Neetel Inside ニートノベル
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 常軌を逸している。
 そうとしか表現出来ない状況に、自分は天地が揺らいだような錯覚に陥り、すぐにそれが眩暈だと気づくと、気力を振り絞って閉じかけた目をこじ開けました。
 蕪野先輩はしきりに、「性器が他の人と違うのではないか不安だ」という旨の発言を繰り返していましたが、自分はせいぜい、ラビアがはみ出ているだとか、クリトリスが大きめだとか、剃ってないのにつるつるだとか、その程度の事だと思っていましたが、完全に甘えだったと言わざるを得ない立場のようです。常軌を逸している。これしか言えません。
「や、やっぱり変な形してますです……?」
 自らのとんでもない性器を晒しながら、すがるように蕪野先輩は、目を潤ませていました。「大丈夫です。全然変じゃないですよ。さあやりましょう」という台詞を直前まで用意していた自分は、それが50m先に吹っ飛んで跡形もなく木っ端微塵にされた事を知らされ、狼狽しました。
「いや、その、こ、これは……えっと、もしかして刺しているんですか? それとも接着しているんですか?」
「ち、違いますです。こういう形なんです」
 いよいよもって揺るぎのない、紛れもない、許されない異常事態に、一筋縄ではいかない脱童貞という壁の厚さと硬さを知りました。
 自分の目が正常であるならば、蕪野先輩の女性器は「白い花」でした。
 6枚の花びらは等間隔で放射状に広がり、その中心からぴょんと出た数本の赤いおしべとめしべは、重力に従って垂れ下がっています。自分は、この花の名前を知っています。
 百合。
 正確に言えば「ヤマユリ」であるように見えます。ユリ科ユリ属の日本特有種で、くるんと外側に向かってめくれた白い花弁に、黄色の筋と斑点があるのが特徴だったはずですが、そんな事はこの際どうでもよく、重要なのは、そのヤマユリが一体全体どこから生えていやがってるんだという衝撃です。
 よく官能小説などで女性器の事を花弁やらつぼみやらと表現していますが、蕪野先輩のモノは、見た目だけで言えば紛れもなく花でしかなく、物凄い存在感でこっちに向いて咲き誇っていました。
「やっぱり……変、ですよね?」
 仰向けに寝たまま目を瞑って、足をピンと伸ばして、自信なさげにぽつりと零す蕪野先輩に、いや、変ってレベルじゃ……と言いかけましたが、自分は少なくとも一般的な男子よりかは、こういった性的超常現象に慣れている方の人間です。これも何かのHVDO能力、という一応のエクスキューズをつける事が出来たのが幸いでした。
「……ちょっと失礼します」
 自分は手刀を切ってから、珍妙奇怪な陰部へと、顔を近づけていきました。
 くんかくんか。
 嗅いでいると、その内に味までしてきそうな独特で甘い匂い。間違いありません。どうやらこれは本物のヤマユリのようです。


「触ってみてもいいですか?」
 本来なら痴漢行為ですが、この場合はむしろ学術的実験と見るべきでしょう。
「ど、どうぞです」
 人差し指が、ふに、と花弁に触れると、蕪野先輩が「ひんっ」とかわいらしくも艶かしい声を漏らしました。その嬌声に反応して視線を向けると、真っ赤に染まった顔を咄嗟に両手で隠していたので、どうやら演技という訳でもないようです。この百合の花は、股間に張り付いているだけの無機物という訳ではなく、脳と繋がった感覚があり、ならば栄養や水分などは、蕪野先輩から吸収している可能性も見えてきます。
 それと、百合のインパクトが大きすぎて忘れていましたが、どうやら蕪野先輩はパイパンのようです。いやむしろ、百合が咲いてしまったからこそ剃っているのか、それとも元々生えていない所に百合が生えたのか、謎ではありますが、とりあえずアナルは至って普通の物でしたのでうんこは問題無いでしょう。
 次に自分は、花の部分と肌の部分の接合部を良く見るため、蕪野先輩にM字開脚を依頼し(客観的に見ると、依頼した自分もどうかと思いますが、それに大人しく従う蕪野先輩もどうかと思います)、花びらを優しく曲げて上からと、布団に頬をこすりつけるように屈んで、下からのアングルで嘗め回すように観察してみると、花は穴に刺さっているというよりは、穴の中から生えているようでありました。弧を描いた花弁をめくって(触れる度にいやらしい声を出すのが早速自分が見つけた蕪野先輩の悪い癖です)、目を凝らしましたが、花びらの根元に当たる部分はやはり、肌と完全に密着して、デリケートゾーンの奥深くへと続いているようです。
 はっと気づき自分は顔をあげました。
「おしっこは!? おしっこはどうしてるんですか!?」
 蕪野先輩はますます顔を紅くしながら、もじもじと震えだしたので、百聞は一見にしかず、すかさず自分は黄命を発動させて、こんな事もあろうかと一応買っておいた尿瓶をベッドの下から取り出しました。
 奇妙な光景は続きます。
 おしべとめしべの根元。つまる所花びらの中心点から、しーー……っと、黄色い液体が放出されていました。蕪野先輩はもう恥ずかしさのあまり泣いてしまったようですが、そんな事を気にしている暇はありません。どんどん尿瓶の中に溜まっていく尿は、普通の人のそれと同じようであり、しかし香ばしさの中に、ほのかな甘い匂いが漂ってくるようで、実に味わい深い、このまま樽の中に入れて20年くらい熟成させたいような代物でした。
「な、なんでですか! 私おしっこなんて全然したくなかったです!?」
 いつもの冷静な自分であれば、こういった言動やその手を口にあてて「はわわ」とたじろぐ姿も、「あざとい」などと感じている所でしたが、今はもう猜疑心を土俵からうっちゃって、とことんこの不思議な少女に付き合おうと覚悟を決めていました。
「ここ、触られると気持ちいいんですか?」
「気持ちいい、です?」何を言われたのかわからなかったように呆けて5秒、意味を理解したように、あるいは確かめるように「気持ちいいです! よ、良ければもっとしてくださいです」と懇願してきました。

 
 かわいさ余って性欲百倍。どうにかこのままでも挿入出来ないものか、と思索した自分は、百合の花びら部分を徹底的に調べる事にしました。まずは中指を1本、花びらの中心点に向けてゆっくりと挿入しましたが、第二間接まで進んだ所で行き止まりにあたってしまい、そこをほじくっても蕪野先輩がどエロい喘ぎ声をあげるばかりなので諦めました(尿穴はあるようですが、小さい上に1番奥にあるので指ですら確認が難しいです)。この深さではせいぜい息子の半分も進める事が出来ませんでしょうし、当然花であるので入り口側に向かうにつれて広がっており「挿れた」というよりむしろ「被せた」という形になってしまう事はやってみなくても間違いありません。
 蕪野先輩の花びらを弄りながら(こう言うと比ゆ表現に思えてしまうかと思われますが、そのままの意味です)、自分は今、とてつもなく変態的な事をしているのではないか、という高揚感が、気づくと背中にぴたりと張り付いていました。
 自分は自分を取り戻す為、花の蜜で濡れた(これも比ゆ表現ではありません)指をティッシュで吹いて、もっと触ってと言わんばかりに物欲しそうに見つめてくる蕪野先輩に質問を投げました。
「えっと、蕪野先輩、ちなみにこの花は、いつからここに咲いているんですか?」
「いつから……ですか」少し首を捻って、「昨年の……5月か6月くらいだったです。ある日お風呂に入ってる時に、ここが『つぼみ』になっているのに気づいて、恥ずかしくて誰にも言えずに放っておいたら、それが……咲いてしまいましたです……」
 言いながら、またもやうるっと涙目になっていたので、自分は少しかわいそうになって、花びらの1枚を指でしゅしゅと軽く擦ってあげました。眉をひそめながら下唇を上唇で甘く噛む表情。たまらなくなります。
 まず間違いなく、蕪野先輩の局部に咲いた百合の花はHVDO能力によるものです。そこまで変ではない、むしろこういう女の子が世の中には沢山いるのではないか。などと仰る方がいましたら、今すぐWikipediaの「膣」の項目をご覧になってください。それでも満足出来なければ渡米して無修正ポルノを買い漁ってください。それでもまだまだ納得いかなければ、その辺の女の子を襲ってみてください。よろしいでしょうか、どこにも花なんて咲いていません。
 自分の中では、既に答えは出ました。
 彼女、蕪野先輩は、何者かの手によってHVDO能力による攻撃を受けており、しかも、その能力者は昨年から敗北をしていない。していたとすればHVDO能力による変化も解除されているはずですから、つまり相当な手練のHVDO能力者という事になります。恥丘に咲いた花を眺めながら、思惑に耽る自分に、蕪野先輩はこう訴えてきました。
「こ、これでも何人かの男子とホテルまで行った事はあるんです! でもこれを見た途端、皆逃げちゃって……やっぱり私、変なんでしょうか……凄く悲しいです」
 顔、胸、仕草という3種の武器を標準装備している上に、貞操観念をパージしているにも関わらず、高二にもなって処女でいるという理由。局部に百合の花が咲いているのであれば、納得出来るという物です。
 自分はそれから何も言わず、蕪野先輩の花に対して今出来る精一杯の愛撫を施しました。花びらは奥に行くほど感覚が敏感になるようで、裏側を優しく擦ると焦らしになり、めしべの先端は特別感じすぎるらしく、そしてやればやるほど花蜜が溢れてきました。刺激を送る度に様々な変化を見せる淫情を眺めながら、同時に心の中で闘志が燃えてくるのを自分はひしひしと感じていました。また、100%勃起しているにも関わらず、息子が爆発しない事から、敵ではないかという疑いもいよいよ100%晴れました。
 やがて蕪野先輩が絶頂に達すると同時に、決心は固まりました。
 この呪いをかけたHVDO能力者を倒し、自分は、蕪野先輩とセックスをします。


