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HVDO〜変態少女開発機構〜
第五部 第一話「黄金は命題に劣る」

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 今、自分の目の前には、卓を挟んで4人の人間が座っています。
 自分も含めると5人全員が背筋をピンと伸ばし、正座をしているという状態にあるのですが、果たしてこれが何を意味しているかを瞬時に察する事の出来る方はそうそういる訳が無いと思うのです。麻雀をするには1人多いですし、面接にしては和室に正座というのが奇妙で、また、友人同士が和やかに語らいあうような雰囲気でもありません。卓の上には良く分かりませんが高級な料理が並んでしますが誰も手をつけず、ただどんよりとした気味の悪い空気の中で、自分は次の言葉を求められています。ある休日の昼間に、今日は家でゴロゴロしながら、お気に入りのおもらし系成年向け漫画でも眺めながら、存分と思索に耽ろうかと思っていたほんの1時間後、こうして赤坂の料亭にいるのですから、いやはや人生とは分からない物です。


 人生、と不意に出てきた単語が、肩にずしりとのしかかります。高校生最初の夏休みといえば、おのずおのずと人生における漠然とした時間の重要性に気づき、自己実現への葛藤に芽生え、ドラスティックな変化を肌で感じる頃合ですが、果たして自分もその例外ではなく、女の子の尿が好きなのか、尿をする女の子が好きなのかといった命題に頭を悩ませる日々を過ごしつつ、ここに来て幼馴染との恋愛沙汰という真に平凡でつまらない問題がおもむろにその輪郭を現しているという事実も、薄らぼんやりと傍に置いて、時々触ってみて溜息をつくような日々を過ごしていたのです。
 何度も言うように、自分は根っからのクズですので、いたいけな少女が、我慢して我慢して我慢して、それでもやっぱりおしっこを漏らしてしまう様を眺める事が出来ればそれこそが唯一無二の幸福至極なのです。自己実現がどうだとか、惚れた腫れたのから騒ぎなど心底どうでも良い事です。
「言っておくけど、別にそういうんじゃないから。本当にそういうんじゃないから」
 あの日、くりちゃんが必死に考えた弁明がこれでした。クイズ形式という思いもよらない形で心の奥底に秘めていた想いを暴露された少女の必死の抵抗は、誤魔化しきるには余りにも無謀すぎ、かといってそれを認めてしまうには余りにも酷に思えました。
 何せこのぷちDQNの暴力主義者の孤高を愛するその実ただのぼっち少女は、毎朝毎朝大好きな相手に対してその性癖から来る超能力を発動し、その上で自ら起こしに来ていたという訳ですから発狂モノと言えるでしょう。
 眠姦。
 字面こそ姦と書きますが、例え加害者が女性であろうとこの行為は成立するはずです。何故なら男には「朝勃ち」という必要性の不明な、珍妙なる常駐アプリケーションがデフォルトで搭載されており、それを活用し、なおかつ意識を覚醒させる事さえしなければ、「眠っている相手を犯したい」という異次元の性的衝動を満足させる事は可能です。つまり女性であっても、男性を眠姦する事は難しくはなく、くりちゃんにはその力があった、という事実がまず存在します。
「1つだけ確認させてください」と、自分は積年のツンデレに尋ねました。
「……な、何だよ?」
「自分の童貞を奪いましたか?」
 久方ぶりに見る渾身の右ストレートでしたが、その軌道は大きく逸れ、自分の右頬にわずかばかりの真空からなる切り傷を残すだけとなりました。
「そんな訳あるか!!!」
 いやいや、変態とはその内なる衝動をどうしても堪えきれない性質を持つ物ですから、真正面からの否定もそれを信じてもらうにはそれ相応の証拠が必要となってきます。が、まあしかし、あのくりちゃんが自分の寝ている内に性行為をしたとなれば、その翌日の態度から自分は何かを察するくらいは出来たはずなのは確かで、更に言えばくりちゃんが辱められた時等を主に発する処女臭は何にも増して清く正しくおぼこくもあり、それがまた1つの魅力としておもらしという行為に深みとコクを与えているのですから、くりちゃんは未だなお処女、自分はこれまた未だなお童貞と見てまず間違いはないでしょう。
「もう1つだけ良いですか?」
 一応確認はしますが、くりちゃんに拒否権は無く、それを彼女自身も良く分かっているので、憮然とした拒否も出来ません。
「くりちゃんは、いつから自分の事が好きなのですか?」
「そもそも好きじゃない。お前の事なんか大嫌いだ!」
 という答えを、自分は心のどこかで期待していたのです。しかしながら返ってきた答えはこうでした。
「……そんなの、知らない」
 知らない=いつからか分からない=気づいたら好きになっていた。浮かんだ等式は美しく、また同じくらいに絶望的です。
 自分と対面して座る4人の人間のうちの1人。木下くりがその人でした。


 自分から見てくりちゃんの左隣に座る方は、最も古い付き合いになるお方で、具体的に言えば年齢プラス約10ヶ月もの間を共に過ごしてきた気心も下心もすっかり知れた仲の人です。回りくどい言い方をやめれば、母、お母さん、ママ、母上、おかん……普段はなんと呼んでいたのかを自分が忘れてしまっているのも、中学に入ってからというものろくに会っていなかったからという理由があります。
 付き合いこそ長いものの、母は仕事の関係上海外出張が非常に多く、ほとんど自宅にいる事がなく、その上我が家の隣には木下家という母にとっても幼馴染の家族がいたので、何が起ころうが安心とばかりに、自分は物心ついた時から徹底した放置教育を施されてきました。とはいえ別段自分はこれを不幸だと思った事はなく、むしろ神聖なる作業(おもらし系エロ画像の収集等)の最中に邪魔をされる事がないというのはすこぶる快適で、何の不自由も無い暮らしであるように感ぜられていたくらいなので、今更親子らしい事をしたりされたりするのは迷惑を通り越して不愉快と言わざるを得ないくらいなのです。
 そんな人が和服に身を包み、くりちゃんの隣に座っているというこの意味。自分には到底測りかねましたし、察してあげる事すらやおら困難に思えました。
 それにしても、普段から徹底的にセクハラしている女子と、実の親が隣り合って目の前に座るというのは、当然の事ながらなかなか緊張するもので、もしもくりちゃんがあの事やこの事をチクったりしたら自分の処遇は一体どうなってしまうのかと心配にはなりますが、とはいえ恥ずかしがり屋で見栄っ張りのくりちゃんが、自ら自分の痴態を詳らかに語る事などまず有り得ないであろうという自信はそれなりにありましたし、その点において自分はくりちゃんに奇妙な信頼を置いているのでした。
 ましてやくりちゃんが密かに寄せていた恋心など、この先本人の口から語られる事など無いと、この時自分は思っていました。


