Neetel Inside ニートノベル
表紙

act!on -Ragnarok-
shotgun dance

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 ――広間には、相川とクヴィン2人が対峙していた。
「あら、いいのかしら。貴方一人で、ホントに大丈夫?」
 二人は円を描くように歩いている。その円の中心に、二人の視線がぶつかり合っていた。
「何度も言ってるでしょう。私の方が強いって」
「口の減らない生意気な小娘ね……」
「私からすれば、あなたの方がよっぽど小娘ですよ。まだ20歳そこらでしょう……私は26ですけど」
「まだ19でしてよ。……調子に乗っている様ね。甘く見ないで下さる?」
 クヴィンは苛立ちを隠そうともせずにはっきりと言った。
「……小細工の効いた銃なんて持ってても、実力がなければ、私は倒せませんよ?」
 相川は拳銃を取り出し、クルクルと回して見せる。その行為に、クヴィンの顔がひくついた。
「お黙り。小細工結構。勝てばいいのよ、勝てば!!」
「勝負、ですか…………試してみますか?」
「証明してさしあげますわ。貴方の言う小細工の素晴らしさをね」
「シンプルイズベスト、ですよ」
 しかし、相川は単純な撃ち合いで勝てるとは思っていなかった。クヴィンの、直属になるほどの力量をもってして、小細工と言うのはむしろ「鬼に金棒」なのだ。
 さらに、この広間には大して障壁になるものもない。あのショットガンの威力ならさして関係がないのかも知れないが、姿を隠せる場所もなければリロードも難しい。相川に分の悪い戦いだった。
 だから相川は、真面目に撃ち合う事を、初めから諦めていた。
「さあ、行きますわ!」
 右手のプラズマショットガンの銃口が、相川を捕えた。
 即座に相川はかわそうとしたが、プラズマの速さは実弾よりはるかに速く、かわしきれず僅かにかすめた。かすめただけで身体中に、痛みとも取れる程の痺れを感じた。
 これはまずいかも知れない。直感したが、今の段階ではどうすることも出来ない。
 休む間もなく、次から次へとショットガンが放たれる。相川はそれらを凌ぐだけで、ひたすら防戦一方だった。攻撃の暇がない。
「どうしました? シンプルイズベストと言った口はどこに言ったのかしら?」
 クヴィンは心底愉快そうに相川を弄んでいる。
 その間にも電撃は部屋を飛び交い、相川の顔に焦燥の色が浮かんだ。
「生きがいいわね。じゃあ、コレはどうかしら!?」
 クヴィンの片手から、ショットガンが放り上げられた。と同時にその手には、グレネードの様なものが握られているのが、相川には見えた。
 ――――目の前が真っ白になった。聴覚も麻痺し、耳鳴りが聞こえて来る。
 スタングレネード……!!
 右も左も分からぬ内に、素早く2発のプラズマが放たれ、片方がまともに命中してしまった。
「ぐ、うううああああっ!!」
 身体中がつったような、耐えられない程の痛みが相川の体を駆けずり回る。同時に、頭の中が引き裂かれるような感覚が襲い掛かる。
「どうかしら、電磁砲のお味は?」
「うぐ、く、つぁっ!」
 痛みと痺れで、身体ががたがた震え出す。相川は全く統制の効かなくなった体を、精一杯の意地だけで立ち上げた。
「安心しなさい。苦しまないようにプラズマショットガンで粉々にしてさしあげますわ」
「…………っ」
 身体中の至る筋肉が錆び付いたようにぎこちない。
 だけど、動く。
 ……遠くで戦っていても、今のままではいつかはやられるだけ。
 相川はナイフを取り出し、クヴィンとの間隔を詰め、近接戦を試みた。しかし、身体が思うように動かないため、クヴィンの蹴りをかわしきれずに、そのまま広間の隅まで飛ばされた。
 蹴りの力も半端ではない。
「何ですの、そのか弱い動き。そんな動きで勝てると思って……?」
 だが、クヴィンにとっても想定外ではあった。あの電磁砲が直撃すれば、1発で身体が動かなくなるはずだったが、相川はそれどころか、立ち上がり、さらに攻撃を仕掛けて来た。
 その時、クヴィンは相川の目に宿る光を見た。その威圧感に、優勢にも関わらず怯んだクヴィンは、その怯んだことに一瞬戸惑った。
 なんですの?
