Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 10回から先は数えていませんが、この指の攣り具合といい、全身に漂う、「勃起疲れ」とも形容すべき倦怠感といい、おそらくは15、あるいは20回近く、自分はハル先輩の異常極まりない性器を、満足してもらえるまで弄っていたようです。指に冷えピタを張ってアイシングしながら、ベッドに仰向けに寝ころがり、「一体何をしているんだ自分は……」という後悔にも似た感情と、「しかしとりあえず、とてつもない事をしている」という達成感のような物に巻かれながら、上のベッドで寝ているハル先輩のたてる小さな寝息を聞いていました。
 昼。
「では、ハル先輩」
「先輩なんてつけなくていいですよ?」
「いえ、敬称は省略したくないので、ハル先輩と呼ばせてください」
「じゃあ、私は五十妻君の事、『もっくん』って呼びますです」
「……それはご勘弁願えませんか」
「勘弁なんてしませんですよ」
 そう言って、頬を膨らませて、悪戯っぽく笑うハル先輩。
 何も自分は、このような三流エロゲライターが鼻くそほじりながら書いたようなやりとりを伝えたいのではないのですが、しかしどう考えてもハル先輩は、内気で、女の子で、しかしこうと決めたら一直線の、ちょっと頑固な所が魅力な、仮に悪魔から見ても天使であり、そこの所は最低でも知っておいて欲しかったのです。
 その後、圧倒されっぱなしの自分を置いて、ハル先輩は実に手際よく同棲生活の準備を進めていました。まず一旦家に帰って、歯ブラシやら枕やらピンクローターやら生活に最低限必要なものを小荷物にまとめてくると、我が家の冷蔵庫にある残り物食材を使って(これはどうでも良い事ですが、くりちゃんが幼女化した時以来、自分も少しは料理に興味を持って、2日に1回くらいは自炊するようになったのです)少し遅めの昼食を拵えてくれました。
 ハル先輩特製のチーズ豆腐チャーハンは、実に香ばしく、美味でした。誰にでも股を開く性格と、性器が大変な事になっている事を一旦忘れて、良い所だけを見てみれば、今すぐお嫁さんにしたい所でしたが、前2つの問題はどう考えても大きすぎるので、やはりハル先輩も、最終的には五十妻ハーレム計画に内包し、肉便器の1人として扱うのが妥当なようです。
 が、それはまだまだ遠い未来の話ではあります。まずは謎のHVDO能力者を撃破し、この百合を取り除く事。これに集中するとしましょう。
 昼食の後、ハル先輩は自分の部屋の片づけをして、さりげなく自分のベッドの上に、持ってきた枕を設置していました。当然シングルベッドなので、2人で寝るには狭いだろうと考え、自分は来客用の布団を出して敷くと、自分の枕を移しましたが、それもどうやら不満なようで、言い訳に言い訳を重ねどうにか納得いただいた後、晩御飯と明日のお弁当の材料と、それから他の生活必需品を購入する為、2人で近所のスーパーに行きました。そして帰ってきてから、一緒にテレビを見て、一緒にお風呂に入って、少しスマブラをしてから、別々の寝床につきました。
 ちなみに、ここまで挙げたハル先輩の行動の前後には全て、自分からのB行為もといお花のお手入れが、割愛されていますが為されており、合計するとやはり30くらい、自分はハル先輩を絶頂に導いたという計算になります。とはいえ自分にMr.TakaKatouばりのテクニックがある訳ではなく、母の趣味の園芸に強制的に付き合わされた賜物であると思われます。
 高校生として初めての夜、自分は百合の形をした巨大な怪物に襲われる夢を見ました。


