Neetel Inside ニートノベル
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 とはいえ、それを実現するには、「この人間はリアルホモである」という確信を知恵様に抱かせねばなりません。この一部の隙も無い冷血乙女に、何のフリも無くぽっと出てきた嘘を信じさせなくてはならないというのは、どう考えても至難の技です。エイプリルフールの朝一番に、「宝くじで3億当たった」と言って、信じてもらうような物です。
「苦し紛れ、にしても、もっとましな手は無かったんですか?」
 知恵様は言いながら、自分のアナルを刺激して、よくほぐしました。自分は喘ぎを混ぜながら、我ながら実に気色悪いと思いつつも答えます。
「あっ、嘘では……おふ……ありませんよ。その証拠に……ああっ……自分の頭の上を見てください」
 姿勢を固定されすぎていて、自分の視点からではきちんと確認できませんが、知恵様は少なくとも視線だけでも自分の頭上へと向けたはずで、そしてそこに、おそらくは80%以上と表示されてるであろう数字を目撃したはずです。
 HVDO能力者同士は、お互いの性癖を知った時点、あるいは告白した時点で、男であれば勃起率、女であれば(便宜上の)興奮率を表示しあうシステムとなっています。それは、こちらの攻撃が、相手にどの程度のダメージを与えたかを視覚的に分かりやすくする為であると推察していますが、HVDOという存在が未だ謎霧の中にある以上、自分も滅多な事は言い切れません。しかし少なくとも、自分はこのシステムを利用して何度も戦ってきており、とりあえずは便利であるという事に間違いはありません。
 今回、自分はこのシステムを逆手にとって利用させていただきました。数字の表示に必要な条件が、「相手の性癖を知る」という事なのであれば、言い換えればそれは「相手の性癖を知った事を、自分が知った事を知らせる」という事になります。ややこしいかもしれませんが、今から実例をお見せしましょう。
 ここで注目すべきは、つい先ほどに自分が言ったこの台詞。
『ち、違います! 自分は人のおしっこを浴びて喜ぶ変態……ではありません!』
 自分はあえて、言葉と言葉の間に若干の「間」を開けました。これぞ、五十妻流マントラ術の極意。自分はバトルに関わるシステムについて、徹底的に実験したわけでもなければ、誰かから丁寧にレクチャーを受けた訳ではありませんので、ある種賭けに近い物がありましたが、どうやら良い目が出てくれたようです。
 頭上の数字の表示が、放尿フェチカミングアウトの台詞ではなく、その後に続いた、嘘のホモカミングアウトに由来していると誤認させる事さえ出来れば……。
 知恵様は、間違いを認めざるを得ないのです!
「はぁはぁ……どうですか? 菊門をいじられて、こんなに興奮してしまいました……」
 自分は舌を出してにやつきながら、知恵様の言葉を待ちました。
「有り得ません」
 知恵様の言葉には一切の揺らぎが無く、自分は正直「あ、全然ダメかも」と思いました。


