Neetel Inside ニートノベル
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 ゆっくりと撃鉄を起こすように、2人は拳を脇に抱えました。
「最初はグーはいりません。1発勝負でいきましょう」
 そう提案したのは偽くりちゃんで、三枝委員長もそれに同意しました。
 本来の野球拳は、あくまでも楽しい雰囲気の下、盛り上げる役目の進行役が、陽気な音楽に乗って例のいかにも馬鹿馬鹿しいメロディーで「アウト! セーフ!」と申し訳程度の野球要素を加えて行われるはずなのですが、ここはあくまでも真剣勝負。「脱がされる」権利を得る事によるメリットの大きさは先ほども自分が述べた通りであり、自己紹介という難題を開き直りによって容易くクリアした偽くりちゃんは、既に裸かっぽう着をいかにしてエロく脱ぐかの算段を頭の中でしているはずです。そもそも裸にかっぽう着という衣装自体、なんだかこう、非常にムラムラとする見た目ではあるのですが、それでもすっぽんぽんを早く見たいと願うのは男の性、もとい童貞の性という物でしょう。
「いきますよ」
 数秒後、グーか、パーか、チョキか、解き放たれた手の平の形だけで全てが決まる。2人の意思には既に、何を出すか、確固たる答えがあるはずなのに、当たり前ですが勝敗はどちらに転ぶか分かりません。三枝委員長に与する自分としては、せめてスカートを脱ぐ1勝は最低でも達成しなければなりません。そもそも、偽くりちゃんが1度全裸になって、観客達が全員ロリにしか興味を持たないLO定期購読者になってしまったら、三枝委員長の全裸はそれこそぼろ雑巾のようにないがしろにされてしまうのでは無いでしょうか。
 いやあるいは、三枝委員長ロリに目覚め、そのまま敗北という危険性すら……。
「じゃん、けん……ぽん!」
 恐ろしくなって、思わず目を瞑ってしまいました。数秒の沈黙があって、自分はゆっくりと目を開いたと同時、男たちの声が飛び込んできました。
 偽くりちゃんが出していた手はパー。
 そして三枝委員長が出していたのは……グー。
 かろうじてではありますが、どうやら危険な状況は回避できたようです。この1敗によって、三枝委員長はスカートを脱ぐ権利を得る事が出来ました。おそらく最初は手で覆うようにして隠すでしょうが、ちらちらと生えかけの陰毛とおまんまんを見せつつ、次の勝負に時間をかけてゆっくりとやれば、勝機も見えてくるはずです。
 ほっと胸をなでおろしていると、観客達のざわめきの中に少しだけ、「ブーイング」とまではいかなくとも、疑問、反論、批評のような物が混じった事に気づき、自分はステージを再び凝視しました。
 なんとそこでは三枝委員長が、あろう事かパンツではなく、シャツの中に手を入れて、ブラから先に脱いでいたのです。
 ノーブラノーパンは確かに魅力的です。それは自分も認めます。しかし、今はそのようにもったいぶった扇情を演出している場合ではないのではないでしょうか。目の前の幼女が、次もじゃんけんに勝ってくれるとは限らないのです。


