Neetel Inside ニートノベル
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 散々くりちゃんの事を生意気な処女呼ばわりしてきた自分が、今更こんな事を言うというのはなんとも気恥ずかしく、出来ればあえて明言せずに話を進めていきたかったのですが、まあとっくにバレているとは思いますし、今自分が抱いている感情を理論的に説明するには、この事実をはっきりとここに明言しておき、同情か、あるいは協調を得る事によってしか成しえないと判断しましたので、言います。
 自分は童貞です。
 あ、それは別にどうでもいい情報です。と思われる方が大半であると推察されますが、しかしそこをどうにか堪えて、是非とも1つ想像してみてください。同じ童貞の方は立場を置き換え、非童貞の方は昔を思い出して、女性ならば性転換した気分になって、中学生の男子が、初めて女子との性行為に挑む瞬間の緊張と高揚を、ありったけの想像力でもって瞼の内側スクリーンに映し出してみてください。
 それは即ち、並々ならぬ事です。男というのは、ミルクにつけたビスケットのように脆弱なメンタリティーを持っている生き物でありますから、初めての時に逆に興奮しすぎて勃たなかった、という人もいれば、一生取り除かれる事のないであろうトラウマを女子の手によって植えつけられた方も多々いると聞きます。初体験というのはまさに、一生一度一世一代一期一会一喜一憂の大舞台であり、そこでトチ踏もうものならば、その後の人生ひたすら下を向き歩かなければならない程の大いなる挑戦なのです。
 であるからして、三枝委員長の取ったその行動は当初、自分に混乱以外の何物ももたらしませんでした。自分は先ほど、肉棒制裁も辞さない構えであると生意気な事を口にしましたが、この鉄壁の如きリアルを前に、情けなくも足が立ちすくんでしまっている事に気づいたという訳です。それでもなお自分の事を指さして笑う人は、おそらく長い人生の過程において、童心をどこかで失ってしまった方であると反論させていただきます。
「三枝委員長! ちょっと待ってください! 脱がすのをやめなさい! 言う事を聞かないペットにはきついお仕置きをしすよ!?」
 などと脅してみても、ますます三枝委員長は宴たけなわになるのみで、血走り見開いた双眸を決しておちんぽから離さず、自分が両手を使って彼女の顔を押さえつけて引き離そうとしても、重戦車のようにじりじりと強引に顔を進めてきて、表情は今にも「ん゛ほぉ゛ぉ゛」とか言ってアヘ顔しそうな領域に迫ってきていたので、「あえて拒否をしなかった」というよりも、拒否する事が阿呆らしくなったと言った方がやや正しいかったかもしれません。つまり、自分は開き直りました。
 フェラチオ。大いに結構ではありませんか。
 今現在、自分の駄ペニスは、ありとあらゆるエロに対して完全無反応主義を決め込むという篭城体勢に入っているのは紛れも無い事実であり、例えば美少女の生放尿や失禁といった極上の爆弾でもって爆撃してもびくともしない防御力を誇っています。
 無論、自分は童貞ですので、これまでの人生経験上フェラされた事は1度もありませんが、果たしてそれがなんぼのもんじゃい、と。たかだか人間の口に陰茎が収まったからといって、どれほどのエロスをたたき出すというのでしょうか。ちゃんちゃらおかしいとはこの事です。
 ……まあ、もしも三枝委員長のフェラで自分のマグナムのトリガーが引かれてしまったとしたら、それはそれ。据え膳喰わねばなんとやらと昔のエロい人も仰っている事ですし、ごにょごにょむにゃむにゃ致してしまうというのもやむ無しと、自分が不埒な覚悟を決めた瞬間に、まるで計ったように邪魔者は現れました。ファーーーック!


