Neetel Inside ニートノベル
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 望月先輩が子供みたいに泣きじゃくる姿がいかに魅力的かについてをいちいち説明していると、その間に地球が滅びてしまうので、ここは1つ心を鬼にしつつ読者の皆様のたくましい想像力にお任せするとして、まずは現在、自分が置かれている状況の整理をしたいと思います。
 場所は百合城、時間は零時前。
 天守閣には自分、望月先輩、春木氏の変態3人、春木氏のオプションである偽くりちゃん、拘束椅子に固定された、ディープキスの直後尿まみれにされて放心状態の本物のくりちゃんと、そして自分との1ヶ月の同棲生活を経ていよいよ淫売具合に磨きのかかってきたハル先輩の合計6人がいました。
 ハル先輩曰く、「崇拝者」に指示されてこの百合城に来たとの事で、確かに三枝生徒会長の説明によれば、この百合城は「男」と「望月先輩の知らない女」の入城を拒絶する効果を発している訳ですから、どちらにも当てはまらないハル先輩にとってみれば、何の事はないフリーパスであったようです。
 望月先輩が泣いている理由として考えられるのは、立ちション姿を最愛の人にしっかり見られてしまったという破滅的な事実であり、いかにレズプレイに慣れていた先輩といえど、いえ、むしろ慣れていた先輩であるからこそ、突拍子も無く訪れた屈辱感に耐え切れず、心が折れてしまったのではないか、と自分は推察しています。
 先ほど触れた記憶によれば、後輩を百合屋敷に連れ込み行為を行う際は、常に望月先輩がリードを取って、辱めを受けるのは常に後輩の方だけだったようで、性的な意味を含んだ放尿は、1年生の頃に受けた日向先輩からの調教の最終段階においても「ありえない行為」だったらしく、キャラ崩壊かとも疑われるこの急激な感情変化は、自分に、この場にいた全ての人物に、ただならぬ衝撃を与えました。
「いやだ! いやだよう! こんなのないよう!」
 幼児退行。
 とでも呼ぶのでしょうか。心理学には疎い自分ですが、望月先輩の状態がいわゆる「通常」ではない事は分かりきっていました。先程、自分はこの「かわいさ」に関する説明を丸投げすると宣言しましたが、やはりそれも非常にもったいない事のように、たった今思い直しましたので、拙い言葉ではありますが簡単に解説していきたい所存であります。
 前提条件として、望月先輩が普段いかにクールで知的でリーダーシップに溢れ、完璧超人であったかという事をまずは理解していただいた上、だらしなく緩む口元、ずるずると垂れる鼻水、手を猫のように丸めて目を塞ぎ、それでもとめどなく溢れてくる涙をご覧いただきたい。
「ハルちゃんにおしっこしてる姿見られるなんて、嘘に決まってるよう!」
 どこかに樫原先輩が潜んでいるのではないかと疑いたくなるほどの「ありえない台詞」を連発する望月先輩。この場にいるほとんど全員がドン引きしている中、唯一ダメージを受けている人物がいました。
「なかなかやるじゃないか……!」
 気づけば春木氏の勃起率は98%まで上昇し、苦しそうな笑顔で望月先輩を凝視していました。つまり結局の所、幼児モードに入った望月先輩のかわいさのなんたるかについては、わざわざ自分が説明する必要など最初からなかったという事です。


 思いがけない展開に自分の脳はついて行けてないようですので、もう1度整理する時間をください。
 1番見られたくない放尿姿を1番見られたくない人物に見られた望月先輩の受けたショックは分かりましたし、心に受けた傷が余りにも大きく、子供のような態度で泣き出してしまったという事も「自分は」かろうじて理解しました。ここであえて「自分は」と強調したのは、全くの理解不能に陥っている人物が2人いるからです。
