Neetel Inside ニートノベル
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 三枝委員長の、中学生離れした、いえ、人間離れした、まるでラノベのヒロインのようなとんでもないスペックを、自分は重々承知しているつもりでしたし、これまでに幾度となくその片鱗は述べてきたつもりでしが、それでもなお「侮っていた」と言わざるを得ないようなのです。
 春木氏にされた質問を、そっくりそのまま突き返した三枝委員長は、こう畳み掛けました。
「あなたは木下くりに恋をしている。ただその感情が、きちんとロリコンという性癖から来る物なのかが不安で仕方ないのよ」
 自分がおもらしに誇りを持っているのと同じく、春木氏も、自らのロリコンには並々ならぬ自信があるはずで、実際カミングアウトの際には、堂々と胸を張って、一点の曇りもない眼を輝かせていたのを覚えています。自分がそうであるように、春木氏も、もしかしたらHVDO能力者は全て、自らの性癖を金科玉条として大切に守っている。だからこそ、他の性癖に浮気を抱いて、自らが私法を侵してしまった時には、性器が爆発して不能に陥り、HVDO能力も失うという強烈なリスクを背負っているのかもしれません。
 よって、三枝委員長の攻めは、春木氏が持ち込んできた相談とやらの持つ本懐、いわゆる図星という物を的確に、抉るように鋭く突いた物でしたが、果たしてそれが春木氏にダメージを与えたかどうかは、それでもなお疑問でした。
「春木君、あなたが悩みから解放されるには、まずは自分の気持ちをはっきりさせないとダメなようね。幼女になった木下さんが好きなのか、それとも木下さんが幼女だから好きなのか。ねえ、答えられる?」
 春木氏は、黙ったまま目を瞑って、親指と人差し指で自身の顎をつまみました。考えている、という表現の動作には間違いありませんが、やはり春木氏がやると大味の演技をしているようにしか見えず、続けて出た言葉にこそ、春木氏の本心、つまりは「邪悪」がこもっていました。
「現状、それに答えるのは難しいね。だけど、君が協力してくれるなら、話は別かもしれない」
「……どういう意味かしら?」
 春木氏は人差し指をピンと立て、それを自らの唇に当てました。
「さっき君は、自分が小学生になってくりちゃんの代わりになると言ったね?」
 一瞬、春木氏の背後に、ちらと死神が見え、
「という事は、君の処女は僕がもらう事になるけれど、それでもいいかい?」
 まるで「どうして雨の後には虹がかかるの?」という幼くて純朴な質問をするかのように首を傾げた春木氏は、納得しかねる理屈の上に、危ういバランスで立った、もとい浮きあがっているその質問に、こう付け加えました。
「小学生になった君を犯せば、僕のくりちゃんへの恋心は消えてなくなってくれるかもしれない。言い換えれば、君を相手にしても同じように興奮出来たとしたなら、僕の不安は解消されるという事だ。つまり、真のロリコンとして成長出来て、全ての幼女を分け隔てなく愛せるようになる。そうは思わないかい?」
「……ええ、そうかもしれないわね」
 三枝委員長はすっと右手を差し出して、春木氏の唇の前にある人差し指に触れ、絡みつくようにして握った指を解き、そして優しく、手を握りました。春木氏は目を細めながらそれを見ると、2人の間にただならぬ雰囲気が流れ始めました。


