Neetel Inside ニートノベル
表紙

HVDO〜変態少女開発機構〜
第二話「丘を越える空想」

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 この世に生を受けた時、俺の左右の手にはそれぞれ一つずつ「幸運」と「不幸」が握られていた。
 等々力新(とどろき あらた)、それが俺の名前。一般的な中学三年生だと思うけど、人一倍固執している事が一つだけある。これからそれを告白するが、あんまり引かないでくれよ? 誰にだって、普段人に言えないような趣味があるものだし、それに俺のは、至ってノーマルな趣味だと思ってる。
 ただ、少しこだわりが強いってだけでな。
 俺に与えられた幸運、それはこの世に「おっぱい」がある事。
 俺に与えられた不運、それはこの世に俺の納得する最高のおっぱいが無いという事だ。


 まずは大きさだ。持った時に手の平から零れるくらいがちょうどいい。まな板や牛はもちろん論外。平均よりも少し大きいくらいがベスト。次に形。これが重要。胸から垂れ下がってるのは駄目だ。とはいえ不自然に重力に逆らってるのも駄目。色々意見はあるだろうが、なんだかんだ言っておわん型こそ至高だろうな。何度見ても飽きが来ないし、「これぞおっぱい」って感じだ。
 乳首と乳輪に関してもうるさいよ俺は。乳首単品で言うなら、まだ成長途中の、小豆みたいな小粒の、膨らみかけのおっぱいに乗っかった奴が最高だが、全体のバランスはいまいち。色はだな、ピンクに限る。茶色が主流だけども、今すぐ染めて来いって感じ。処女っぽいピンクこそが最強。黒は論外な。
 おっぱいはどれも好きだけど、「究極」のおっぱいには妥協が許されない。垂れ乳信仰だとか、がっかりおっぱいフェチ、とにかくデカけりゃいいなんて奴もいるだろうが、そんなのは一時の幻想だと言い切れるね。
 いいかい? 究極のおっぱいってのは、見た瞬間にどんな男でも勃起しちまう物なんだ。俺はそれを探し求めている。世界のどこかにあるはずだってな。
 そんな俺に、神は最高の贈り物をくれたんだ。
「丘を越える空想」
 それが俺の能力の名前。おっぱいを司る、神の能力さ。



第二話


 コンビニを後にしてから学校につくまで、くりちゃんは一言も喋りませんでした。
 くりちゃんはきっと、不自然に思っているはずです。朝きちんとしてきたのに、なぜ急に、しかも登校中に尿意を催し、よりによってコンビニの店内で失禁してしまったのか。
 至極当然の事ながら、自分がこんな能力に目覚めたなんて、くりちゃんは夢にも思っていませんし、自分もそれを告白するつもりなど毛頭ございません。くりちゃんにはこれからも、訳の分からぬまま尿を漏らし続けてもらい、そのたびに自分がくりちゃんの下のお世話をして、いつしか自分が近くにいなければ安心しておしっこが出来ないような歪んだ主従関係を結びたいと自分は切に願っており、それが実現した未来を想像すると、歓喜が胸に溢れ、武者震いがしてきます。
 とはいえ、自分はくりちゃんだけを執拗に攻めるような残酷な人間ではありませんから、今もくりちゃんの透けパンツを見ながら、クラスの中でまずは誰に漏らさせるか、誰が漏らすと素晴らしい表情が見られるかを考察しています。
 学校について席についても、自分の目の前にはくりちゃんの背中があります。
「くりちゃん」
 朝の喧騒に紛れて、自分はそう呼びました。普段なら、すかさず打撃の類が飛んでくるのですが、今日は少しばかりの罪悪感と、(後処理をしてもらった事に対する)感謝があるのでしょうか。じとっと睨むだけで、暴力を振るう素振りはありませんでした。
 その機微を察し、自分はトドメの一言をくりちゃんに投げかけたのです。
「『あの事』、誰にも言わないから安心して」
 自分でやっておいて、味方のフリをする自分は、なんとズルい男なのでしょうか。我ながら、惚れ惚れする程の悪党ぶりです。くりちゃんも、そんな自分にすっかりと騙されて、小さく消え入りそうな声、精一杯の強がりで「当たり前だ」と言いました。
 傑作。まさに腹を抱えて笑いそうになる滑稽話です。
 ホームルームが終わって、一時間目の授業が始まる直前、くりちゃんがそっと席を立ちました。それをこっそり追いかけて、どこに行くのか観察してみると、どうやらトイレに行くようです。当然、先ほどあれだけ盛大に漏らしておいて、まだ出るはずがありません。自分の膀胱に自信が持てなくなったのでしょうか。