 くりちゃんを挟んで母の反対側に、3人目にして最後の女子が座っていました。
 最初、この席に座り、対面が彼女である事に気づいて、自分はぎょっとし、戦闘態勢を取りましたが、どうやら今日の所は彼女に性癖バトルをする気はないらしく、また、まともにやりあったら負けてしまうであろう事は明白でしたので、ひとまず肩の力を抜いて余裕を装いました。
 とはいえ彼女は露出狂ですから、その武器は常に磨かれているはずで、薄布1枚下に備えられているのが当たり前で、当然のようにいつ脱ぎだすかは分かりません。みんなの頼れるお金持ち委員長、あるいは闇に身を落とした性欲の権化、三枝瑞樹その人が、美しい正座で自分を待っていました。
 見慣れた制服姿のくりちゃんとは違い、三枝委員長は素人目から見ても値の張りそうな着物を着込んでおり、その下に隠した高校1年生とは思えない程に豊満で恵まれた身体を全く持って感じさせないほどの上品さでしたが、その本性を元々知る自分にとってはこの上なく下品に映り、日式エロスの奥深さとそれすらもおそらく三枝委員長の計算なのであろう奥ゆかしさに感銘を受けました。
 三枝委員長はしおらしく、視線を伏せながら自分の言葉を待っていました。ですが自分はそれよりも、逆に三枝委員長に聞きたい事が山ほどあるのです。何故HVDOの幹部となったのか、HVDOの首領であるという崇拝者とはもうコトを済ませてしまったのか、ベタですが今日の下着の色は一体何色なのか、着物だからという理由で古式に則りもしかして履いていないのか、履いていないとしたらそれは本当に着物だからなのか。その汚らしい露出性癖からなるただの欲望からノーパンスタイルを所望しているのではないのか。脱線しましたが1番の疑問は、「何故自分に答えを求めるのか」という事でした。
 道は違えど、志は同じはずなのです。自分も三枝委員長も厄介な性癖を抱え、それでもそれを肯定し、更に超能力として行使する事を生の一部として認めた同志であったはずなのです。で、あるならば、この席について最初に投げかけられ、あっという間に自分を閉口せしめた「例の」質問は、変態にとってはいわばタブーではないのでしょうかと、質問を返してやりたいくらいなのです。
「いつか貴方の事を『ご主人様』と呼べる日が来るといいのだけれど」
 いつの事だったか、いや、もしかするとこれは夢での事だったのか、しかしここまで恥ずかしい夢を見たのならその日の朝を覚えていないはずもありませんから、これは現実に三枝委員長に言われ、あえて自分が記憶の奥底に眠らせておいた言葉であるように思えるのですが、定かではありません。
 自分はその甘美なる言葉に、一体何と返したのか。少しでも気の利いた事を言えたのだろうか。全く覚えていませんが、これくらいの事は言ったはずだと思われます。
「犬は喋らず、ただ電柱におしっこをひっかけるのです」
 三枝委員長がそれに満足してくれたかは定かではありません。満足していなかったからこそ、自分は今この窮地に立たされているのかもしれません。


 そして最後の1人。そう、上記の3人は全員女性ですが、この場には自分以外の男がもう1人いるのです。それはおっぱいをこの上なく愛す男でもなく、幼女と共に生きる男でもなく、これまでに自分が闘ってきた誇りある変態達のいずれでもありません。三枝委員長側に座ったその男は、自分にとって言ってみれば全くの新キャラであり、しかし普通は、わざわざ自己紹介などせずとも知れた仲になるであろう間柄の人物なのです。
 自分をここに連れて来たのは、母でした。滅多に乗らないので友人に預けてあるという車を返してもらって、その助手席で聞かされた話を未だに自分は1ミリたりとも理解しておらず、混乱状態のまま時間は過ぎ、道は流れて、この卓についたのです。そしてこの人物を目の前にしてから、ようやく自分は事の重大さと、母の言葉の意味に気づかされたのです。
 激情的に殴りかかるべきだったのか、それとも問答無用で性癖バトルを展開すべきだったのか、泣きながらハグすべきだったのか、車の窓ガラスを割って脱出し、即刻家に帰るべきだったのか、自分の取るべき行動はいくつも有り得ますが、しかし実際に自分がしたのは、どうしていいか分からないという理由からなる軽い会釈1つでした。
 まあ、そんなもんです。見も知りもしない実の父親との再会などという物は。
「これから会いに行くのはあんたの父親よ」
「えっ」
 運転席の母が、前を向いたまま言いました。
「そいつは超ド級の超ド変態で、超能力を持っている」
「えっ、えっ」
「あんたも持ってるでしょう。HVDO能力って奴」
「えっ、いやっ、えっ」
「あいつは処女しか愛せないというゴミみたいな理由で妊娠した私を残して海外に逃亡した」
「ちょっ、えっ、えっ、ちょっ」
「それで生まれたのがあんた。その後、あいつが世界中を股にかけて処女をレイプしまくってるのを知った」
「ちょっ、えっ、あっ、えっ」
「だから私は警察に入って、こうしてICPOに配属されて、あいつを逮捕しようと今でも追いかけている。国際指名手配犯だからね」
「えっ、えっ、あっ、それっ」
「でもあいつは超能力を使って逃げ回っている。だけど、あんたが今日これからする『決断』によっては、今度こそあいつを捕まえられるかもしれない。……いや、捕まえてみせる」
「えっ、えっ、えっ、……えっ?」
 怒涛の告白に自分は人生過去最高の15えっを叩き出し、そして一切の質問は締め切られ、ステージはここに移行したのです。
 自分の父親がレイプ魔の犯罪者で、処女しか愛せない犯罪者で、母は仕事で父を追っていて、自分の変態性癖とHVDOの事も知っていて、しかも父は今日本に来ていて、自分を呼び出していて、そして自分の「決断」とやらが、決着をつけるらしい。
 これを噛まずに飲み込めという言う方が無理難題というものです。


 母、くりちゃん、三枝委員長、父。
 いや、崇拝者と呼ぶべきか、それとも「ゲス野郎」ぐらいの気軽さでいいのか、少しばかり迷いますが、この並びで、自分は額から滝のような汗を流しながら、生まれる時と同じくらいの必死さで答えを考えていました。
「木下くりさん、三枝瑞樹さん、どちらと結婚するのか、今、決めなさい」
 母からの言葉は重く、ずしり、めきり、と自分の肩にのしかかっています。
 いやいや、結婚なんてそんな、まだ付き合ってすらいないのに、キスすらまともにしていないのに、いくらなんだって話が早すぎですし、せっかくこうして料亭まで来たのですから、懐石料理でもつまみながらまあゆっくりと、ねえ? なんて懐柔が効くような雰囲気では決してなく、そんな事を言おうものなら日本刀で袈裟斬りされそうです。
 それに、身体を2つに割られるよりも恐ろしい事を、この初対面の父は母の言葉尻に付け加えたのです。
「お前の選ばなかった方の処女を、俺が頂く。そしてそれを俺の人生で最後の処女としたい」
 父よ、やはり自分の変態は、「血」であったようです。

     