 頭部から背中にかけてを少し汚れた砂茶色の毛が覆い、尻尾はくるんと丸まって、触ればおそらく湿っているであろう黒くて大きな鼻の下、開けた口からはピンク色の健康な舌が垂れ、三枝委員長と同じく4足歩行で歩くその姿。
 18禁ゲームで言えば、エロCGが表示される一歩手前のテキストが流れているような状況をひっくり返してフラグを叩き折ったのは、たった1匹の「犬」でした。当然、自分も三枝委員長も周りは警戒していましたので(今やっている事を真面目に解釈すると犯罪の部類に入っているのは重々分かっていますが、情熱の前には法律など何の拘束力も持たないといいつつもお縄になるのはやはり御免です)、目の前に現れるまでその存在にすら気づかなかった事から、この犬は相当な訓練をつんだ忍者犬である可能性もにわかに浮上してきましたが、見た目はただの柴犬に近い雑種です。
「ちょ、な、何!?」
 この突然の乱入には流石の三枝委員長も驚いたらしく、似つかわしくない声をあげました。犬は、自分に向かって何度か吼えた後、低い声でうなりながらぐるぐると周りを回って、自分と三枝委員長を交互に見ました。「お前ら人間の癖に外でやるんじゃねえ! ホテルへ行きやがれ!」とでも言いたいのでしょうか。露出プレイ初心者の自分には、こんな時どう対処するのが正しいのか分かりません。いえ、例え上級者でも分からないのでは? それとも、上級者は皆ポケットにほねっこを忍ばせているのでしょうか。とにかく、まずは落ち着く事です。
「野良犬のようですね」
 もしも噛まれてしまったら冗談ではすみませんので、自分はそそくさと陰茎をしまい、三枝委員長に「場所を変えましょう」と言って、手綱をひきましたが、それでも犬はついてきてワンワンと吼えました。人懐っこいのか、それとも警戒しているのか。当然、本気モードで言う事をきかない犬を連れた状態では、非常に目立ってしまいます。
 犬は三枝委員長の尻穴の臭いをくんくんと嗅いだり、舌でその肌を舐めたりしており、もしも懐いているのだとしたら三枝委員長に対してで、自分の事はむしろ敵視している様子でした。
「困った事になりましたね」
「ええ……そうね」
「いつ日本語を喋っていいって言いましたっけ? あなたもこの犬と同じケダモノの一種ですよね?」
 と、こんな時でも忘れずに自分がご主人様に徹すると、三枝委員長は取り繕うような情け無い笑顔で「わ……わん!」と答えました。
「しかし本当に困った」
「くぅ~ん」
 2匹の犬を連れて散歩、という訳にもいきません。なぜならば、本物の犬を連れていると心がほのぼのとしてしまうからです。これではどうにもエッチい気分になりません。仕方なく、しっしっ、と自分は手で犬を払ってみました。
「あ痛っ!」
 すると犬が噛み付いてきた訳です。野良犬の牙は雑菌の巣窟です。幸い、噛んだといっても甘噛みだったようで、切り傷にはなっていませんが、犬はなおもマズルの奥の鋭くも愛らしい眼光で自分を睨んできました。


 痛みと共に、自分はある事に気が付きました。
「もしかしてこの犬、三枝委員長とヤりたいのではないですか?」
 三枝委員長はぽかんと口を開けて自分の顔を見ました。や、り、た、い? 何を? 無論、ナニをです。
「そ、そん……わ、わわん!」
 三枝委員長は出かけた人間の言葉を飲み込んで、犬としての矜持を守りつつも反論しました。すがるように自分のジーンズを両手で掴んで、「くぅ~ん」とまた例の甘えた声で鳴くので、自分のS心にいよいよ火の手があがりました。こうなれば、火付け盗賊改方が駆けつけて来るその前に、さっさと行為に及ぶとしましょう。
「犬同士、良いんじゃないですか。とてもお似合いですよ」
「わふん!? わ、わんわん! わん!」
 クラス、ひいては我が校の最高責任者と言っても過言ではないほどの優等生、歩く人望発生装置、才能のオーバードーズ、成功する為だけに生まれてきたようなミスパーフェクトが、犬畜生に限りなく近い扱いを受け、あわや獣姦までさせられそうになっている。
 なんたる奸濫。なんたる淫靡。
「わわわん! わん! わあん!」
「そんなにうるさく吼えると、誰か人が来てしまいますよ」
 と宥めながら、自分はしゃがんで、本物の方の犬の下を覗き込みました。オーケー? オーライ! 立派なペニスをぶら下げた雄のようです。
「わんわんわんわん! それだけは許してわん!」
 なりふり構わぬマジ懇願に対し、自分は冷ややかに言い放ちました。
「何故そんなに拒否するんですか? 貴方は自他共に認めるアブノーマル。変態プレイヤーのはず。犬とのセックスくらい、朝飯前にこなすくらいでないといけませんよね。それにどうやら、彼の方は準備万端のようですよ」
 指差すと同時、犬は大きく体を開いて三枝委員長の背中に飛び乗りました。犬のペニスは細長くピンク色で、人間の物とは随分と違いましたが、興奮しているのは明白でした。自分が幼少の時、親戚の叔母さんの家に行った際に、そこの飼い犬ラッキーが、はぁはぁと息を吐きながら、叔母さんのふとももにナニをこすりつけて性欲を発散させていた場面がありありとフラッシュバックしました。今目の前にいる犬は、まさにあの時のラッキーの姿であり、叔母さん役は全裸の美少女です。アーーーッウト!