 1人目はくりちゃん。尿まみれになりながらも茫然自失ですが、それでもようやく周囲の異変に気づき、先程まで堂々たる放尿を披露していた人物が何故か泣き崩れているという不可解さに少しは疑問を持ち始めた様子でしたが、「それよりもあたしを早く解放しろ!」という主張の方が強く、あと1分もすればまたぎゃあぎゃあとくだらない事を叫び始める事は請け合いです。直接記憶に触れた自分がこんな言い方をするのは若干卑怯な気もしますが、樫原先輩と自分の対決の場にいたにも関わらず、望月先輩がハル先輩に寄せる恋心に気づかないのは相当に鈍いと見え、結局くりちゃんは「あたしがあたしが」の精神なのですね、と叱責したくなりました。
 そして2人目は、望月先輩のディープラブ対象、その本人であるハル先輩。
「あわわわ、望月先輩、どうしましたですか」
 と慌てふためく姿は演技ではなく、本当に何も分からない様子で、例の百合の件で、望月先輩にとって自身がどういった存在なのか、あるいはもっと前から茶道部に勧誘された時点で、その辺の空気は察していても良いはずなのですが、こちらの処女もくりちゃんと負けず劣らず鈍いと見え、「泣かないでくださいです望月先輩! 誰でもおもらしくらいしますですよ!」とてんで見当違いなアドバイス、というか追撃を喰らわせているのでした。
 自分よりも更について来れていない2人とは対照的に、自分の遥か先に進んでしまった人物、それが春木氏です。
「うぇーん……こんなのひどいよう!」と泣く望月先輩に対して、
「くっ……流石はHVDOの幹部といった所だね」と、冷や汗を流す春木氏。
 望月先輩のこの独特な反応は、思わぬ成果を生んだと言えます。三枝生徒会長の露出ストリップを見ても、100人の女子を相手にした手マンマラソンをこなしても負けなかった男が今、勃起しかかっている。これこそが真の異常事態です。
 おそらく、という保険をかけさせてもらいますが、自分なりの納得は既に出来上がっています。
 言うまでもなく春木氏はロリコン。純度100%の、蕎麦で言えば十割の、全くもって誤魔化しのきかないガチのロリータコンプレックスです。まだ年端もいかぬ子供に対して劣情を抱くド変態であるという点において、春木氏は一点の曇りもなくそうであると断言させていだきます。
 しかしながら、ロリコンと一口に言えど、馬鹿にせずきちんと分析してみれば、ロリコン同士の中にも微妙な「差」が存在する事に気がつくはずです。
 その「差」とは、大きく分ければ以下の2つ。
 幼女の未完成の肉体に欲情する者。
 幼女の未完成の精神を尊敬する者。
 ロリコンと罵られる方はこの2つのカルマを時と場合によって使い分けながら生きていると言えます。例えば地面に落ちた何かを取ろうと屈んだ瞬間、オーバーオールの隙間からちらりと見えた事故乳首にドキッと来るのは前者、運動会の徒競走で必死に前の生徒を追いかける姿を見て、親類縁者でもないのに声を張り上げて応援するのは後者。1人で買い物に来て物を買った後、店員に頭を下げお礼を言うのを見て心の平穏を得るのも後者。プールから上がったばかりのスクール水着から滴る幼女水をぐい飲みしたいと願うのが後者。くりちゃんが幼女化していた時、一時期は自分もそうであった事を思い出していただければ、この理論にも若干の信憑性が増されると思われます。


 春木氏が何かを仕掛けた訳ではないのですから、当然、望月先輩の見た目には何の変化も起きていません。しかし望月先輩の精神は非常に不安定な状態に陥っており、これは感情の昂ぶりを全く抑える気のない「子供」の特徴と一致します。言い換えてみれば、高校生の身体を持った子供。幼女化して、記憶を消される前のくりちゃんと全く「逆」の存在である訳です。
 春木氏ほどの達人ともなれば、自分が今あげた2つのロリコニズムを、両方とも高い水準で習得している事は大前提であり、「幼女の肉体」になった高校生に対して抱く感情と、似て非なれど近く良く似た感情を「幼女の精神」になった高校生に対して抱くというのもこれまた当然の話で、この苦戦は演技でも何でもなく事実そのままであるように思えました。