「あなたがもしもゲイだと言うならば、どうして瑞樹様に固執するのですか?」
 まったくもって、知恵様の仰る通り、自分はつい先ほど堂々と、「三枝委員長は自分の物だ」と宣言しています。普通のセックスを求める、ましてや女を所有するなど、生粋のホモから言わせれば最低の行為に他ならないでしょう。が、自分はこのごもっともな問いに対しての答えを、あらかじめ用意しておきました。
「三枝委員長に固執している訳ではありません。三枝委員長の『財産』に固執しているのですよ」
 卑下に満ちた笑顔を作って浮かべ、自分は続けます。
「こんなに大きな家と、それを維持していく財産があれば、ハーレムを作る事など実にたやすい。そう思いませんか? 幸い、三枝委員長も自分と同じ変態で、HVDO能力者ですし、利用させていただこう、と思っていた訳です。自分には幸いSの才能があるようなので、彼女を片手間に調教し、何でも言う事を聞く奴隷に仕立て上げ、その一方で最強のハッテン場を作る。これぞ自分にとって究極の夢なのです」
 まさに下衆丸出し、人間の嫌な部分を培養して、養殖して、パック詰めにしたかのような、昨今のエロアニメの悪役でも滅多に言わないような台詞を、自分は真剣に口にしました。知恵様の鉄壁の無言に対し、更に投石を続けます。
「徹底的に好みの男だけで構成しますよ。ガテン系兄貴、華奢な美少年、デブ親父に、ショタっこにパンツレスラー……ああ、例を挙げだせばまるでキリがない。自分は攻めも受けもいけるクチですから、これはきっと人生をかけた大事業になるでしょう」
 そんな暑苦しいハーレム、想像するだけでも眩暈がしますし、それを恍惚とした表情で、桃源郷を思い浮かべるが如く語らなければならないのですから、これも拷問に負けず劣らずなかなかの苦行でありますが、こうして手足の自由を奪われ、ちんこビンビンになった自分に打てる策など、そう多くはありません。心の中でげえげえ吐きながらも、究極的ゲイを装い、あくまで勃起率を維持し、知恵様を騙す事、少なくともこれが、自分の思いつく中で最善の方法であるのです。
「あなたの狙いは分かりきっています」と、知恵様。「私に『間違えた』と思わせるつもりです」
「そんな事は決してありません。自分は本物です」
 答えながら、自分は確信しました。ほんの少しずつではありますが、知恵様の心の支柱には、ヒビが入り始めている。なぜなら、知恵様に絶対的な確信が未だにあれば、それをわざわざ口に出す必要が無いからです。おそらく、性癖の告白時、数字が表示されるルールをどのようにして利用したか、そのタネの部分にはまだ気づいていないのでしょう。単純すぎて、逆に盲点になってしまっている。これを好機とばかりに、自分は駆け引きの常套手段『引き』に打って出ます。
「信じられないのならば、それでもいいです。さあ、早くその苦悩の梨とやらをケツマンコに突っ込んでください」
 明鏡止水、といった面持ちで、自分は穴を全開にしました。
「……言われなくてもそうします」
 ひんやりとした金属の感触が、自分のブラックホールに接触し、「はぁんっ!」と世にも気持ち悪い悲鳴が自分の口から零れました。


「どうして自分が急に素直になったのか分かりますか?」
「分かりませんし、聞きたくもありません」
 そうですか。しかし聞いてもらわないと、自分はただの変態ドMのホモになってしまいますので言わせていだたきます。
「実は自分には、好きな人がいるのですよ。もちろん、男ですあっ!」
 言い切った瞬間、ずぶずぶずぶ、と苦悩の梨が前に進みました。距離にすれば、ほんの数cmほどでしょうし、内側からであれば、もっと太いブツを排出した事もある肛門ですが、「入ってくる」という感覚にはやはり慣れてはいないようで、あやうく演技が崩れそうになりましたが、歯を食いしばって耐えました。無事にこの作戦を成功させた暁には、アカデミー賞くらいならいただいても良いのではないか、と思われます。
「ふぅ……あっ……好きな人、というのはですね。同じクラスにいる、等々力という美男子でして……」
 咄嗟に出てきた名前がたまたま等々力氏だっただけで、断じて特別な感情がある訳ではありません。何度でも繰り返し言わせてもらいますが、これはあくまでも演技です。嘘の骨組みに嘘で肉付けした嘘の塊ですので、くれぐれも誤解のないように。
「等々力氏も、自分の事を好いているのではないか、と……ああっ……つぅ……思うのですよ」
 梨も段々と大きくなってきて、挿入はそうスムーズには行われなくなっていきました。それはそろそろ浣腸という医療行為、常識の範囲で想定される領域を超え、そろそろ確実な変態プレイ、アナル開発へと着手してきました。
「それとなく遠まわしに、告白もしたんですが……ああああっ! 駄目、というか……冗談に受け取られてしまって……うっ」
 ギチギチと音をたてて進入してくる梨の感触に恐怖しながら、「こんな時の為にBLを勉強しておくべきだった」と後悔しつつも、括約筋を出来る限りリラックスさせて、いつどんなブツでも受け入れていますよ、という主張を声高に叫びました。
「だけど、ここを無事に脱出出来たら、ふふふ、ちゃんと告白しようと……あうはっ! この苦悩の梨だって……等々力氏のモノだと思い込めば……ぐふっ……そう辛くは……はっ! はっ! はぁぁぁぁん!!!」
 ずぶり、と嫌な音が鳴って、下腹部にあった異物感が、背中側からでも感じられるようになると、いよいよ自分も、清らかな身ではなくなったのだ、という思いが波のように寄せてきて、涙がつうと頬を伝いました。
「ああ、く、等々力氏……!」
 見事、濃厚なホモを熱演しきった自分に対し、何の前振りもなく、救いの手はそっと差し伸べられました。


