Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「少年。僕に後悔は無いんだ。
 幼女の美しい1本スジを見る事が出来たからじゃない。うぶなのに濃厚な百合絡みを味わえたからじゃない。若さで破裂しそうな肉体を大胆に使ったオナニーをおかずにせんずりこけたからじゃない。
 後悔をしていないというのは、そういう事じゃないんだ。
 もうすぐ僕は気を失う。それと同時にこれらの素晴らしい記憶も失ってしまうような気がする。
 だから少年。僕達と同じ場所にいて、それでも生き残った君にこそ伝えておきたいんだ。僕が後悔をしていないのは、あらゆるエロに対しての執着ではなくて、僕が僕でなくならずに済んだという自己への執着の話なんだ。
 僕は、僕のした行動に後悔をしない。それだけは、どうか覚えていてくれないか……」
 年齢はおそらく30ほどでしょうか、中肉中背の黒縁メガネで、人畜無害なその表紙、ふいに開いたページには、名もなき漢の挽歌が刻まれていました。遺書のように託された言葉の1つ1つに自分は頷き、ゆっくりと目を閉じていくその見知らぬ人物を見送り、心の中で「いや、ただスケベが災いして酷い目にあってるだけだろ」と冷静な突っ込みをいれつつも立ち上がり、辺りを見回しました。
 自分のすぐ足元で気絶したその男以外にも、性的敗北者、もといクズ達が次々にその場に倒れ、僅かな間、呻きとも嗚咽とも取れる声が五月雨のように聞こえてきましたが、しばらくすればそれも止んで、やがて凄惨な戦場のごとき光景が目の前に広がりました。
 100を超える死体と、漂う栗の花の匂い。
 その中に立っているのは、呆然とした自分。そんな自分にしがみついて、この異様な光景を前に引きつりっぱなしのくりちゃん。ステージの上で全裸で仁王立ちする三枝委員長。そして、大して驚いた様子もなく、死屍累々を楽しそうに眺める春木氏の4人。それぞれに温度差がありました。
 自分はくりちゃんをひきずりながら、気を失った人々の身体と身体の間のスペースに足を差し込み、さながら10年近く片付けていない汚部屋を探検するように1歩1歩を確かに踏みしめ、ステージの方へと進んでいきました。
 先程までの喧騒が嘘になって、今はただ深夜の静寂だけが満ちる公園を、自分はひたすら歩きます。なんと言葉をかけていいのか、いや、そもそも言葉をかける権利があるのか。そんな間抜けな悩みを真剣に考えながらも距離は残酷に縮まっていき、三枝委員長の方は元来の人格者として相応しいきりっとした表情に変わり、その振る舞いには清楚さが溢れ、まあ全裸ではありましたが、いつもの調子を取り戻しているようでした。
 自分が、「あの……」と声をあげた瞬間、わざと遮るように、春木氏がこう言ったのです。
「素晴らしかったよ、三枝さん」
 それから小さく拍手。
 三枝委員長は微笑んで、「ありがとう」と答えました。