 そんな事を考えながら席に戻ると、自分の口から自然と笑いが零れていました。最初は小さく、くすくすと、次第に大きく、最終的には古いスピーカーから発する割れた音のような笑い声になっていました。教室中の人間が自分に注目していましたが、笑いを堪える事は出来ませんでした。自分は神になったのです。喜びに歌を唄いたくなりました。傍から見れば気が狂ったようにしか見えないでしょうが、例えキチガイに思われても全くもって構わないくらいに、自分の心は晴れ渡り、澄み切っていました。
 けたたましく笑う自分を止めたのは、クラスの委員長である三枝瑞樹(さえぐさ みずき)その人でした。
「五十妻君、奇行は程々にね?」
 三枝委員長は菩薩並のアルカイックスマイルで自分の事を見つめ、優しい言葉でそう突き刺しました。三枝委員長は、このクラス一、あるいは学年一とも形容されるような美貌を持ちながら、それを少しも鼻にかけず、弱者に優しく(一人でお弁当を食べている人間に声をかけている姿を何度も目撃しています)、間違っている事は堂々と指摘して正し、何よりも調和を重んじる、言わばこのクラスの戒律その物とも呼ぶべき存在です。そんな彼女の笑顔を見ていると、邪な好奇心が首をもたげました。
 彼女が漏らしたら、どんな表情をするのだろう?
 いつも冷静な彼女でも、流石に取り乱すのでしょうか。
 気づくと自分の表情は、ゆるゆるとは破顔していました。それは傍目から見れば、奇怪で、攻撃的で、歪んだ笑みだったはずです。今すぐに、三枝委員長の痴態が見たい。欲望は理性を凌駕し、自分の腕が、手が、指が、彼女に触れようと動きました。
「何?」
 そう、問われたのです。自分の手は三枝委員長に掴まれ、宙に縛られていました。彼女の言葉は非常に強力で、自分の頭の中に浮かんだイメージは、大国がこぞって所持するそれでした。
 その時まで、自分は三枝委員長という人間を誤解していた事に気づかされました。彼女は、ただ単に「優しい」「美しい」「正しい」人間というだけではなく、その額縁に入れて飾りたくなるような満面の笑顔の裏には、絶対的ともいえる力が宿り、他者を徹底して否定する傲慢さがあったのです。自分は素早く出した手を引っ込めて、謝りました。三枝委員長は、小首を傾げて、「何か悩んでる事があったら相談してね」と優等生の台詞を言いましたが、自分にはそれがにわかに恐ろしく、人間の多面性、表裏のある感情に驚いたのです。
 ちょっとしたハプニングに少しばかり湧いた教室でしたが、くりちゃんが帰ってくる時には既に沈静化し、先生が入ってくると完全なる日常が戻ってきました。


 一限目の数学の最中、自分はこれからどのようにしてこの能力を運用していくかについて考えていました。候補に挙がった内で最も魅力的だったのは三枝委員長が全校集会にて生徒達の目の前でおもらしするシチュエーションですが、彼女に「三度」触れる事はかなりの難易度でしょうし、自分自身、能力の詳細についてはかなりの部分が明らかではないので(例えば、三度触れる間隔はどの程度空けばいいのか、触れた回数はリセットされるのか、されるとしたら、いつどのタイミングでされるのか、など)、まずは隙の多い女子でいくつかの実験をしてみる必要があります。
 それから、くりちゃんを性奴隷化するステップについても、きちんと作戦を練らなければなりません。何せ人の価値観を一つ完全に崩壊させてやろうと言うのですから、その手順は洗練された物でなければならないはずです。
 その他もろもろ、能力に関しての事を想像していると、一時間などあっという間に過ぎました。授業が終わると同時、自分は逃げるように男子トイレに駆け込み、個室に入り、鍵をかけ、便座に腰を下ろして、笑いました。先ほど三枝委員長に止められたあの狂喜の続きを、一人で思う存分味わいたかったのです。
「ご機嫌だな」
 上を向くと、一人の男が自分の事を見下ろしていました。自分はその男の顔に見覚えがありました。
 同じクラスの、確か、名前は等々力。学年では、自分の次に身長が高く、その軽薄な性格と口八丁なコミュニケーション能力によってか、そこそこに「モテる」男だったと記憶しています。
「男のトイレを覗く趣味があるとは意外ですね」
 自分がそう言うと、等々力氏は「ちげーよ、馬鹿」と謗り、にやりと笑ってこう言いました。
「H・V・D・O」
 しばらくの間があいて、等々力氏は自分の顔を見て確信したように、
「聞き覚えがあるみたいだな」
 と言ってトイレの壁からようやく降り、ドアをノックしたので、「入ってます」と返すと、「知ってるよ。開けろっつってんの」と言われたので開けました。
 狭い個室の中で、でかい男子二人きり。最悪の状況です。
「お前も何か能力をもらったんだろ? 勝負しようぜ」
 等々力氏は自分の胸に拳を当てて、挑戦状を叩きつけました。

       

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