 この私が、優位なはずの私が、怖がっている……?
 クヴィンは心の奥底で、ざわつくものを感じた。
 その理由が分からなくて、彼女は苛立ちを覚えた。
「…………まだ、元気が有り余ってるようですわね……もっと電磁砲を浴びたいのかしら?」
「やってみれば……いいですよ。私に2度目は効きませんから」
 相川は力なく笑った。
 クヴィンには、その余裕の意味が分からない。
「何ですの……何ですのその笑みは……っ!!」
 電磁砲が再び発射された。
 相川はその電磁砲に向かって、何かを投げた。それが電磁砲に当たって炸裂すると、電磁砲が明らかにおかしな軌道を描き出す。
「……な!?」
「前言撤回。小細工はやっぱり、するもんですよね」
 相川はカプセル状の物を取り出した。
「マグネティックグレネードですよ。強力な磁場が出るので、電気器具を壊すのにも使えるんですよね」
「……ホント、つまらない小細工ですわね。一時的に凌いだだけで、勝った気にはならないで下さる?」
 2つの銃口が、相川を向く。
 ――ショットガンだ。
 1発目が放たれた。相川は手に持っていたグレネードを投げ、1発目の軌道を曲げようとした。だが、目の前の光景は想定したものとは違う。
 ――軌道が曲がらない……!!
 違う、これは……
 実弾!!
 間一髪致命傷を免れたが、片腕にもろに被弾してしまった。
 さらに、待ち構えていたかのように2発目の実弾が、相川に向かって放たれる。相川はどうにかそれを凌ぐが、驚きで今起こったことを整理するのが一瞬遅れていた。
 何が起こった……?
「実弾が撃てないとは、一言も言ってないわよ?」
 まずい。
 腕が動かない。
 クヴィンはそのことを素早く察知していた。笑みが顔中に広がる。
「片腕、壊れたようね。次は何処かしら?」
 両手から放たれる雷は、容赦なく相川へと向かって行った。それらから逃げる相川は、回りの状況を読み取ろうと、必死になっていた。
 ――壁が所々穴が空いている。プラズマショットガンの威力が、壁を突き破ったのだ。
 あそこから、外に出られる。が、そこを目指せば、ショットガンの格好の的になる。しかし、外に出れば、隙を稼ぐ位は出来るだろう。銃とグレネードを両立出来なくなった今、更に実弾とプラズマの撃ち分けが可能な以上、まともな撃ち合いが出来るとは尚更思えない。
 そこで、相川は壁ギリギリの所まで下がり、グレネードを片手に待ち構えた。予想通りに、クヴィンの銃口が向いた瞬間、相川は2つのグレネードを同時に投げた。1つは、マグネティックグレネード。そしてもう1つは――――スタングレネードだった。
「さっきのお返し!!」
 一瞬にして、辺りが閃光に包まれる。クヴィンが悲鳴を上げるのと同時に、相川は記憶と勘を頼りに、壁に開いた穴に飛び込んだ。
「どこへ行ったの?」
 混乱するクヴィンの影でリロードを済ませると、穴からクヴィンを狙撃した。
「……ぐっ!?」
 素早くクヴィンは振り返り、ショットガンがこちらに向いた。相川は穴の奥に身を隠す。
 穴へと雷が降り注いだ。帯電した空気が、ピリピリと音を立てる。
「そこにいるのは分かっていますわ。早く出て来たらいかが?」
 相川は、クヴィンがこちらにやって来る足音を聞いていた。
 足は動く。
 穴から飛び出し、素早く二発撃った。その内の一発が当たる。しかし、麻酔の効果は、まだ現れない。
「くっ……ちょこまかと……!!」
 もう銃は意味が無い。
 仕方なく相川は銃をしまい、さらに前傾して突撃態勢をとった。重心が完全に前に傾き、発射準備が整った。
「逃がすものですか!!」
 クヴィンが再び、2丁のショットガンを向けた。1発目、プラズマは相川のグレネードで軌道が曲がる。続けてクヴィンがもう1丁のショットガンを構えたとき、相川は既に身体の感覚を完全に取り戻していた。
 ――――突撃。
 間合いを詰めてきた相川にクヴィンは当惑し、照準を相川に合わせるのが、一瞬遅れた。相川は思い切り体を低くして、横跳びでその弾道から外れると、さらに懐に飛び込む要領で滑り込み、今度は相手の視界から外れた。
