Neetel Inside ニートノベル
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 あの春木氏を相手にして、カウンター能力の発動に至るまでの流れを悟られぬように作り上げ、一撃で確実に仕留めるに足る野外ストリップ羞恥という発想に至り、それを実行に移した三枝委員長の行動力も去ることながら、想定外からの攻撃を喰らっても一瞬で状況を見極め、裸かっぽう着による露出対抗という妙手を打った春木氏の凄まじいまでの判断力。目の前でめくるめく繰り広げられていた展開に、自分がただ右往左往している間に高く積み上げられた攻防は、真剣勝負という土台の上に成り立った物でした。
 しかしながら、春木氏が三枝委員長に対して反撃をしたという事は、見方を少し変えれば「反撃をしなければまずい状態だった」であったという事の逆説的証明になります。
 そもそも、女子に対してロリを仕掛けて勝利を得るという事自体、自分には酷く難しい事のように思えますが、何せ自分と等々力氏の負けを差し引いても最低6勝し、新しいHVDO能力を得てきた春木氏な訳ですから、過去の対戦相手の中に女性が居ても何ら不思議ではなく、もしも敗北経験があるなら更なる勝利の山、無いのであれば無敵の称号がその背後に存在するという事もあって、春木氏ならば相手を百合とロリに同時に目覚めさせるくらい、何なくやってのけると予想するのは実に易しい事です。
 この事実は、春木氏が反撃をしたのが、「やられる前にやる」「自分が新しい性癖に目覚める前に相手をロリコンに目覚めさせる」という、攻撃をもって防御とする行動である事を示しています。端的に表現すれば、春木氏は三枝委員長の攻撃に「ビビって」いる。少なくとも無傷の圧勝では済まない気配をつぶさに感じ取ったはずである、という自分の推察に間違いはないはずです。そしてこれは同時に、いくら筋金入りのロリコンといえども、三枝委員長のわがままボディーに大して完全なノーリアクションを決め込める訳ではなく、魅力的に映ってしまう一瞬があるという発見でもあります。
 で、あるからして戦況はなお三枝委員長に有利であると、ここはあえて断言させていただきます。敵が隙を見せたその瞬間に、最高潮の恥じらいを叩き込み勃起まで追い込む。春木氏は9つの能力を失い、三枝委員長は処女を守り抜き、観客達には無料で今夜のおかずが支給される。良い事尽くめの未来が、すぐそこに待っているのです。
 が、自分も三枝委員長の攻撃に巻き込まれないように注意をしなければなりません。ちなみに、自分の勃起率は既に85%を超えています。まだ乳首さえ見えてすらいないのに。
「受けて立つわ」
 ステージ上の三枝委員長は、突然の乱入者である偽くりちゃんの宣戦にそう答えました。もちろん観客達の中にいた一定数のロリコン達は、小さな身体にも確かにある尻の穴に向かって雄たけびをあげて狂喜しています。偽くりちゃんが振り返り、観客席の方に向いてその実に愛くるしい顔立ちが明らかになると、更にその声は大きくなりました。
「最高だァーーーっ!!!」
「来て良かったぁーーーっ!!!」
「釣りとか言ってた奴ざまぁーーーーーっ!!!!!」
 家を持っていてもおかしくないような良い大人達が、中学生と小学生の裸に対して、発狂しそうなほどに大声をあげて喜んでいる。
 どうやら、この国の未来は明るいようです。


 自分は改めて、並んだ2つの果実を眺めます。
 向かって左にある1つは、例えるならば瑞々しい白桃。ただ見ているだけで唾が口の中に溢れ出し、やがて幻想の甘味さえ感じ始めるような、黄色から白、桃色までのグラデーションが実に見事な至高の1品。その柔らかな肌を包む制服を乱暴にひん剥いて、ほんの少し口に含んだならば、もうこの世には帰ってこれなくなるような快楽が得られる事は間違いなく、まさしく文字通り、桃源郷へと導かれてしまう予感がします。その旅は、朧月のような眼から始まり、シズルな唇の湖で背徳的な水浴びを楽しんで、ボリューミーなバストの谷間を越え、なだらかな腹部を舌で駆け抜け、そしてまだ若い森へと辿り尽くと、そこで女神と出会える魅惑の道程です。肉の曲線には究極の美が秘められているように思え、そのシルエットを見た瞬間に、男は何も考えられなくなるのです。
 そしてもう1つの果実は、例えるならば摘みたてのさくらんぼ。ふとした瞬間、生きている事自体が不思議に思えるような小さな身体には、まだ未完成でありながらも、強烈に香る艶美を含んでいます。幼さやあどけなさの裏にこそある、荒削りでありながらも純粋な性、ピュアリティー。本人に未だその自覚が無いように見える所がまた、実に犯罪的でいやらしい所であり、困らせたいような、喜ばせたいような、折れてしまいそうな、だからこそ強く抱きしめたくなるような、守ってあげたくなるような、そして汚してしまいたくなるような気分になって、ようやく気づくのです。彼女と、それを見ている自分は良く磨かれた鏡に映った、たった1房のさくらんぼであるという事に。
 2つの果実はそのどちらも、美味という点においてはまず間違いなく、しかもどちらか1つではなく、どちらもこれからじっくりと鑑賞する事が出来るのですから、文句など出るはずがありません。既に観客達は全員、目の前の美少女2人に恋に落ちていて、これを非とする者がいるのならば、今から国会議事堂に自爆テロしに行く覚悟が出来ている者も何割かはいるはずです。
「このまま立っていても埒があきませんから、1つ勝負をしませんか?」
 と、提案したのは確かに偽くりちゃんの方で、声紋は一致していましたが、その口調が余りにも本物のくりちゃんの口調とかけ離れすぎていて、一瞬誰が喋っているのか混乱したくらいでした。「勝負?」と三枝委員長が訊き返すと、偽くりちゃんは表情を変えずにこう続けました。
「ここは古風に、野球拳というのはどうですか?」
 野球拳。「野球ぅ~~すぅ~るならぁ~~こういう具合にしりゃさんせぇ~~」という紳士のスポーツベースボールを愚弄、冒涜しているとしか思えないあの遊び。ルールは至って単純。ジャンケンで負けた方が1枚脱ぎ、脱げなくなった方が負け。
 しかしこの場合、野球拳の敗北はむしろ望ましい事であるはずです。なぜなら、負ければ堂々と衣服を脱ぐ事が出来、勝ってしまった方は服を脱ぐチャンスを逃して、負けた方が脱ぐ所を一旦は見ていなければなりません。そして偽くりちゃんの服はかっぽう着1枚に対して、三枝委員長はシャツ、スカート、ニーソ、ブラを含めたら4枚。じゃんけん4連敗の確率は16分の1。賭けるには、いかにも危うすぎる。
 無論、野球拳に勝ってしまったからといって、服を脱げなくなる訳ではありません。偽くりちゃんが先に脱いで、後から三枝委員長が脱ぐという事も可能ではありますし、それに「脱ぐ理由」として、三枝委員長は先程、「ご主人様の命令によって」というすこぶる煽りの効いた理由付けをしていますから、決して不利な状況に陥るはずではないのですが、この観客達の盛り上がりっぷりは無視できません。
 偽くりちゃんの口から「野球拳」という単語が出た瞬間からの、このおっさん達のテンションの上がりっぷりは、変態に対して常人より遥かに理解ある自分といえども流石にドン引きレベルでした。何がそこまでそそられるのか、やはり、意図せず脱がされてしまうという羞恥、かつては地上波でも放送されたという言い伝えもある大衆エロスの魅力でしょうか。果たしてこの盛り上がりに裏打ちされた児童ポルノの後に、何をもってして三枝委員長は対抗出来るというのでしょう。


「逃げますか?」
 返事を渋る三枝委員長に対して、偽くりちゃんはそう挑発しました。観客からは「やれ!」という声がかんしゃく玉のようにパチパチとあがり、このフリをもしも拒否すれば、観客達は一気に冷め、一斉に偽くりちゃんの味方に回る事が分かりきっていました。
「私は、逃げないわ」
 そう答え、燃え盛る炎にガソリンが注がれようとしたその瞬間、三枝委員長は遮るように声を張り上げました。
「だけど、その前に!」
 凛とした三枝委員長のその表情は、学校の代表として朝礼台にあがる時のそれに酷似しており、混沌に満ちた観客達に一陣の秩序が吹き込まれました。
「裸を見てもらう前に、自己紹介をしましょうか。今、ここに集まってくれている人達は皆、私の事もあなたの事も知らないはずだし」
 性欲に突き動かされ、我を忘れた人々を一瞬で冷却した三枝委員長の演説技術ももちろんですが、真に評価すべきはその一手に込められた罠と、鋼鉄のような覚悟です。
 偽くりちゃんは、春木氏によって召喚された言わばロボットのような物のはずです。見た目は小学生の時のくりちゃんにそっくりですし、命令によって似たように振舞いますが、所詮は模造品であり、オリジナルではありません。つまり、人生という背景が無いのです。
 さて、パーソナルを持たない存在は、一体自己紹介の時に、何と名乗れば良いのでしょうか?
 ここで思い出して欲しいのは、先程の春木氏の発言と態度です。三枝委員長と対峙し、悩みを打ち明けた時、春木氏はこう言っていました。「理想の幼女が召喚されるはずなのに、くりちゃんしか出なくて困っている」と。三枝委員長はそこに、春木氏の抱くくりちゃんへの恋心を指摘しましたが、先の発言は同時に別の側面も暗示しています。
 ずばり、春木氏はくりちゃんこそが「自らの理想の幼女」であるという事を認めたくないのです。
 頭では、くりちゃんよりも良い幼女がどこかにいるはずだと考えているはずなのに、自らの能力が提供するのはいつもくりちゃんというこの矛盾。一部の隙も無い、マシーンのような春木氏に芽生えたこの微妙なバグには確かに付け入る隙があり、相手の弱点を突いてこそ、勝機という物は訪れるのです。
 三枝委員長の差し向けた「自己紹介」という単語は、言わば絶対安全圏からの精密なスナイプ。
 一体お前は何者か? と問うだけで、攻撃は完了する。……いえ、もう1つだけ、この攻撃を成立させるのに必要な物がありました。
 三枝委員長は1歩だけ前に出て、観客席に向かって言います。
「私の名前は三枝瑞樹。15歳の中学3年生です。住所は○○の○○で、人に裸を見られるのが大好きな変態です!」
 その後まくしたてるように、血液型、星座、スリーサイズ、生理周期、クラスでの役割と、これから受験をする高校と、入学したらどのような卑猥な行為をしたいかを饒舌に語りました。自分は慌てながらも周囲を見ると、一字一句漏らさぬようにメモを取る人がいたり、「三枝って……あの三枝家の娘か!?」と既に知っていた人も若干名いた模様で、三枝委員長は「街で私を見かけたら、声をかけてくださればいつでも服を脱いでお渡しします」という強烈に変態じみた言葉で自己紹介を締めくくりました。


 鮮烈なまでの覚悟を、これでどうだという具合に見せ付けた三枝委員長は、1歩下がって、舞台を偽くりちゃんに譲りました。さあ、ただでさえどう答えるべきか迷う局面で、天高く上がったハードルに、偽くりちゃんもとい春木氏は一体どんな答えを返すのでしょうか。
 全員の注目が集まり、しんと静まり返った特設野外ストリップ劇場に、水滴を1つ零したかの如く、偽くりちゃんの声は静かに広がっていきました。
「私の名前は……木下くりです」
 意外っ! それは詐称!
 まっすぐド正面から、くりちゃんの名を騙る偽くりちゃん。その意図の湧き出た所、自分は奇妙で愉快な事象に、ここに来てようやく気づきました。春木氏がついに、くりちゃんこそが理想の幼女であるという事を認めた、という解釈は早合点であり、その前に1つだけ、この嘘から読み取らなければならない事があります。
 自我。
 何故、このような簡単な事に今まで気づかなかったのでしょうか。春木氏の召喚能力によって召喚された幼女は、無論、春木氏の意思に従って行動するはずですが、先ほど、偽くりちゃんは三枝委員長に向かってこう宣言していました。
『私のご主人様からの命令です。これから私はあなたと露出で勝負します』
 もしも、1つ1つ指示を受けて行動をしているのであれば、この宣言の必要性はなく、すぐに勝負にとりかかっていても良かったはずです。どのように手足を動かし、どのような言葉を選び、どのように誘惑をすれば最も効率的であるのか、ロリコンを極めた春木氏がその1から10までをプロデュース出来るのであれば、水が低きに流れるが如く、至極当然に完璧な舞台が出来上がるはずです。
 それをせず、大まかな命令だけを下して後は偽くりちゃんの判断に任せたという事はつまり、春木氏は実際の言葉を介してしか偽くりちゃんに指示を飛ばせないという事の反証であるのです。HVDO能力は、そのほとんどが使い手の「意思」に依存します。例えば三枝委員長の、念じただけで裸になれるという第1能力などはその最もわかりやすい例であり、自分の能力も接触と同時におしっこの事を考えなければ発動はしません(ただし、自分の場合はあらゆる思考と並列して常に美少女の尿の事を考えている事が多いので、ある種常時発動と考えていただいて構いません)。偽くりちゃんの存在自体があくまでも春木氏の能力の一部であるならば、その肉体及び精神は常に使い手の手中にあるはずです。思い返してみれば、体育館倉庫でのレイプの時も、春木氏はくりちゃんに「消えろ」と言葉で命令していました。
 偽くりちゃんが、単純な命令を受けての自動型であるならば、そこには固有の思考ルーチンが存在しうるはずです。意思なくして、生命は活動をしません。
 そして、自己紹介を強要されると、偽くりちゃんは自分の事を「木下くり」だと言いました。それは春木氏が、偽くりちゃんに対して「木下くり」である事を命令、いえ、願った結果(ここはあえてこう表現させてもらいましょう)、ただ演じるだけではなく、「木下くり」その物になろうと努力している事の証明でもあります。
 自分はこの重大な事実に気づくと同時、心から三枝委員長に対して忠告を飛ばしたくなりました。
 三枝委員長、どうか気をつけてください。相手は紛れも無く1人の人間です。春木氏の事を慕い、命令に従う事だけを存在意義とする、究極の奴隷、その完成形です。従って、そこには三枝委員長にも負けず劣らずの覚悟があるはずなのです。

       

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