 朝。
 耳たぶに感じる強烈な痛みは、昨晩自分がハル先輩に依頼した「耳たぶを親指と人差し指で思いっきりぎゅーーーの刑」による物であると理解して目覚めると、「ひっ、ごめんなさいです」と朝一の挨拶にしてはかわいらしすぎる一発をもらって、欠伸をしました。
 好きなように痛めつけて起こしてください。と最初は頼んだのですが、「そ、そ、そんな事私出来ませんです」と首を振ったのを見て、このまま放っておいたら朝には泣きながら放っておかれそうな予感がしたので、過去、くりちゃんから受けた虐待の中でも1番マシで、なおかつきちんと起きられる程度の痛みを伴う先ほどの刑を提案したのはやはり正しい判断だったようです。しかし時計を見ると、予定の起床時刻よりも10分ほど遅れているようで、その10分間は、自分の寝ている姿を見ながら、刑を執行する事に踏ん切りがつかなかったという事実を示しており、ハル先輩がシモ関係以外は完璧な聖女である事の証明ともなっています。
 何はともあれ登校です。
 自分はハル先輩が用意しておいてくれたトーストを咥えて、家を出ました。自分が鍵をかけるのを見て、「合鍵を用意しなくちゃいけませんですね」と照れるハル先輩を見ながら、いよいよ人生始まったな、などと思いつつ、一歩を踏み出した瞬間、隣の家に住むくりちゃんが同時に家を出てきて、瞬間ぴたりと目があいました。
 修羅場。
 と思ったのは、果たして自分の自惚れでしょうか。自分の隣にはハル先輩。そして目の前にはくりちゃん。何か良からぬ事が起きそうな、ただ事ではない不穏な空気。自分はあわや口に咥えたトーストを落としそうになりましたが、咄嗟にハル先輩が気づいて、手を添えてくれたので、落とさずに済みました。
 しかしもっと大事な物を落としてしまいました。
 それはくりちゃんからの評価です。
「……最低」
 確かに、そう言ったように聞こえました。「再見(ツァイツェン)」だったかもしれませんが、くりちゃんは中国人ではないのでおそらく違います。「Say Yeah」かもしれませんが、くりちゃんはラッパーではないのでこれも違います。そのまま足早に、学校の方向へと行ってしまうくりちゃん。背中からは、「明日からは家を出る時間をずらそう」という強固な意思が読み取れるようで、自分は、元々地の底にあった自分の信頼度が、加圧されて化石燃料と化してしまった事にようやく気づきました。
 しかしそれでもいいのです。元より、くりちゃんの方から謝罪が入らない限り、自分はこのおもらし貧乳処女友達無し暴力女の相手をするつもりはありません。
「さ、いきましょうか」
「はいです!」
 (貧乳処女から巨乳処女に)切り替えていく。


 女性の持つ魅力というのは底知れない物があり、実際、ハル先輩を隣にして歩いていると、道行く人の視線が明らかに違うのです。羨望、嫉妬、欲情、虚脱、絶望、悄然。沈黙を従えた視線の中に、それら常ならぬ感情が確かに混ざり、自分を突き刺します。しかし痛みは無く、むしろ優越感という名の快楽があり、あやうく飲み込まれそうになりました。
 自分がきちんと理解しておかなければならない重要な事は、別にハル先輩は自分の事が特別好きという訳ではないという事です。これは照れ隠しでも謙遜でもなく、ただ事実として、そうであると感じてるだけです。
 約20時間ほど一緒に過ごして理解したのは、ハル先輩はただ、「気持ち良い事をしてくれる人」を気に入るというだけの事です。セックスがしたいと率直な欲望を述べた事からも分かりきった事でしたが、花弄りをしていて、ハル先輩は性的快感に溺れに溺れ、とうとう自分へのお返しという名のご奉仕を思い出してはくれませんでした。
 端的に言えば、何もセックスだけが性行為では無いという事です。例えば手コキ、例えばフェラ、例えばアナル。前にも少し述べましたが、「より興奮する為の」変態行為は、通常セックスとの線引きが難しい物ですし、例え性器がヤマユリだろうと、極端な話存在しなくとも、それらの行為をするのに不十分ではないはずなのです。
 意外な所で自分は、シャイボーイな所があるようで、「ふあぁ!」「あんっ」「ふひー」「ぬっはーん」と喘ぎに喘ぐハル先輩に、「咥えろ」とはとうとう言い出せませんでした。
 ですが、一晩あけて冷静になると、今はむしろ、それで良かったと思えるようになりました。
 愛撫だけさせておいて自分は抜かずに、何が良かったんだこのドM野郎と思われるかもしれませんが、現実はもうちょっとだけ複雑なのです。
 ハル先輩の性器を加工したHVDO能力者は、おそらくですが春木氏レベル、最低でも三枝生徒会長レベルの実力を持っていると見るべきです。何せ昨年から約1年ほど負けていない訳ですから、相当数の勝ちを積み重ねている、あるいは実力差を瞬時に読み取り、勝てる相手としか戦わないタイプだと考えるのが妥当なラインです。しかも、その能力も性癖も、全くもって謎。特に性癖に至っては、短絡的に「性器が百合になっている女の子フェチ」と解釈すると、いかにもニッチ過ぎて、果たしてそんな性癖が存在するのかどうか、はっきり言って聞いた事すらありません。よって、ハル先輩のヤマユリは、そのHVDO能力の余波による物、詰まるところ、例えば三枝委員長の記憶と記録を消去したり、春木氏の過去を追体験させる能力のような物の影響と考える事が出来ます。
「百合……ですか」
 自分は歩きながら、考えていました。呟きに反応して、「あ、あの、分かっているとは思いますですが、この事は誰にも内緒で……」とハル先輩が申し訳なさそうに言うので、このまま弱みを握った形にして無理やりにでも口に捻じ込んでしまおうかとも考えましたが、やはりそれはやめました。
 それだけ強力なHVDO能力者を相手にするならば、自分には「覚悟」が必要です。何としてでも勝利し、ハル先輩と初体験をするという鋼鉄の覚悟。「まあフェラでも抜けるし、いっか」などと思ってしまったならば、その途端に覚悟は弱まるでしょう。制限を受け入れ、リスクを背負わなければ、格上には勝てません。自分はそれを過去に十分経験しています。