「い、いくらなんでも……こんなの……こんなの……!」
 犬は自らのペニスが収まるべきエルドラドを探すように、三枝委員長の肉体を四肢でまさぐり、やがて人の嗅覚の100万倍とも言われる鼻(100倍強く臭いを感じる訳ではなく、空気中に漂う臭い分子が100万分の1以下でも嗅ぎ取れるという意味での100万倍だそうですが)を、親の敵とばかりに三枝委員長の秘所に何度も押し当てていましたので、その度に彼女はいやらしい悲鳴をあげました。
 とはいえ、流石に犬と人間。三枝委員長は股間を片手でぎゅっと押さえて防衛しながら、両足を使って犬の猛攻に対し本格的に抗い始めていましたので、犬自力での挿入は困難なように見えました。よって、横で傍観を決め込んでいた自分は助け舟を出しました。もちろん犬に。
「おい雌豚、これは命令です。股を大きく開けて犬を受け入れてください」
「いあぁ! たすけて! ご主人様! 他の事なら何でもしますから!」
「駄目です。犬とセックスしてください」
 その言葉を自分で言った瞬間、勃起するはずのないちんこがぴくりと反応しました。もしや、これは、復活……と思った矢先、三枝委員長が叫びました。
「は、初めては! ご主人様にもらってもらわないと……! 駄目なんです……!」
 万年閉じ気味の自分の眼が、大きく開いていくのを感じました。
 変態開眼。
 三枝委員長は仰向けのまま、犬にペニスを押し付けられながら、足を体育座りのように曲げて、文字通り目と鼻の先まで迫った犬の頭から顔を背け、まっすぐに自分を見つめています。
 この状況は、一体何なのでしょうか。一部始終を見ていたはずの自分が、誰かに詳しい事情説明を求めたいくらいです。そもそも深夜の全裸散歩を自ら希望した時点で異常だというのに、突然割り込んできた犬にレイプされそうになる女子なんて、この世にいるはずがない。でもいるのです。目の前に。
 いやいやいや、そんな事よりも、今自分が考えるべき事は、三枝委員長が口にした台詞についてです。「初めてをもらって欲しい」おそらく、初夏の初鰹的な意味でもなければ、解体癖のある異常殺人者が順番に被害者の体を切り刻む際に被害者がもっと異常だった場面に発せられた台詞的な意味もそこにはありません。三枝委員長の言う「初めて」とは即ち、つまり、あの、「初めて」の事であり、多分、きっと、「初めて」の事であるに違いありません、おそらく。


 そこからの記憶が、自分にはどうも曖昧なのです。
 何か声をかけたような気もしますし、それか無言で手をひいたような気もします。とにかく自分は三枝委員長を犬の魔の手から助け出し、走って逃げたのです。あの犬は、動物の癖にあまり体力が無かったらしく、公園を出る頃には姿が見えなくなっていました。
 そしてそのまま我が家に帰ってきて、三枝委員長はちゃんと服を着て、帰宅しました。
 どんな会話を交わしたかも覚えていませんが、結局の所、自分は三枝委員長と事を致す事も、勃起が復活する事も無かったという訳です。果たして自分は、チャンスを逃したのか。それともピンチを切り抜けたのか。奴隷モードから支配者モードに戻った時の三枝委員長の切なげな横顔だけが、どうにも頭から離れないのです。
 後日、年が明け、三箇日も過ぎて冬休みの終わりが見えた頃、三枝委員長から自分宛に、1通の手紙が届きました。

       

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