Neetel Inside 文芸新都
表紙

紅い紅葉の短編集
悪夢のようななにか(見た夢を小説にした)

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 ここから先にするのは全部夢の話だ。
 僕がどんなに間抜けでも、どんなにかっこ悪くても、それは現実に一切影響がないノンフィクションだということをわかってもらわないと、この話はできない。



 夜寝る前のことだ。僕は部屋でエロ画像の収集に勤しんでいた。どんなものかは覚えていないが、確実に二次元であろうことは言える。画面の向こうでだって、三次元はキツイ。僕は潔癖症で、女性の痴態というものが苦手だった。粘液と粘膜の滑り。その奥にある細菌などを想像すると、正直キスでさえ嫌悪感を催す。口内は細菌の住処だ。都心の繁華街の人口密度より高い。それを交換しあうのだから、すわ恐ろしい文化を作ったものだと感心する。細菌が認知されてない時代だったとしても。
 人の体温も苦手だ。じんわりと、無遠慮に侵入してくるあの感じが堪らなく嫌いで。
 つまりは性交渉というものに、とてつもない嫌悪感を持っていた。
 だからこそ、僕は体温もなく、細菌もなく、接触が絶対にない、理想を具現化した二次元というものに傾倒したのだった。

 話が逸れてしまったけれど、とにかく夢の中で、僕はそんな情けない事をやっていたのだが、そこにノックもなしで母親が部屋に入ってきたのだ。現実でも、母がノックしないことは僕の小さな悩みになっている。
 母は普段僕のパソコンを覗きこむことなんてしないのだけれど、突然「アンタも好きねえ」とパソコンを覗きこみながら、呆れたように言った。僕はもちろん怒った。ノックくらいしろ、こういう事が起きるのだから、と。しかし後から考えてみれば、いい年の男がこんな場面を見つかってマジギレするのだから、恥も外聞もない話だ。
 母親は逆切れし、部屋に帰っていく。僕もなんだか疲れたので、眠ることにした。


 明け方のことだ。
 僕は自らの叫びで目を覚ました。一体何故叫んだのかは覚えていない。思い出そうかと思ったのだが、ベランダが騒がしい。なんだろうと思い、ベットから降りて、カーテンの隙間から漏れてくるわずかな光を頼りに、カーテンを開けてみる。

 ベランダには、何故か五~六人の女子高生が居た。

 まずは、誰? だ。何故ベランダにいる?
 そして次に、ベランダに居るということは、寝ている僕の隣を通って行ったことになる。その事実がただただ僕を不快にさせ、同時に恐怖をほんの一匙心の中へと落としてくれた。
 段々と心に恐怖が混ざって不安という感情が調合されると、僕は母の部屋へと向かった。あの少女達が誰なのかは知らない。つまりは母親なら知っているかもしれないという、単純な思考による行動だった。
 僕は泣きじゃくっていたと思う。この状況がただただ不気味だった。母親に助けを求めて、まるで物置に閉じ込められた子供みたいに、扉を必死に叩いた。しかし返事はない。明け方なので、不機嫌そうに飛び出して来てもいいはずなのだが。
 しかたがないので、部屋の扉を開くと、そこには母親の姿はなかった。
 一体どこへ行ったのだろう。トイレか? と思ったが、トイレにもいなかった。出かけたのか? こんな朝早くに?
 未知しかない恐怖が、僕を煽っていた。きっと現実だったらここまで狼狽はしなかったはずだけれど、夢の中の僕は女性恐怖症が加速していたらしい。家に家族以外の女性がいる、という状況がとても嫌だったのだ。
 しかし、女子高生達が僕の部屋のベランダに居るという状況は変わらない。なんとかしてくれそうな母親もいない。つまりは僕がなんとかするしかないわけで。
 勇気を出して部屋に戻り、ベランダの女子高生達を見た。普通にしていた、と思う。
 この状況下で何が普通だ、と思う。けれど、彼女達は、まるで通学用のバスを待っている間の雑談でもしてる時のように、普通の女子高生に見えた。
 窓の鍵を開けると、彼女達は一斉にこっちを見た。向けられる幾つもの目にたじろぎそうだったが、なんとかなけなしの勇気を、雑巾でも振り絞るみたいに、口から吐き出した。
「お前らは誰だ?」
 僕にしては上出来だったと思う。
 初対面の女性に対して、不法侵入された不快感を顕にできたのだから。
 すると、彼女達の中のひとりが、僕に拳を差し出してきた。何か握っているのだろうかと、その拳をジッと見た。すると、勢いよく彼女がそれを開く。出てきたのは、ししゃもの卵のようなものだった。
 一瞬弁当のおかずかな、とでも思った僕は、きっと瞬間最大風速的に最高のバカだった。
 そのししゃもの卵が飛んできて、僕の目に入ったのだ。
 目の中で蠢いている、そのししゃもの卵はどうやら虫だったらしい。僕の目に入った数匹の目が見えた。アリのような鋭い顎を持った生き物だった(夢の中の話だから、見えるわけねえだろという発言は飲み込んでほしい。僕もそう思った)。
 目を食いつぶそうとしているんだとわかった僕は、すぐにそいつらを潰した。もちろん、目に指を突っ込んで。結果として変わっていないけれど、過程が短くなったのだから万々歳だ。もちろん痛みはなかった。それよりも食われている最中の方が痛かった。
 彼女達はそんな俺を見て、笑っていた。蔑む笑いだ。『間抜けだこいつは』と、声のトーンで言っている。
 それに腹が立ったのもあるけれど、それより危機意識の方が強かったと思う。僕はすぐに窓を閉めて、鍵も降ろした。迅速だったおかげか、彼女たちは何もできなかった。
 かと思ったのだが、彼女たちは窓の隙間から、先ほどのししゃもの卵みたいな虫を部屋の中に入れてきたのだ。また目を潰されてはかなわないので。僕は先にそいつらを潰してやることにした。指先がまどろっこしくなったら手のひらで。それも面倒になれば、足で踏みつぶした。
 何度も何度も。もうあの痛みは嫌だったから。
 どうやら種切れになった辺りで、遠くからドアが閉まる音がした。
 母が帰ってきたのだ。そう思った。
 だから走って母の部屋まで行ったのだが、やはりいない。見ればトイレに入っていた。
 この状況で呑気にトイレ? なにを考えてるんだ。
 まあとにかく状況が好転するかもしれない。そう思ったから、ノックした。さっきよりも必死で。なにせ片目が潰れているのだ。もう片方が潰される前に、なんとか母に助けてもらおうと思った。
 けれど返事はない。
 今度は部屋が騒がしいので、僕は焦りながらも戻ったのが悟られないように、ゆっくりと引き返して、部屋を覗いてみた。ベランダの女子高生達が、何かを叫びながら窓を叩いていた。とてつもない形相だった。全身のシワが眉間によっているのでは、というくらいに、眉間には深い谷が掘られていた。
 僕は恐ろしくなって、トイレまで引き返した。もうイヤだった。
 すると母親は玄関に居て、今度は出かけようとしていたのだ。
「ちょ、ちょっとどこ行くんだよ!」
 母の腕を掴んで叫ぶ。僕は左目が潰れて、涙と鼻水でパックしたような顔だったし、焦ってたので、まともに話せていたかは自信がない。
「どこって、出かけるんだけど。友達と用事あるし」
 至って普通の調子だった。僕の顔が見えないのだろうか。
「いやいやいや! あのベランダの、なんだよ!」
「ああ。あの子達は、アンタの生き別れの双子よ」
「双子!? 二人っつーか五~六人いたけど! 六つ子じゃねえの!?」
「これから一緒に暮らすんだから、仲良くしときなさいよ」
 そう言って、僕の手を振り払い、母は出かけていった。僕の心に渦巻いていたのは、絶望感だった。きっと殺されるんだ。そう思った。
 だから、突然目の前が暗転しても驚かなかった。

 目の前には、何かのゲームのタイトル画面。
 どこからか、聞き覚えのない声。
「これはあなたの人生を元にしたゲームです。あなたは常に監視されています」



 その声を最後に、僕は目を覚ました。
 目の前にはいつもと変わらない部屋。台風の風に叩かれてうるさい窓。
 一瞬わけがわからなくなったけれど、さっきまでのことは夢だったんだとわかった。
 ああ、よかった。本当に怖かった。安心したけれど、僕はカーテンを開けられなかった。またあの女子高生達がいるのでは、と思ってしまって。風でうるさいのではなく、女子高生達が窓を叩いているのではと思ってしまったのだ。


 これが僕史上最大の悪夢だった。
 見てから一時間くらいはものすごく嫌だったのだが、母に話すと大爆笑されたので、正直もう怖くもなんともなくなった。
 二度と見たいとは思わないけれど。

     

悪夢について


 何日か前に見た夢を小説にしました。
 ほとんど正確ですが、多分大事な所を忘れてるんですよね。じゃなかったら多分もっと怖いはず。僕はあんまり悪夢を見ないタチなので、この程度でも怖いんですよ!
 ただこれを書く前に、作中でも書いた通り、母親に話したらびっくりするぐらい大爆笑されたので、「ああ怖くねえんだこれ」とか思いながら、できるだけ怖くするように心がけました。
 悪夢なんてタイトルつけたけど、対して真剣に読まなくていいです。甘露寺啓介書けない手遊びだったんで。

       

表紙

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