Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 家に帰ると、使用人が玄関先に待ち構えていた。こういう時は、必ず誰かが来ているということだ。
「クヴァール様がお待ちです」

「やあ。久し振り」
 居間には、見覚えのある青い髪の青年がソファに腰掛けていた。
「高校に入ってから、全く会ってなかったね」
「そう。それより、鳥籠から出た気分はどう?」
 無邪気な声に、顔が歪むような気がした。ジェイには、友達が死んだことは分からない。それは分かっていたのに、どこかに慰めてくれる事を期待した自分がいることに気付いて、白井は少し嫌な気分になった。
「いつもと変わらないよ」
 白井が浮かない顔をしていると、ジェイが口を開いた。
「……そうだ、そう言えば、こんなものを見つけたんだ」
 ジェイは金属でできたフリスビー大の円盤を取り出した。真っ二つになっている円盤が、白井とジェイを挟んでいるテーブルにゴトリと置かれた。
「何?」
「これ、この辺で有名なUFOでしょ。見つけたからナイフで切ったけど、なかなかすばしっこくてさ」
 UFO……か。白井にとってはどうでも良かった物だが、それにしては手の込んだ精巧な作りだったのが気に掛かった。
「それより、いきなり訪ねてくるのには訳があるんでしょ?」
「あ、うん」
 ジェイの顔が、ちょっと固まった。白井がいつもと違うのを感じ取った様だった。
「その……任務だよ。河原崎直々の」
 河原崎は、ホワイトハウス爆破未遂で捕まり、そこから脱走していたが、まだ組織に戻っている訳ではなかった。その河原崎の任務と言えば、大体は分かる。
「ようやく日本に入国するから、保護するように、だってさ。僕とリオも手伝っての任務だよ」
「……やっぱり」
「明後日の午前2時。その時間に、河原崎を乗せた小型潜水艇がここの湾にやって来る。一応変装はしてくるらしいけど、念のために僕達を寄越して来いって事みたいだね」
 白井は、明後日の2時、とジェイの言った言葉を辿った。その頃には、事件は解決しているだろうか……。

 次の日になると、警察の厳戒態勢の元で、外出が認められるようになり、学校にも行けるようになった。だが、恐怖と悲しみがごちゃ混ぜになった教室のムードは最悪だった。
「全く、誰も彼も話さないのよ。退屈してたのに、これじゃ学校に来ても最悪じゃん」
 その中で菅原だけは相変わらずだった。
「死ぬかもしれないのに」
 そう言う白井に向かって、あーはいはい、と半ば荒れた返事を返した。
「ウチはね、そんな小さなこと気にするよりはもっと大事に時間を使いたいの。死ななかったら心配した時間が無駄になるじゃん。どうせ、死ぬときは死ぬんだし」
 菅原らしいな。と白井は思った。不謹慎と言えば不謹慎だが、そんなに豪快な事を口走るのは、白井には真似出来ない事だった。
「菅原、真っ先に死にそう」
 口の悪い誰かが言うが、それを聞くような菅原ではなかった。

「学内にも死者がでたから、親達も血眼になってる」
 そう教えてくれたのは、倉内だった。オカルト好きな彼女はやはりUFOを追い続けていて、ポケットには小型のデジタルカメラを常備している。倉内は帰り道に落ちている小さな石を蹴飛ばした。
「あーあ。本当にどうして黒柳君が殺されなきゃいけないのかな」
「……だよね」
 白井には、黒柳が殺される理由が思い当たらなかった。もっとも、無差別殺人なら話は別だが。
「殺人の理由が分からないよね。家の中に侵入してまで人を殺すなんて、普通はしないよ」
「…………」
「もしかしたら、幽霊とかの仕業かもね」
 白井は視線を落として考えた。無差別殺人にしては、何故か黒柳だけ限定的な扱いだ。今まで、屋内であんな風に殺された人はいなかった。
 黒柳が死んだ理由、彼の性格から考えて……
「……あ、あれ!」
 倉内が興奮した声を上げた。落とした視線を持ち上げてみると、その指差す先に浮遊するUFOを発見した。
「あんなに小さかったんだ。今すぐ写真に……」
 カメラを構える倉内。するとUFOは不規則に揺れ動き始めた。
「あっ……ダメだ、追いきれない……」
 UFOはフラフラ動きながら遠ざかっていく。倉内も白井も(白井は倉内を追い掛ける形だが)それを追っていたが、すぐに見えなくなった。倉内が息を切らして立ち止まった。
「速……」
 倉内はがっくりと肩を落としていた。その姿が例えようもなく可哀想だったので、白井は声をかけることにした。
「またチャンスが巡って来るって。だから諦めないでよ」
 励ました後で、しまったと思った。けど、その目の輝きを幻滅させたくもなかった。
 黒柳が殺された理由。それは、彼が事件について、何か知ってしまった可能性がある……そう白井は考えた。もしそうなら、わざわざ彼の部屋へ殺しに来る理由がはっきりしている。勿論、口封じだ。
 それは相当に『やばい』事件。
 そして、黒柳が殺されたとなると――


 白井は黒柳の部屋にいた。探し物は、警察の捜査では出てこなかった。家の周りの警察を昏倒させ、気付かれないように窓から忍び込んだ。
 ――きっと、黒柳を殺した奴も同じように……
 首をぶんぶん振って目の前の散らかったままの部屋に目をやる。この部屋のどこかに、もしかしたらあるかもしれないものを探す。隠すとしてもそんなに大掛かりな場所に隠す余裕はないはず。だが、机の引き出し隅や、カーペットの裏などを調べても、何も出てこない。簡単に見つけられると思っていたが、なかなか見つからない。
 ああ……ないのか。
 犯人が持ち去った可能性に、白井が気付いたのはこの時だった。それもそうだ。もし本当に『やばい』事件なら、そんなもの、ここにあったらとっくの昔に無くなっているはず……。
「……!」
 分かる。分かった。彼がどこに隠したのか。どこに隠すべきなのか。
 ――当然、敵が絶対に見ないところに決まってる。周りの人目が多くて、かつ地味な場所だ。
 つまりは。




 学校だ。

       

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