Neetel Inside ニートノベル
表紙

HVDO〜変態少女開発機構〜
第二話「丘を越える空想」

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 この世に生を受けた時、俺の左右の手にはそれぞれ一つずつ「幸運」と「不幸」が握られていた。
 等々力新(とどろき あらた)、それが俺の名前。一般的な中学三年生だと思うけど、人一倍固執している事が一つだけある。これからそれを告白するが、あんまり引かないでくれよ? 誰にだって、普段人に言えないような趣味があるものだし、それに俺のは、至ってノーマルな趣味だと思ってる。
 ただ、少しこだわりが強いってだけでな。
 俺に与えられた幸運、それはこの世に「おっぱい」がある事。
 俺に与えられた不運、それはこの世に俺の納得する最高のおっぱいが無いという事だ。


 まずは大きさだ。持った時に手の平から零れるくらいがちょうどいい。まな板や牛はもちろん論外。平均よりも少し大きいくらいがベスト。次に形。これが重要。胸から垂れ下がってるのは駄目だ。とはいえ不自然に重力に逆らってるのも駄目。色々意見はあるだろうが、なんだかんだ言っておわん型こそ至高だろうな。何度見ても飽きが来ないし、「これぞおっぱい」って感じだ。
 乳首と乳輪に関してもうるさいよ俺は。乳首単品で言うなら、まだ成長途中の、小豆みたいな小粒の、膨らみかけのおっぱいに乗っかった奴が最高だが、全体のバランスはいまいち。色はだな、ピンクに限る。茶色が主流だけども、今すぐ染めて来いって感じ。処女っぽいピンクこそが最強。黒は論外な。
 おっぱいはどれも好きだけど、「究極」のおっぱいには妥協が許されない。垂れ乳信仰だとか、がっかりおっぱいフェチ、とにかくデカけりゃいいなんて奴もいるだろうが、そんなのは一時の幻想だと言い切れるね。
 いいかい? 究極のおっぱいってのは、見た瞬間にどんな男でも勃起しちまう物なんだ。俺はそれを探し求めている。世界のどこかにあるはずだってな。
 そんな俺に、神は最高の贈り物をくれたんだ。
「丘を越える空想」
 それが俺の能力の名前。おっぱいを司る、神の能力さ。



第二話


 コンビニを後にしてから学校につくまで、くりちゃんは一言も喋りませんでした。
 くりちゃんはきっと、不自然に思っているはずです。朝きちんとしてきたのに、なぜ急に、しかも登校中に尿意を催し、よりによってコンビニの店内で失禁してしまったのか。
 至極当然の事ながら、自分がこんな能力に目覚めたなんて、くりちゃんは夢にも思っていませんし、自分もそれを告白するつもりなど毛頭ございません。くりちゃんにはこれからも、訳の分からぬまま尿を漏らし続けてもらい、そのたびに自分がくりちゃんの下のお世話をして、いつしか自分が近くにいなければ安心しておしっこが出来ないような歪んだ主従関係を結びたいと自分は切に願っており、それが実現した未来を想像すると、歓喜が胸に溢れ、武者震いがしてきます。
 とはいえ、自分はくりちゃんだけを執拗に攻めるような残酷な人間ではありませんから、今もくりちゃんの透けパンツを見ながら、クラスの中でまずは誰に漏らさせるか、誰が漏らすと素晴らしい表情が見られるかを考察しています。
 学校について席についても、自分の目の前にはくりちゃんの背中があります。
「くりちゃん」
 朝の喧騒に紛れて、自分はそう呼びました。普段なら、すかさず打撃の類が飛んでくるのですが、今日は少しばかりの罪悪感と、(後処理をしてもらった事に対する)感謝があるのでしょうか。じとっと睨むだけで、暴力を振るう素振りはありませんでした。
 その機微を察し、自分はトドメの一言をくりちゃんに投げかけたのです。
「『あの事』、誰にも言わないから安心して」
 自分でやっておいて、味方のフリをする自分は、なんとズルい男なのでしょうか。我ながら、惚れ惚れする程の悪党ぶりです。くりちゃんも、そんな自分にすっかりと騙されて、小さく消え入りそうな声、精一杯の強がりで「当たり前だ」と言いました。
 傑作。まさに腹を抱えて笑いそうになる滑稽話です。
 ホームルームが終わって、一時間目の授業が始まる直前、くりちゃんがそっと席を立ちました。それをこっそり追いかけて、どこに行くのか観察してみると、どうやらトイレに行くようです。当然、先ほどあれだけ盛大に漏らしておいて、まだ出るはずがありません。自分の膀胱に自信が持てなくなったのでしょうか。


 そんな事を考えながら席に戻ると、自分の口から自然と笑いが零れていました。最初は小さく、くすくすと、次第に大きく、最終的には古いスピーカーから発する割れた音のような笑い声になっていました。教室中の人間が自分に注目していましたが、笑いを堪える事は出来ませんでした。自分は神になったのです。喜びに歌を唄いたくなりました。傍から見れば気が狂ったようにしか見えないでしょうが、例えキチガイに思われても全くもって構わないくらいに、自分の心は晴れ渡り、澄み切っていました。
 けたたましく笑う自分を止めたのは、クラスの委員長である三枝瑞樹(さえぐさ みずき)その人でした。
「五十妻君、奇行は程々にね?」
 三枝委員長は菩薩並のアルカイックスマイルで自分の事を見つめ、優しい言葉でそう突き刺しました。三枝委員長は、このクラス一、あるいは学年一とも形容されるような美貌を持ちながら、それを少しも鼻にかけず、弱者に優しく(一人でお弁当を食べている人間に声をかけている姿を何度も目撃しています)、間違っている事は堂々と指摘して正し、何よりも調和を重んじる、言わばこのクラスの戒律その物とも呼ぶべき存在です。そんな彼女の笑顔を見ていると、邪な好奇心が首をもたげました。
 彼女が漏らしたら、どんな表情をするのだろう?
 いつも冷静な彼女でも、流石に取り乱すのでしょうか。
 気づくと自分の表情は、ゆるゆるとは破顔していました。それは傍目から見れば、奇怪で、攻撃的で、歪んだ笑みだったはずです。今すぐに、三枝委員長の痴態が見たい。欲望は理性を凌駕し、自分の腕が、手が、指が、彼女に触れようと動きました。
「何?」
 そう、問われたのです。自分の手は三枝委員長に掴まれ、宙に縛られていました。彼女の言葉は非常に強力で、自分の頭の中に浮かんだイメージは、大国がこぞって所持するそれでした。
 その時まで、自分は三枝委員長という人間を誤解していた事に気づかされました。彼女は、ただ単に「優しい」「美しい」「正しい」人間というだけではなく、その額縁に入れて飾りたくなるような満面の笑顔の裏には、絶対的ともいえる力が宿り、他者を徹底して否定する傲慢さがあったのです。自分は素早く出した手を引っ込めて、謝りました。三枝委員長は、小首を傾げて、「何か悩んでる事があったら相談してね」と優等生の台詞を言いましたが、自分にはそれがにわかに恐ろしく、人間の多面性、表裏のある感情に驚いたのです。
 ちょっとしたハプニングに少しばかり湧いた教室でしたが、くりちゃんが帰ってくる時には既に沈静化し、先生が入ってくると完全なる日常が戻ってきました。


 一限目の数学の最中、自分はこれからどのようにしてこの能力を運用していくかについて考えていました。候補に挙がった内で最も魅力的だったのは三枝委員長が全校集会にて生徒達の目の前でおもらしするシチュエーションですが、彼女に「三度」触れる事はかなりの難易度でしょうし、自分自身、能力の詳細についてはかなりの部分が明らかではないので(例えば、三度触れる間隔はどの程度空けばいいのか、触れた回数はリセットされるのか、されるとしたら、いつどのタイミングでされるのか、など)、まずは隙の多い女子でいくつかの実験をしてみる必要があります。
 それから、くりちゃんを性奴隷化するステップについても、きちんと作戦を練らなければなりません。何せ人の価値観を一つ完全に崩壊させてやろうと言うのですから、その手順は洗練された物でなければならないはずです。
 その他もろもろ、能力に関しての事を想像していると、一時間などあっという間に過ぎました。授業が終わると同時、自分は逃げるように男子トイレに駆け込み、個室に入り、鍵をかけ、便座に腰を下ろして、笑いました。先ほど三枝委員長に止められたあの狂喜の続きを、一人で思う存分味わいたかったのです。
「ご機嫌だな」
 上を向くと、一人の男が自分の事を見下ろしていました。自分はその男の顔に見覚えがありました。
 同じクラスの、確か、名前は等々力。学年では、自分の次に身長が高く、その軽薄な性格と口八丁なコミュニケーション能力によってか、そこそこに「モテる」男だったと記憶しています。
「男のトイレを覗く趣味があるとは意外ですね」
 自分がそう言うと、等々力氏は「ちげーよ、馬鹿」と謗り、にやりと笑ってこう言いました。
「H・V・D・O」
 しばらくの間があいて、等々力氏は自分の顔を見て確信したように、
「聞き覚えがあるみたいだな」
 と言ってトイレの壁からようやく降り、ドアをノックしたので、「入ってます」と返すと、「知ってるよ。開けろっつってんの」と言われたので開けました。
 狭い個室の中で、でかい男子二人きり。最悪の状況です。
「お前も何か能力をもらったんだろ? 勝負しようぜ」
 等々力氏は自分の胸に拳を当てて、挑戦状を叩きつけました。

     


     


     

 勝負。
 そう聞いて、男同士でお互いにおもらしをしあう壮絶な光景を想像してしまった自分は、今すぐレーザー光線でその部分の記憶を削ぎ落としてしまいたい衝動に駆られました。
 おそらくそんな思いが表情に出ていたのでしょう。
「なんだ、性癖バトルは初めてか」少し驚いたように、「なら、俺が教えてやるよ」と、等々力氏。
 性癖バトル、その言葉の響きに抱いた自分の感情は、とても一言では言い表せません。馬鹿馬鹿しい、と思う反面、可憐な少女のおもらしを見た時に得られるあの感動は、この世からありとあらゆる戦争や貧困を無くすのではないかと八割方本気で確信している自分のこの救いようの無い性癖は、もしも他人のそれと戦ったとしても負けるはずがない、むしろ、戦った相手もこの感動を深く理解してくれるはずだとすら思えてしまって、陶酔に浸るのはやはり心地良く、「性癖バトル」是非とも受けて立ちたいとすら覚悟しましたが、同時に多々の疑問も浮かびました。
「いいか? 時間が無いから一度しか説明しないぜ? まずはだな、先攻後攻を決めるんだ。当然後攻の奴が不利だから、後攻は能力の対象にする女を選ぶ権利がある。分かりやすく言うと、あれだ。屋外でドッチボールやる時に、後攻チームが陣地を選べるのと同じ理屈だな」
 自分は頷き、注意深く等々力氏の言葉に耳を傾けます。
「それで先攻後攻が決まって、女が決まったら、先行から能力を女に使う。その様子を後攻側が見て、勃起したら負け。耐えきったら攻守交替って訳。これをどちらかが負けを認めるまで繰り返す。簡単だろ?」
 勃起したら負け。確かに、これ以上分かりやすい「興奮」のパラメーターは無いはずです。しかし気になる点が一つ。
「下品にも程があるという事は一旦置いて、各々の『勃起』はどうやって調べるのですか? 単純に見た目という事であれば、一物を股の間に挟むという技を使ってもいいのですか?」
 等々力氏は、ふふんと笑って、得意げに言いました。
「それをこれから教えてやる。五十妻、自分の性癖を言ってみろ」


「自分はおもらしが大好きです」
 聞かれるがまま、即答しました。元々隠している物ではないでしたし、実際、くりちゃんら昔からの知人は良く知っています。あまりにも呆気なく言ったのが意外だったのか、等々力氏は少し面食らったようでした。
「そ、そうか。分かった。今度は俺の番だ。俺は、おっぱいが好きだ。おっぱいと共に風の谷で暮らしたい」
 言い切った後、等々力氏が指差したのは、自身の頭上。空中に赤いマジックで描かれたように、数字と記号が描かれてありました。反射的に読み上げます。
「10パーセント」
「そう。これが今の俺の勃起率だ。つまりだな、能力者同士は、お互いに相手の性癖を知っていれば、勃起率が分かる。これで勃起を隠すという方法は使えない訳だ。ちなみに手でここを隠しても、ほら」
 数字は手の甲に映りました。自分の頭上を見上げると、等々力氏と同じように、赤い数字が表示されていました。0パーセント。
 自分が気になったのは、無駄に思えるくらい用意周到に準備されたこのシステムよりも、目の前にいる男が今うっすらと勃起している事よりも、というかこの数字があれば勃起云々はそもそも必要ないのではという疑問よりも、等々力氏の口にした「おっぱい」という物体についてでした。
「一つ、言ってもいいですか」
「ん? なんだ?」
「おっぱいは赤ちゃんの物ですよ」
 バン、と音をたてて等々力氏がトイレのドアを叩きました。
「……言ってくれるじゃねえか」
 つい先ほどまでの、無骨ながら親切な物言いとは打って変わって、他者を排除する時の鋭い言葉尻に、若干ではありますが、自分は確かにまごつきました。
「それを言うなら、おしっこは便所の物だ。違うか?」
「いえ、自分の物です」
「ならおっぱいも俺の物だ。……まあいい、勝負すればはっきりする」
 その時、改めて自分は明確に理解する事が出来ました。
 この人も、自分と同じように変態なのだ、と。


 勝負の形式についてはあっさりと決まりました。先攻は等々力氏。後攻である自分が選んだ女の子は、くりちゃん。理由は、一度自分の能力を試しているので、得られるリアクションが安定している事と、眉目秀麗の度合で言えば、学年でも三枝委員長に次ぐ実力であると判断した事、それに彼女の謙虚で控えめな胸ならば、等々力氏に味方する事は無いだろうという判断。
 そして肝心の勝負の時間は、四時限目の体育の時に、という事で合意しました。体育の授業では、現在マラソンを行っています。近所の広い公園に行って、男子は三周、女子は二周、距離にして、約六kmと四kmを強制的に走らせる、誰もが嫌がる科目ですが、自分と等々力氏の利点は一致しました。
 公園には生憎トイレが一箇所しかなく、例えば突然に急激な尿意を催した場合、それに堪えて走るか、あるいは人目のつかない場所に移動して野外放尿をしなければならず、どちらに転んだとしても「おいしい」シチュエーションになります。また、等々力氏にとってみれば、女子が走るというただそれだけで、おっぱいが揺れるという物理現象を引き起こす事が出来(くりちゃんの胸が揺れるかどうかは甚だ疑問ではあります)、自分を勃起させるに足る出力が見込めると見込んだのだと思います。
 いずれにせよ、くりちゃんに安息など与えません。
 授業が始まり、公園まで移動する最中、聞き忘れた事が一つあったので、等々力氏に尋ねてみました。
「この勝負、負けたらどうなるんですか?」
「ん? いや、特に何も起きないが」にやりと笑って、「今から負けた時の心配するなんて、自信が無くなったか?」
 挑発を混ぜる事で誤魔化そうとしましたが、自分はなんとなく、等々力氏が嘘をついているのではないか、と感じ、しかしだからといって、執拗に負けた時に背負うリスクを追求すると、等々力氏の指摘した通り、心配をしているようではないかという妙なプライドに駆られ、喋るのをやめたのです。
 それに、目の前でくりちゃんがおしっこを漏らして、それを見て勃起しない男など、想像すら出来なかったのもまた、事実でした。


 マラソンの授業が始まりました。
 女子は大抵、グループごとに固まって走るのですが、くりちゃんは前にも述べた通りクラスから孤立気味なので、一人で黙々と走っています。総勢三十八人のクラスも、それぞれに走るペースが違うので、次第に差は開き、バラバラになっていきますが、自分と等々力氏は示し合わせて同じ速度を保ち、そして一人で走るくりちゃんの背後に位置し続け、しばらくの時間が過ぎました。
「よし、そろそろいいだろう。俺から行くぞ」
 等々力氏が行動に移りました。後ろから来ている生徒とは適度に距離が取れ、前を行く生徒はそもそも後ろを気にしてません。等々力氏は、両手の人差し指と親指を使って「円」を作り、ちょうど窓を覗き込むようにして、くりちゃんの姿をそこに捉えたようです。
「俺はここから『おっぱいの素』を送り込む。良ーく見てろよ」
 はぁぁぁ……と自分の口で効果音を出しつつ、走りながらポーズを取る等々力氏は、傍目から見ると狂人の類にしか見えず、自分も同類なんだなと思うと少し悲しい気持ちになりましたが、能力の方はやはり本物でした。
 くりちゃんは一瞬、びくっと体を震わせて、自分の胸に触れました。立ち止まり、キョロキョロと周りを見回したその瞬間、等々力氏の「おっぱいの素」という言葉の意味が自分にも理解できました。
 くりちゃんの胸は、明らかに膨らんでいたのです。今までは、せいぜい仙台銘菓「萩の月」くらいのサイズしか無かったあのかわいそうな胸が、夕張メロンのように膨らんで、体操着に帆を張り、今にもはち切れそうになっていたのが瞬時に確認出来ました。
「はぁはぁ……どうだ、素晴らしい能力だろ」
 等々力氏の息遣いの荒さは、マラソンによる疲労のものとは明らかに違い、頭の上に表示された勃起率は、見まごう事無き100%を表示していました。自分の方はというと……20%。まだ余裕で耐えられる範囲ですが、愚息が反応してしまったという事実自体、変態とはいえあくまでも中学生である自分に、僅かばかりの自信の喪失を覚えたのは確かです。
「ふはは……だが、俺の攻撃はまだ終わりじゃないぜ」
 等々力氏が不敵に笑いました。

     