「これは一体どういう能力なんだい? 差し支えなければ、教えて欲しいな」
 ごく自然にそう尋ねる事が出来る春木氏の才能が、自分は心底うらやましくあります。
「まだはっきりとは分からないけれど、私を見て興奮していた人の股間が爆発して『私の露出に関する記憶や記録』が消滅する能力のようね。発動条件は、私が『絶頂に達する事』って所かしら。あなた達2人が無事な所を見ると、どうやらHVDO能力者には効果が無いみたい」
 という事はつまり、先程三枝委員長が自分で晒した個人情報と、肉奴隷宣言が全く無かった事になるという事でしょうか。「取り返しのつかない事」を取り返しのつく状態で繰り返せる。これはつまり、変態プレイのレベルをやや下げつつも、繰り返しによる創意工夫が加わり、結果的にレベルアップが狙えるというギミックです。今回はただ氏名住所奴隷宣言、ロリ百合からの単独全裸オナニーという構成の露出プレイでしたが、ここに牛乳浣腸を加えたり、両親の目の前で行ったり、集団レイプされてみたりと、ぱっと思いつくだけでも様々なバリエーションが考えられるので、三枝委員長は、等々力氏を倒した事によって新しく得たこのHVDO能力により、拍車をかけて酷い変態になったと言えるはずです。
「良い能力だね。特に複数のHVDO能力者を同時に攻撃出来るのは非常に強力だと思うよ」
 冷静かつ的確な春木氏の診断に、自分は思わず頷いてしまいそうでした。事実、今回死んだのは等々力氏1人でしたが、くりちゃんの邪魔が入った事(「助け」と言うべきだと思われるかもしれませんが、あえてこう表現します)によって自分は死なずに済んだというだけであり、それが無ければ自分はあっさりと三枝委員長の生贄になっていた所でしょう。
 春木氏の好評価に、三枝委員長は目を細めて答えました。
「だけど、結局私は、あなたには勝てなかっ……」
「待ってください」
 思わず、誰がそう言ったのか、周りを確認しました。3人が自分に注目している事に気づき、自分が言っていたという事実に驚きましたが、わざわざ考える必要もなく言葉は勝手に出てきました。
「三枝委員長は負けていないはずです」
 隣で「こいつらにはついていけない」というような表情をするくりちゃんに、自分はちらりと目配せをしてから、
「くりちゃんが来なければ、自分は確実に三枝委員長に負けていました。そうなれば、三枝委員長はもう1つ新しいHVDO能力を得ていたはずです」
 これに春木氏が反応します。
「そのどんな物かさえ分からない新しい能力によって、僕は倒されていたはずだ。と?」
 それが架空と妄想の上に成り立った拙い理であるという事は分かっています。分かっていますが、黙ってはいられなかったのです。やはり春木氏は自分の敵であり、三枝委員長は愛すべき奴隷です。
 このまま、たらればの「勝っていた」「負けていた」の水掛け論に陥る可能性を察したのか、三枝委員長は諦めたように言いました。
「五十妻君、もういいのよ。私が負けた事は……」
 という所で再び遮ったのは、今度は自分ではなく春木氏。
「おっと、結果に変わりはないが、三枝さんが「負けていない」という五十妻君の意見には、実は僕も賛成なんだ」
 春木氏ははにかんだようにそう言って、三枝委員長の乳首をぴんとはじきました。


 爽やかな笑顔の下に隠した、鋭い刃が音も無く飛び出ます。
「三枝さん。君さ、最後の方は僕達観客に向けてではなくて、五十妻君だけに向けてオナニーしていただろ?」
 突然の指摘に、自分は確かにうろたえましたが、もっとうろたえていたのが誰あろう三枝委員長本人でした。ミスパーフェクトとも称される三枝委員長がこんなに動揺しているのは、ついぞ見た事がありません。いえ、よく見れば頬も若干紅潮しています。これは、もしかして、自分の、あるいは全男性の大好物である「恥じらい」という代物なのでしょうか。
「くりちゃんが到着して、五十妻君がそっちに注目したのが、ステージに立った三枝さんからははっきり見えたんだろうね。HVDOの世界に入ってからというもの、かなりの人数の女子のオナニーを見てきている僕が言うんだから、間違いはないはずだよ。三枝委員長は、五十妻君に向けてオナニーしていた」
「そ、そんな事は……!」三枝委員長が声をあげますが、続きません。
「あるんだな。これが。まあつまりだね、『もしもくりちゃんが来なかったら』という過程の話ではあるけれど、もしも三枝委員長が『僕のくりちゃん』と百合していた時と同様に、『会場に向けて』オナニーをしていたら……勝負は分からなかったという事さ」
 今更ながら、春木氏の股間がもっこりとしている事に自分は気づきました。
「ただし、現実は1つしかない」
 ええ、春木氏の言う通りです。今ここにある現実は、三枝委員長が全力を出し切ったという事と、春木氏がそれでも生き残っているという事だけです。春木氏は満足げに頷いて、一瞬だけくりちゃんの方を見ると、声を1段階大きくしました。
「……が! 僕には三枝さんに勝っちゃいけない理由があるんだな、これが」
 その時、ステージの上から、よろよろとした足取りで全裸の偽くりちゃんが降りてきました。慌てて、くりちゃんの方を見るとなんとこの馬鹿は、それが自分のもう1つの姿であるという事に気づいていなかったようなのです。「あ、また新しい変態だ」くらいの気持ちで、過去の自分を見つめている様子。まあ年齢が違うという事もありますし、自分がもう1人いる訳がないという前提もありますが、事実をはっきり伝えたらどうなるかは気になる所です。
 春木氏にもたれかかって、泣きながら「ごめんなさいご主人様ぁ……!」と謝罪を繰り返す偽くりちゃんに、春木氏は上着をそっとかけました。まだ全裸のままの三枝委員長は、春木氏に尋ねます。
「勝ってはいけない理由、とは?」
「10個目の能力さ」
「おっと、それを教えてあげちゃうのは、ちょっと大サービスすぎやしない?」
 といきなり声を出したのはトムでした。姿を確認出来ないので、三枝委員長とくりちゃんは周囲を警戒しましたが、自分からしたらもう慣れたものです。春木氏も自分と同様だったのは、少々意外ではありましたが。
「何はともあれ五十妻君は生き残ったのだから、教えてしまっても構わないだろう? ……まあ、やめろと言われても従う気はないけどね」
 くすくすと笑う春木氏に、底知れぬ恐怖の片鱗を見ました。