 三枝委員長の処女が、春木氏の手に。
 あの時、柚之原ゴリラに邪魔されなければ、自分が手にしていたであろうその大秘宝が、あろう事か自分を倒した人間に渡ってしまう。人生にたったの1度しかない機会、まだ誰にも汚されていない純潔な身体。それが、春木氏の手に。
 しかもその間接的原因は、自分の女性恐怖症から来ているのです。ご主人様が情けないから、奴隷は精一杯やれる事をしなければならなかった。それは思う以上に、NTR属性の無い自分には耐え難い、なんとも言えない、胃液の逆流するようなストレスでした。
 後悔。
 自分がもっと明晰であれば、もっと強引であれば、もっと変態であれば、このような悲劇が訪れる事はなかったはずなのです。三枝委員長が、人生で1番最初に知る男の味は、自分ではなく春木氏。言葉にすればただそれだけの事実は、自分から冷静さを奪って、熱い涙を呼びました。ああ……実に、情けない。
「……本当に、良いんだね?」
 世にも珍しい、人を気遣う春木氏という構図にも、自分はいちいち驚いてなどいられず、ただ三枝委員長の表情を見つめ、その中に躊躇だとか、嫌悪だとか、自分にとって都合の良い感情がないかを探し、今ならばまだ間に合う、そう強く念じて、念じる事しか出来ない自分に憤怒しながら、瞬きを忘れて見守ります。
「三枝さん、君に質問する。『はい』か『いいえ』で答えてくれないか」そして魔弾は放たれました。「君は、子供に戻りたいか?」
 気のせいか、ほんの一瞬、三枝委員長が自分の方を見た気がしました。見えているはずがないのに、目が合ったように感ぜられ、全身の血流が凍って止まったかのようなイメージが湧きました。
 そして次の場面では、三枝委員長は春木氏を見つめ、こう答えていたのです。
「はい」
 途端に、全ての景色が暗くなるように思えました。これはつい先ほど味わった、くりちゃんがレイプされるシーン以来の衝撃で、かといってどちらの方が重く、痛みを伴ったかは、到底冷静に計測できませんでしたが、今度ばかりは、三枝委員長も偽物という可能性もありえないでしょうし、圧倒的現実を前に逃げ場はないように思えました。
「よし、これで能力は発動した。君はあと10時間後には、立派な小学生になっているはずだ」
 春木氏は嬉しそうに、極めて饒舌に語ります。
「そうだね、貫通式は明日の夜にでもしよう。実を言うと、召喚したくりちゃん以外でセックスをするのは君が初めてなんだよ。初体験同士、仲良くしようじゃないか。ああ、そうそう。この能力の対象者は常に1人だから、今頃くりちゃんは元に戻っているはずだ。もちろん、記憶もね。ここから帰ったら確認してみてくれ」
「その必要はないわ」
 三枝委員長は、凛として言い放ちました。
「あなたは今から、私に負けるから」


 やはり自分は、三枝委員長の事を侮っていたと言わざるを得ないのです。「いくら三枝委員長といえども」という限界を勝手に決め付けておいて、春木氏の誘いに乗った事に勝手に失望して、処女を手に入れられない事を勝手に嘆いていたのですから、救いようのない大阿呆です。
 三枝委員長は、おそらく最初から戦うつもりだったのです。自分ならずとも、春木氏まで完全に騙しきったその演技力は、感嘆の一言に尽きると同時、このように優秀な奴隷を持つ事が出来て、自分は世界で1番の幸せ者です。
「……どういう意味だい?」
 春木氏が三枝委員長にそう尋ねました。まだいつもの余裕は残していますが、質問の中に、遊んでいる気配はありません。
「簡単な話よ。私とあなたが性癖バトルをして、私が勝利を収める。そしてあなたはEDになる」
 自分が春木氏に倒されたあの日、春木氏と戦う前に、自分は三枝委員長を決定的に手中に収めるにいたる調教を彼女に施しました。その結果、三枝委員長は100%を大きく越える興奮を見せつつ、野外放尿という快感の前に平伏し、生理が止まったはずですが、おそらくは自分と同じタイミング、セックスの直前段階の時点で、自分と同じように能力も生理も復活していたのでしょう。三枝委員長の性癖は「露出」その能力は、「2秒間だけ全裸になる」という能力です。
「1つ、聞いてもいいかな?」春木氏は三枝委員長の許可を待たずに、「君のご主人様でも勝てなかったこの僕に、どうやって勝つつもりなんだい?」と意地悪に尋ねました。
 三枝委員長は、春木氏の手を強く握り、答えます。
「『カウンター能力』というのをご存知?」
 途端、それまでこれまで笑顔を崩さなかった春木氏の表情に、ごくごく僅かな綻び、良く観察していなければわからない程の、焦りとまでは言えない揺れを見つけました。
「うちのメイドに1人変態がいて、その妹さんも、姉と負けず劣らずの変態で……」柚之原姉妹の事でしょう「幸いにも私の事を好いてくれていて、勝負をしたら2秒で勝てたのよ。そうして手に入れた能力を春木君、今からあなたにお見せするわ」
「いや、けっこ……」
「遠慮しないで。あなたは私と同じ、変態じゃない」
 超攻撃的な笑顔に、三枝委員長に味方する立場の自分でさえ恐怖を感じずにはいられませんでした。三枝委員長は、死刑宣告文を読み上げるが如く、春木氏に告げます。
「私の第二能力『ザ・ショウ』が発動した時点で、私とあなたは半径5km以内にある、『最も人が密集している場所』に瞬間移動する。私は人に見られるのが好き。沢山の人ならなおさらね。それからあなたのHVDO能力は15分間封印されて、私の痴態を見る事しか出来なくなる。先に言っておくけれど、この攻撃を耐え切ったらあなたの勝ちよ。処女でも何でも持っていっていいわ」
 その余りにも淡々とした台詞につられるように、春木氏がくっくと声を漏らしました。