 相手が相川を見失ってからほんの数コンマ。クヴィンがこちらを捕捉するより早く、背後から相川の足がクヴィンの首を捕えた。その状態から相川は空中で体を思い切り捻ると、いとも簡単にクヴィンの体が宙に浮いた。
「ぐ……っ!!」
 クヴィンの体が地面に到達した直後、クヴィンの腹部に強烈なローキックが炸裂。クヴィンの身体がくの字に折れ曲がり、片方の手に握られていたショットガンが、床に落ちた。
 悶え苦しむクヴィンに向かって相川は言った。
「近接戦闘だと、こっちの方が上手みたいですね。ショットガンを片手で扱う技量には感服しますけど、反動がデカイのはどうしようもないですね」
「み、認めませんわ!」
 クヴィンが蹴りを相川に繰り出し、相川は間合いを開け、次の瞬間、クヴィンはショットガンをぶっぱなした。相川がそれを横に滑るように跳んで回避すると、一瞬で間合いを詰めてきた。クヴィンはナイフで応戦しようとした。
 相川は、クヴィンのナイフを突き出した腕を片腕だけで掴むと、体をクヴィンの懐に入れ込み、腰を支点として、背負い投げをした。クヴィンの体が地面に叩きつけられる。同時に、ナイフが地面に落ち、大きな音が広間に響いた。
 怯まずにクヴィンは脚払いで相川を後ろに下がらせると、更に銃口を相川に向けた。
「……これはどう……!?」
 引き金が引かれると、プラズマが放射状に拡がっていく。
 散弾銃……!?
 相川には逃げ場がない。グレネードを取り出し、プラズマの軌道を曲げると、背後にクヴィンが現れ、相川に向かって銃口を突き付けた。
「チェックメイト……!」
 しかし、相川はクヴィンに背を向けたまま、小さくほくそ笑んだ。
「あなたは、あなたが既に『詰んで』いることが分からない見たいですね」
「何ですっ…………な!?」
 その瞬間、いきなりショットガンが爆発した。直後、相川の渾身のボディーブローが、クヴィンの鳩尾に炸裂する。
「ぐ、ぐ、あ……」
 更に、重力に抗えなくなり倒れていくクヴィンの顔に、待ち構えていたように相川の回し蹴りが直撃し、クヴィンは広間の隅まで吹っ飛ばされた。
「ぐ……ぐぅ……」
「私の勝ち……残念でした」
 相川は抵抗する力をほとんど失ったクヴィンへと歩いていった。
「な…………なぜですの……なぜ……」
「分かりませんか? あなたのショットガン、私のグレネードで壊れたんですよ。グレネードのあんな近くで銃口を向けたら、プラズマショットガンその物がお釈迦になりますよ」
「そ……そんな……う、くっ」
 クヴィンの体の動きが、ぎこちなくなった。相川はふぅ、と安心したように息を吐き、
「ようやく麻酔が効き始めたようですね。さて、タネも分かった事ですし」
と言った後、よろよろと起き上がるクヴィンに、麻酔弾を撃ち込んだ。
「ぐっすり寝といてください」
 バタンと倒れるクヴィンを見届け、相川が背を向けようとした時。
「まだ……終わって……ないですわ……!」
 クヴィンが、最後の気力を振り絞って立ち上がった。
「…………タフですね」
「……まだ……まだ……私は……」
 虚ろな輝きを見せるその目に、相川は無情な笑みを浮かべ、地面に落ちているショットガンを拾い上げ、クヴィンに向けた。
「!」
「これ、まだ壊れてないので、ちょっと試してみたくなったんです……安心してくださいよ。電磁砲ですから、死にませんって」
「い……いや……そう言う問題じゃな……いぃあぁあああっ!!」
 電磁砲をまともに食らい、再びクヴィンはダウンした。
「いい武器ですね、これ。……もう一発!」
 ひくつくクヴィンに、更に銃口を向ける相川。クヴィンの顔に、くっきりと恐怖が刻まれる。
「い、いや……やめ……うぁあああぁあぁぁあっ!!」
 クヴィンに、容赦なく電磁砲が降り注いだ。
「本当いい武器ですね……いい武器なんで、頂いちゃいますね」
「……お…………お、鬼……」
 そう言い残して、クヴィンはカクンとうなだれた。

       

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