 これはつまり、チャンスです。
 今、このタイミングで望月先輩にもう1度、幼女的演出の入ったおもらしをしていただければ、春木氏を倒すには十分な攻撃力が得られると見てまず間違いは無いでしょう。そもそも望月先輩の泣き出したきっかけを作ったのは自分の「黄命」であり、春木氏の興奮率には「好きな人におもらしを見られてしまった」というシチュエーションを起因としたエロスが大いに含まれているはずです。
 さて問題は、どのようにして望月先輩に近づくか、という点です。
 今ここで自分が下手に動けば、無論、春木氏は気づきます。春木氏には、偽くりちゃんという、命令されれば死んでくれるような便利な使い魔がいますので、自分側がハル先輩を戦力として数えても、2人のコンビネーションには敵わないように思われますし、望月先輩自身も、2回目のおもらしとなればかなりの抵抗を見せるはずです。膀胱が空っぽになった今、3度の接触というハードルは非常に高く、強行突破は難しい。動けば制され、千載一遇のチャンスを失う。くりちゃんとは違いますが、自分も身動きの取れない状況であるという訳です。
 そんな状況を打ち破るきっかけを作ってくれたのが、ハル先輩でした。
「あの、さっきも言いましたですけど、やっと私の百合が無くなっておまんこが元に戻りましたですから、早くセックスしたいです。……もっくんと一緒に帰っても良いです?」
 頭の中にはそれしかないのか、と呆れつつも少し嬉しい台詞。それを聞いて望月先輩は更に一回り大きく泣き声をあげました。
「ハルちゃんに嫌われちゃったよう!」元々そんなに好かれてもいないという事はさておき、「もう嫌だよう! 死にたいよう! ハルちゃん行かないでよう!」
 我を失って叫ぶ最後の言葉に、ハル先輩が反応を示しました。
「えっと、あの、もしかして、望月先輩って私の事……」
 今更か、というような気づきでしたが、それはとても重要な事でした。
「……好きだったです?」
 望月先輩は一瞬声を止め、こくりと頷きました。それを確認したハル先輩は、見る見る顔を真っ赤にさせて、堰を切ったように言います。
「あ、あの、1年生の時に望月先輩が私を茶道部に誘ってくれた時は、私の生活態度が悪いからお仕置きされると思って断っていたですよ! それでもほとんど毎日お誘いされたので、私が援助交際に興味を持ち始めたのがバレていて、怒られて止められるのが嫌で! それでそれでやっと望月先輩からの勧誘が無くなったと思ったらおまんこが百合になっていて……。だ、だから私、望月先輩の事嫌いになんてなってないです! むしろちょっと憧れている部分もありますです! ……ただ、早く誰かとセックスしたいと思っているだけで……」
 必死の弁明でしたが、望月先輩に変化は起きず泣き続けます。
「女同士じゃ本当のセックスが出来ないもん! ハルちゃん淫乱すぎるよう!」
 論点がどんどんずれ込んでいる気がしますが、とりあえず間違ってはいません。
 対してハル先輩は、何を思ったのか、吹っ切れたように言い放ちました。
「そ、それなら! 3Pをすればいいです!」
「え?」
 望月先輩は顔をあげ、きょとんとしながらハル先輩を見ました。


 3Pとは、スーパーファミコンのマルチタップ的な意味合いではなく、「嬲」、「嫐」、という意味での3Pであり、この場合は後者、「嫐」という状態を指し示す言葉であると思われます。
「そ、そうですよ! 何も1対1にこだわる必要なんてありませんです! 私と、望月先輩と、もっくんの3人で楽しくセックスしますです! そうしたら望月先輩も泣く必要ありませんですし、私も念願のセックスが出来て嬉しいです!」
 ここに来て、なんという建設的な意見か、と自分は思わず拍手を送りたくなりました。
 望月先輩はぽかんとしたままで、しかし先程まで湧き続けていた涙は止まり、零れた言葉はこうでした。
「ほんとに……?」
 瞬間アナライズ。「ほんとに」=「本当に」の幼めな表現=まだ立ち直ってはいない。そして語尾に「?」が置かれているのは疑問系である事を示しており、ハル先輩の言葉の真偽を確認したかった。これらを踏まえた上で「……」に込められた意味を推理し、補足しますと、この台詞の真意はつまりこうです。
「ハルちゃん……本当にセックスしてくれるの?」
 自分の分析よりも早く、実際に口に出した望月先輩の質問に、ハル先輩は答えました。
「はいです!」
 自分を置き去りにして合併交渉がまとまりつつある事は気になりますが、かといってあえて反対の声をあげるつもりは微塵も無く、望月先輩、ハル先輩とのパラスティックポリティカルパクト、いわゆる3P行為に及ぶ事はむしろこちらからお願いしたいくらいの名誉であると自分は認識しています。
「ほ、本当は2人でしたいけど、ハルがそう言うなら、3Pでも……いいよ……」
 先程とはまた別ベクトルのかわいさを発揮し始めた望月先輩。
 いよいよ自分もこれを捨てる時がきたか、と心の部屋の真ん中に堂々と鎮座し続けて十余年の童貞の像、略して童像を動かそうとした瞬間、「待った」が入りました。
「望月さん。本当にそれでいいのかい?」
 勃起率99%と抜き差しなら無い状況の春木氏でしたが、しかしその表情はすっかり冷静さを取り戻していました。
「君は女同士の行為にしか興味が無いはずだ。しかし3Pともなれば、五十妻君はアレを君のアレに、何の断りもなしに容赦なくぶち込む気だよ。それでもいいのかい?」
 名誉毀損で訴えたいのでどなたか告訴の準備を。ぶち込む事自体は否定しませんが、きちんと断りは入れます。
「男との行為は君自身の性癖の敗北を意味するんじゃないか? そもそも、ハルさんの性器が百合から元に戻ったのは、君自身の愛情が失われたからかもしれないよね。その問題も解決せずに、ただ目の前に餌がぶら下がっているからといって喰らいついてしまうのは、君の流儀、ひいては茶道部の伝統にも反する行為だと僕は思うんだけど」
 春木氏の指摘は鋭く、なおかつ遠慮がありませんでした。このまま3Pに突入すれば分が悪いと踏み、ここで望月先輩を責めて3P計画をご破算に持って行くというのは大胆かつ的確で、微に入り細を穿つ一手であると言えます。
 望月先輩の表情がふにゃふにゃと緩んで行き、眼の奥から何かがこみ上げてきて、あと少しでまたわんわん泣き出してしまう、という心配が頭をよぎりましたが、現実は更に上を行っていました。
「……すまない。取り乱してしまった」
 戻りやがったのです。
 望月先輩は立ち上がり、きりっとした表情で自分とハル先輩を見て言いました。
「3Pの話は忘れてくれ」
 ぷち。
 自分は珍しくキレてしまいました。衝動的に春木氏の胸倉を掴み、叫びます。
「余計な事を!!!」
「どう見たって正当防衛じゃないか」
「他人の、しかも童貞の初体験のチャンスを奪うのは非人道的です。過剰防衛と思われます!」
「五十妻君、少しは冷静になってくれよ。今は性癖バトルの真っ最中で、目的は望月さんの撃破だろう?」
「そんな事、最早どうでも良いのです! 春木氏は偽くりちゃん相手に毎晩好きな事が出来るんでしょうが、こっちは明日のおかずにも困っている状況なんですよ!」
「それは君の身の振り方次第さ」
「何ですと!?」
「ま、待ってくださいです2人とも! 喧嘩は良くないですよ!」と、ハル先輩が割って入ってきましたが、自分の怒りは収まらず、怒髪天を突く勢いで春木氏を責めます。
「だったら代わりに偽くりちゃんを一晩貸してください!」
「いくら何でもそれは出来ないよ」
「何で!!」
「あの、マスター」
 次に割り込んできたのは偽くりちゃん。
「望月さんが梯子を使って、屋根に上ったみたいですが、いいのですか?」
 振り向けば、そこに望月先輩はいません。
 形容しがたい嫌な感触が鼻先を掠めました。

       

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