Neetel Inside ニートノベル
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act!on -Ragnarok-
Apprentice

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 電灯が消えた狭い通路では、黒い影、クナイ、手裏剣が縦横無尽に飛び回り、時折見える刃の静かな光が、音を響かせてぶつかり合っていた。飛び回っているのは、伊吹とドゥ。忍部隊同士、さらに過去の師弟同士の戦いは、明らかにドゥが有利だった。
「ほう、腕を上げたな……以前作戦に参加した時とは違うようだ」
「甘く見ないでよ。あたしだって、ただ毎日だらだら過ごしてたんじゃ無いんだから!!」
「それにしては、動きに無駄が多いようだな。その程度で仇が取れるとでも?」
「うるさい!!」
 伊吹がドゥに突っ込んで行った。しかし、そこにはドゥの影は無く、刀は空を切った。
「!!」
 ドゥは背後に回っていた。
「忍の戦い方……相手に気取られることなく、素早く仕留める。忘れたわけではないだろう」
 伊吹は宙返りでドゥとの距離を離した。
「『その為の忍術で臨機応変に』……でしょ?」
 そう言って、伊吹がドゥを睨む。ドゥも伊吹を睨みつける。
「覚えがいいな。それを体得した訳ではない様だが」
 ドゥが分身し、狭い通路が、彼の姿でいっぱいになった。
「さあ、見せてみろ、お前の力量を、お前の『忍の技』を」
 分身が一斉に伊吹に襲い掛かる。伊吹はその影に怯まず、真っ直ぐに敵の場所を見つめていた。『影』じゃない本物を見極める……。
 その時、クナイが伊吹目掛けて真っ直ぐに飛んできた。それを両手の小刀とクナイで弾く。そして、上から急降下してきたドゥの刀身も、しっかりと受け止めた。
「成る程、伊達にこの作戦に参加しただけはある」
「お姉ちゃんの特訓のお陰よ」
「……では」
 刀での目にも止まらぬ連撃。伊吹はその全てを凌ぎきることは出来ない。すぐに勢いに押され、伊吹は後ろに下がった。
「くぅっ…………!!」
「どうだ? 少しは力の差を理解したか?」
「……全っ然!!」
「物覚えは良いが、物分りは悪い様だな」
 伊吹はクナイを取り出し、それを投げつけた。それをドゥがクナイで弾き飛ばす内に、伊吹はドゥに向かって真正面から突進した。
「ふん、其処だろう?」
 ドゥが後ろに向けて刀を振ると、背後にいた伊吹がその刀を受け止める。そして、ドゥに突っ込んでいた伊吹の『影』は、掻き消えていった。
「小賢しい真似を」
 既に伊吹は息を切らしているが、ドゥは余裕の表情で更に刀を振るう。必死に対抗する伊吹だが、すぐに距離を離した。彼女の肩から血がじわりと流れていく。
「ッ……」
 伊吹が歯を食い縛る。
「もう終わりか?」
「まだ……終わらない……これが取って置きの技……!!」
 伊吹は叫び声を上げ、煙幕を使った。周りを煙に囲まれ、ドゥはため息を吐いた。
「……子供騙しだな。忍が、そんな物に引っ掛かる訳が無い」
 しかし、ドゥの予想外にも、其処に沢山の気配を感じた。どれにも息遣いを感じ、ドゥは困惑する。
「な……何」
 正面から、5人。後ろから、4人。気配がかなり近づいたとき、クナイが後方から飛んでくる。
「後ろか……!!」
 しかし、本体は正面からやって来た。ドゥは素早く身を翻したが、それでも避けきれずに腹部に傷を負った。一撃をようやく打ち込んだ伊吹は、自慢げに、しかし苦しそうに笑っていた。その顔に応えるかの様に、ドゥも笑みをうっすらと浮かべた。
「ふ……中々。これがお前の特訓の成果、と言うことか」
「まだまだ……!!」
 苦しそうに吐き捨てた伊吹に、ドゥはその笑みを顔から消し去ると、静かに言った。
「戯れ言を。その笑み、直ぐに消してやる」
 すると、ドゥはソフトボール程の大きさの物を取り出した。それを空中に投げ上げる。
 ――――爆弾……!?
 伊吹の予想通り、その爆弾は空中で爆発した。しかしその後、その爆弾から弾丸が散乱する。
 ……やばい!!
 狭い通路では、伊吹に逃げ場はない。咄嗟に急所を守ったものの、代わりに守りきれなかった脚には容赦なくその弾丸が降り注ぐ。その一方で、ドゥの刃は巧みに舞い、全ての弾丸を弾き飛ばしていた。
「あ、足がっ……!!」
 足の数ヵ所から血が噴き出し、痛みに伊吹が膝を突いた。
「さて、足は封じた。忍の命を失った今や、お前は既に死んでいる訳だが」
「……く、うぅ」
「さぞかし無念だろう。だが、任務を失敗した罪。ここで償って貰う」
 ドゥが刀を振り上げる。伊吹の目には、佐藤や相川、そして日向やウヌの姿が浮かんだ。
 信じる。信じてくれてる。
「……死なない……」
「何だ?」
「まだ、あたしは死んでなんかない!!」
「口の減らない……」
 ドゥは呆れていた。
「死んでいない? いや、この状況を見てみろ。誰が見ても其れは負け惜しみにしか聞こえない。……死以外に、何が言える?」
 ドゥは刀を降り下ろした。伊吹はクナイでそれを受け止めた。
「いや、違う……大事なのは『最後に生きるか、死ぬか』。そう言ったのは、服部、あんたじゃん!!」
 『服部』の響きに、ドゥは刀にかけていた力を止めた。
「服部か。……ふ、まだその名前で呼ぶとはな。確かに、昔俺はそう言った。だが、その状況でどうやって生き残るのだ」
 伊吹がドゥの刀を振り払い、ドゥを凄みのある眼差しで睨み付けた。
「まだ足は……動く……からっ!」
 伊吹は力の入らない足を無理矢理持ち上げようとした。痛みが頭の芯まで貫いて、意識が何処かに飛んでいきそうになったが、ガクガク震える足を押さえ付け、どうにか体を完全に起こした。
 顔を上げる。
「負けん気だけは有るようだな」
 視線の先で、ドゥが伊吹を見下ろしていた。
「……負けん気だけなんかじゃない。あたしには……色んなものが詰まってる!! だから……あたしは生きなきゃいけない!!」
「では、見せて貰おうか。お前が死なないと言う、その根拠を」
 ドゥが再び身を屈め、臨戦体制を取った。そのプレッシャーが、周りの空気をズシリと重くしていく。足の痛みと重なった威圧感は、伊吹にとって重たい枷となった。
 辛い……だけど……
 こんなもの、
 苦しい内には入らない!
「行くぞ」
 ドゥは壁を蹴り、そのまま超高速で壁から天井、そして床へと飛び回る。暗闇の中に溶け込んだドゥを捉えるため、伊吹は今まで教えを乞うた人達の言葉を思い出していく。
 こういう時、お姉ちゃんはなんて言ってたっけ……
『――目で見るのではなくって、空気や音を感じるんだよ』お姉ちゃんの台詞だ。
『――空気の流れを知る事は、森羅万象の理、心理すら知る事と同じだ』次に、目の前で対峙している服部の言葉が浮かんだ。
『――だから、最後まで戦って、最期にベタな台詞言って死ねたら、最高だな』
 最後に佐藤の言葉が浮かんで来た時、ちょっと吹き出しそうになった。馬鹿馬鹿しいけど、確かにその通りだ。
 目を瞑って、空気の流れを見極める。僅かな変化を見つけるんだ。全身の神経を研ぎ澄まして……。
 分かる……!!
 空気の流れを、伊吹は正確に感じていた。そして、伊吹はその流れからほんの僅かな攻撃の気配を汲み取り、投げられるクナイ、襲い掛かる刃を全て受け止めた。
「な……!!」
 私にも……分身が見える!
 手に取るように、動きが……心が……!
 今度は私が……攻める!
 小刀が、伊吹の手の中で踊り始めた。次の瞬間、伊吹は足に感じている重い枷を振り切り跳んだ。
 黒い影が激しくぶつかり合う。ただし今度は、息吹はドゥと対等に渡り合っている。
「やるな。流石は元俺の弟子だ」
 暗闇に響くドゥの声音は、半ば嬉しそうだった。
「もう、弟子じゃない。あたしは師匠……いえ、服部、あんたを倒す!」
「それは楽しみだ」
 2人は同時に地面に降り立った。ドゥはクナイをまるで弾幕を張るかのように投げ、伊吹も負けじとクナイを投げて撃ち落とす。
 お互いのクナイがなくなった。2人はそれぞれ刀を抜き、相手に向かって突進していく。
 ガキィン!!
 2つの刀が宙を舞い、それぞれが床に突き刺さった。伊吹もドゥも、刀に手は届かない。
 だったら!!
 2人はその場に落ちているクナイを掴み、さらに煙幕を爆発させた。金属のぶつかり合う音が、煙の中で何度も何度も鳴り渡る。
 煙幕から抜け出した伊吹は、近くにあったドゥの刀を床から抜き去り、煙幕の向こう側にいるドゥに向かって突撃した。
 向こうからは、煙を突き破り、ドゥが小刀片手に殺意を突き刺そうと伊吹に迫る。