 その後、蕪野先輩にHVDOの事を説明するかどうか少しの間悩みましたが、結局話す事にしました。理由としては、これ以上真剣に悩まれて、病院に駆け込まれても厄介な事と、能力による影響である事を理解してもらわなければ、その解決法に関しても納得してもらえないと判断したからです。特に、前者の理由は時間的には差し迫っており、「今回、セックスを断られたら、凄く恥ずかしいですけど勇気を出してお医者さんの所に行こうと思っていましたです」という言葉から、そうなると、「世にも珍しい花の形をした性器」としてザイーガにまとめられてしまった挙句、HVDOの事も露呈してしまうという心配もありました。
 最初、蕪野先輩はHVDOの事を説明しても、何かの冗談だと思ったらしく取り合ってくれませんでしたが、再度自分が黄命を発動させて尿を漏らさせ、第二能力「W.C.ロック」もついでに目の前で実演すると、首を傾げながらも、真面目に話を聞いてくれるようになりました。
「周囲に思い当たる節、つまり変態はいませんか?」
 と、自分が訊ねると、蕪野先輩はシャツのボタンをとめながら、うーん、と首を捻って、「そもそも変態さんって普通は自分の性癖を隠しますから、分かりませんです」ともっともな事を言いました。
 そこで、蕪野先輩は自分の事を噂の真犯人である等々力氏と勘違いしてここまで来ているという事を思い出した自分は、まずは確認をとる事にしました。
「蕪野先輩、自分の名前はご存知ですか?」
「え? ……そういえば知りませんです」と言った後、パンツを履きながら、「名前も知らない人に、私、何て事を……」と呟いていました。とりあえず性欲が発散出来て、賢者タイムに入っているという事でしょう。
「では、自己紹介しましょう。自分は五十妻元樹と言います」
「わ、私は蕪野ハルです。よろしくお願いしますです!」
 ペッティングした後にこうして改まるのもおかしな話ですが、らしいといえばらしいな、と前髪を整えてはにかむ蕪野先輩を眺めていて思いました。
 その時唐突に、自分の抱えている例の問題を、打ち明ける気分になったのです。それは奇妙な信頼でした。過去にいたことはありませんが、「セフレ」というのはこういう距離感の存在なのかもしれません。
「朝、自分を起こしにきてくれませんか?」
 二つ返事でOKしてくれた蕪野先輩に、 家はどこかと訊くと、最寄りの駅から10駅ほど離れている、毎朝来てもらうには悪いなと思われる距離でした。命のかかっている自分は、しかしそんな風には見せない気軽さで、こんな提案をします。
「しばらくの間、一緒に暮らしませんか? 蕪野先輩をこうしたHVDO能力者を見つけて倒すまで」
 まだ数えるほどしか言葉もかわしていない、今日出会ったばかりの相手への誘いとしては、ディズニーランドよりもラブホテルよりも、ありえない程高いハードルでしたが、それを蕪野先輩は難なく飛び越えたのです。
 色のついた、か細い声で、自分の指をじっと見つめ、
「……また、ここ弄ってくれますですか?」
 自分は思わず鉛のように重い唾を飲み込んで、
「はい、毎日でも。蕪野先輩」
 そして傾城の如く男を殺す、照れ笑顔を浮かべて、
「じゃ、じゃあ、ハルって呼んでくださいです」
 こうして、処女でビッチで性器がお花な蕪野先輩との共同生活が始まりました。

       

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Neetsha