Neetel Inside 文芸新都
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紅い紅葉の短編集
肉まん(恋愛かなあ)

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「肉まん買ってきて」
 コタツに入り、寄り添っていると、私の恋人はそんなことを言った。
 寒いんだよ、外。と言えば
「寒いから食べたいのー」
 とダダをこね、自分でいきなよと言えば、「寒いからヤだ!」とワガママを言う。
 私だって寒いのは嫌だし、このままコタツに入って、みかんでも食べたかったが、彼女は肉まんをご所望らしかった。
「今この部屋は暖房効いてるし、コタツにだって入ってるじゃないか」
 だから寒くないだろ? と、やんわり彼女から肉まんを忘れさせようとするのだが、彼女は下唇を出し「外は寒いじゃない!」と怒鳴った。
 彼女が肉まんを食べれば、外の寒さは収まる、というような言い草だ。
 私も彼女と同じで寒いのは嫌いなので、「絶対にいかないよ」と頑なに断り続けた。
「じゃあいい、諦める……」
 すると彼女はむくれてしまい、じっとテレビを睨み続けた。テレビに親の仇が出演してる、というような面もちのまま、数分間無言が流れる。
 こうなると、大概私が折れる。
 今回もパターン通り、私が痺れを切らし、「わかったよ、買ってくる」と立ち上がり、コートを羽織る。
「やっさしー」
「うるさいな」
 はやし立てるような彼女の声を背に、スニーカーへ爪先を滑らせ、温かな空気に後ろ髪引かれながら、ゆっくりと部屋を出た。

 外に出ると、気安い友人のように、寒さが襟に手を回してきた。
 背筋が粟立ち、思わず「寒っ」と呟いてしまう。
 コンビニへ向かう道すがら、私はつい先日友人から紹介された、とある女性を思い出していた。
 一言で言えば、彼女とは真逆の女性だ。
 黒い髪を腰まで落とし、汚れを知らぬ少女のような、透明感溢れる顔は、なるほど、男受けするなと思った。
 その後、なんどか飲み会をし、いい雰囲気になって、その場の勢いに流されそうになったが、彼女を抱いてしまったらシャレにならないと思い止まった。
 彼女の、少女のような可憐さに救われたのだ。
 しかしその後、ふとしたきっかけで考えてしまう。
 今の彼女より、あの女性のほうが魅力的ではないのか、と。
 あの女性は男を立てるタイプだし、彼女と違ってワガママを言わない。私がヘタレた時も、『気にしないでください』と言ってくれたほどだ。
 彼女だったら、鬼の首をとったようにやじってくるだろう。
「はぁ……」
 ため息が白くなって、空へと昇っていく。
 気がつけば、コンビニの前まで来ていた。

「ありがとうございましたー」
 店員に営業用スマイルとお釣りと肉まんをもらって、私は温かな店内から、寒空へ逆戻り。
 肉まんで手を温めようかと思ったが、熱すぎて火傷するかと思った。
 スニーカーから、アスファルトの冷たさが伝わってくるかのように寒い中、我ながらバカなことをしているな、とも。
 彼女に肉まんを諦めれてもらえば良かったのだ。そうすれば、こうしてかじかんだ手を息で温めなくても済んだのに。
 しかし彼女は、とてもワガママで、一度言い出したら私の言うことなんて聞かない。
 なぜワガママを聞くんだ、と友人に訊かれた時、私は少し迷ってから、彼女のため、と答えた。そういえば聞こえはいいが、聞こえがいいだけで行動するのは、やはりバカなことだ。

 彼女への恨み言を口にしながら、私は自宅のアパートまで帰ってきた。
 冷えた体を温めたくて、早足で階段を駆け上がり、震える手でカギを開けた。
「ただいま」
 暖房のあら熱が私を出迎えてくれた。暑い、と思ったが、それはすぐに温かさに変わったため、ホッとため息。
「おかーえり」
 居間からひょこっと顔を出す彼女。
「はい、肉まん」と肉まんを投げ渡すと、危なっかしい手つきで肉まんをキャッチした。すると彼女は、その肉まんをそのままダイニングテーブルに置いた。
 おいおい、せっかく買ってきたんだぞ、食べないのか肉まんと抗議しようとしたが、彼女が私の手を取ったため、抗議し損ねた。
「――ごめんね? いつもワガママ言っちゃってさ」
 と、歯を見せて子供のように笑った。
 彼女の謝罪が手の温もりとなって、手から全身に染み入る。
 そこで私は気づいたのだ。
 ――私は、ワガママを言って、甘えて、笑顔が可愛い彼女が好きだ、ということに。
 あの女性は、私に寄りかかろうとはしなかった。むしろ逆で、私と同じ、寄りかかってほしい人だったのかもしれない。
 たしかに魅力的だったのかもしれないが、そういう部分で馬が合わなかった。
「寒かったでしょ、肉まん、特別に半分食べていいよ」
 彼女はそう言ってくれたが、私は彼女との別れを考えてしまった罪悪感から、「いや、いいよ」と言って断った。
「いいから食べなよ」
 しかし私は、断固断り続けた。すると彼女は、「じゃあいい、諦める」と言って、肉まんを持ってコタツに入った。しかし、肉まんに手をつけようとはしない。
 呆れてしまった。
 しかし、それが嬉しかった。
 私はコートをハンガーに掛け、コタツに入って、肉まんを半分に分け、少し大きい方を彼女に渡す。
「せっかく買ってきた肉まんを冷ますのはもったいないよ」
 すると彼女は、嬉しそうに肉まんを受け取り、「いただきます」と小さくかじった。
 リスのような彼女を見ながら、私は思った。

 私は、彼女のワガママに、助けられているのだろう、と。

     

肉まん

確か、お題もらって小説書こうぜというVIPのスレで書いてた作品だったはず。
もちろん、肉まんがお題。フツーの恋愛を書こうとして奮闘してた気がする。んで、そこそこと評価もらった覚えがあるけど、どうだったっけ?
覚えてる限りだと、比喩がいいって言葉を頂いた気がする。比喩は文章を彩る花の様な役割をしていると思っているので、褒められると文章に花があると言われているようで、非常に嬉しいです。しかし全体の完成度としてはどうだろうなあ、と首を傾げてしまいます。星新一先生のような、もしくは、ホルヘ・ルイス・ボルヘス先生の様な、味のある短編が書きたい物です。短編にはプロットとムードがあればいいとボルヘス先生は言っていましたが、個人的にはそのムードが見つからないので、短編を書くのは好きですがあまり書けないというのが現状です。むう。お題とかいただいても、なんかしっくり来ない小説しか書けないし。こういうのは慣れが大事なのかな。

       

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