 三枝委員長は、たった今脱いだブラをパンツの時と同じように空中に放り投げました。唯物論の上においてはただの白い布きれであるそれを手にした、第2の幸運なる男性は、自らの上着をそそくさと脱いですぐにそれをだるんだるんの乳にはめ込んでいました。変態多すぎでしょう、この空間。
「さあ、次にいきましょうか」
 と、自信たっぷりに前に出た三枝委員長。次も負ける気満々です。何か、自分には分からないようなじゃんけん必勝法を編み出しているとでも言うのでしょうか。見た限りでは、その断片さえも感じ取れませんが、これでいよいよ偽くりちゃんの方にも余裕が無くなってきたというのは確かな事実です。三枝委員長の衣服は残り3枚。ニーソは最後まで取っておくとして、残りは上と下の2枚。
 いえ、もしかしたら……自分を不安が煽りました。もしかしたら、三枝委員長は次に負けたらニーソを脱ぐつもりではないでしょうか。不安は時間の経過と共に、具体性を増していきます。
 三枝委員長が、シャツでもスカートでもなく、先にブラを脱いだ事によって、彼女の持つ「淑女度」は確かに上昇しました。ぎりぎりまで、まともな人としてありたい。「裸を見てもらう」という宣言はしたものの、まだ迷いがある。やまとなでしことしての最後の意地。こんな恥ずかしい所を見られたら、もうお嫁にいけないっ。的な、日本男児であれば誰でもする超妄想を、三枝委員長はその臨界点まで引き出そうとしているのではないでしょうか。
 確かに、そのような「清純派痴女」というアンチロジカルな概念は、男心を巧みにくすぐるものですし、実に勃起しますし、それは春木氏も例外ではないであろう事は認めます。しかし次に負けても脱ぐのがニーソとなれば、ここから2連敗の確率は4分の1。危険すぎる。
 それに、ニーソを先に脱ぐと、「全裸ニーソ」の良さを殺してしまう形になってしまう。これは自分の趣味を完全に抜きにして、世間一般的に考えて、全人類の男を代表して申し上げますが、ただの全裸よりニーソをつけた全裸の方が興奮するに決まっています。いざ行為になった時に汚れてしまうですとか、若々しいふとももの張り付くような感触が味わえないだとか、せちがらい事情も確かに存在しますが、全裸ニーソは国際社会における常識であり、基礎教養なのです。
 少しばかり興奮してしまいましたが、つまり自分の言いたい事は、乙女を演じる事を意識する余り、変態の気持ちを分からなくなってしまうようでは、春木氏はおろか自分も倒す事は出来ないという事です。とはいえ、それをこの位置からステージ上の三枝委員長に伝える事など今は不可能。ただ固唾を呑んで見守るしかありません。
「いきますよ?」
「ええ」
 2人は再びその拳が運命まで届くように引っ張り、
「じゃん、けん、……ぽん!」
 三枝委員長の手は、再びグー。
 そして偽くりちゃんの手は……なんと再びパー。
 渾身の2連敗。
 ですが、まだ安心は出来ません。
 三枝委員長がニーソを脱いでしまう可能性はまだ残っている。
 誰からともなく湧き上がり、瞬く間に増幅していった「脱げ!」コールに、三枝委員長はこう答えました。
「ご主人様からの命令で、ニーソックスは最後まで取っておけと言われていますので……次は……スカートを脱ぎます」
 なんという意思疎通。


 かろうじて、全裸ニーソの見せ逃しという自分の心配事は回避されたようです。しかしそもそも、じゃんけんに2連敗出来た事が、三枝委員長の持って生まれた星といいますか、人生の大事な日は決してうんこを踏まない、格の違いのような物を感じました。それとも何か、凡人には理解さえ出来ないじゃんけん必勝法は、三枝委員長だけが閲覧する事を許されたアカシックレコードの片隅に存在するとでも言うのでしょうか。あながち冗談にも思えぬ話です。
 ノーパンノーブラにシャツとニーソ。どんなにお金をかけたブランド物の服だって、この格好に勝てる物はなく、シャツの裾から見えるマンチラはこの地球上において最も魅力的な景色であるという有力な学説もあります。
 もしかすると、これで春木氏との勝負は決するかもしれません。
 自分はそんな淡い期待を抱きながら、三枝委員長の動きを一瞬でも見逃さぬよう、しかし勃ってしまわぬよう、両目を阿呆かと思うほど見開きました。
 三枝委員長が、学校指定の白スカートに手をかけました。
 両の手で前かんを抜き、腰を緩めた所で1度手が止まり、顔をあげる三枝委員長。
 裏事情を知っていて、なおかつ三枝委員長が真性のド変態であり、これは彼女自身が計画してやった事なのだと重々知っている自分でも、その少し潤んだ瞳には心臓のあたりにある感情機械をズキュンとやられました。
 女の子にとって1番恥ずかしい部分を、変態達がこんなに集まった公衆の面前で、晒してしまうというその行為の重さ。明日から、町ですれ違った人の中には、三枝委員長がどんなカタチをしていて、どれくらい毛が生えていて、どんな風に濡れるのかを知っている人がいても何らおかしくはなく、しかも名前も住所も通っている学校もつい先ほど公開しまって、どこでも脱ぐという変態宣言もしている訳ですから、噂は瞬く間に学校の皆に知られてしまうでしょうし、家にもいられなくなるかもしれません。勘当や懲罰の可能性すらある。
 まさに、露出狂千秋楽。これから三枝委員長は、これまで歩んできたお嬢様としての人生ではなく、世間からさげずんだ目で見られる正真正銘の変態としての人生を生きるのです。自分はその重すぎる現実に耐えられなくなって、思わず、「考え直した方が……!」と声をあげましたが、全てを言い切る前に飲み込んで、言葉はすぐに周囲に渦巻く津波のような性欲の嵐にかき消されてしまいました。自分は言い終わる前に、重要な事に気づいたのです。
 その重すぎる覚悟があるからこそ、三枝委員長は絶頂に達する事が出来る。
 変態の生き方なんて、2つに1つに決まっています。
 隠して愛でるか、晒して爆ぜるか。
 三枝委員長はただ後者を選んだというだけの事。それを笑う者がもしもいるというのなら、自分は世界にいるあらゆる変態を代表して、そいつをぶん殴ってやります。
 今、自分が出来る事は、三枝委員長の痴態を見守りつつ、主としての威厳を保つ事、ただそれだけ。 そして全てが終わって、三枝委員長が自分の事を認めてくれるというのであれば、裸のままの彼女をきつく抱きしめて、耳元で、「おしっこしてください」と囁くだけの事です。