「その話、もっと詳しく」
 どこからともなく聞こえた声。それは確実に知恵様の物ではありませんでした。自分はうろたえながら、あまり動かない首を少しずつ動かして周りを見渡しましたが、そこに人の姿はありません。知恵様と同じく、自分の後ろ側、死角にいるとしても、いつどのようにしてこの拷問部屋に侵入したのかという疑問が残り、つまり徹底して謎です。謎の声です。
「黙っていていただけますか?」
 と答えたのは知恵様。これで第三者の存在が、確実な物になりました。
「悪いけど、こんな話聞かされて黙っていられるほど、我慢強い方じゃないのよね~」
 声はやけに楽しげで、不安と期待の比率がゆらゆらと左右に揺れました。
「裏切るのですか?」
「んや? ただ私は、公平にやりたいだけ。見た所、この子が今していた話はマジだって。見て見て、これが本物のホモよ。もっと詳しく教えて!」
「それが裏切りだと言っているのですが……」
 声からだけでも、いやむしろ、声だけしか聞こえないからこそ、知恵様が、明らかに怒っているのが分かりました。
「あ、そう。なら、裏切りでいいや」
 余りにもあっけらかんと、謎の声は言い放つので、自分もしばし呆然としましたが、この機を逃す手はありません。
「ああ、等々力氏のチンポが舐めたい……!」
 阿呆みたいな事を、大真面目に言う。これが実に難しい。謎の声は、期待した通りの反応を返してくれました。
「いいわぁ……是非その際には、1番近くで見させてもらっちゃう!」
 まだ顔も見た事ない人間相手に、こんな事を言うのも人間的にどうかと思われますが、この声の持ち主は確実にド変態です。
「トムさん」
 と、知恵様。どうやら声の主は、トムという呼び名らしいですが、まず間違いなく本名な訳がありません。外人でもなければ、男でもなさそうです。
「あなたは腐っていても、目は曇っていないと思っていたんですが、私が買いかぶりすぎていたようです」
 腐っている。というワードから、トムと呼ばれる謎の声のプロファイリングは98%完成しました。端的に言えば、つまり「腐女子」です。
「とかなんとか言っちゃって。柚之原さん、そろそろ自分の間違いは認めた方がいいんじゃない?」
「私に間違いなどありません」
 若干の間の後、トムは真面目な声で尋ねました。
「ふーん……そう。『あの事』もう忘れたのかな?」
 瞬間、ずしんずしん、と拷問部屋全体が揺れました。地震でしょうか、いえ、ここはあくまでも異空間。地震があるとすれば、それは知恵様の自信が揺らいでいるに他なりません。と、くだらない事を考えている内に、瞬く間に世界は崩壊していきました。自分を縛っていた拷問台が壊れ、すっぽんぽんのままで空中に放り出されると、七色に変わる景色をくぐって、ついに三枝委員長の邸宅へと帰ってきました。床に身体を叩きつけられた衝撃で、アヌスから苦悩の梨がポンと飛び出て、その様を思いっきり4人の女子に見られてしまいました。
 恥。
 人にかかせるのは慣れた物ですが、自分がかくのは不慣れでした。

       

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