけていったのです。

       

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