 さて、そろそろこの糞気持ち悪い自分語りはやめて、ステージに目を向けるとしましょう。シーンは今まさに、三枝委員長がスカートを脱ぐその瞬間です。
 どれだけの覚悟を決めようと、どれだけエロかろうと、時間や重力といったこの世界の理は至って平常運転を続け、映画のようにスローモーションになる訳でもなくただ、すとん、と意外な程に呆気なく、スカートは着地しました。
 良く磨かれた革靴から黒ニーソへとジャンプして、そのままずずずいと視線を上昇させて、絶対領域に踏み込み、しばらくむちむちふとももを堪能すると、おやおや? いつもひらひらと男を笑うプリーツの存在がそこには無く、ふっと視線を戻して足首に憎き布の死骸が転がっている事に気づき、ややや、これはこれは、非常事態ではないか、と今度は高速で眼球を動かし、境目までひとっとびにやってくると、古典表現、「鼻血ブーッ」が実に良く似合う状況であると脳が処理しました。
 自分がそんな悠長な処理をしている間に、観客達の息の揃った「脱げ!」コールは、「捲れ!」コールへとBボタンを連打する暇もなくジョグレス進化を遂げていて、三枝委員長の表情はそのコールにまんざらでもなく、シャツの裾、2つの三角形をぎゅっと掴んで、もじもじふるふるとしていました。
 そんなスーパーもじふる状態の恥じらい度MAX乙女が、いざ未使用大量破壊兵器を白日の下へと暴こうかとしたその瞬間、白い布が宙を舞いました。
 パンツか? ブラか? いいや……あれはかっぽう着だ!
 慌てて三枝委員長にへばりついて離さない眼球を無理やりひき剥がすと、その隣では、「おはようじょー!」とでも今にも大声で叫びそうな、生まれたままの姿で両手をあげて満面の笑顔の偽くりちゃんが立っていました。
 ごるごるごるごる……最初、自分はその声が、魔界からたった今目覚めた魔王の欠伸であると認識しましたが、それはどうやら間違いのようでした。それはロリコン達のうなり声、興奮メーターを振り切った、満月が無くてもセルフで変身する半獣達の咆哮でした。
 偽くりちゃんの、まったいらなその身体。完璧に閉ざされた、いわゆる「すぢ」と、まだ色素の沈着していない乳首。一糸まとわぬその姿。天孫降臨。アグネス大激怒。
 ラフプレイ。と、表現するのが正しいはずです。自分で野球拳を提案しておいて、自分でそのルールを破ったのですから、なんの事はありません、ただの羅刹です。
 しかしいかに掟破りな方法といえども、状況は進行してしまいました。さっきまで三枝委員長のこれまでの人生と、これからの豚生にいかがわしい想いを寄せていた人々は皆、もう偽くりちゃん銘柄の株を買いに走っています。美幼女の全裸なんて、早々生で見られる物ではありません。
 多分何人かの方がパンツの中で射精して、ほのかにイカ臭ささえ漂い始めた淫獣の群れを一瞬で黙らせたのは、奇妙な「発砲音」でした。
 ポン。
 と、間抜けな響き。
 続けて、ポン、ポポン……。
 一斉に、その音の鳴る方、つまり三枝委員長に視線が集まります。
 三枝委員長の尻の穴から、複数の「卵」が飛び出しているのに気づいたのは、それから数秒後の事でした。

       

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Neetsha