 等々力氏はカッと目を見開き、その視線の先にあるくりちゃんを獲物として完全に捕捉したようです。くりちゃんの様子はというと、何が起こったのか全く分からず、どうしていいかもまた不明で、まさに青天の霹靂をそのまま表情にしたような、酷く動転したそぶり。
「木下さん! どうしたんだい!?」
 等々力氏の口調はかなりわざとらしく、昼ドラでも滅多に見ないような演技臭い台詞でしたが、くりちゃんを振り向かせる事には成功しました。
 先ほど一瞬だけ見えた、くりちゃん(巨乳ver)は、確かに、その、なんというか、非常に、好ましく、大変、「不謹慎」な存在でした。
 テントを張ったくりちゃんのお胸は、サイズの合わない体操着を無理やりに着せられたまさに「不健全」な、平たく言うとドエロい存在と化し、なんとも悩ましく自分の息子が膨れ上がっていくのを感じました。41%。まずい数字です。
 振り向いたくりちゃんの胸に向けて、等々力氏が両手の人差し指をまっすぐと伸ばしました。果たして何をする気なのか全く検討もつかないまま、自分は行く末を見守り、くりちゃんは動揺したまま(その表情からわずかに、胸が大きくなった喜びのような物を感じ取ったのは気のせいでしょうか)、ダブル指差しをする等々力氏を見返します。
「……ここだッ」
 等々力氏が呟いたその瞬間、ビリビリッと布の裂ける音をたてながら、くりちゃんの体操着の、胸の部分が破れました。
「これが俺の『オカゴエ』第二能力……ピンポン破りだ……」
 くりちゃんの肌が露になりました。が、乳首は隠れています。くりちゃんは大して必要も無い癖にブラジャーをつけており、それが幸いして、モロ出しの一歩手前で堪えました。当然の事ながら、急激に巨大化したおっぱいにブラジャーは耐えられなかったらしく、フックが壊れ、肩ひもだけでぶら下がっているような状態のようで、くりちゃんは急いでブラジャーを手で押さえつけました。
 しかしながら、こちらのダメージは甚大です。下乳、上乳。二方向からの攻撃をモロに喰らった自分は、恐る恐る頭上を見上げ、勃起率を確認します。
 85%。
 やろうと思えば、相手がいるならセックス出来る状態です。


 100%になったら、その時点で自分の負けという事で勝負は決着するのですから、たった一度の攻撃の機会すら与えられずに、あの脂肪の塊に屈する事になる訳です。そんな事は、そんな事は断じて、変態の名にふさわしくありません。ここはどうにかこのいきり立った愚息をなだめ、自分のターンまで耐えるしか、打つ手はありません。
「どうだ! ピンポン破りは対象の乳首の位置を予測して、捉えた瞬間に服を一枚破れる。くく、我ながら素晴らしい能力。やはりおっぱいこそが正義だ……」
 自分は等々力氏に向き直り、胸倉を掴み、顔面を接近させて、こう凄みました。
「ブラジャーも破いてください。今すぐにです!」
 うわぁぁっとぉ! 自分で自分の言った台詞に驚きました。こんなはずでは無かったのです。勝手に同級生の衣服を破き、己が欲望を満たす為に肉体改造まで施すこの鬼畜的所業に、説教の一つでも煎じてやろうと決断したのですが、もう勃起率も90%近くなり、乳首が飛び出してきた日にはそれはもうバッキバキのガッチガチになる事は請け合いなのですが、そのような事情は、目の前の柔らかい現実には驚く程無力でした。自分の言った台詞は、誤魔化す事など出来ない本心だったのです。
「へへ、言われなくても、だ」
 にやにやと笑う等々力氏が、ほんの一瞬神に見えました。
「お、おい、お前ら何して……」
 少しばかりの平静を取り戻したのか、くりちゃんが破けた体操着と胸を両手で隠しながらこっちに向かって歩いてきました。自分達が何か良からぬ事をしているというのがバレかかっています。
「等々力氏、急いで。早く乳首を当てて下さい」
 小声で等々力氏をそう急かしましたが、等々力氏の両指は空中をさ迷い、場所が確定しません。
「ちっ、対象に動かれると……上手く狙いが……」
 言い訳など聞きたくありません。今はとにかく、くりちゃんの巨乳が拝みたい。その一心あるのみ。