第五部第一話「黄金は命題に劣る」


 自分が思うに、「フラグ」という物は重要な物です。
 一般的にフラグと言えば、真っ先に思い浮かぶのは死亡フラグだと推察され、使い古されてボロく擦り切れた例を今更挙げるのもやや癪ですが、「この戦いが終わったら故郷に帰って結婚するんだ」等とのたまう者のその背後に死神が見えて仕方なくなっているというのも、言ってみれば一種の現代病であるのかもしれません。とは言え、一応そう宣言し、フラグを立てておく事によってその後の展開の悲惨さが際立ち、物語に深みが出るというのもまた否定できない事実ではある訳です。
 上記の例のみならず恋愛においても、あるいは戦闘においても、フラグという物はやはり重要だと思うのです。突拍子もない展開という物は時に見る側の気持ちを置いてけぼりにし、誰にも追いつけなくなったその孤高の作品は、最初からTwitterで監督が毒を垂れ流す為だけに存在したかのようにWikipediaの一節に刻まれ、記憶に残らず記録に残る最悪のパターンを再現する訳です。ああ、予定調和の素晴らしさたるや。
 しかしながら現実は非情かつ残酷かつ唐突です。
 フラグは旗工場から出荷される前に叩き折られ、思いも寄らない光景は朝起きていきなりやってきたりする事もあるのです。
「僕の性癖はロリコンだ」
 普段ならば、くりちゃんが持つ48の殺人技を駆使されて目覚める自分の耳にその日最初に届いてきたのは、甘ったるくも清々しいイケボでした。
 続けざまに瞼をぶち破って飛び込んできたのは、同級生春木虎の胸糞悪い爽やかな微笑と、全裸の女子小学生でした。無論、見覚えがあります。幼女化したくりちゃん、の形をした、人間かどうかも良く分からない存在、通称「偽くりちゃん」にまず間違いありません。
「あの、ここは自分の家なのですが」
 混乱する頭の中で、自身でも確認がてらにそう言うと、春木氏はいつの間にやら作った合鍵をその手に光らせ、「入らせてもらったよ」と不法侵入を自供しました。
「何故、なんて当たり前の事は尋ねないでくれよ? HVDO能力者が2人いたら、する事は1つしかない」
「オセロしましょう」
「性癖バトルだ!」
 言うや否や、全裸の幼女が横たわる自分に飛びついてきました。そのままマウントを取られ、余りの勢いに殴られるかと身構えると、パジャマの下とパンツを同時に脱がされます。
「やめてえええええ」
 と叫んでみるも特に効果はなく、既に偽くりちゃんの手は自分の剛直を握り締め、亀頭に向かって涎をつつーっと垂らし始めていました。
 やられる。二重の意味で。


 確信した自分は咄嗟に腰を捻り、その水蜜桃の汗のような妖艶な液体をかわしました。ならば、と喰らいついてくる偽くりちゃんの頭をドッジボールよろしく両手で掴み、拒否マチオの体勢でクビの皮一枚堪えました。この間僅か0.5秒。有無を言わせぬ速攻をかろうじて凌いだ自分は、絶叫に近い質問を春木氏に投げかけます。
「なぜ自分と春木氏が戦う必要があるんですか!?」
 自分は春木氏に1度性癖バトルにて負けていますので、春木氏からしてみればここで自分に勝っても新たな能力は得られないはずです。つまり正確に言えば、春木氏にのみ必要のない戦いであり、むしろ自分の方にこそ戦いの必然性があるという理屈はあるのですが、それにしたっていくらなんでも唐突ですし、その上敗色濃厚です。
「僕は運命を信じている。君と僕とは今、ここで、戦う運命なんだ」
 まったく答えになっていませんが、ここは一応返しておきましょう。
「自分も運命は信じています。乗り越えるべき高い壁として、抗うべき物として。運命があったとしても、それに従うつもりはありません」
「つまり?」と春木氏。
「……逃げます!」
 偽くりちゃんを春木氏のいる方向に突き飛ばし、すぐさま窓のカーテンを開きました。春木氏は部屋の入り口に陣取っており、おそらく脱出しようと試みれば、羽交い絞めにされて強制フェラの餌食となってしまう事は確実でした。よって、ここは突き飛ばされた偽くりちゃんを春木氏が受け止めているその隙に、窓から脱出するのがベストな選択です。自分の家の窓からは、隣の木下家に飛び移る事が出来ます。
 鍵を上げ、窓を開きました。そして身を乗り出した瞬間、肩をぐいと掴まれました。
 馬鹿な、速すぎる。
 春木氏がいるはずの位置からは4、5メートルは離れているはずで、また、突き飛ばされた偽くりちゃんを春木氏が無視して受け止めないというのも考えられません。
 何故なら彼ほど幼女を愛する者はおらず、そして彼ほど紳士な高校生もいません。自分が何の躊躇いもなく、(得体が知れないとはいえ)女子を突き飛ばせたのは、そんな彼に信頼を置いているからに他なりません。
 にも関わらず、何故自分は捕らわれてしまったのか?
 その答えは自分が少し振り向くだけで解決しました。
 手が伸びていたのです。
 1つの疑問の解決と共に新たに疑問が生まれました。
 なんで手が伸びているのか?
 偽くりちゃんが実は悪魔の実の能力者であったという事実が発覚した訳ではないとしたら、これは間違いなくHVDO能力の一部であり、そしてその発生源はおのずとこの男に限られます。


「言うまでもなく、僕は幼女を愛している」
 と、春木氏はまず自らの犯罪を告白しました。
「そしてそれは幼女がどんな形になっても愛するという事を意味する」
 偽くりちゃんの手を見て、自分はなんとなく事情を察します。
「幼女の状態変化。これは僕が君を倒した時に目覚めた第9の能力だ」
 なるほど春木氏は知らぬ内に更にディープな世界へと足を踏み入れているようでした。石化、金属化、球体化、箱化、食品化、ケモ化、平面化、オナホ化、レディポット。それら常軌を逸しているとしか思えない「女性の状態変化」は多岐に渡り、確かにそれに比べれば腕が伸びるくらいの事はむしろ常識的なくらいだと思われました。
「僕は個人的に、この能力を試練だと受け取っている。幼女がどこまで変化したら幼女でなくなるのか。僕の愛せる幼女はどこまでが幼女なのか。はっきり言って、異形化するり……彼女を見ているのは辛い。しかしそれでもなお、僕は幼女を愛している」
 春木氏の偏執じみた演説を聞きながら、自分は次の策を考えていました。肩を掴まれたとはいえ、これは振り払う事が出来るでしょう。しかし手は2本あります。もう一方の手は既に服を掴んでおり、自分を逃がすまいと力を込めているのが分かりました。これを振り払うのは至難の業ですし、揉みあっている内に窓から落ちてしまったら、2階とはいえ体勢によっては骨折もありえますので洒落になりません。
 窓から落ちる。
 ふいに思考が繋がりました。やっと目が覚めてきたとも言えるでしょう。
「……分かりました。降参です。逃げるのは諦めます」
 と、まず自分は宣言します。
「うん。その方が賢明だと思うね」
 偽くりちゃんは手を離さず、自らの腕を縮ませながらゆっくりと近づいてきます。まだ逃亡を一応警戒しているのか、春木氏はドアのそばに立ったままです。
「正々堂々、性癖バトルといきましょう」
「ああ、望む所だ」と、春木氏は自分の挑戦に答えます。
 そこで自分はわざとらしく思い出したように、
「あ、そうだ。ですがその前に、毎日の日課を済ませてしまっても良いですか?」
「何だい? 僕を倒す良い策でも思いついたのかな?」
 その通りですが、ここは飛びっきりの笑顔で否定します。
「そんなんじゃあありませんよ。母の花壇に水をあげたくてね。ほら、窓から下に見えるでしょう?」
 指さしましたが当然春木氏の位置からは見えません。偽くりちゃんが確認し、実在する事を春木氏に伝えます。
「うん、それで?」と、春木氏。
「偽くりちゃんを少しばかり貸してくれませんか?」
 互いの性癖を知っている変態同士であればこそ、この依頼がどういった意味を持っているかも理解出来るのです。「偽くりちゃんを」と言いましたが、より正確に言えば「偽くりちゃんの膀胱を」という意味です。
「五十妻君」と、春木氏は確認するように問いかけます。「それは君自身の首を絞める行為であるという事を分かって言っているんだろうね?」
 我に秘策あり。自分は「もちろん」と大きく頷きました。