「言うまでもなく、HVDO能力者はその性癖バトルにおいて勝利を収めると、新しい能力が得られる。ただし、その新しい能力には『上限』がある。それが10個という訳さ」
 新事実。ですが、驚くほどではありません。
 以前、これについては自分も少し考えた事があります。もしも能力が無限に増えていくとしたら、世界は広いですから、100個くらい能力を持った変態がいてもおかしくはなく、そんな奴には勝ち目がありません。しかしそれでは性癖バトルが無意味になってしまう。よって、それが正確にいくつかは今の今まで知りませんでしたが、何かしら上限があるはずだ、とは思っていたのです。
 春木氏はメインの手品を披露するように、こう続けます。
「そして10個目の能力は、『世界改変態』と決まっているんだ」
「世界……改変?」
 ギャグエロラブコメバトルという雑食ジャンルからですら、勢い良く大気圏外に飛び出したその言葉に、自分は軽い眩暈を覚えましたが、春木氏は一切構いません。
「いや違う、『世界改変態』だ。僕達の性癖が、この世界を再構築するのさ」
 ヤバい人だ。というのは分かっていましたが、こういう「ヤバさ」だとは思っていませんでした。自分はどう捉えて良いやら分からず、三枝委員長の方を見ましたが、彼女も同じ心境だったようです。
 しかし当人は至って真面目であり、近くで聞いているはずのトムもそれに反応しない事から、春木氏が今言っている事が真実である事が窺い知れました。
「……勘違いしないで欲しいな。僕が狂ったんじゃなくて、世界が狂ってるんだ」
 勇気を振り絞って、自分はこう尋ねます。
「あの、それはもしかして、例えば自分が10個目の能力を得たとしたら、『地球の海を全て美少女の尿にする』だとか、『雨の代わりに美少女の尿が降って来る』だとか、『美少女がおもらしをする生中継が常に空に映る』だとか、そういう夢のような世界が実現出来るという事ですか?」
「それが夢のようとは僕には思えないが、そういう事も出来るには出来るね」
 俄然、やる気が出てきましたが、くりちゃんが「こいつ……頭おかしい……」と呟いていました。
「僕の世界改変態は当然、『僕以外の人間が全員かわいい幼女になる事』を目標としていた。が、今はその崇高な目標に、陰りが出てきた」
 春木氏はそう言うと、本物のくりちゃんの方をじっと見据えました。自分は先程の、春木氏の自宅においての三枝委員長とのやりとりを思い出しました。「あなたは木下さんの事が好きなのよ」三枝委員長のその指摘は、間違ってはいなかいはずです。現に、春木氏の隣には今、くりちゃんにそっくりな偽くりちゃんが寄り添っています。
「世界改変態の能力は、僕の9つ目の能力と同様、意思による正確なコントロールが出来ないんだ。つまり、『願い』が叶う訳じゃない。『求めている物が手に入る』」
 最悪の事態を、自分は瞬時に想像しました。それは言葉にするにもおぞましく、そして絶望的でした。
 改変とは、文字通り世界を変える事。変態とは、常軌を逸した性癖の事。
 人類が滅びた後の、何も無い荒野に春木氏と幼女になったくりちゃんだけが立っている景色。
 自分が想像したのは、そんな終末でした。

       

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Neetsha