「おい、オラ、お前らか、これやったの?」
 豊満で、犯罪じみた物体を抱えたくりちゃんは、こちらに近づくにつれていつもの調子を取り戻している様子で、このまま近接格闘の射程距離に入ったとしたら、両手が使えないとはいえ、カポエィラの達人も吃驚の後ろ回し蹴りが、亜光速で飛んでくるのが予感されました。
「等々力氏、早く、早く!」
「わ、分かっ……よし、ここだ!」
 次の瞬間、くりちゃんのブラが吹っ飛び、両腕のガードも開きました。
 おっぱい。
 力一杯手を伸ばせば届きそうなその場所に、二つの大きな膨らみ。
 おっぱい。
 汚れなど一切無い真っ白な肌に映える、ピンと立った桜色のポッチ。
 おっぱい。
 先人曰く、その谷の間には、桃源郷が、あるらしいのです。
 揉みたい。衝動に駆られ、視線は釘付け、勝負の事や、勃起の事など最早眼中に無く、破けた体操着からぽろりと出た二つの丘を、目に焼き付けようと、いえ、脳髄に刻もうと、まさに本能一つのみ、欲望丸出しで、自分はくりちゃんのおっぱいを、永遠にも近い時間、凝視し続けました。
 くりちゃんもただならぬ事態に気づいたのか、早回ししたかのように、顔が真っ赤に染まっていき、両腕で慌てておっぱいを隠したのですが、ちらりと見えた片方の乳首が、むしろ余計にセクシーで、更に卑猥さを加算したのです。
 ひゃ、とくりちゃんらしくない女の子女の子した悲鳴をあげて、小動物のような動きでその場に座り込み、上目遣いで恨めしげに睨んできましたが、それもまた男心を巧みにくすぐるのでした。
「勝った!」
 と、等々力氏が叫びました。頭上の数字は……。
 99%。
 絶体絶命の状況に陥り、頭の中で誰かが自分に問いかけました。
『お前は、変態ではなかったのか?』
 自分は少し考えた後、こう答えたのです。
「……自分は、変態です」


「何!?」
 99%まで超スピードで急上昇していた数字が、そこで一旦止まりました。それを見て、等々力氏は驚きの声をあげました。こんなギリギリの状態で勃起を止められる人間など、見た事が無かったのでしょう。自分も見た事ありません。
「おい、目の前に半裸の女の子が、しかも巨乳がいるんだぞ! 今の乳首見ただろ!? あの小さくてかわいらしいピンク色の! なあ、おい!」
 等々力氏がそう煽れば煽る程、自分の中で急速に気持ちが(チンコも)萎えていくのが分かりました。95%……90%……80%……。50%の半勃起まで来てようやく、自分は等々力氏に言いたい事を言えたのです。
「確かに、おっぱいは素晴らしい物です。それは認めます」
 たった一つの事、物、人、それらを「愛し続ける」のは、なんと難しい事なのでしょうか。とかくこの世は移り気で、誘惑は絶えず人の傍にあり、心は凪ではいられません。そんな中で、自分が持ってしまったこの性的倒錯は、一生を捧ぐのに相応しく、馬鹿にされても、軽蔑されても、それでもなお、誇りに思えて仕方が無いのです。
『お前は、変態ではなかったのか?』
 そう問うて来たのは、他ならぬ自分自身でした。一途で、高貴で、盲目で、そしてエロい。そんな「理想の変態像」を、自分は追い求めて生きたいのです。
「認めます、が……おしっこを漏らすくりちゃんには、きっと勝てません」
 自然と、笑顔が零れました。
 後続の生徒達の足音が聞こえました。そういえば、今はマラソンの授業中。ずっと立ち止まっていたら、後ろを走る生徒が追いつくのは当たり前の事です。
「くりちゃん、ひとまず移動しましょう」
 へたれ込んだくりちゃんの腕を自然に掴んで立たせた瞬間、ビクッとわずかに体が震えたのが分かりました。その様子から見た感じ、あと一回触れば、くりちゃんは決壊しそうです。朝、漏らした所から考えても、三分の二でタンクがフルになるのは計算上も一致します。
「等々力氏、ついてきてください」
「お、おう」
 コースから外れ、人目のつかない公園の茂みへ。反撃開始、といきましょう。

     