 全裸の幼女が、股間を強調するような姿勢で自宅の窓際に立っています。
 近隣住民に見られたら即通報の事態ですが、今はそんな事気にしていられません。自分は偽くりちゃんにHVDO能力「黄命」を発動し、やがてそのひっそりと閉じたつぼみから黄金の液体が流れ出しました。
 偽くりちゃんは腰をくいっと動かしながら、花壇目掛けて放尿しているようでしたが、流石に2階からですと狙いが定まらず、ましてや自前のホースを持った男子とは違いますので、少しずれた所に水溜りが出来ました。無論、これは自分も計算済みでしたが、そのいじらしい姿への興奮による勃起は当初の予想を遥かに上回るダメージでした。
「ありがとうございました。えっと、偽くりちゃん」
 ふと、名前があるのか気になりました。先ほど春木氏が何かを言いかけていましたが、聞き正したとしてもおそらく答えてはくれないでしょうし、それに、すぐ解決するはずです。
「随分と一物にキているようじゃないか、五十妻君。」
「ええ、正直かなりぐっと来ました。でも、これで良いんですよ」
「やはり何か策があるようだね?」
「はい」
 と、自分は一変して素直に答えます。
「春木氏に負けてから、自分も数々の死闘を潜り抜けてきました。そしてあの日以来、自分はまだ1度も負けていません。即ち、自分には春木氏も知らない新しい能力があと『3つ』あるという事です」
「ほう。興味深いね」外面はいつもと変わらず余裕綽々の春木氏ですが、内心では分かりません。
「戦いの公正さの為に、あえてその内の1つを説明しておきましょう。自分の新たな能力の1つは、対象者の尿を触媒にして、巨大なゴーレムを召還します。そのゴーレムは莫大な破壊力を持ち、この家程度なら簡単に破壊してしまうでしょう」
「……恐ろしいね。でも、嘘をつくならもう少しちゃんと考えた方がいい。その能力は、あまりにも『君の性癖に関係が無さ過ぎる』」
「果たしてそうでしょうか? 三枝委員長の『マジックミラー号』だって、似たような物では?」
「彼女のは規格外だ。それに、彼女自身の異常な露出欲を満たすのにあの能力は確かに便利だからね」
「ふむ、そう思うのならば、自分の目で確かめるのが1番確実だと自分は思いますね。ほら、もうすぐ偽くりちゃんの尿からニョーレムが誕生しつつありますよ。あ、ちなみに尿主である偽くりちゃんからはその姿は確認出来ないので悪しからず」
 そう言って自分が窓の真下にある偽くりちゃんの出来立て水溜りを指さしました。
「……何を企んでいるのかは知らないけれど、あえて乗ってみようじゃないか」
 春木氏がこちらに近づいてきます。そして自分が道を譲ると、春木氏は窓から身を乗り出し、下を覗き込みました。
「……ふむ、何も変化は無いように見え……」
 言いかけた所に、自分がタックルをかまします。春木氏はバランスを崩し、その上半身はほとんど外に放り出されましたが、なんとか堪えました。が、自分はそれでもなお攻撃をやめません。偽くりちゃんの制止を振り払い、取っ組み合いに突入。無我夢中のまま自分と春木氏は2階から落ちたのです。
 ポイントは1度目の降参でした。偽くりちゃんとの乱戦を避け、窓から落ちる事に恐怖していると「思わせた」事。それが春木氏を罠に嵌める事に成功した秘訣でした。いや、実際自分は窓から落ちたくなどありません。怪我するのは嫌ですから。では何故、今回は落ちようとしているのか?
 春木氏はきっとこう思っているはずです。「僕の事を突き落として事態を解決しようとしているなら奇妙だ。それなら何故、彼自身も僕と一緒に落下しているのだろうか?」
 2つの疑問の答えは1つ。今我々の落下地点には、水溜りがあります。先ほど偽くりちゃんが作ってくれた、黄金の水溜りが。
 『ヨンゴーダイバー』発動。
 自分と春木氏の身体は、そのおしっこの水溜りへと着水し、そして沈んでいきました。

     

 おしっこの海に沈み、たどり着いた場所は小さな部屋でした。
 元来、尿とはただの人体が生み出す排泄物であり、それ自体に価値を見出すのは自分のようなちゃきちゃきの変態しかおらず、世界に存在する99.9%の尿がトイレに流されるかあるいは地面へと吸収されて大地の栄養となっていると思われます。
 その尿を「扉」とし、まったく別の空間へと繋げるのが我が能力「ヨンゴーダイバー」であり、春木氏の言を借りれば、これを「シチュエーション能力」と呼ぶそうですが、自分の場合は舞台を小学校に変えたりだとか、飛行戦艦に変える程度の低級なレベルの代物ではなく、これは文字通り、絵面通り、「ダイブ」する力であると保障出来ます。
 おしっこの先の部屋。それはどこか見覚えのある廃墟の一室でした。そして自分には「見覚えがある」程度ですが、春木氏に取ってみればおそらく毎日見ている、というよりもむしろ住んでいる空間ですから、当然自分とは感想が違っているはずです。
 そして自分は高らかにこう宣言します。
「この部屋に来てしまった瞬間、春木氏の負けは確定しました」
 春木氏に焦りの色はなく、むしろ安全なガラス越しに実験生物を見るような興味深げな視線を返されます。
「1つ、君の心配事を解消してあげよう。シチュエーション能力は先出しが有利だ。僕はこの空間において、新たに君ごと移動する事は出来ない。僕のシチュエーション能力である異空間小学校に行くには1度ここから脱出しなければならない。何故なら、シチュエーション能力は『現実世界から異空間への移動』をその能力内容に含んでいるからね」
「お気遣い感謝します」
 と、自分。元来無駄な行動である勝利宣言が、そこにミスディレクションの狙いを含み、更にバレてしまっても挑発として作用するように仕組んでいた事、そのすべてを見通した春木氏の一撃でしたが、自分はそれでもなお冷静でいられました。何故なら先の勝利宣言は決して嘘ではなく、事実だったからです。
「ところでこの部屋、君の性癖である『おもらし』をより魅力的に見せる空間とは思えないね」
「感想はそれだけですか?」
 春木氏はほんの少し鼻で笑いましたが、一応答えてくれました。
「僕の部屋だね。だが、いくつかの物が増えている。」順番に指をさし、「まずはこの写真立て。僕は自分の写真を自分の部屋に飾るほどナルシストじゃない。」「それからこの本棚。彼女に書かせている日記はここまで多くはない」「そして決定的なのは、このモニターだ。僕の部屋にテレビはない。それに、映っている物もどうやら『普通』じゃないようだ」
 そのモニターには、たった今、自分と春木氏が共に落ちてきたばかりの水溜まりが映っていました。画面は微妙に揺れながら、時々自分の部屋の中に視線を戻したり、手で覆ったりしています。
 自分は何気なく本棚の中から1冊の日記を取り、パラパラと捲りました。しばらく無言でそうしていると、流石の春木氏でもいよいよ痺れを切らしたのか、こう尋ねられました。
「そろそろこの空間についての説明が欲しいんだけど、頼めるかな? 五十妻君」
 自分はまず、こう答えます。
「ところで春木氏、『死』とは何でしょうね?」