「『ザ・ショウ』の発動条件は、自分が誰かの能力の対象にとられた時。HVDO能力って、色々と種類があるのね。シチュエーション能力、召喚能力、そしてカウンター能力」三枝委員長は、自分が女の子怖いと震えている間に、HVDOと直接の関わりを持つ柚之原姉妹から、色々と聞き出す事に成功したのでしょう。「それから、既に移動先は決めてあるし、ステージも作ってあるから、期待してね」
「……それは実に楽しみだ」
「ええ、私もとっても楽しみ」
 今更ながら、三枝委員長の持つ変態力は本物です。
「それじゃ、行くわね」
 瞬間、ヒュン、という何か大きな物が風を切るような音が聞こえて、自分の目の前から三枝委員長、春木氏、偽くりちゃんの3人の姿が消えて無くなってしまいました。後に残されたのは空虚な部屋のみとなり、三枝委員長の言っていた瞬間移動の能力とやらがきちんと発動した事はまず間違いありませんが、トムの能力によってここを覗いている自分には、3人を追いかける事が出来ません。もどかしさを抑えられずに、自分はトムに尋ねました。
「3人はどこへ行ったのですか!? 見る事は出来ないのですか!?」
 ずっと沈黙を守っていたトムが答えます。
「心配しないでもすぐに見られるっての。ほれ」
 トムの能力が解除されました。またあのぐにゃっとした感覚がやってきて、数秒後、目の前が真っ暗になり、元々目隠しをしていた事に気づきましたが、先ほどより気温の下がったそこは、間違いなく先ほどの公園で、両肩にはトムの手が乗っていました。
「それじゃ、あとは自分の目で見てきなさいな」
 肩から手が離れ、背後でがさがさと音がして、自分は目隠しを外して振り向きましたが、そこには既にトムらしき姿はありませんでした。あとは自分で? 何という無責任。自分は一体どこへ向かえば、三枝委員長と春木氏の戦いを見る事が出来るのでしょうか。と、そんな疑問はすぐに解決しました。
 この公園の中心、平日は犬のフリスビー、休日は草野球やらが行われている、フェンスで囲まれた運動場に明かりが見えました。いくら市が管理している大きな公園といえども、ナイター設備まで完備している訳ではないので、その不自然な光は確かに目立っていました。
 自分は吸い寄せられるように、広場によろよろと歩いて近づいていき、近づくにつれて、それが異様な事態であるという認識を強めていきました。影、声、熱。ざっと50~70ほどの人数の、男ばかりの人だかりが出来ていて、その中心には、6、7mの横幅を持った1段高い仮設ステージがあり、光はそこから発せられていました。
「ま、まさか……」
 自分は思わずひとりごちて、人の波に合流しました。
 元々背が高かったのが幸いして、最後尾からでもすぐに様子は把握できました。ステージの上には三枝委員長と偽くりちゃんが立っていて、真夜中に集まったこのエロに飢えた観客達を見下ろし、こう宣言します。
「今から、私の恥ずかしい所を全てお見せします。お集まりいただいた皆さんには、隅々まで見ていただきたいと思います」
 男達から荒々しい歓声があがると同時、自分と目が合った三枝委員長は、にっこりと微笑んで、自らの制服のボタンに手をかけました。

       

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