 ―――― 一閃。
 ドゥの刃が、伊吹の顔を掠めている。そして、ドゥの腹部には、伊吹の小刀が突き刺さっていた。
 だが、見事に最後の一撃を決めたはずの伊吹の顔に、戦慄が走った。
 …………え!?
「……見事……と言うべきか。教えを忠実に守っているようだな」
 ドゥがそこまで言ったとき、伊吹は違和感の正体に気付いた。
 ――背後に、気配を感じた。
「だが……」
 次の瞬間、伊吹の身体を刃が貫いていた。痛みと驚きで、身体はピクリとも動かなくなった。
 今のは……まさか……!!
「これはお前自身の技だったはずだ。それを見切れぬようでは、生きる資格など……」
 そんな……
「終わりだ」
 ドゥが刀を抜き去ると、伊吹は力無く横たわり、傷口からは大量に血が流れていった。
「…………」
 世界から音が消えていく。
 伊吹は、虚ろな眼差しを上に向けた。ドゥが、冷たい瞳で嘲るように、だが無表情で伊吹を見下ろしていた。
 悔しさが込み上げてくる。それでも、ドゥが動くことはなく、こちらを見るのを止めはしなかった。
 瞬間、圧倒的な絶望感が伊吹を包み込む。

 私は……死ぬんだね。

 意識が夢の中に落ちていくように、ぼんやりと消えていく。痛みもいつからか感じなくなった。伊吹は消えかかっている意識の中で、日向や相川、それに佐藤の姿を思い描いた。

 ――――佐藤、みんな……結局ダメだった……よ。裏切る事に……なっちゃって、ゴメン……

       

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Neetsha