 最初に帰ってきたのは簡潔な答えでした。
「生きていない事だ」
「では生きているとは?」
「死んでいない事だ」
 自分は春木氏の微笑をそのまま返し、「もう少し、具体的にお願い出来ますか?」
「人間にだけ限って言えば、呼吸し、心臓が動き、栄養を取っているのなら、生きている。そうでなければ死んでいる。といった所かな?」
「春木氏」自分は本から顔をあげ、警告します。「排泄行為を忘れていますよ」
「ふむ、君にとっては重要だったかな」
 そろそろ種を明かしましょう。
 春木氏が唾を飲むのが分かりました。自分は腹の底から声を出します。ここからが今回の決め台詞ですから。
「『ヨンゴーダイバー』がダイブする場所は、その尿をした者の『死後の世界』です。人は生きている限り、毎日排泄せずにはいられない。排泄行為をすればする程、死に近づいていっているとも言い換える事も出来ます。即ち、失った排泄物は『死の欠片』であり、そこに潜る事は、その人物の精神を覗く事に他なるら……ら、らるりません!!!」
 最後ちょっと噛んでしまいましたが、とりあえず勢いで誤魔化しました。春木氏もモードに入っているのかありがたい事にスルーしてくれました。
「なるほど、『045』で『死後』と『おしっこ』をかけている訳か。面白い能力だね」
「ええ、その通り」
「だが、どうして彼女の死後の世界に入る事が、『僕の敗北』を決定するのかな?」
「……まあそう答えを焦らないでください。ほら、落ち着いて一緒にテレビでも見ませんか?」
 自分が指差したモニターには、先ほどと変わらず偽くりちゃんの作った水溜りが映っていました。しかし今度は窓から見下ろす視点ではなく、2階から降りてきて直に見られる位置からの視点です。視点の低さと対象への近さからして、急いで移動してきたようです。
「死後の世界といっても、概念は人それぞれです。その人のイメージする、天国であったり地獄であったり……あるいは理想の来世、漠然とした虚無であるかもしれません。しかし偽くりちゃんにとってみれば、この部屋が彼女の人生にとってのすべてであり、おそらく還るべき場所なのでしょう。現実での春木氏の部屋を精巧に再現しているようですが、このモニターだけは違います。死後と言っても彼女はまだ死んでいませんから、このモニターに映るのは、現在の彼女が見ているビジョン、つまり視界という訳です」
 春木氏はモニターから視線を外し、少し焦ったように自分を睨みました。自分はその様子から、彼の心配事を察します。
「あ、ご心配なく。この世界に偽くりちゃんがやって来てしまっても、彼女が実際に死ぬ訳ではありません。なんと言ったら良いのか、これは死後の世界をシミュレーションしている状態に近いのです。それと、彼女はその身を水溜りに投げる事で、我々と同じくこちら側にやってこれますよ」
 モニターに移る視点の移り変わりから、偽くりちゃんが今、何を悩んでいるのかが分かりました。春木氏を救助するために水溜りに飛び込むべきか? それとも、春木氏の生還を信じて指示を待つべきか?
 従順であるが故の逡巡。
 相手の能力が不明である以上、1度飛び込めば戻ってこれる保障はありません。攻略するには外側の世界から何か条件を満たす必要があるかもしれない。今、彼女の日記を手にした自分には、偽くりちゃんの思考は手に取るように分かりました。


「ところで春木氏、あなたの写真、わざわざケースに入って飾ってあるというのに、妙に擦り切れていませんか?」
 自分はベッドの近くに飾られた写真立てを手に持って、そう尋ねてみました。
「それがどうしたんだい?」
 自分は写真立ての後ろを開けて、中から写真を取り出します。枚数は1枚ではなく、10枚、いえ、100枚、いえいえ、1000枚程が収納されており、これはもちろん物理法則を無視していますが、死後の世界では十分にありえる事です。
「おやおや、この異常な枚数は何でしょうねえ?」
 質問は既に尋問に変わっており、春木氏に抗う術はありません。
「それだけ、彼女が僕を慕っているという事だろうね」
「それだけ、でしょうか?」
 自分は写真を1枚だけ手に残して他をベッドの脇に置き、その1枚をまじまじと見つめました。春木氏の横顔のアップ写真。自分からすればあんまり気持ちの良い者ではありませんが、ananの表紙くらいにはなれそうです。
「ほら、この写真、若干湿っていませんか? それに……」鼻を近づけ、匂いを嗅ぎます。「何かこう、ほんのりと甘い匂いが」
 春木氏は自分から写真を受け取り、匂いを嗅ぎました。そしてすぐに直感したようです。自分は更に名探偵よろしく推理ショーを続けます。
「ふむ、となると、もう1つの道具が……この辺に……」
 ベッドの下に手を入れてまさぐると、出るわ出るわ。ピンクローター、バイブ、電マ、iroha……ありとあらゆる女性向けアダルトグッズが、ぼろぼろと出てきました。
「この世界は、彼女の深層心理をこの上なく表現しています。そこに嘘はありえませんが、隠し事というのは大体見つけにくい場所にある物です」
 春木氏は写真とアダルトグッズ、それから良く見れば涎やその他液体の染みたベッドのシーツを順番に見つめ、こう言い放ちました。
「彼女が僕をネタにして性欲を解消している事は分かった。それがどうしたんだい?」
 無論、表面上はいつもの余裕でコーティングしていますが、自分には分かるのです。「自分の事を好いてくれている女子がいる」という事実を目の前に突きつけられた時の男子特有の浮つき。現在進行形で体感している特別な感情。今回の春木氏攻略の鍵がそれであるという事に自分は気づいています。
「では、地下に行ってみましょう」
「僕の部屋に地下は無かったはずだが……」
「忘れましたか? ここは偽くりちゃんの死後の世界です。何でもありなのです」
 自分は床を2度、とんとんと蹴りました。ぱかっと床のタイルの1枚が開き、人が1人ギリギリ通れるくらいの階段が姿を現しました。
「ここから先は更に偽くりちゃんの深層心理に近づく事になります。怖ければ、ここで待っていても構いませんよ?」
 自分のあからさま過ぎる強P+強Kボタン同時押しに、春木氏は見事、男らしく答えてくれました。
「興味深い。是非とも彼女の心を覗き見してみようじゃないか」


 1つ下の階は、どうやらトレーニングルームのようでした。上の部屋よりも若干広く、内装は廃病院よりは遥かに近未来的です。まず目についたのは大きなサンドバッグ、それからシットアップベンチやルームランナー、バーベルセット、懸垂マシンが整頓されて並んでいました。
「偽くりちゃんは何故こんなに鍛えているんでしょうかね?」
 自分が春木氏に尋ねると、返ってきた答えはこうでした。
「僕がかつて身体を鍛えるように命令した事がある。それをまだ覚えているんだろう」
 何故鍛えるように言ったのか、春木氏は多くを語りませんでしたが、その必要もありませんでした。何故ならその理由は間違っているからです。
「では、これはどういった意味でしょう?」
 自分は天井からぶら下がったサンドバッグをくるりと1周、回転させました。ちょうど頭の位置に張り付いていたのは、偽ではない方の本物のくりちゃんの顔写真でした。
 それを見た瞬間、春木氏の顔色が変わりました。この戦闘で初めての手ごたえに、自分は追撃を加えます。
「女の嫉妬とは恐ろしい物です。それが例え年端もいかない幼女であっても」
 数多のトレーニングマシンと、顔写真を貼ったサンドバッグは、分かり安すぎる程に対象への敵意を表しています。春木氏が反論せず、黙ったまま自分の攻撃に耐えているのは、今口を開けばそこに痛恨の一撃が叩き込まれる事を知っているからに他なりません。それを知った上で、自分は容赦せずに攻めます。
「まあ、考えてみれば当たり前の事でしょう。オナニーのネタにするほど大好きなご主人様が、好きな女子がいる。自分の姿はその女子そっくりに造られているという事実。いやぁ儚いとはまさにこの事だと思いませんか? 偽くりちゃんにとって、本物のくりちゃんは憎悪の対象であり、目標であり、どうしようも出来ない壁でもある。その事実を知ってしまったら、今後偽くりちゃんに対する気持ちも変わってくるのではないですか?」
 答えを待たず、自分は上の階に戻ります。手にしていた日記を更にパラパラと捲り、自分は春木氏にとどめの言葉を投げかけます。
「りすちゃん。良い名前じゃないですか」
 春木氏は幼女を愛しています。
 その愛こそが仇となるのです。
「さて、そろそろ彼女が決定を下す時です。モニターを見てください。ほら、今にも飛び込んできそうじゃないですか」
 りすちゃんの到着、それは春木氏の死と自分の勝利を意味します。
 春木氏がしばらくぶりに口を開きました。
「やるようになったじゃないか、五十妻君。確かに、今、この心理状態でりすちゃんのおもらしをまともに喰らえば、僕は致命傷を負うだろう」
「最初の自分の言葉、ご理解いただけましたか」
「ああ、だがまだ甘い。僕だって、修羅場は幾度かくぐっている」
 かつてない程に恐ろしい、いつもと同じ春木氏の笑顔。
 次の瞬間、りすちゃんが自らの尿へとダイブしました。

     

 この闘いが始まって、既に10分余りが経過していました。春木氏による謎の奇襲に口火を切られ、逃亡の失敗、2階からおもらし、死後の世界へのダイブを経て、戦闘は最終局面へと着実に進行しています。お互いのダメージの状況は、表面上はゲリラ的フェラをもらいかけた自分の方がありますが、内面では春木氏に爆薬が蓄積している状態であると言え、一度起爆さえすれば文字通りの一撃必殺となると歴戦の経験から断言させていただきます。
 そしてその起爆装置は他ならぬ「りすちゃん」であり、春木氏が似合わない愛情を込めて育てているらしいこの人工少女こそが、勝負を決定づける鍵となる人物なのです。
「決着がつく前に、もう1度質問させていただきます。何故このような無益な勝負を仕掛けたのですか? 勝った所で春木氏が得られる物は何もなく、こうして負けてしまっては損しかありません。春木氏はもっと賢い方だと思っていたのですが」
 春木氏は答えました。
「この勝負が僕にとって無益だって? 五十妻君、それは間違っている。この性癖バトルは、僕にとって『必要な』戦いなんだよ」
 やがてりすちゃんが部屋に落ちてきました。春木氏はそれを紳士に受け止め、まずは着せ替え能力によって服を着せました。やや透けた白スク水というチョイスは、春木氏にしてはすこぶる常識的かつ良心的に思え、これから来るおもらしのダメージを軽減しようとする狙いが見て取れましたが、まあ無駄な努力でしょう。確かに、スク水の密着感は尿の漏れ具合を見た目上抑える事が出来るかもしれませんが、ここは既にりすちゃんの世界。回避も耐久も不可能な衝撃が春木氏を襲うはずです。
 りすちゃんは周囲を見回し、この空間がどこであるかを謎に思っている様子でしたが、これからまた同じ説明をするのも面倒ですし、その内に分かるはずですし、分からなくても自分にとっては何の問題もないので、放置しておき、春木氏とのみ会話を続けます。
「この空間からの脱出方法はたった1つです」
「聞いておこう」
「この空間の尿主がおもらしをする事。つまり、春木氏はりすちゃんのおもらし姿を見た上で勃起を堪える事が出来れば、勝負を仕切りなおし出来ます。まあ、不可能だと思いますが」
 先ほど春木氏が自らの能力を説明したのと同じように、自分も勝負の公平さの為に解説したように見えますが実は違い、この期に及んでじたばたされるのも嫌ですので、とりあえずおもらしを味わっていただくという事に関して逃げ場のないようにしただけの事です。とはいえ、説明した脱出方法は事実であり、尿主が再びおもらしをすれば、この空間は解除され、自分は再び窮地に立たされるというのもまた真です。
「りすちゃんには格闘の心得がある。彼女に殴り倒されずに、3度身体に触れる事は至難の業だとは思わないか?」
 春木氏の質問に、自分はこう返します。
「心配ありません。この空間は、言わばりすちゃん自身。という事は、わざわざ肉体に触れる必要はありません。部屋のどこか一部分に触れるだけでもHVDO能力は発動出来ます」
「なるほど。逃げ場は無い訳か」
「ええ、そう言ったはずです」
「それなら、作らせてもらおうじゃないか」
 直後、春木氏がりすちゃんに命令しました。
「りすちゃん、僕は死後も君を愛すると誓おう」


 耳を疑いました。が、自分以上に耳を疑っていたのは、おそらくりすちゃんであるはずです。先ほど、少しばかり心の日記を拝見させていただきた限りでは、春木氏は常にりすちゃんに対して冷酷かつ性的な態度しか取っておらず、このような愛の告白などまさしくあり得ない事態であるはずなのです。
 しかし次の台詞で、春木氏の狙いが明らかになりました。
「死後、君の内なる世界では2人きりになりたい。だから邪魔者は排除すべきだ。そうだろ? りすちゃん」
 ふっと自分の身体が宙に浮きました。重力から手放され、天井に向かって引っ張られていきます。まずい、そう思って部屋のどこかしらに触れようと試みますが、五指は虚空を引っかきました。
 追い出されようとしている。
 春木氏の言葉により、りすちゃんの死生観が揺るがされているのです。そして世界の再構築は、侵入者の排除という機能を備え始め、自分という存在がここにいる事を拒否しているのです。もちろん、春木氏には何の影響も及ぼさず、敵である自分だけが外に追い出される。
「確かに、この世界から僕が脱出する方法はおもらし以外にないみたいだ。何故ならりすちゃんに僕を追い出すように命令しても聞いてくれないだろうからね。でも君を排除する事なら出来る。惜しかったね五十妻君。またあとで会おう」
 春木氏が手を振っていました。
 あと1度、あと1度だけこの部屋のどこか一部分にでも触る事が出来れば、自分は再び黄命を発動し、りすちゃんの膀胱を決壊させる事が出来ます。そしてそれをまともに喰らわせられれば、ついに春木氏を倒す事が出来る。あと1手なのです。たったのあと1手。それが打てない!
「春木氏、これで勝ったとは思わない事です」
 自分は精一杯の捨て台詞を残し、現実世界に戻ってきました。
 水溜りから吐き出され、自宅の庭に転がると、自分はすぐに頭をフル回転させました。
 再び自分がりすちゃんの死後の世界にダイブする事は出来ません。何故なら既にそこはもう、春木氏以外の他者の存在を許す空間ではないからです。そして春木氏とりすちゃんを2人にしてしまった以上、時間を稼がれてしまえば春木氏は自分の気持ちを落ち着かせた後、りすちゃんのおもらしを見ないようにすれば、安全に脱出を果たすはずです。更に春木氏に作戦を立てる時間を与えるという事にもなり、戻ってきた春木氏はより厄介な敵として自分に攻撃を仕掛けてくる事でしょう。しかもおそらく、自分の覗き行為はりすちゃんの怒りを買いました。 
 つまり、自分が勝利を収める為には、可及的速やかに春木氏と一緒にいるりすちゃんをおもらしさせ、春木氏にとどめの一撃を加えなければなりません。こうして部屋の外に追い出された今、本体にも精神も自分は触れる事が出来ず、黄命は発動させる事が出来ません。
 絶体絶命の状況。
 かつて春木氏に負けた時を思い出します。自分自身の思い出の中で喰らった一撃。
 ここであきらめる訳には、いきません。


 自分は急いで家の中に戻り、そのまま台所へ直行しました。普段誰も使っていませんが、一応料理道具は一そろいあり、その中から自分は目的の物を入手します。
 包丁。しかもただの包丁ではなく、築地にあるような本格的な鮪包丁で、魚を捌ける人間がいないのに何故か母が買ってきた代物です。当然未使用なので良く研がれ、その鋭さは日本刀にも負けず劣らずといった所です。
 何もダイブから戻ってきた春木氏をこれで一刀両断しようとしている訳ではありません。むしろ、この包丁によって傷つけられるのは他ならぬ自分自身。血を流す事になるのも自分だけで済みます。
 再び水溜りまで戻り、目をつぶって深呼吸。
 春木氏はこの勝負を、必要があるから挑んだと言っていました。そして自分が今からする行為も、勝利の為に必要があるからするのです。
 何も頭がおかしくなった訳ではありません。確実な勝利の為に、冷静な判断を下した結果がこれしかなかったのです。
 これから数秒後に訪れるであろう痛みに覚悟を決めて、包丁を手首へとあてがいます。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
 自分は手のひらを地面につけ、膝で腕を固定し、包丁を手首目掛けて思いっきり振り下ろしました。痛みを少しでも誤魔化す為の絶叫でしたが、その効果はこれっぽっちもありませんでした。皮膚を分け、骨を断ち、肉を爆ぜさせながら刃は地面へと辿り着きました。まずは熱が脳を揺らし、やがて痛みが津波となって思考を支配しました。それでもかろうじて気絶せずに済んだのは、かつて柚之原様から受けた拷問の経験が生きたと言えるかもしれません。あの時の辛さに比べたら、この程度の事、耐えられない訳がありません。
 唇を血が出る程に噛みながら、切断したばかりの左手を自らの足で蹴飛ばし、水溜りの中に落とします。そして黄命を発動。後は祈るだけです。
 りすちゃんの死後の世界が、他者の存在を拒むというのなら、自分はただ手を切り落とし、物になったそれを投げ入れ、既に自分の物ではなくなった手で触るのみという訳です。
 数秒、自分は痛みを堪えながら待ちました。決着の瞬間を見られないのは残念ですが、流石に自分のこの行動は、春木氏の裏をかいたと信じます。
 額から流れる脂汗が一滴落ちた瞬間、水溜りが光り始めました。それはヨンゴーダイバーの解除を意味し、ヨンゴーダイバーの解除はりすちゃんのおもらしを意味します。そしてりすちゃんのおもらしは、春木氏の敗北を意味します。
 光の中から春木氏が現れました。連れられたりすちゃんは半泣き気味でした。
「りすちゃんがおもらしする瞬間、部屋の中が揺れたんだ」
 春木氏の言葉は、自分に投げかけられているのか、それとも独り言なのか判別のつかない物でした。
「まずベッドがひっくり返って、本棚からは日記のページが溢れて、気づくと壁はすべて真っ赤に染まっていた。部屋の中を掻き混ぜる嵐に巻き込まれながら、僕は理解したよ。おもらしをしている時のりすちゃんの恥じらいという物を」
 ぐらり、と膝が折れ、崩れていく美少年。
「君の勝ちだ、五十妻君」 

     

「五十妻君もコーヒーで良かったかな?」
「ああ、はい。ありがとうございます」
「礼はりすちゃんに言った方がいい。それに、コーヒー豆もミルもカップも、全て君の家の物だ」
 春木氏は2杯のカップをテーブルに置くと、優雅かつ自然に自分の目の前に足を組んで座り、男の自分でもドキッとしてうっかり背景にゆるふわトーンが張られるくらいの微笑を見せてくれました。
「それにしても、五十妻君の家には鮪包丁といい珍しい物があるね。このミルも未使用だったし。誰もコーヒー飲まないんだろ?」
「ええまあ、母の趣味です」
「変わっているね。砂糖とミルクと尿は?」
「尿1杯だけで結構です」
 隣で見ていたりすちゃんが、一瞬ゴミムシを見るような目をしたので、「やはりブラックで」と訂正しました。特製ブルーハルンテンブレンドはまた別の機会に飲ませていただく事にします。
 一息ついて飲むコーヒーは格別の味で、先ほどまでの死闘の疲れがじわりと染み出し、一方で頭は冴え、思考は正確に回転していました。
「左手の方はもう大丈夫なのかい?」
 春木氏の問いかけに、自分は何度か左手を握ったり開いたりして見せました。
「もう痛みもありません」
「しかし便利な能力だね。治せるのは怪我だけ?」
「いえ、癌でも白血病でも生きている限りは治せます。ただし、相手が『治って欲しい』と祈ってくれなければ効果は発動しません」
 それは能力の弱点を吐露する行為でしたが、既に戦闘は終わっており、春木氏にも敵対の様子は無いので、コーヒーの礼も込めて正直な態度を取りました。春木氏は少し考えた後、こう呟きます。
「つまり、信頼している訳だ」
 聞いた自分は少しばかり照れくさくなり、
「……いや、意外と優しいんですよ。いつもはツンツンした態度ですが、困っている人を見捨てておけないタイプというか。何も自分が相手だからという訳では……」
「そうじゃあないよ。信頼されているのは君の方だ」
 疑問符を浮かべます。
「左手首を失いながら出血している男がいきなり訪れてきて、『傷口にあなたのおしっこをかけてくれ』と言われた。その状況で何の躊躇いもなくかけてくれたのは信頼があったからだ」
 自分は浮かんだ疑問符を手に持って反論として突きつけます。
「それは自分のHVDO能力をくりちゃんが知っているからこそであり、人間的信頼とはまた違った話でないでしょうか」
 春木氏は自分が何と言うかを予め知っていたかのように返しました。
「人間的信頼とは?」
「それは……」口ごもる自分。
「信頼という物は、能力を前提にした物だと僕は思うね。相手が強いからこそ勝つ事を信じられる。相手の事を好きだからこそおしっこをかけられる。同じような物じゃあないか」
 一理あるような、無いような。
「何はともあれおめでとう。君は僕に勝利した」
 春木氏は祝福するようにカップを軽く持ち上げ、自分に向かってウィンクをかましました。どこまでも爽やかなその態度には、敗者としての惨めさが微塵もなく、なんだかちょっとムカつくと同時に、このような底知れぬ人物に勝ったという事実が自分を高揚させるのでした。