 学校に到着し、昇降口でハル先輩と別れ(この間も、周囲、特に男子からの視線は強烈な物があり、殺意さえ感じましたので、ハル先輩の人気はなかなか高いように思われました。)、教室に入り、席につくと同時、肩をばしんと叩かれました。
「よう五十妻! 同じクラスだって気づかなかったぜ! 昨日は気が動転しててな!」
 一夜明け、清々しいまでの笑顔を浮かべて陽気に喋る等々力氏がそこにはいました。当然、クラスメイトから変態仲間だとは思われたくないので無視を決め込みましたが、笑いながらばしばしと背中を叩かれたので、仕方なくこう言います。
「話しかけないでもらえますか?」
「ぶはは! ところでよ、俺は昨日すげえおっぱいを見たんだよ!」
 そんな金玉袋みたいな笑い方で済まされねえぞ、という自分のイラだちを無視してこのぼんくらは続けます。
「間違いなく、今まで見てきた中で最高のおっぱいだ! 先輩らしいんだけどよ、俺は決めた。こんな貧乳学級だろうと、あのおっぱいが同じ学校に通っていると思えば耐えられる。だから学校やめるのはやめたぜ」
 はあ、そうですか。という相槌を打つのも危険だったので、自分は机に顔を突っ伏して寝たフリをしましたが、なおもおっぱいキチガイは周りに聞こえる音量で叫ぶのです。
「お前、この学校の『茶道部』を知ってるか? 昨日3年生の人に聞いて知ったんだがな、この学校では『茶道部』が生徒会よりも、つうか校長よりも大きな権力を持ってるらしいんだよ! そんで、俺が見たおっぱいちゃんはその茶道部の部長って訳だ。すげえだろ!」
 荒唐無稽とはまさにこの事。茶道部が1番の権力者というのも意味が分かりませんし、それによって等々力氏のテンションがメーター振り切っちゃってるのも訳分かりません。というか本当に、マジで、リアルに、話しかけないでいただきたいのです。顔をあげなくても、周囲のクラスメイト(特に女子)が白い目でこっちを見ているのが分かるくらいの惨状なのです。
「とにかく最高のおっぱいだ! お前みたいな変態だって勃起する事は間違いなしだぜ!」
 放っておくと、この入学初日にパイナップルを飲み込んで自爆した馬鹿に足を引っ張られて、地獄へと道連れにされてしまうと判断した自分は、武力行使に出る事を決めましたが、その瞬間、気になる名前が聞こえたのです。
「『望月ソフィア』先輩っていうらしいんだ。多分ハーフだな。おっぱいも最高だったが、顔もなかなかの美形だったぜ。まああのおっぱいには勝てないが、尻もな」
 瞬時に、昨日の事を思い出します。三枝生徒会長が口にした「厄介な」人の名前。合併に反対していて、なおかつHVDO能力者でもある人物「望月ソフィア」。自分は顔をあげ、等々力氏に詳しく訊ねようと口を開きましたが、その背後に、ハル先輩がにこにこしながら立っていたのに気づきました。
「あ、もっくん」だからその呼び方は……と、いつもとは逆のパターン。「昼休み、ご飯一緒に食べたいので、クラスまで来ていいです?」
 と、はにかむキューティー弾けるフレッシュ爆弾スマイルをぶちまけ、世界は核の炎に包まれ口寄せの術で呼ばれた神龍により時の世界に入門した自分は卍解しそうになりました。
「え、ええ」とたじろぎながら、今度はクラスの男子全員からの痛い視線に、自分は思わず顔を伏せました。
 入学2日目にしてこのようなな美少女が昼食を誘いにくるなど、いかにもまずい。
 しかし同時に、彼女にメイドコスさせて秋葉原へと繰り出すような、最早一種の「プレイ」のような快感も覚えた事は正直に告白しましょう。
 俯いている内に、ハル先輩はスキップしながら戻っていきました。 
 その時、床にぽたりぽたりと3、4滴、真っ赤な液体が落ちたのを見たのです。ぎょっとして顔をあげると、目の前には、「血涙」を流す等々力氏が、阿修羅の如き形相で、自分の事を睨んでいました。

       

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Neetsha