 人間万事塞翁が馬。何が災いで何が幸いなのか、分かった物ではありません。
 マラソン授業の時、クラスはちょうど半分半分くらいに、「寒いから上にジャージを着て走る派」と「走ってれば暑くなるから最初から体操着のまま派」に分かれ、自分は前者、くりちゃんは後者であった事が、よもやこのような展開になるとは、思ってもみませんでした。
 公園の、マラソンコースから少し外れた所に、背の高い、手入れの行き届いた茂みがあり、人目を凌ぐにはちょうど良い、夜には格好の青姦スポットとしても有名なその場所に、自分と、くりちゃんと、等々力氏の三人は避難してきました。
「ジャージを貸せ!」
 くりちゃんは、体操着から丸出しになった胸を両腕で隠しながら、自分にそう怒鳴りました。自分が、「そんな大声を出すと誰か来ますよ」と大人の対応を見せると、やはりそれは困るらしく、くりちゃんは口をくやしそうに歪めて、声を小さくして自分を何度か罵りました。
 等々力氏のジャージは下のみで、あいにく上着は無く、今、くりちゃんに上着を貸せるのは、自分のみというこの状況。これを生かさない手はありません。一応、勝負の件で確認しておきたい事があったので、しておきます。
「等々力氏、そろそろ自分の攻撃に移っても良いですか?」
「……ああ、だが俺は勃たたないぞ」
 と、言いつつも既に勃起率70%なのは、目の前におっぱい丸出しの女の子がいるからでしょう。後手には後手の有利という物があるようです。
「お、お前ら、何の話してるんだ? やっぱりこれもお前らの……!」
 くりちゃんの怒りが頂点に達する前に、自分が釘を打ち込みます。
「くりちゃん。今、ジャージを貸せるのはこの場には自分しかいませんよ。それとも、クラスメイトの助けを呼びますか?」
 くりちゃんが気軽にジャージを貸してもらえる相手など、クラスには一人もいない事は分かりきっていましたし、このような「恥」を晒す事は、くりちゃん自身が絶対に許さない事をも承知の上での、脅しに近い愚問でありました。くりちゃんは心底激怒した様子で、ふるふると体を震わせて、鋭く自分を睨みつけました。
 快感。
 支配される女性とは、かくも美しいものでした。


「……何をしろって言うんだよ?」
 表情に見とれていると、幸いにもくりちゃんの方から提案をしていただけました。「おっぱいもっかいみせろ」と早口で等々力氏が横から口を出しましたが、自分はその要求を却下して、代わりに上のジャージを脱いで、突きつけました。
「これと、くりちゃんのブルマ、プラスパンツで物々交換しましょう」
 目の前の男が、一体何を言っているのか把握する事すら出来なかったのか、くりちゃんは一瞬呆けたような顔になり、その後、「はぁ!?」と大声で、片方の手が使える物ならば殴りかかる勢いで、明確に威嚇してきました。
「布面積で言えば自分の方が多いはずですから、交換は成り立ちます。それに、胸の部分が破れた体操着を隠すのは難しいですが、ノーパンを隠すのは簡単でしょう」
「な、本気で言ってんのか!?」
「ええ、本気です。それが嫌ならば、自分と等々力氏はここからただ去るだけです」
 そうなれば、くりちゃんはこの後のマラソンをおっぱい丸出しで完走するか、あるいはここから教室まで、見つかったら人生終了のスニーキングミッションをこなす羽目になります。今、くりちゃんに選択肢と人権はありません。
「くそっ……くそぉっ……」
 半泣きになりながらも、状況は飲み込めているようです。くりちゃんは嗚咽に近い声で鳴き、自らのでっかいおっぱいをぎゅっと締め付けました。
「自分のジャージは大きいですから、余裕で下まで隠せるはずです。それに、『コト』が済めばブルマはすぐに返します。そのパンツは元々自分の買ってあげた物ですので……おっと、口が滑りました」
 くりちゃんの脳裏に、今朝の惨劇が浮かんだのでしょう。握られた秘密、そして抜き差しならないこの状況。確実に、一歩一歩、追い詰められて、王手までは後一手と言った所でしょうか。
「『コト』って……何するつもり?」
 いやらしいくりちゃんは、そっちの心配をしていたようで、自分ははっきりと、
「挿入はしません」
 と、断りを入れて、「なんで脱ぐ必要があるんだ!?」と食ってかかってきたので、「くりちゃんの為です」とだけ答え、「いいから、早くしないと授業が終わってしまいます。そうしたら、教室に帰って着替える事も難しくなりますよ」と付け加えました。
「脅し慣れてんなぁ……」
 等々力氏が感心していました。


「そんなに……じろじろ見るなっ……」
 言われても、背中に穴が開くくらいに、自分と等々力氏はくりちゃんの着替えの様子を凝視し続けました。くりちゃんは背筋を丸めて、なるべく低く屈みながら、片腕で乳を押さえ(当然、収まりきるはずがないので、正確には乳首を隠すだけなのですが)、もう片方の手で、ずりずりと、のろのろと、ブルマを下ろしていきました。自分の買った黒の生地が見え、「黒かよ」と等々力氏が笑うと、くりちゃんは睨んで精一杯の抵抗を見せました。
「パンツも一気に下ろした方が良いですよ」
 余計なお世話を焼いてみますと、渋々くりちゃんも納得してくれたらしく、パンツとブルマを同時に、左を少し下げて、右を少し下げてとやっていき、やがて尻が割れ始めました。
「まだ負けるには早すぎますよ、等々力氏」
 等々力氏の勃起率は、80%まで急上昇していました。分析するに、乳とか尻とか関係なく、この異常なシチュエーションその物に興奮をし始めているようで、自分はというと、ここから更に先の展開が見えているので、男根の方は元気いっぱいになっていました。
「当たり前だ。まだまだ俺は……うっ」
 ストン、とくりちゃんのブルマとパンツは仲良く地面に着地しました。今日ほど重力に感謝した日はありません。
 雪のように白い、生ケツ。
 内股で、もじもじと揺れるそれを見て、衝動的に襲いたくなったのは、自分だけではないはずで、隣にいる等々力氏も、コメントをくれる皆様も、みんなが一斉にルパンダイブを決め込むに足るエロいやらしい、見事なお尻でした。
「は、早く! ジャージ!」
 しかし自分は変態ではありますが、同時に紳士でもあるのです。約束は、守ります。叫んだくりちゃんの背中にジャージを被せ(触らないように細心の注意を払いました)、くりちゃんは素早くそれを着ました。やはり、背の高い自分が着ている上着でしたから、くりちゃんの背ならば十分股間まで隠れはしましたが、その下は「ノーパン」という事実ただそれだけで、満足出来るのが漢であると、そう感じもしました。
「お前ら覚えてろよ!」服を得て、やや強気になったのか、くりちゃんは悪役の捨て台詞のように、「戻って着替えたらボッコボコにしてやる!」
 そう言って、コースに戻り、反対向きに走り出しました。自分はくりちゃんが置いていったブルマとパンツをポケットに丸めて入れて、等々力氏と共にくりちゃんの後を追いかけました。


 自分のジャージを短めのワンピースのように着こなすくりちゃんは、尻にかかる布を手で制しつつ、コースを逆走していきました。すれ違う他のクラスメイト達は、ぎょっとしてくりちゃんを見つめますが、話しかけたり、笑う者など一人としていません。もしそんな事をしても、ヘビのような鋭い目で睨まれ、無視されるのが分かっているからでしょう。
 くりちゃん、なんといけない子なのでしょうか。
 自分の前から逃げ出さず、大人しくこちらの指示に従っていれば、少なくとも恥は最低限で留められたはずです。ほら、向こうから、三枝委員長を先頭に、その取り巻き四、五人の姿が見えてきました。自分と等々力氏も、もう少しでくりちゃんに追いついてしまいます。まさにくりちゃんにとっては最悪のタイミング。しかし自分にとっては、これ以上無い程の、最高のシチュエーション。
「き、木下さん?」
 三枝委員長がくりちゃんの姿に気づき、心配そうに声をかけました。学級の長として、何があったのか正確に知り、対策を立てる必要があると判断したのでしょう。しかし、何があったのか、ではなく、これから何が起きるのかの方が、ここでは重要な事なのです。
 自分は走りながら、右手を伸ばしました。くりちゃんは必死に、それでもジャージが翻らないように気をつけて、前へ前へと進みます。時間がゆっくりと流れていきました。自分は、その永劫の中で、もがくように、味わうように、くりちゃんの背中に、指先だけでそっと触れたのです。
 プシュッ。コーラのペットボトルを開けた時のような音が鳴りました。三枝委員長と、その取り巻きが、くりちゃんの表情を見て、驚いています。クラスメイトには見せた事の無いような顔をくりちゃんがしている事は、容易に想像がつきます。
「だ、大丈夫? 木下さん!?」
 三枝委員長がそう声をかけても、くりちゃんには返事さえ出来ません。くりちゃんの股間からは、理科室の水道みたいに勢い良く、黄色の液体が現在進行形で「噴射」しているのです。くりちゃんの局部と股下の空間を遮る布は、何一つとしてないのですし、許容量を越えた尿が爆発するのは極々自然の事です。哀れくりちゃんは、一日に一度ならず二度までも、他人の前で、自らの放尿シーンをご披露してしまったという訳です。
 くりちゃんはよろよろと、おそらくはその場から逃げたい一心で、自分、等々力氏、三枝委員長軍団から離れようとしましたが、足が絡まってコケてしまいました。そしてよつんばいの、ジャージの裾で局部がかろうじて隠れているような、まさに獣か何かのような格好で、しばらくの間おしっこを垂れ流し続けたのです。
「う……うぅ……うわあぁぁぁん……」
 あのくりちゃんが、子供のように泣き出してしまいました。上からも下からも、液体を垂れ流すくりちゃんに、その場にいた全員が釘付けになりました。
 その時、背後で「BOMB!」と、鳥山明の漫画のような効果音が鳴り、自分は振り向きませんでした(くりちゃんの放尿シーンを目に焼き付ける事が最優先です)。後で確認した所によると、その爆発音は、等々力氏の陰茎が爆発してしまった音だとの事です。

       

表紙

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