 まだ誰にも知られてなかった3つの能力の内の1つ、「ピーリング」は、自分自身の傷や病を治癒する能力であり、それは切り落とされた左手を再生する事すら容易い強力な能力です。
 怪我をした場合、傷口に尿をかける事で、病気の場合は経口摂取する事で効果を発動し、元の健康な状態に戻す事が出来ます。ただし春木氏にも言った通り、治療するには尿をする相手が自分の状態を知っていて、なおかつ「治って欲しい」と心から祈っている必要があり、あの状況で言えばりすちゃんの尿でも春木氏の尿でも(考えたくもありませんが)自分の怪我を治す事はおそらく不可能でした。
 くりちゃんが我が家の隣に住んでいた事は、ここでも自分に幸運として働きました。春木氏との性癖バトルの決着後、自分は手首を押さえ、痛みをこらえつつ急いでくりちゃんの家を訪問し、朝食中だった彼女に放尿を依頼しました。その席にはくりちゃんの両親もおり、自分のただならぬ様子を見て何事かと大騒ぎでしたが、説明している余裕は一切無く、すぐに2人でトイレに直行しました。
 くりちゃんの尿は相変わらず香ばしくも暖かく、むしろこれで怪我が治らない訳がないと思える程の慈愛に満ち、たちどころに失った左手が生えてきました。これでまた気持ち悪がられる要素が追加されましたが、それでもこれからの人生を片手で過ごすよりは遥かにマシだと思われます。
 やがて戦闘を終えた自分と春木氏は、こうして我が家にて朝の優雅なひと時を堪能しているという訳です。
「ところで五十妻君、今日はこれからどうする? もしも暇なら少し付き合って欲しい場所がある」
 今日は土曜日。学校もありませんし、友人と語り合うには良い日なのですが、あいにくと用事があります。
「申し訳ありません。先約があるので、せっかくですが」
「ほう。随分と浮かない顔だね」
「ええ、まあ……」
 贅沢だとは思いつつも、脳裏にあの顔が浮かぶと自然とそうなります。
「用事か、例えば三枝委員長とデートとか?」 
 松田優作よろしく口に含んだコーヒーを盛大に噴出しました。口とテーブルを拭いた後、春木氏を睨みます。
「……知っていましたね?」
「まあね。ちなみに、情報源は三枝家の執事」
 この人たらしなら、忠誠心溢れる執事でもその術中に収める事が可能でしょう。
「用事があるというのも嘘ですか」
「いやいや、僕の日課である小学生が公園で遊んでいるのを見守る作業を手伝ってもらおうかとは思っていたよ。もちろん、デートの方を優先してくれて構わないが」
 事案発生も秒読み段階と思われました。
「でも、何故三枝さんとデートする事になったんだい?」
 仕方なく、自分は語る事にしました。HVDOの首領である崇拝者が自分の父親であるという事と、母がそれを追いかける国際警察であるという事。そして、自分がくりちゃんか三枝委員長かのどちらかを結婚相手として選択しなければならない事を。


 あの日、決断を迫られた自分は、苦し紛れにこう発言しました。
「2人の事を良く知りません」
 三枝委員長はまだしも、くりちゃんに至っては幼馴染であり、何度もおもらしを見た間柄であるというのにこの台詞はいかにも嘘くさく、悪あがきにも程がある状況でしたのでこう付け足しました。
「というより、2人の事をそんな風に見た事が無かったので、正直戸惑っています。もう少し、時間をいただけないでしょうか」
 そんな風に、という言葉にいやらしい視線は含まれておらず、あくまでも純粋に恋愛対象ではなかったという意味であり、そこの所を深く突っ込まれると最早自分に反論はありませんでしたが、どうにかそうはならずに済みました。俯く自分に母が言います。
「言いたい事は分かるけど」あ、分かるんだ。「そんな時間はないわ。3日以内に決めなさい」
 3日。余りにも短いですが、今ここで決めろと言われるよりは遥かにマシでした。
「わ、分かりました」
「分かったって、本当に決められるのかしら?」という発言は三枝委員長。
 彼女らしく鋭い指摘に、自分は狼狽します。
「きっかけさえあれば……」
「きっかけ?」自分の発言を捕まえて離さない三枝委員長。
 追い詰められ、焚き付けられ、いよいよ自分の口から出たのは、まるで自分らしからぬ、センチメンタルな提案だったという訳です。
「1人ずつ、1日だけデートさせてください」
 かくして提案は認められ、土曜日に三枝委員長と。日曜日にはくりちゃんとデートする事に相成り、そして本日土曜日に至ったという訳です。
「モテる男は辛いね」
 春木氏の皮肉に、肩の荷が一層重くなりました。
「ところで春木氏」
 と、自分は戦闘終了からずっと気になっていた事を尋ねます。
「何故、わざと負けたのですか?」
 にやりと笑う春木氏。
 自分が気づかない訳がありません。まず何の利点もない奇襲からして謎ですし、本気の春木氏ならばもっと魅力的に幼女をプロデュースしてくるはずです。導かれる結論は、「春木氏は自分の実力を試しながら、なおかつわざと負けようとしていた」という事。そして自分の完全勝利はほど遠いという事。
「カモフラージュしていたつもりだったけど、よく見破ったね。ご褒美に崇拝者の能力の1つを教えてあげよう」
 最初から教えてくれるつもりだったのに、と自分は心の中でつつきます。
「『性癖バトルで勝利した相手の1番大切な人の処女を奪う能力』だそうだ。これに関しては情報源は明かせないが、信頼してくれると嬉しいね」
「寝取り、という訳ですか」
「その通り。だから五十妻君には悪いけど、僕は一足先に降りさせてもらう」
 そう言って、春木氏はちらりとりすちゃんの方を見ました。
 なるほど恐ろしい能力だと思いますが、春木氏が自分との戦いを「必要」だと言った理由にはいまいち合点がいきません。既にりすちゃんは春木氏の手によって「非処女」であるはず。
「そこがこの能力の恐ろしい所だよ。崇拝者、いや、君のお父さんは非処女から処女を奪う事が出来る」
 非処女から処女を奪う。
 そんな事がもしも本当に出来るのならば、それはエロスを支配する究極の能力であるように直感しました。

       

表紙

和田 駄々 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha