Neetel Inside ニートノベル
表紙

HVDO〜変態少女開発機構〜
第四話「共鳴する難儀なる塔」

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 ふたなり。
      ふたなる。
           ふたなるとき。
                  ふたなれば。
                        ふたなれ。
「ちんこの生えている女の子が好きだ」
 と、ネット掲示板に書き込んだら、どこかの誰かが「ホモだ」と指さして笑った。
 そうじゃない。ちんこが好きなんじゃなくて、「女の子にちんこが生えている」のが良いのだと書き込んだら、「何を言ってるのか全く分からない」と呆れられた。
 どうして分からないのか。あるはずのないちんこがそこにあるファンタジーに、なぜそそられないのかと執拗に書き込んでいたら、荒らし認定されてアク禁を喰らった。
 この世界は、変態の為には出来ていない。
 だけど少数ながら、ふたなりの魅力を分かってくれる人もいる。その人達は、まるで忍者の隠れ里みたいな場所で、出来るだけ閉鎖的なコミュニティーを作って、ふたなりの良さを堪能する。世に認められない人達は、互いに傷を舐めあって暮らす。それも一つの幸せの形なのだろう。
 基本的に、ふたなりは二次元に限られる。三次元のふたなりは、映像はおろか画像でさえお目にかかった事が無い。それこそファンタジーの世界。だからふたなり隠れ里でも、三次元のふたなり画像を求める人は滅多にいない。まず絵があって、そこに金玉があるか無いか、巨根か粗チンか、マンコと共存しているのかどうか、攻めか受けか、そういう風に趣向は分岐していく。
 それじゃあ、駄目なんだ。
 率直に言おう。本物のふたなりがいい。というより、現実世界において好きな人が、ふたなりだったら良い。絶倫ならなお良い。ふたなりに犯されたい。ふたなりを犯したい。
 貪欲なのだろうか。
 切羽つまっている。
 だけど迷いは無い。
 あたしは、ちんこの生えている女の子が、好きだ。

『共鳴する難儀なる塔』



第四話

 何の変化も無く、毎日が過ぎていきました。日常が戻ってきた、と言えば、何か大きな冒険をし終えたようで耳心地は良いですが、人智を超えた能力を得た変態にとっての日常とは、筆舌に尽くしがたい程に退屈かつ窮屈で、いたたまれない思いの中、かろうじて呼吸をしている有様なのです。
 三枝委員長は、あれ以来自分との接触を持とうとしてきません。あの手紙の文面から判断するに、自分が何かしら行動すれば三枝委員長は表面上は嫌々、内面では歓喜しながら服従してくれるであろう事は明らかですし、本来の自分としても、美しい人におもらしをしてもらえる事それ自体は非常に喜ばしい事なのですが、もしも勝負となってしまえば別、かかっている物があまりにも大きすぎる(別の意味で「大きすぎる」訳ではありませんが、小さくもありません)ので、尻込みしてしまうのも仕方の無い事です。三枝委員長自身に勝負をするつもりが無くても、自分が「おもらしより露出の方が良い」と思ってしまったなら、その時点で負けなのです。
 仮に勝負の件が無かったとしても、くりちゃんから頂いたありがたい勅命によって、自分の能力は使用を禁止されています。もしこれに逆らえば、ちんこは自分の肉体を離れ、ちんことしての独立した地位を築き、自分は桐の箱に納められたそれを愛でるだけのしがないオカマになってしまいます。くりちゃんからの逃走、所謂お引越しも考えはしましたが、やはり死んだように眠り続ける自分を起こせるのは、鬼畜一級の免許を持ったくりちゃんだけという揺るぎがたい事実もあり、この体質を改善しない限りは、不可能との結論に至りました。
 あと、これはわりとどうでも良い事ですが、等々力氏のED治療はあまり芳しくないようです。なにせ、性に貪欲な中学生がEDになるなんて滅多に無い事ですから、症例もあまり無いのでしょう。
「お前、今俺の事、インポ野郎って思っただろ? なあ、おい。なあ」
 ノイローゼ気味になった等々力氏は、日々とにかく周りに喧嘩を売っています。「え? そんな事思ってませんよ」と、ハードル走に定評のある男子、緒方氏が答えると、「お前、いいなあ。毎日勃つんだろ、朝昼晩と、お前。いいなあ、いいなあ」と、病的な目をして、液体のようになった体で纏わり付くので、周りからは非常に気持ち悪がられています。明日はわが身、ぞっとします。
 五時限目と六時限目の間にある休憩時間、あと少しで帰れるという希望と、もう眠くてしょうがない絶望が入り混じる時間に、事件は向こうからやってきました。
 くりちゃんが、教室に飛び込むように入ってきて、見回して自分の姿を見つけ、不自然な前傾姿勢で近づいてきたかと思うと、ちぎれるかという勢いで自分の耳を掴んで引っ張りました。もしも自分の耳にマジックカットが入ってたら、100%ちぎれていたと思います。
「ちょっと来い!」
 それ以外の事は何も言わず、「授業が始まってしまいますよ」と忠告しても、聞く耳持たない様子で、自分は教室の外に連れていかれました。


 そのまま引っ張られて連れてこられたのは、女子トイレの前でした。
「な、何ですか?」
 いかに自分が、自他共に認める変態とはいえ、流石に白昼堂々と女子トイレに進入するのは躊躇われました。くりちゃんの表情は東大寺金剛力士像のように怒りに満ちており、「あんたに見てもらわないとならない物がある」と断固として自分の耳を引っ張ったまま、女子トイレの個室(女子トイレなのだから個室しかないのは当たり前ではありますが、三年間通った学校の中に見慣れない風景がある事に少し感動しました)に、自分を引きずり込みました。
「く、くりちゃん。自分はあくまで『小』が好きなのであって、『大』の方は対象外というか、その、どれだけ『でかい』かとか『くさい』かとかを自慢されましても、反応に困るというか……」
「何言ってんだ馬鹿! これを見ろ!」
 ぴらっ、とくりちゃんが自分のスカートをたくしあげました。
 そこに、あるはずの無い物がありました。
 そそり勃った一物。肉棒。陰茎。ペニス。
 もしも自分が外国人ならば、「Oh! Mountain FUJI!」と喜んで写真を撮っているであろう程にご立派な男根が、くりちゃんの股間、ローレグ(正式にはローライズ)のようにずり下がったパンツから、猛々しくいきり勃ち、「ワシが男塾塾長、江田島平八である!」とでも言いたげに、こちらを見つめてきました。ちなみに無毛でした。
「く、くりちゃん男の娘だったんですか!?」
「ちがうわボケ! さっき急に生えてきたんだよ!」
 脾臓が破裂するようなブローをもらいつつも答えます。
「……なるほど、『ふたなり』という奴ですか」
 ふたなり。古くは平安時代に書かれた絵巻物「病草紙」に登場する、両性具有、半陰陽の現代における通称です。見た目、精神は完全に女性でありながら、神の気まぐれからか、男性器を所有しているという矛盾。そこに魅力を感じる人が、少なくは無いと聞いた事がありますが、あえて断言させてください。変態です。
 先に自分が口にした「男の娘」とは根本的な違いがあり、ふたなりはあくまでも女の子の肉体にちんこだけが生えている状態で、男の娘はただ女の子のようにかわいい男という意味だそうです。
「またあんたの仕業だろ!」
 と、くりちゃんは凄みました。自分は首を振って、
「自分の能力はあくまでおもらしです。残念ながら、このふたなりの原因は別の能力者による物かと思われます」
 等々力氏は「おっぱい」。三枝委員長は「露出」のモードを持っていました。「ふたなり」のモードを持つ能力者が現れても何ら不思議ではありません。


「じゃ、じゃあ、どうしたら治るんだよこれ」
 くりちゃんは涙目になりながらも怒りの感情は保ち、自らのちんこを指さして自分にそう尋ねました。
「……お気の毒ですが、能力者を倒す他、手は無いのではないでしょうか。思い出してください。巨乳化能力である『オカゴエ』も、使い手である等々力氏を倒した途端に解除され、元のしょっぱい貧乳に戻りましたよね? それと同じ事だと思います」
 台詞の中にさりげなく混ぜた罵倒にも気づかない程、くりちゃんは困惑していました。憎々しげに自分の息子(処女の癖に息子を持つとは、皮肉な話です)を見つめ、金魚のようにぱくぱくと口を開閉していました。
「ふたなりの能力者に心当たりは無いんですか? わざわざくりちゃんを選んだという事は、面識のある人間である可能性が高いと思われます」
「だ、だけど、あたしの周りにはあんた以外に変態なんか……」
「いるんですよ、くりちゃん。世界は変態の為に出来ているんです」
 等々力氏と、三枝委員長。そして自分。同じクラスに既に三人の変態がいたのです。下手をすれば、左ききの人よりも変態の方が多い可能性があります。
「まずはその勃起を治めましょう。そんなに男気溢れたままですと、授業にも出れませんよ」
「お、治めるって……どうすればいいんだ?」
「立派なモノが生えて嬉しいのは分かりますが、興奮するのをやめてください」
「嬉しい訳あるか!」
「とにかく、煩悩と邪念を頭から振り払って下さい」
 微妙に納得のいかない感じは見せつつも、くりちゃんは目を閉じて、胸に手をあてて、ボソボソと般若心経を唱え始めました。
 ですがしばらくしても、一向に勃起は治まる気配を見せません。怒髪天を衝く勢いでエレクトしっぱなし、こうなると、手は一つしかありません。
「……どうやら、『抜く』しかありませんね」
「ぬ、抜くって……何をだよ?」
「分かってる癖にい」
 自分は手で棒を持つジェスチャーをして、シュッシュッと二、三回上下に動かしました。
「は!? ……嫌だ! だってそれ、オナニーだろ!?」
「そうなりますね。まあふたなりが精子出せるかどうかは分かりませんが、男なら一度抜けば大抵は治まる物です」
 くりちゃんは自分のちんぽを指で突きました。どうやら、神経は通っているようで、ビクッと身体を震わせました。
「無理に決まってんだろ! 学校のトイレでオナニーするなんて、そんなのただの変態だ!」

     

「とにかくなんとかしろ! なんとかしろ! なんとかしろ! うわあああん」
 錯乱状態の女子と、トイレの狭い個室で二人きりという事それ自体は、非常に卑猥で、昨今の過激な少年少女漫画でも、滅多にお目にかかれない良シチュエーションなのですが、その女子にちんぽが生えているとなると、貧血にならないのだろうかと心配するくらいにずっと勃起したままとなると、卑猥を通り越して異次元な感じがしました。
 仕方なく、自分は代案を提出します。
「……では、オナニーが嫌なら、誰かに手伝ってもらうというのはどうですか?」
「は?」
 これははっきりと言い切れる事なのですが、自分はふたなりの何が良いのか分かりませんし、興味すら持っていません。歯に衣着せぬ言い方を選び、「これはあくまで個人の感想です」と保険を満額までかけて述べさせてもらえれば、たった一言、「気持ち悪い」に収束します。
 無論、ふたなりが好きな人を否定するつもりは微塵もありませんが、「女の子にちんぽ」そんなカツ丼に豚しょうが焼き乗っけたような食べ物は、いかんせん見ただけで食い気が無くなるのは仕方のない事です。
 そもそも、二次元をベースにしたふたなりという物は、はっきり言って現実に存在しません。両性具有者、いわゆる半陰陽、インターセックスと呼ばれる方々は、医学的に言えば性分化疾患という病を患っている方々であり、一番ふたなりという言葉のイメージに近い状態でも、具体的にどのようかと表現すれば、ヴァギナの中から親指のように小さなペニスが生えているという形で、エロ本のように、たくましいちんこを振りかざして、射精というカタルシスを得るふたなりとは、似ずとも非なる物なのです。
 実在していない物を、どのようにして信じられるのか。この領域に踏み込むと、今回の更新分が丸々その話になってしまうので、結論だけを簡潔に言いますと、自分はふたなりに対して、性的興奮を覚える事は無いという事です。
 しかし、今この場面においては、性欲以外の欲が強く働きました。
 是即ち、復讐。どのような手段でも良いから、くりちゃんを困らせたいという欲求です。
 仕返しがしたいのです。我が息子を人質にとり、無茶な要求を押し付け、自分を奴隷のように扱うこの悪女が、一泡吹く所がどうしても見てみたい。
 まあきっかけは完全に自分の能力の所以ですし、ある日いきなりちんこが生えてきている時点で十分すぎる程に泡食ってるのは確かではありますが、この機会を逃せば、陵辱という名の攻撃チャンスは二度と回ってこないかもしれないのです。ここは徹底的に、くりちゃんの人間としての自尊心を崩壊させ、どちらが優位に立っているのかを神経の一本一本にまできっちりと刻む事に致しましょう。


「は? ……今、何つった? もっかい言ってみろ」
「だから、誰か他の人に手コキしてもらうというのはどうですか? と尋ねたのです」
 くりちゃんはまるで原始人が初めてiPhoneを見た時のような表情で自分を見つめました。
「オナニーが嫌なら、人にしてもらうしかないでしょう。ちなみに自分は御免こうむりますよ。この件が解決して、ちんこが無くなったら手伝っても良いのですが」
 今日一番重い正拳突きが、自分のみぞおちに決まり、これまでに蓄積されたダメージもあって、自分は膝からガクン、と崩れました。その拍子、これは完全に事故なのですが、体勢を維持する為か本能的に、自分は右手をくりちゃんの肩に乗っけてしまったのです。
「ひぅっ……!」
 くりちゃん、分かり易すぎます。ピンと背筋を張って、明らかに内股になったその反応、つまり尿意の吉兆を見て、幾ばくかの冷静と情熱を取り戻した自分は、その後0・3秒の内に完璧な作戦を思いつきました。
 拳を握り締めるくりちゃんに、自分は言い放ちます。
「くりちゃん、これは警告です。今すぐにそのちんこを下向きに押さえつけ、先端にある尿道口を便器に向ける事をおすすめします」
「え?」
 それが自分の大好物である「女の子の放尿シーン」である事は間違いなかったのですが、やはり出口が違ったので、マジマジと見る気にはなれませんでした。しかしそれが逆に良かった、とも言えます。自分はくりちゃんの肩を小突いて能力を発動し、すぐ様トイレの個室から脱出すると、ドアを閉めました。
「おま……ぶっ殺すぞ!」
 尿が便器に落ちる滝の音が、ブチキレたくりちゃんの叫びでかき消されました。
 急いでクラスに戻ります。既に授業は始まっており、先生とクラスメイトが全員自分に注目しましたが、そんな事は気にせず、目標の机に近寄ると一人の人間に声をかけました。
「緊急事態です。来て下さい。三枝委員長」
 三枝委員長は、一瞬だけ唖然としていましたが、すぐ様いつもの凜とした表情を取り戻し、自分についてきてくれました。
 くりちゃんの一物を鎮める手コキ要員に三枝委員長を選んだ理由は三つ。まず能力の事を知っている事。等々力氏もこの点では同様ですが、今の彼にあの立派なちんぽを見せると、勢いで自殺しかねないので却下です。第二に、三枝委員長ならば、何せ自分と同じく変態ですから、くりちゃんのちんぽを見てもドン引きせずに適切な対処をしてくれるだろうという事。そして第三に、自分はふたなりに食欲は湧かないと言いましたが、「女の子同士が淫らな行為をしている所」はこれとはまた別腹に、スイーツ感覚でぺろりといけるのです。
 トイレの前につくと、三枝委員長は一体何を勘違いしたのか、
「い、五十妻君? その、いきなり『大』を食べさせられるというのは心の準備というか、流石に不潔というか……初めての命令がそれというのも、いささか将来が不安になるというか……」
 流石は超能力に目覚めるレベルの変態です。いちいち説明するのも面倒なので、自分は無視を決め込み、くりちゃんのいる個室に三枝委員長をぶち込んで、勢い良く扉を閉めました。


「いぃっ!? い、委員長!?」
「えっと、五十妻君に呼ばれてここに来たのだけれど……」
「あの、な、なんでもないから、出ていって」
「……そう。なんでもないのね?」
「……うん」
「……駄目ね。開かないわ。外から五十妻君が押さえているみたい」
「おい! 開けろ! 開けろ馬鹿ーー!」
「ところで、さっきからその、こか……スカートを押さえているのはどうして?」
「え!? なななななんでもない。なんでもないから、本当に」
「見せなさい」
「へ?」
「見せてみなさい」
「わっ……ううっ」
「っ!? 何……これ?」
「なんか……急に生えてきて……」
「……そう。……なるほどね。五十妻君が私を呼んだ理由が分かったわ」
「!? ちょ、委員長何を……」
「これが治まらないから授業に戻ってこれないんでしょう?」
「そ、そうだけど」
「私がやってあげるから、ほら、動かないで」
「なっ、やめっ……ちょっ……」
「すごく大きい……現物は初めて見たけど」
「そんな……」
「本物もこんなに大きいのかしら」
「あっ……ああっ……」
「不安だわ」
「駄目、駄目、嫌ぁ……」
「気持ち良いの?」
「良く……無い」
「木下さん嘘つきね、ほらびくんびくんしてる」
「やめへ……」


 なんでボイスレコーダーを持ってきてないのか、と自分の不用意さを呪いました。事は概ね作戦通りに進みましたが、予想以上に三枝委員長がノリノリだったので、これには仕掛け人である自分も思わず苦笑いしました。トイレのドアを外から押して支え、耳を当てて聞きながら、不覚にも息子が元気になってしまいましたが、これはあくまでもふたなりに対して興奮している訳ではなく、一方的に攻められるくりちゃんに興奮しただけなので、負けたという事にはなりません。
 二人の女子の息遣いと、何か棒状の物を上下に擦る音がしばらく聞こえ、最後はくりちゃんの「ううっ」という声で、白昼劇は終幕を迎えました。
 水の流れる音の後、個室から出てきた三枝委員長は、隅っこで不自然に体育座りする自分に対し、こう声をかけました。
「今回のは、私が自分で勝手にした事よ」
 そして何事も無かったかのように、ヨーグルトのかかった手を洗った後、教室に戻っていきました。その宣言が、何を意味するのか、自分には良く分かりませんでした。しかしその一方で、とんでもなく大きな借りを作ってしまったのではないか、という懸念も芽生え、自分はそれをかき消すように中腰になって立ち上がり、行為の終わったトイレをこっそり覗きました。
 くりちゃんは便座に座って、両手を「門」みたいな形にして両目にあて、泣いていました。自分が見ている事に気づいてないらしく、
「もうお嫁さんにいけない……」
 と呟いたので、「もし行き遅れたら自分がもらいますよ」と慰めると、顔を真っ赤にしていました。怒りで。
「覚えてろよ! 絶対だ! 明日、絶対にあんたのちんこを切ってやる! どこに逃げても無駄だからな! 絶対切ってやる! つか殺す!」
 常人なら自殺するレベルの生き恥を晒した後でも、決してめげずに凄むくりちゃん。その健気な姿に、多少心を打たれたのは事実です。
「罰は甘んじて受けましょう。それだけの価値がある物を、この耳でしっかり聞かせてもらいましたから」包み隠さぬ本音でした。「しかしその前に、くりちゃんのちんこの方をどうにかしましょう。勃起は治まっても、ちんこ自体が無くなった訳ではないんですよね?」
 くりちゃんはぐずりながらも、スカートをめくりました。もっこりパンツ。これは目に毒だ。
「……なんとかできるのか?」
 自分は解決編の名探偵よろしく、不敵な笑みを浮かべて言います。
「三枝委員長のおかげで分かりました。犯人はおそらく、女です」
「女?」
「そうです。心当たりはありませんか? くりちゃんに好意を寄せている女の子。そう多くは無いはずですが」
 若干の間の後、くりちゃんが答えました。
「一人だけ……いる」

     

 音羽 白乃(おとわ しろの)女子。14歳の中学二年生。
 血液型はB型。誕生日は2月2日。みずがめ座。
 長女。裕福な家庭に生まれ、両親とも健在。
 高校生の兄が1人おり、共に実家で暮らしている。
 視力が悪く、常に赤いフチの眼鏡をかけている。
 つい三日前に髪を金に染めて、担任に注意をもらう。
 特技は料理。昼食のお弁当も自分で調理している。
 好きな言葉は「QWERTY配列」座右の銘は「栄枯盛衰」
 進路は清陽高校への進学を希望。
 趣味は漫画、ゲーム、アニメ。
 典型的なオタク女子ながら、女子の友人は多い。
 また、理由は不明であるが、男子との接触を避けている節がある。
 以下、知人の印象。
「オタクだけど面白い」
「いざと言う時頼りになる」
「たまに何を考えているのか分からない時がある」
 住所は郵便番号○○○-○○○○ Y市M区K町○-○○○ 
 電話番号は○○○-○○○○
 携帯電話は○○○-○○○-○○○○
 携帯アドレスは○○○○○○○○@○○○.○○○
 Twitterのアカウントは○○○○_○○○
 それから……。
「いや、もういいから!」
「そうですか。まだあと4、5ページ程続いているんですが……」
 くりちゃんが思い当たった人物、「音羽」という名前を聞いた後、三枝委員長に調査を依頼した所、1時間でこれだけの資料を用意して渡されました。
「委員長、怖っ……」
 くりちゃんは青ざめて、俯きながらそう言いました。
 放課後、件の音羽君の家へ向かいながら、自分は能力者討伐作戦会議も同時に進行させていました。


 そもそも自分が「能力者は女である」と判断できた理由は、自分がする事なしに戯れでしたHVDO能力の考察に基づいているので、所々綻びのある理知ではありますが、かいつまんで整理したいと思います。
「対象に3回触れるとおしっこが漏れる」
「対象を手で囲った視界に捉え、徐々に乳を膨らませる」
「無条件で瞬時に自分が裸になる」
 等々力氏の第二能力は、後から追加された物ですから例外として、ここまで出た能力は、相手に与える影響が大きければ大きいほど、発動する条件が厳しくなっているという事が分かるはずです。おしっこを漏らす事によって失う社会的信用は大きいですが、乳が大きくなる事によって困る事は、それはいわゆる贅沢な悩みという奴ですし、自分が裸になるというのはもはや自分の勝手で、見せられる方は迷惑かもしれませんが、能力の対象者である自分に被害が及ぶ訳ではないという理由から、一切の準備動作が必要無いのだと解釈できます。
 つまり、自分がこれらの例から何が言いたいかというと、もし仮に「相手にちんこを生やす能力」があるとすれば、それはかなり厳しい発動条件が無ければならないという事です。無論、ここまでの能力が偶然そうで、これから「無条件で半径1km以内にいる人物が全員エクスタシーに達する」というチート能力が出てきても何ら不思議ではないですが、それを懸念するのも労力の無駄という物でしょう。
 発動条件が厳しいという事は、これ即ちくりちゃんへの接近を意味します。既に周知の通り、くりちゃんには自分以外の友達がおりません。男子はおろか、女子も距離をとって彼女と付き合っていますが、それでも女子の方がいくらか彼女との距離が近いのは事実です。
 また、くりちゃんにちんこを生やしたタイミングも重要です。くりちゃんの証言によれば、昼食が終わり、教室に戻ってくる時、股間に違和感を覚えたそうで、そのまま一旦トイレに避難し、ちんこを確認して困惑していた所、授業が始まってしまった。本物のちんこなのかどうかを確認したり、なんとか引っこ抜けないか頑張っている内に勃起してしまって、そのまま五時限目はエスケープ。その後、休憩時間を利用して自分をトイレに引っ張ってきたとの事です。
 能力者が任意のタイミングで能力を発動できるという前提で言えば、くりちゃんにちんこを生やすタイミングとして、これは適切とは言い難いと断言できます。突然股間から今まで無かった物が生えたら、いくらくりちゃんと言えどもすぐに気が付くはずですし、その後トイレに避難して、いじっている内に勃起してしまう事も、経験者ならば簡単に予想できます。そう、ちんこを扱った事のある経験者ならば。
 導き出される結論は一つ。能力者は女であるという事です。
 以上が自分の推理ですが、ぶっちゃけた言い方をさせてもらえれば、「ちんこを欲しがるのは基本的に女じゃね?」というたった一行に不時着します。


 そしてこれら自分の推理は的中しつつあります。 
 昼休み、いつも屋上で一人寂しく昼食をとるくりちゃんの下に、1週間ほど前から、後輩である音羽君が尋ねてくるようになり、最初は無視していたものの、めげずに何度も話しかけてくる音羽君に、性根はコーギーよりも遥かにさびしがり屋のくりちゃんはついに折れ、今日、音羽君が持ってきたお弁当を、少しだけいただいたとの事なのです。それが発動条件だった、と見るのはいささか短絡的すぎると思われるかもしれませんが、付け加えて、6時限目の終わりに、このようなメールが届いた事が決めてとなりました。ゴテゴテとした絵文字は省略します。
『木下先輩、放課後、私の家に来て下さい。先輩が今困っている事を解決してあげます!』
 メールには分かりやすい地図が添付されており、一緒に帰るのではなく音羽君が先に帰り、後からくりちゃんを呼ぶという所に底知れぬ不穏を感じました。
 確定。
 そう言っても差し支えない状況です。
「あらかじめ言っておきますが、『速攻』で決めますよ」
 言葉の意味が分からなかったらしく、くりちゃんは「は?」という口の形をして、声を出さずに自分を睨みましたので、「『速攻』……で、決めます」と若干格好つけて言い直してみましたが、真意は汲んでもらえず、
「頼む。変態の思考回路は分からないから、1から分かるように説明してくれ」
 と、突っぱねられてしまいました。
「これから音羽君と接触した瞬間、自分はすぐに攻撃を仕掛けるという事です」
「……攻撃?」
「そうです。大変申し訳ない上に、全くもって自分の望む所ではないのですが、くりちゃんには再び盛大におしっこを漏らしてもらう事になります。ええ、自分も辛い所なんです。これではくりちゃんから授かった掟を破る事になってしまう。だけどどうか分かってください。本意ではないのです」
 腕を組んで強がりながらも、くりちゃんが若干紅潮したので、その脳裏に三枝委員長の眼前でノーパンで漏らしたあの光景がまざまざと蘇った事は、想像に難くありませんでした。
「……どうしても、それしか解決方法は無いのか」
「ありませんね」と、自分は断言。
「はぁ……なんで私の周りには、変態しかいないんだ……」
 確かに、至極最もな疑問でした。
「素質があるのではないですか」
 変態に見初められる素質は、変態の素質とほぼ同義である。というありもしない格言が視界を掠めました。


 到着。土地は自分の家の2倍ほどでしょうか、3階建てで、ガレージもあり、塀も高く、表札は大理石風。三枝委員長のリサーチ通り、なるほど裕福な家庭のようです。
「音羽……ここで間違いないようですね」
 くりちゃんは頷いていました。すぐに攻撃に移れるよう、くりちゃんの膀胱には既に3分の2以上の尿が溜められており、緊張もあってか、尿意を強く感じている様子でした。
「では、自分がインターホンを押しますので、音羽君が出てきた瞬間、パンツを下ろしてください」
「な!? パンツも下ろすのか!?」
「当たり前です。音羽君はふたなり好きなんですよ。パンツ越しのおもらしでは、普通のおもらしと変わりません。それに出来るだけパンツも汚したくないでしょう」
「そりゃ、そうだけど……え? ここですぐ漏らすのか?」
「『速攻』で決めると、さっき言いましたよね?」
「い、いくらなんでもここは……」
 周りはもちろん住宅街。人通りが少ないとはいえ、誰かに目撃される可能性もゼロではありませんが、自分にはそう、関係ありません。
「あのですねくりちゃん。正直、自分はどっちでも良いんですよ。今、困っているのはくりちゃん。それを助けるのが自分。その辺の認識を間違わないでいただきたいですね」
 くりちゃんはくやしそうに、ハンカチがあったら間違いなく噛み千切る勢いで自分を睨みました。
「さ、押しますよ」
「ちょ、待て待て!」
 ポーン、と自分の家のチャイムよりも気持ちやや上品な音が鳴って、耳を澄ませば、ドアの向こうから足音が聞こえてきました。
「ど、ど、どうちよう!?」
「ほら、くりちゃんパンツ脱いで!」
 ドアが開く瞬間、くりちゃんは意を決し、パンツをずり下ろすと同時にスカートもめくり、局部を露にしましたので、自分は目に毒が入らないように配慮し、くりちゃんの後ろに位置し、くりちゃんの肩を叩きました。
 じょぼぼぼぼ……。くりちゃんのちんぽ(略称くりちんぽ)から、尿がじゃんじゃん排泄されているようです。自分は目を瞑り、しばらくの間排尿が静まるのを待って、最後に「ぴゅっ」と出たのを耳で確認してから立ち上がりました。
「あれ?」
 実に奇妙な空間でした。くりちゃんはまるで時間が止まったみたいに硬直し、スカートもたくしあげたまま、目は光を失っていました。そしてそのくりちゃんの痴態を見ているはずの、ドアにいる人物は、予想とは違った人物で、彼もまた硬直していたのです。
 上下同じ色のスウェットを着た、高校生くらいの男。自分は三枝委員長の調査資料にあった一行を思い出しました。

>高校生の兄が1人おり、共に実家で暮らしている。

     

 花も恥らう中学生、孤高で強気でちょっぴり鬼畜な、先ほどふたなりになったばかりの少女の、貴重な強制野外放尿シーンを、自宅の玄関先という特等席から見た男の反応は、意外や意外、なんとも冷ややかでした。
「……妹?」
 省略された言葉を補足するならば、「(あなた達が用事があるのは)妹(の方ですか)?」という所でしょうか。
 恥ずかしさで即死した心が、そろそろ死後硬直の始まりかけたくりちゃんは、うんともすんとも言わず、レイプ目で虚空を見つめていました。BGMは「蛍の光」。仕方が無いので、自分が代わりに答えます。
「はい、そうです」
「……把握」
 現実では滅多に耳にしない奇妙な返事を残して、音羽(兄)は家の中へ戻っていきました。その後からドタドタと、今回のメインアクトレスである音羽(妹)が、幕引きの舞台へと登場し、その口から飛び出た第一声は、
「おちんちん!」
 見たままを口にした、という事だと思われます。自分は珍しく、くりちゃんを良い意味で気遣って、「くりちゃん、隠さなくていいんですか?」と尋ねてみますと、「殺して」という要領を得ない短い返事をよこしてきましたので、「このまま死なれてしまうと、死亡診断書が難しい事になりますよ。女なのか、男なのか」と、あえて論点のずれた返しをすると、くりちゃんの両目からはじわりと塩気の多い涙が溢れました。
 かくして、どうにか正気の欠片を取り戻したくりちゃんは、丸出しになったくりちんぽをしまい、すうっと力が抜けるように、膝から崩れ落ちたのです。
「え? え? 木下先輩? 何があったんすか!?」
 当然、事の成り行きを知らない音羽君はうろたえています。事情を説明すれば、おのずと自分の能力を説明しなければならず、それを避けて、再度奇襲を仕掛けようにも、くりちゃんがこの状態では、満足出来るリアクションは見込めず、それでは「勝ち」には繋がらない、瞬時に自分はそう判断しました。
「とにかく、中へ入れてもらえませんか? くりちゃんをここに置いておくと、走ってくる車に飛び込んで自殺しかねませんので」
 自分はそう言うと、放心状態になったくりちゃんの肩を持って、引きずるようにして、敵城音羽邸へと入ったのです。


「ていうか、なんで五十妻先輩が一緒なんすか?」
 出来損ないの敬語でそう尋ねてきた音羽君に、自分は「付き添いです」とだけ答えて、多くは語らず、出された紅茶を口に含みました。味薄っ!
「ふーん……」
 この生意気な女子は、そうと説明されなくても分かる程、自分の事を敵視していました。この出がらしの紅茶も、頼まないと出てこなかったような代物で、今も自分は、二人がクッションに座っている前で、下に何もひかないまま姿勢の良い正座をしているのです。
 音羽君は、三枝委員長のレポートにもあった通り、髪を金髪に染めて、一見悪ぶってる風でしたが、赤い眼鏡の奥にある吊り目がちな双眸からはSっ気が、これみよがしのアヒル口からはMっ気が感じられ、鑑賞に堪えうる、いえ、一見の価値ある女子でした。
「何じろじろ見てるんすか? うぜえ」
 部屋は子供に与えるにしては広く、十二畳間でしょうか、パソコン2台と、漫画本の詰まった本棚と、部屋全体に張られた美少女アニメのポスターがオタク要素であるならば、大きなベッドの前後に並ぶぬいぐるみと、3つもあるクローゼットと、背丈よりも大きな鏡が女子の要素といった所でしょうか。
「部屋もあんまり見んなよ。キモい」
 浴びせかけられる罵倒には、くりちゃんのそれとは少し違った(具体的にどう違う、とは説明しづらいのですが、あえて言うなら温度が違うのです)痛みが伴い、自分も表面上は冷静を取り繕っていましたが、内心ではフツフツと、海底火山のように煮えていました。
「率直に尋ねますが、音羽君は能力者ですか?」
 大した反応も無く、まるで手馴れの風俗嬢が短小包茎のちんぽを見るような様子で、頬杖をつきながらため息をついた音羽君は、隣に俯いて座る半口を開けたくりちゃんをちらりと見てから、「そうだけど?」と悪びれず答えました。
 すると突然くりちゃんが、ガクン、と何かに乗り移られたかのように姿勢を正し、
「音ちゃん……裏切ったの?」
 その台詞から、くりちゃんが音羽君に、かなりの量の信頼を寄せていたのは一瞬にして分かりました。くりちゃんによれば、出会ったのは1週間前で、まだ付き合いも浅く、「よく分からない子だ」との事ですが、他人を避ける癖のあるくりちゃんに、恐れず何度も話しかけてくる女子はやはり貴重で、大げさな言い方をすれば、かけがえのない存在だったのでしょう。
 音羽君は、決してこれから先、自分には向ける事は無いであろう、憂いと愛を秘めた表情をして、小刻みに震えるくりちゃんの手を握り、真剣にこう言いました。
「あたし、木下先輩の事が大好きなんです。……だけど、ちんこの生えてる木下先輩は、もっともっと大好きなんです」


 衝撃的な告白を受けたくりちゃんは、何故か半笑いで、死んだ目で自分に助けを求めてきました。自分は論客として前に出ます。
「音羽君、あなたの能力のせいで、くりちゃんは人間にとって一番無様な姿であるふたなり放尿シーンを、見ず知らずの他人、しかも異性に見られてしまったんですよ? 普通の女子ならもうとっくにこの世を去ってる所です。まずは告白の前に、その事について謝るべきではありませんか?」
「はぁ!? 能力なのかよく分からないっすけど、木下先輩に放尿をさせたのは五十妻先輩の方っすよね? そもそも別に、ふたなりは無様でもなんでもないし、愛くるしいくらいだし、兄貴もオタクだから大丈夫っすよ! 第一あいつ、引きこもりだし、家から外に出ないっすから、余裕!」
 言葉のモーニングスターでぶん殴られ、よく分からないフォローの冷水をぶっかけられ、くりちゃんの魂が背中からほんのりはみ出しているのが確認できました。
 これにて自分の目的の半分、つまりくりちゃんの自尊心を木っ端微塵に破壊する事は達成されましたが、人間とは強欲な生き物で、一つを手に入れてしまうと、得てして二つ目を追いかけたくなる物なのです。端的に言えば、今、自分が目指す物は、「勝利」そしてそれによって得る「新能力」です。
 放課後、三枝委員長と対峙した時に自分が「逃げた」のは、勝ち目が薄かったからです。今回の場合、相手がふたなり能力者である限り、自分の負けはありえません。何せ自分には、ふたなりのどこが良いのかさっぱり分からないですし、これっぽっちも息子が反応しません。事実、くりちゃんの生ちんぽを見ても、ぴくりとも反応しませんでした。それでもなお自分が奇襲を仕掛けようとしたのは、勝負に対して戸惑いがあった訳ではなく、むしろ別の事に躊躇いがあったのです。
 が、たった今それも吹っ切れました。
「ところで音羽君、自分は、おもらしが好きです。能力は、三度触れた相手がおもらしをする、という物です」
「何を突然説明しだして……って、なんすかその数字!?」
 どうやら音羽君は、このように堂々と勝負を仕掛けられたのは初めてのようでした。自分の頭の上に浮かんだ数字は3%。女子の部屋に来たのが5%、薄い紅茶を飲まされて-2%といったところでしょうか。HVDO能力者は、お互いの性癖を告白すると、勃起率が頭上に表示される。故、等々力氏が自分に教えてくれた、貴重な情報です。
 そして自分が恐れていたのは、まさにこの事でした。自分は落ち着いて、音羽君の頭上に浮かぶ数字を読み上げました。
「30%」
 さて、この数字は一体何を意味しているのでしょうか。当然の事ながら、女子に陰茎は無いので(今のくりちゃんは例外ですが)、ペニスの勃起率ではありません。


 それがクリトリスの勃起率であるとか、いやいや性器の湿度であるとか、もしや乳首がどれくらい立っているかでは? と妄想を膨らませる事は可能ですが、「どこの部分が興奮しているんですか?」と尋ねるのは厄介です。自分は確かに「変態」ですが、「犯罪者」という言葉に限りなく近い意味での「変態」ではないのです。よってここは、つまらなくともただの「興奮率」として数字を処理するのが的確であると、冷静に対処させていただきます。
 ひとまず恐怖していた問題は、自分の中で決着がつきました。あまり深く考えないように、短期決戦を望んだのですが、それが叶わぬとのなった今、多少強引なりとも飲み込んでしまった方が、比較的楽ではありました。「勝負に負けた場合、ちんこが爆発してEDになる」方の確認をまだしてはいませんが、これも深く考えない事にしましょう。
「なるほど……相手のこの数字が100になれば勝ちという事っすね」
 流石に変態、飲み込みが早い。
「ええ。ですが、残念ながら自分の敗北はありえません。ふたなりの良さが、自分にはわかりませんので」
 そのつもりは無かったのですが、挑発と受け取られてしまったようです。音羽君はほんの一瞬だけ睨みをきかせ、ふん、と鼻を鳴らしました。
「ただ単に、五十妻先輩がふたなりの良さを知らないだけっすよ」
「ほう」
「今から見せてあげますよ。ふたなりの本気って奴を」
 音羽君はくりちゃんに向き直り、脱力した体を揺すって言いました。
「先輩、立ってください!」
「……え?」
「いいから、早く立ってください! 2つの意味で!」
「……え?」
 白痴の如く受け答えするくりちゃんは、やがて音羽君に無理やり立ち上がらされ、ごく自然にスカートがめくられ、純白のパンツに手がかかりました。
「ちょ、え? え?」
 困惑するくりちゃん。ロクにここまでの話も聞いていなかった事は明らかでしたが、これから何をされるのかに対して、かろうじて恐怖を覚えるくらいの事は出来ているようでした。
「木下先輩! とりあえずフェラさせてください!」
「……え?」
 お、これはまずい事になってきました。

     

 何度も何度も申し上げてきた事ですし、これからも何度だって申し上げますが、自分はふたなりに興味を持った事も、性的興奮を覚えた事もありません。ですが、今音羽君が、くりちゃんに対して実行しようとしている行為を目の当たりにした場合、勃起せずにいられるかというと、まるで自信が無い、というよりは、そろそろティッシュの準備をした方が良いのでは、とさえ思います。
「音ちゃん、それは、ダメ」
 かろうじて紡いだ言葉が、くりちゃんの唇から零れるその刹那に、音羽君は顔面をくりちゃんのスカートの下にすべりこませ、くんかくんかと、すうはあすうはあと、まさしく狂人、いや変態その物として実に正しい姿を、ありありと見せ付けてくれました。
 流石にこれにはくりちゃんも、貞操の危機を強く感じたのか、死んでる場合ではない、と再起して、スカートの中に突っ込んで暴れる音羽君を突き放そうとしたのですが、どこかに遠慮があるのか、自分に対して惜しげもなく見せるマーシャルアーツは使わずに、まるで乙女、内気近眼図書委員のように、いじらしくもささやかな抵抗を見せるのみで、それでは到底、性欲の権化と化した音羽君を止める事は出来ませんでした。
「み、見てないで助けろ!」
 両目を限界まで見開いて、脳髄への書き込み作業に忙しい自分に気づいて、くりちゃんは助けを求めてきました。
「フェラくらい良いんじゃないですか」
 と、喉仏を通り越して奥歯のあたりまで出かかったのですが、そこで自分もようやく、幾ばくかの冷静さを取り戻し、かかっている物の大きさに気づきました。
「音羽君、やめなさい!」
 くりちゃんの両足をがっつり抱き、その先のパンツに顔を埋めていた音羽君は、まるで聞く耳を持ちません。ああ、この人がこんなにくりちゃんの事を好きなら、ふたなりでも、女同士でも、別に良いんじゃないかな、自分に止める権利はないんじゃないかな、とも一瞬思いましたが、やはりそういう訳にもいきません。
 ここは勝負の場。負ける為の勝負はありません。
 自分は立ち上がり、手を伸ばしました。くりちゃんの腕を掴むと、びくん、と体が震えました。
「あ、あたしに触んな!」
 またかよ、おしっこ女。
 確かに先ほど、ここに連れてくる時、力なくへたりこむくりちゃんに肩を貸した際、自分は1度目の接触をしました。そして今のが、2度目の接触。次に触れた時、くりちゃんの尿道は問答無用で開きます。
 とにかく、この状況をなんとかせねばなりません。掴んだ肩をそのまま引き、くりちゃんのスカートの中で深呼吸をする悪鬼悪霊をお祓いせねば、愛情たっぷりのがっつりフェラをまざまざと見せ付けられてしまう。それは是非とも見たい。ではなく、なんとしても避けねばなりません。
 自分はふたなりに興奮しませんが、くりちゃんのふたなりちんぽをフェラする女を見て、勃起しないとは限りません。


 くりちゃんを奪い合う乱戦が始まりました。自分はくりちゃんの両肩を持って(さりげなくおっぱいにタッチしても気づかれない確信がありましたが、無い物に触れる事は不可能なので断念しました)、音羽君はくりちゃんの両足をワキで抱えこみます。
 くりちゃんの身体は、ハンモックのように宙に浮きました。すぐ下を向くと、顔が見えました。音羽君の方は股間を凝視しているようです。
「なんだこれ! どういう状況!? 痛い!」
 一番困惑しているのは、間違いなくくりちゃんでしょう。
「五十妻先輩! 離してください! 木下先輩が痛がってるじゃないっすか!」
「音羽君こそ離しなさい! くりちゃんがちぎれてしまいます!」
 先に離した方が、本当に当事者を思いやっているという証明になるので、育てる権利はそちらにある。というオチの昔話を思い出しましたが、二人とも一向にくりちゃんを解放する兆しは見せません。
「いたたた! 痛いって! やめて! 漏れる!」
 小学生でも滅多にしないようなプリミティブな戦い。単純な力では男である自分に有利があり、体勢では、両足を抱え込んだ音羽君に有利があり、状況は見事に均衡していました。
「くりちゃん、このままフェラされてもいいんですか? なんとかして、音羽君の腕を振りほどけませんか」
「無理だって! あんたが離したら出来るかもしれないけど!」
 確かに、二人の人間に抱えられた状態で空中でじたばたしても、よほど力が無ければ脱出は不可能ですし、それに自分も音羽君も、かなり必死でくりちゃんを引っ張り合っていますから、つまりここで確実に言えるのは、くりちゃんには何の有利も与えられていないという事でした。
「木下先輩、フェラがいやっすか!?」
 音羽君が叫ぶようにそう尋ねました。くりちゃんは、「当たり前だ!」と一喝するものの、スカートがめくれて丸出しになったもっこりパンツは、ほんの少し勃起しているように自分には見えたのです。
「じゃあ、フェラはいいっす! セックスしてください!」と、音羽君。
「するか馬鹿!!!」と、くりちゃん。
「ちょっと待ってください」と、自分。「セックスするんですか?」それまでの興奮と熱狂は一気に冷め、まるで絶対零度、やり手のエリート検事が被告人を追い詰めるが如き鋭さで、「それなら話は別です」と言いました。
「え?」
 裏切られたのはくりちゃんです。


 壮絶なくりちゃん奪い合いが、そこでぴたりと止まりました。
「音羽君はくりちゃんとセックスしたいんですか?」
「したい! てかします!」
「しないから! 絶対しないから!」
 即答と激怒。
「セックスをしたら、能力を解除してくりちゃんを元に戻してくれますか?」
「終わった後で、木下先輩がまんこの方が良いって言うのなら、戻してあげるっすよ」
「終わってからじゃ遅すぎるだろ!」
 即答と激怒。
「セックスというと、くりちゃんのちんこを、音羽君のまんこが受け入れるという事で、間違いありませんか?」
「そうに決まってるじゃないっすか」
「ちょ、ちょっと、あんた、何考えてんだ!? 離せえええ!」
 即答と激怒。
「そのセックスは、自分も見させてもらっていいのですか?」
「……本当は嫌ですけど、こうなったら仕方ないっすね。見てもいいっすよ」
 これに答えたのは音羽君のみで、くりちゃんは青ざめて奥歯をガチガチと鳴らすだけでした。
「なるほど、分かりました。見させてもらいましょう。ふたなりセックスという奴を」
「うわああああ」
 自分はくりちゃんの口を片手でおさえ(ちなみに、自分の能力は対象に触れたままの場合発動せず、一度完全に両手を離してから再度触れないと、1回とはカウントされないようです)、肩を抱いたまま、音羽君のベッドに乗っかり、くりちゃんを押さえつけました。あと本編とは全く関係ない話なのですが、無駄な戦争をするよりも、互いに力を貸しあった方が、人類はより早く発展するのではないでしょうか。
「五十妻先輩! ベッドの下に手錠とロープと猿轡が隠してありますから、それを使ってください!」
「了解しました」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」
 暴れるくりちゃんに猿轡を嵌めながら、ふと、疑問が浮かびました。
 果たしてこれは、レイプになるのでしょうか。


 嫌がる処女を無理やり二人がかりで拘束し、セックスを強要するのは、確かにレイプと呼ばれる犯罪ですが、ちんこを受け入れる側の女子はやる気満々であり、その相手である同性は、本来ならば実在しない性器を使い、しかも行為が終われば、普通の女の子に戻る。
 これからする行為がセックスである事は間違いありませんが、あくまでも処女膜を失うのは音羽君で、くりちゃんは何も失いません(捉え方によっては、童貞を失うという事になりますが)。果たしてこれはレイプなのでしょうか。それとも逆レイプなのでしょうか。自分は加害者なのでしょうか。くりちゃんは被害者なのでしょうか。どうして高画質のビデオカメラを、自分は今持っていないのでしょうか。
 これはレイプなのか。
 その問いは、音羽君がくりちゃんのパンツを脱がした事によって、即解決しました。
 次に目の前に現れたのは、天を突くようにまっすぐとそそり勃った一物。
 自分が見るのは二回目でしたが、紛れもなくそれは、攻撃態勢に入った、くりちゃんのちんこでした。
「ビンビンに勃ってるじゃないですか」
 と、自分が指摘すると、猿轡を嵌められたくりちゃんは顔を#FF0000くらい真っ赤にして、「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛お゛お゛お゛」と絶叫しながら、首を何度も横に振りました。付き合いが長いから、自分には良く分かります。くりちゃんはきっと、こう言いたいのでしょう。
『ちんこが勃起してしまったなら仕方が無い。とっととセックスさせてくれ』
 なるほど、良く分かりました。断言します。
 これはレイプでは、あ、り、ま、せ、ん!
 一方で音羽君はフル勃起状態のくりちんぽを見て、俄然やる気が出たらしく、頭上に表示された興奮度は100%を越えて120%に到達し、両目には「淫」と「乱」の文字が浮かんでいるように自分には見えました。
 五十妻音羽共同軍は、「本当に初めてか」と疑われるようなスピードでくりちゃんを縛りあげ、完全に自由を奪い、それでもくりちゃんが暴れるので、くりちんぽはぶるんぶるんと左右に揺れました。
 今や立場は逆転したのです。
 かつて受けた辱めを、100倍にして返す瞬間が、ついにやってきました。
 恭悦至極。これを幸福と呼ばずして、果たしてなんと呼ぶのでしょうか。
 さあ、納得するまで見させてもらいましょう。と、くりちゃんから奪った携帯電話のカメラを起動し、ムービー撮影モードに切り替えたその瞬間、頭の中で声がしました。
『お前は、変態ではなかったのか?』
 等々力氏と戦った時にも聞こえた、あの問いかけです。

     

 自分は再び考えます。
『変態とは何か?』
 昔、辞書を引いた時、そこには「性的倒錯を持ち、性行動が普通とは違う人間。また、性対象が異常である事。類→変態性欲、異常性欲」とありました。確かにその通りではあるのですが、これは自分の欲する正しい答えではありません。自分が自分を指して言う「変態」という言葉は、なんと表現したら良いのか、もっと「高み」にあるのです。変態である事は、同時に、それ以外の全てを喜捨する事。悟りの境地、とでも言うのでしょうか。自分が変態である限り、世界の理は常に手の内にあり、迷いや悩みは一切なく、真理を宿した心は、遥かに自由であり続ける。変態とは即ち、涅槃。救済。開眼。贖罪。それらへの到達。何の気なしに、ふと立ち寄った喫茶店で食べた、ミートソースのスパゲッティなのです。
「音羽君、ここまで来て、すみません」
 自分はくりちゃんの携帯を閉じ、それを机に置きました。音羽君は既にパンツを脱いでおり、スカートにかかった手を止めて、訝しげに自分を見ました。
「自分は、変態です。確かに、くりちゃんと音羽君のふたなりセックスは是非とも見てみたいのですが、その前に、自分の変態も音羽君に受け取って欲しいのです。もしも音羽君がこの攻撃に耐えたなら、後でゆっくりとセックスを見たいと思います。勝手な事を言うようで、申し訳ありません」
「……裏切るんすか?」
 そう非難する音羽君の表情は、言葉とは裏腹に、あまり攻撃的ではありませんでした。それが自分には、志を同じくする変態として、気持ちを汲み取ってくれたような気がして、少し楽になったのです。だからこそ自分は、真剣に答えます。
「いいえ。裏切った訳ではありません。信じる物を忘れていただけです」
 自分はくりちゃんに向けて手を伸ばしました。3度目の接触でダムは決壊し、今のままのくりちんぽの角度ですと、くりちゃんの身体に跨った音羽君は、自らの性器に黄金のシャワーを浴びる事になります。拘束されながら、嫌々おしっこを漏らすくりちゃんを、特等席から見ながら、今の今までくりちゃんの体内にあった暖かいぬくもりを、自らの肌で感じられる。これで興奮しない訳がありません。ここまで防戦一方だった自分にも、勝ちの目が見えました。
 が、ここで音羽君も行動に出ます。
「五十妻先輩、甘いっすよ」
 音羽君はそう言ってしゃがむと、まるで摘みたてのイチゴをパクッと頬張るように、くりちんぽの先っちょ、いわゆる亀頭の部分を咥えました。
「ひぃん!」
 くりちゃんの足がピンと突っ張りました。


「一見した限り、ただのフェラではないか」と思われるかとも思いますが、はっきり言って、それは素人の判断です。自分くらいのプロの変態になると、音羽君が何をしようとしているのかが瞬時に理解出来ました。
 端的に言うと、音羽君は「飲む」つもりなのです。亀頭のみを咥えて、口の奥までちんぽを咥えこまない状態で、自分の次の動きを待っているのがその証明です。口内に空間的余裕を持ち、来るべき時に備え、放出された全ての尿を飲み干す気であると見て、まず間違いありません。
「木下先輩、自分の口の中で好きなだけおしっこしてください」とでも言うような表情で、音羽君はくりちゃんを見つめました。
 愛。
 これは愛です。くりちゃんの事を愛しているがゆえに、例えそれが汚い物であっても、全てを受け入れてみせるという覚悟を伴った、真実の愛です。自分がもしも、当事者の一人ではなく観客の立場ならば、この愛溢れる行為に対して、大いに涙した事でしょう。 
 音羽君のこの攻撃によって、「おもらし」と「放尿」の性的な魅力の大部分は失われました。なぜならば、おもらしは、我慢しきれずに、本人の意図しない所で漏れてしまい、それを目撃される事にこそ価値があるのです。音羽君が人間便器の役を引き受けた時点で、それはただの愛ある排泄行為であり、受け入れ態勢の整った尿に、イデアはありません。また尿自体も、くりちゃんの尿は、自分にも音羽君にも本人にも誰にも目撃される事は無く、闇から闇へとただ吸い込まれるのみで、面白みがありません。
 無論、「それでも尿は尿、羞恥は羞恥、プレイはプレイではないか」と唱えるオモラシストの方も、中にはおられるかと思いますが、自分はそれでは納得がいかないのです。
 ここまできてまだ一般的な良識を持ち合わせている殊勝な方々に、分かりやすく説明するとすれば、音羽君は、くりちゃんの尿を自ら受け入れる事によって、くりちゃんのかく恥を半分肩代わりしようとしているのです(ただし実際は、くりちゃんは普通におもらしするより100倍恥ずかしい事でしょう)。
 つまり、音羽君がこの体勢を続けている限り、自分は能力を発動できない。もしも発動すれば、音羽君は飲み干した後、すかさずくりちんぽを自分の性器に挿入するはずです。
 それと、付け加えておかなければならないのは、音羽君のつんと尖った唇が、くりちんぽに触れた瞬間が、想定していた以上にエロく、自分の勃起率も、現在95%まで達しているという事です。
 自分の手が空中で止まっているのを見て、音羽君がにやりと笑いました。そして挑発するように、わざと大きく「ちゅっ」と鳴らして、くりちんぽの尿道口に、フレンチキスをしたのです。
 99%、臨界点。
 等々力氏と戦った時、三枝委員長に迫られた時、自分はかろうじて窮地を脱してきましたが、今度こそ絶体絶命です。そう思われた矢先、自分に一つのアイデアが浮かびました。それは瞬く間に筋書きを作り上げ、未来のビジョンを見せてくれたのです。
 やってみる価値は、ある。


 自分はくりちゃんの身体に手を伸ばしました。音羽君は爛々と目を輝かせ、今か今かとくりちゃんの決壊を待ちます。くりちゃんは、暴れるのにも疲れたのか、微動はするものの、全体的に力はなく、両目には涙が溜まっていました。
 それにしても、艶かしいシーンです。一人の女子は下着を脱がされ、拘束されながらふたなりちんぽを晒し、もう一人の女子は、パンツを脱いでベッドに乗っかり、晒されたふたなりちんぽの先端部分だけを咥えている。自分の人生において、未だかつて見た事の無い、最高に卑猥なシチュエーションです。これを自分の手で壊すのは、なんとも名残惜しい。非常にもったいない。しかし自分は変態なのです。既に覚悟は決まりました。
 くりちゃんの腹部の上、1cmの空間を開けて、自分は手を止めます。そして今思いついた決め台詞を吐くのです。
「音羽君、恥を知りたまえ」
 言葉の意味を解釈させる時間さえ与えず、自分は手の平を返し、薙ぎ払うように動かし、その所作の中で、音羽君の髪をそっと撫でました。もちろん、髪もその人の身体の一部分。自分の能力の対象となっています。
「うひゃあ!」
 素っ頓狂な悲鳴をあげて、音羽君の顔がくりちんぽから離れました。自分は音羽君の股間を肉眼で確認します。どうやらまだ、漏れてはいないようです。
「何もくりちゃんにこだわる必要はありませんでした。ここにはもう一人、魅力的な女子がいるではありませんか。そう、音羽君、あなたが漏らすのですよ」
 音羽君は飛び跳ねるようにベッドから退き、自分と距離をとりました。そこで自分は振り向いて、くりちゃんのおっぱいにタッチ(これは完全に偶然です)。フル勃起したくりちんぽから、黄色い噴水がまっすぐにあがるのを確認して再度振り向くと、既に音羽君は部屋を脱出していました。
「甘いっすよ五十妻先輩! 何せここは私の家! トイレがあるに決まってるじゃないっすか!」
 遠くなっていく声。自分は、後輩の自宅のベッドの上で、泣きながら盛大におもらしをするくりちゃんを完全に放置して、音羽君の後を追いかけます。
 音羽君の言葉に対し、あえて自分が何かを言うとしたら、こうです。
「計算済みです」
 ことおもらしに関して、自分にぬかりなどありません。


 音羽君の部屋は三階にあり、自分が部屋を出た時、音羽君は既に階段を下り始めていました。つまり二階にトイレがあるのでしょう。自分は決して焦らず、余裕たっぷりにその後を追います。すると、こんな声が聞こえました。
「あれ!? あ、開かない!」
 つい先ほど会ったばかりの、まだまだ短い付き合いではありますが、その台詞に偽りや演技が無い事は、妙にはっきりと分かりました。
「兄貴入ってんの!? 出てきて! すぐ出てきて!」
 ドンドンドン、とトイレのドアを叩く音もします。違うのです。そうではないのです。トイレの中に、人はいません。トイレは中から鍵をかけるもの、確かにその認識は正しく、なるほど常識的です。ですが、常識を超える存在を、我々は既に見につけているではありませんか。
「黄命(オウメイ)、第二の能力。W.C.ロック。そのトイレの鍵は、自分の能力で閉めさせてもらいました」
 袋小路に追い詰められた音羽君は、額から滝のような汗を流し、まるで殺人鬼でも見るような、恐れに満ちた目で、自分を見つめていました。
 自分が等々力氏と戦って、勝利した事によって得た能力は、「自分がいる位置から、最も近くにあるトイレの鍵をロックする能力」でした。
 第一の能力と合わせて使うのが基本だと思われますが、「相手に二度しか触れなかった時」「近くに逃げ込むトイレがある時」「そもそも相手が『逃げ』を選択した時のみ」と、等々力氏の第二能力に比べると、効果が出る状況が限られるゆえ、やや使いにくい能力だと自分は思いましたが、今この瞬間においては、抜群の効果を発揮しています。
「や、やめ! 近づかないで!」
 本人の了承を得ずにちんぽを生やして、それを脅しに自宅に呼び出し、問答無用にセックスを迫り、しかも拘束する道具まで準備しておく。この流れを見れば一目瞭然、音羽君は「攻める」タイプの人間です。「攻める」タイプの人間が最も弱いのは何か? 答えは単純。「攻められる」事です。
 狼狽しきり、助けを求める仕草。なんとも興奮し、自分が調子に乗るのも無理はありません。
「音羽君。足を広げて、スカートをめくってください。そうしたら、許してあげますよ」
 ノーパンの女子にここまではっきり屈辱的な命令をできる中学生は、世界広しといえども自分くらいの物ではないでしょうか。


 先ほどまで、異性に性行為を見られるのに何の抵抗も見せなかったド変態が、一転して、いっちょまえの清純派のように、頬を赤らめています。ここで自分はふと思ったのですが、音羽君は、くりちゃんと一緒にいる時は強気でいられますが、その芯は大して強くないのではないでしょうか。髪を染めたのも、言葉遣いが悪いのも、くりちゃんの影響であるように思われます。こうして一人になった時の姿は、先ほどまでとはまるで別人なのです。
 かといって、別段同情する気も起きません。自分はただ事務的に、音羽君を追い詰めます。
「例え家の中とはいえ、赤ちゃんみたいに情けなくおもらしをするのは嫌でしょう? ほら、早く足を広げないと……」
 自分はあえて緩慢な動きで、音羽君との距離を縮め、手を伸ばしました。音羽君はブツブツと、「あ、あたしはただ木下先輩とセックスがしたかっただけで……あ、あたし自身は……」ごにょごにょと呟いていますが、聞く耳など持ちあわせておりません。
「ほら、もうすぐ触れてしまいますよ」
「わ、分かりました! 見せるので、そ、それだけは……」
 音羽君は覚悟を決し、両足を肩幅に開きました。そして震える手でスカートをめくると、ちらりと楽園が見えました。
 そこはまるで砂漠。無毛地帯。つるんとした氾濫原。
「ほう」
 意外ではありましたが、出てくる所がはっきりと見えるという点では、むしろ嬉しいくらいで、しかも音羽君が、くやしそうに鋭い目で睨んでくるので、興奮度は5割増しでした。
「音羽君」自分はにっこりと笑って、言いました。「今自分は『許す』と言いましたが、あれは……嘘、です」
 定規で引いたようにまっすぐな一本の縦スジは、ひっそりと閉じ、影になった部分には、きっと男の知らない秘密があるのです。それを目指して旅をする者達は、いつか辿りつくその時、多大な幸福と、ちょっとした落胆を覚え、また何も学ばずに、女を求め続けます。生命の神秘。肉体の正門。芸術の極致。それは、なんと形容してもまるで足らない物。
 彼方より、決壊の音色が聞こえます。
 秘密の楽園から溢れ出て、掃除の行き届いたフローリングの床に落ちる黄金の聖水が、つい先ほどまで、異様なくらいにセックスを見たがっていた自分の邪な心を、綺麗さっぱり洗い流してくれました。
「素晴らしい」
 自分の息子は、釘が打てるくらいカチンコチンに勃起していました。音羽君はあうあうと嗚咽を漏らし、その様はまさに、くりちゃんがコンビニで漏らした時の再現でした。
 放尿が終わり、音羽君の頭上に目をやると、数字は98%に達していました。あとひと押し。自分は音羽君の耳元で、小声で囁きます。
「音羽君の恥ずかしい所、全部見させてもらいました」
 BOMB! と例の爆発音が鳴って、音羽君が前のめりに、スローモーションで倒れ、自らの尿の海へと突っ伏しました。
 恍惚を、涙に隠して。

       

表紙

和田 駄々 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha